夢を見ている。 俺の大切な記憶。望んで、望んで、諦めて、それでも望んで得た、かけがえのない時間。 俺の凡ての感情を捉え、決して放そうとしない貪欲なあの人との。 俺は、夢を見ている。 あの人の夢を。 ― 「おはようございます、高耶さん。」 愛しい人は朝が弱い。 コーヒーの薫りで朝を告げるのが俺の日課。 この時が永遠に続くと信じていた。 やっと、やっと手に入れたささやかな幸せ。俺はこの人と二人で、二人だけで生きていく。 そう信じていた。 眠そうな目を擦りながら身を起こす愛しい人に、淹れたてのコーヒーを。 あの人にはミルクを多めに。砂糖はスプーンに半分。 「おはよ・・・なおえ・・・。」 幸せな朝。 愛しい人が作ってくれた朝食を食べる。 向かいに座る愛しい人は、いつも口の端にケチャップを付けて、ピザトーストを頬張る。 それを見て、自然に微笑む俺がいる。 これが、幸せか。 何気ない事に喜びが満ちている。 そこにあの人がいてくれるだけで、こんなにも。 ただ、見つめているだけで満たされる。・・・・・・愛している、と思う。 愛しい人の仕草の一つ一つ。さして意味を持たぬやりとり。触れていれば、言葉すら必要ない。 二人きりの生活。 「愛してます。」 「愛してるよ。」 視線で語る。視線が語る。 それは大切な記憶。 俺は、夢を見ている。目覚めれば、それは霧散してしまう。 ならばいっそ、永遠に醒めないで欲しい。夢を、見続けていたい。 ― |