「初めてお目にかかります。0503-N ATS 初期設定を開始します。」 依頼者 ―意外にもあどけなさを残す青年だった― がスイッチを押すと、ポッドの中に 浮かぶ『それ』がスピーカーを通して話し掛ける。 「私の名前を教えてください。」 白衣を着た男は、少し、違和感を感じた。 しかし、すぐに目の前で繰り広げられる最後の儀式へと意識を戻す。 「直江・・・信綱・・・。」 依頼者が呟く。 モニタにエラーコードが返された。 「音声が聞き取れません。キーボードで入力するか、もう一度発音してください。」 意思を込めて、依頼者は『それ』を見据えた。 「お前の名前は直江信綱だ。」 「・・・・音声認識良好。声紋取得しました。絶対保持領域に書き込んでいます。」 スピーカーから響く『それ』の声は、低いが、通る声だった。 「・・・・絶対保持領域への書き込みが終了しました。」 白衣の女がモニタを見つめ、確認する。 「絶対保持領域書き込み確認。神経回路接続良好。神経回路のテスト開始します。」 「了解、テスト開始。」 ポッドの中で『直江信綱』が痙攣を始める。手を開き、閉じた。 胸を逸らし、膝を曲げ、男根が天を突く。 「神経回路テスト完了。反応、基準値以上。」 「了解。」 『直江信綱』が目を開いた。 浮かび上がる銀色の瞳。 依頼者をじっと見据える。 依頼者も見つめ返す。 「直江・・・」 口元に浮かぶ・・・微笑。 「綾子、心理シナプスの接続は終了しているのか。」 「まだよ。・・・・在り得ないわ。」 男の違和感が、膨れた。 ― |