今村家住宅
Imamura



 
登録有形文化財 (平成10年1月16日登録) 
熊本県熊本市川尻町4-9-21

熊本市南郊にひっそりと残る川尻の町は、南阿蘇に端を発し県南部の上益城郡を横断する緑川・加勢川の河口から約6kmほど内陸に入ったところに形成された湊町である。往時は藩内の各所から集められた藩米の積出基地として瀬戸内各都市、大阪との交易により大いに栄えるとともに、御船手と呼ばれる藩水軍の拠点地にもなっていた。
今でも湊の船着場跡には往時の石段がそのまま残るとともに、藩営の大規模な米蔵も用途を変えながらも数棟ほど残されている。また町の東端部には、熊本名産・赤酒を醸造する瑞鷹酒造の広大な屋敷が拡がっており、現在に美しい町並を形成している。
当家は町のほぼ中央部に所在し、江戸時代には町役人を務めたという上層町家であった。また特筆すべきは西南戦争の折には西郷隆盛率いる薩軍の熊本鎮台攻略の拠点として本営が置かれたという輝かしい歴史があることである。主屋の前にはそのことを示す立派な石柱が建てられている。
しかしながら多少規模は大きいものの、むしろ一般的な町家と思える程度の当家に、何故に本営が置かれたのかは正直に云って不思議である。また残念なことに、近年になって修復の手が加えられたため外観から見る限りにおいては、歴史ある家が醸す独特の風合いさえもが失われてしまっている。現在の当家から西郷の雄姿を想像することは少々難しい。我々は、「過ぎたる修復は家の歴史を消し去ってしまう」という事実を真摯に受け止める必要があると思う。


 

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