土井家住宅
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国指定重要文化財 (昭和49年2月5日指定)
佐賀県杵島郡大町町大字大町1045
建築年代/江戸時代(19世紀前半)
用途区分/商家(酒造業)
指定範囲/主屋
公開状況/非公開

佐賀平野の北西部の大町町に所在する商家建築である。大町町は佐賀県を横断する長崎街道の宿駅で、小田宿と北方宿の中間に位置し農商が混在する地域で、町並の中心部に位置する当住宅もかつては造酒屋であったと伝えられる。明治初期に土井家が購入して以降は純然たる農家住宅として用いられてきたらしいが、外観は町家の体裁を保ちながら、内部については土間が異様に広く、建物のほぼ半分を占めるほどで、まるで最初から農家のような造作である。建築当時から半農半商的な生活が営まれていた可能性もあるが、一般に屋敷を取り囲むように群立する酒蔵での醸造を想像する酒造屋も、近年、規模が小さな場合は主屋内の土間で行われていたことが明らかになりつつある。当住宅の場合においても酒造に際して農家のように作業空間として土間が活用されていたのではないかと推測している。こうした印象は16世紀中頃の建築とされ、兵庫県伊丹市で酒造を行っていた岡田家住宅(国指定文化財)においても受ける。当住宅の場合、学術的には18世紀後半の建物とされているが、私には何やらもっと年代的に溯れるような気がしてならない。更にこの事については、当住宅から受ける第一印象にも依拠している。周囲に残される他の町家と余りにも様子が相違するのである。宿内の入母屋の妻を通りに向け、白壁の美しい町家が建ち並ぶ中にあって、当家だけが何故だか切妻屋根で壁面も褐色の中塗り仕上げのままなのである。建築年代の差とも考えられるが、全体的な印象として九州の一般的な町家の姿とは思えないものでもある。また主屋正面の開口部には蔀戸なども残されており、古い町家の形態を今に伝えてくれる。ともかくこの家は不思議に満ちている。詳しく調べると何かが出てきそうな興味深い家である。


 

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