『絵を描くことは私にとってワインのようなものです。それに酔うことで人生
はすっかり温められ、これに耐えることができるのです。』
これは晩年のヘルマン・ヘッセの言葉です。
若い頃、人生の意味を求めてヘッセの著書をむさぼった時代がありました。生きて
いるのが辛くて、これ以上前に進めないと思った時、彼の本は私のバイブルになりま
した。年を重ねて、傷つきやすい私の心もそれなりに逃げ道を見つけることができる
ようになりました。とりわけ水彩画は美しい色彩とともに、私の中に溶け込んできて、
花を描くことで私自身がいやされている、そんなふうに感じています。
ヘルマン・ヘッセが水彩画に親しんでいたというニュースを知った時、何とも言えない
嬉しさに包まれました。文学の世界では雲の上の人だったけれど、同じような筆を使い
同じ色をパレットの上に乗せて 『この花はどんな風に描こうか?』 と小首を傾げ
たりしていただろう文豪のことを想像すると、楽しい気分になるのです。
描くことは今、私にとって生きることそのものです。そして描く力を与えてくれるのは
自然の中の花、また私を取り巻く多くの方々の支え。5年前からNHK文化センターで
水彩画の講師をしています。そこで出会う、お一人びとりとの交流もまた、私の中にエ
ネルギーを注ぎ込んでくれるようです。
あと何年絵筆を持ち続けることができるでしょうか。生涯を水彩画家でいられることが
私の願いです。
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