那須家住宅
Nasu



 
国指定重要文化財 (昭和31年6月28日指定)
宮崎県東臼杵郡椎葉村下福良1818
恐らく十数年前まで椎葉村は平家の落人伝説を持つに相応しい秘境であったに違いない。山高く谷深い風情が余所者を容易には寄せ付けなかったであろう事を想像させてくれる。しかし今や立派な国道が整備され、時間は要するものの容易に訪れることができるようになった。現在の椎葉村に伝説が残されているとすれば、それは専ら観光振興上の理由によるものだけであろう。
さて、その椎葉村にあって最大級の規模を誇る当住宅は、由緒来歴においても当然のことのように平家落人伝説と絡んでくる。すなわち平家の落人狩のためにやって来た源氏方の武将である那須大八郎と平家方の血筋を引く当家の息女・鶴冨姫との悲恋の物語である。屋敷地内には鶴富姫のお墓まで残されている。
これを山村における貴種伝説の典型的な話と打ち捨てることは簡単ではある。もちろん平家の落人を証するような遺物も残されていない。ただ伝説が語り継がれているのみである。信じるか否かは各々の心の感度次第であるが、人の往来も儘ならないこの山間部において稀なる規模の民家が存在することは伝説の下地として充分すぎるほどのお膳立てである。
建築としての当住宅は、平地の少ない山村の民家らしく部屋を一列に並べ桁行方向に長く、梁間方向に短い独特の建前である。また内部に入ると欅の板戸や柱などが鏡のように磨き上げられている様に驚かされる。本当にピカピカなのである。家を大事に思う気持ちがよほど溢れているようで気持ちが洗われる。
写真のとおり現在は大屋根が銅板で覆われているが、いつの日にかまた本来の茅葺き屋根に戻ることがあればよいのになあと思う。


 

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