エッセイ  第3回 (2002.8)・・・ムラサキカタバミ 

ムラサキカタバミ・・・・・・・ある夏の日の思い出

 夏には元気な夏の花を描こう!!と毎年のように思うのですけれど、暑さが 苦手な私は、

 どうしてもぎらぎらの太陽に挑むがごとく立ちつくしている花に 目が向きません。むしろ、

 そんな激しさを逃れるかのように木陰でひっそりとしている花の方に共感を覚えてしまいま

 す。それだからでしょうか、連日の猛暑の中にも秋の気配はほんの少しだけれど、生まれ

 始めたことに気がつきました。

 神社の塀の隅などで見かける派手なピンク色のムラサキカタバミは、ある夏の思い出に直
 
 結しています。うんざりするような日照りが続いた日の夕暮れ、6歳になる息子が外遊びか

 ら帰ってきました。 「ママーぁ。」と砂と汗にまみれた両手でしっかりと握り締めていたのが

 この花だったのです。「ありがとう、綺麗ね。」と言うと、嬉しそうに腕の中に飛び込んできま

 した。ほかほかと湯気が上がるばかりに温められた花は、程なくぐったりと見る影もない様

 子になってしまったけれど、私は宝物をいただいたような気持ちになって、ムラサキカタバ

 ミを描いたものでした。今17歳の息子はもう私のことをママなんて呼びません。言うまでも

 無いことですが、抱きついてくれることも、もう無いでしょう。私よりはるかに背も伸びて、たま

 にお説教するときは見上げなくてはいけないので首が痛く困ります。幼い日の面影はまだ、

 そこに残っていますが、彼の心は既に大人への入口に佇んでいるのでしょう。そしていつか

 時が来たら私の元を飛び立って行くことでしょう。そのとき言えるかどうかは分からないけれ

 ど、私がいつからムラサキカタバミの花を好きになったのかを話すことが出来たらいいな・・

 と思います。
 

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