松木家住宅
Matsuki



八女市指定文化財 (平成18年7月7日指定)
福岡県八女市黒木町黒木80-2

八女郡域の中心都市・八女福島から東に約10kmほどの場所に黒木の町は所在する。福岡県民にとっては国の天然記念物に指定される黒木の大フジがある町と云った方が判りやすいかも知れない。樹齢600年の古木ながら毎年5月の開花時期には淡い紫の見事な花房を垂れ、訪れる者を楽しませてくれる。さて黒木の町の発展は、そもそもは在地領主の居城があったことに由来するが、江戸期を通じては町を取り囲む山々からの産物や、町の背後を流れる矢部川の水運を利用した海陸からの物資の中継交易地として更なる発展を遂げたとのことである。しかしながら、そうした役割を終えた今日では町はかつての賑わいを失い、阿蘇山へと向かう観光客の通過交通だけが、町を貫く国道442号線を我が物顔で往来する。そんな黒木の町が平成21年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定され、再起を図ろうとしている。以前から文化財保護に熱心に取り組んでいた町なので、なんとか頑張ってほしいものである。
ところで当住宅は、その重伝建地区の中央部に所在する商家建築である。明治17年(1881)に穴見氏により建てられ、その後所有者が次々と変わりながらも大正13年からは松木氏により酒や薬の小売店として用いられたとの来歴を持つ。八女福島地区の町家にも共通する居蔵造と称される建前で、瓦葺きの妻入り形式に柱を土壁で塗り込んでしまう大壁造となっている。梁間5間の主屋に左右計1間半の下屋を葺き下ろす規模は町内に残存する居蔵建の町家としては最大規模とのことである。また建物一階側面部の腰壁に、下見板張壁や海鼠壁の代わりであろうと思われるが、薄い板状の青石を貼り付ける造作は八女地方にのみ見られる面白い手法である。
また内部においては、見事な根太天井が目につく。根太天井は江戸期における2階部分を設ける際に用いられる手法であるが、これほどまでに立派な根太天井は、なかなかあるものではない。良質な木材を容易に供給できる当地方ならではの造作だと思う。
黒木の町内を歩いて感じるのは、総じて黒木の居蔵造町家は八女福島のそれよりも大型化していることである。明治13年の大火以後に建て替わった町家が多いので年代差が原因かも知れないが、現在の虫食い状に町家が残る状況以前には、さぞ壮観な町並であったに違いない。 (2010.12.26)
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ところで当家の修理方法については少々苦言を述べたい。防災型町家住宅として平成19年に修復工事が実施されたようであるが、従来には無かった補強壁が土間に加えられている。あまりにも酷い対策方法である。私は文化財に耐震補強が必要とする発想はどこから来るのであろうかと常々考えているが、当住宅の施工方法は、あまりにも役所的な発想で呆れるばかりである。
 

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