伊藤家住宅
Itou



 
熊本県指定文化財
熊本県八代郡竜北町中網道1535-4

面白くないほど平坦な地面が見渡す限り続く風景は、ここが江戸時代の中期に干拓地として造成された土地だからだが、いずれにせよかなり規模の大きな干拓事業であったことは間違いない。何故だか風景にうら寂しい雰囲気を漂わせているのは食糧増産という命題に生産性を追求した結果、土地に余裕がなくなったためだろうと勝手に一人考えてしまう。
当住宅は、干拓地の裾に一直線上に家屋が並ぶ集落の中にある。この集落がある場所だけが少しばかり土盛りされており、周囲と比べてやや高くなっている。
こうした情景がはっきりと判るのは、現代においても開発の波に曝されること無く、開拓当初の風景がそのまま保たれているお陰であろう。
当住宅については、正面から見ると単なる直屋であるが、正面の棟に対して直交する形で左右から棟が背後に突き出され、上から見ると「コ」の字型をした屋根形状をしている。熊本県下においては良く見受けられる形であり、県内菊水町に移建されている国指定の境家住宅と同系統の民家である。
干拓農家は、入植当初は急普請のため粗末な家が多いと聞くが、当家は比較的しっかりとした建前で、おそらく定住後しばらくして生活が安定したころにでも建て直したものではないだろうか。


2018年3月9日 熊本県指定解除。熊本地震、2015年の台風被害に遭い、修理困難となったことが理由。

 

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