新エッセイの部屋

 第 7 回 ・・・ 真夏の白百合

 暑さに弱い私は、真夏の外出はどうしても控えがちとなります。しかし、いつかは夏の盛りに是非行ってみたい場所

がありました。春や秋などの穏やかな季節には、足繁く通う豊橋郊外の林です。彼岸花が咲き出す頃には毎週のよう

に出かけては、水彩画のモデルを探します。色づいた木の実などを探して散策しているうちに、その小径には盛夏、

ユリが咲いていたことを偲ばせる場所があるのを数年前に気付きました。でも暑いというだけで私の行動範囲は狭ま

ります。そしてお盆の頃は豊橋を離れて親類の地で過ごすことも多く、真夏のユリは想像の世界でしかありませんでした。

ところが今年に限りこの夏を豊橋でずっと過ごせることに

なったと決まったとき、私の心はどんなに汗をかいても、

草いきれをかき分けてでも、あの想像の世界で咲いてい

る真夏の白百合に逢いに行こうと決めました。

 猛々しい夏草の中で埋もれるようにして咲く白百合は、

それは美しいだろうなあ・・・と想像するだけでうっとりとし

てしまいます。勿論、花屋さんにはいつもカサブランカを

はじめとして艶やかなユリが置かれています。でも、自然

の中でそれも人の手が加わらない場所で毎年同じ場所に

咲く花は特別な存在です。その花に出会えたらきっと・・・

 そんな期待を込めて初めて真夏の里山へ出かけたのでした。

  今私が描いているユリは言うまでもなくそのときのものです。広葉樹と常緑樹が混在している林の中で、生きのいい草に

 囲まれながら、白い花は凛とした姿で迎えてくれました。

  その場所に佇んでスケッチを繰り返しながら、おそらくこの時期、奥深い山のあちらこちらで白百合は花開いていることだ

 ろうと想像してしまいました。人が足を踏み込めないようなそんな場所で、限られた生命を精一杯生きて静かに散っていくの

 でしょう。誰に見られるわけでなくても美しいその姿で咲いている野の花に敬意を表して、精一杯描きました。

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