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第一章 第三節


 「全確認過程終了。心理シナプスを接続開始。」

 『直江信綱』の登頂に差し込まれた管の中を、青白い液体が滑り落ちる。

 センサーが注入完了を確認し、シナプスの動作を監視する。



 「心理シナプス接続確認。数値正常範囲内。」

 「了解。成長維持装置解除。センサーに注意。」

 「了解。成長維持装置解除開始。」



 『直江信綱』の体中に差し込まれた管が一つ、また一つと抜け落ちる。

 緑色の溶液が少し、濁った。管が差し込まれていた場所から、体液が少しずつ漏れる。

 「センサー異常無し。」

 「了解。」



 薄く濁った溶液の中、『直江信綱』は依頼者をじっと見つめている。



 「最終過程を開始。マスク着装。」

 「了解。マスク着装します。」



 ポッドの上部からマスクが現れ、『直江信綱』の口と鼻を覆った。

 「吸水開始。」

 「了解。吸水開始。・・・・肺呼吸開始します。」

 『直江信綱』の胸が膨らみ、萎む。





 「脈拍正常。呼吸機能正常。血中成分基準値。」

 「センサー剥離。ポッド内排水開始。」

 緑色の溶液が排出され『直江信綱』本来の色彩が頭部から明らかになっていく。

 端整な面持ち、引き締まった上半身、隆々とそびえる男根。カモシカのような足。



 溶液が無くなるまで『直江信綱』はずっと依頼者を見つめていた。



 「排水完了。」

 「了解。0503-N ATS初期設定、及び動作確認終了。ポッドをあげろ。」



 『直江信綱』と依頼者を隔てていたポッドがモーターの音と共に上部に収納される。

 最早『直江信綱』と依頼者の間を阻むものは何も無かった。

 溶液に濡れた裸体をそのままに、『直江信綱』は歩き出した。コンクリートの床に足跡 が残る。



 依頼者の前で跪き、手を伸ばした。

 「あなたの犬です。名は直江信綱。あなたに付けて頂きました。」





 前髪から一滴。コンクリートの床に染みを作った。



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