豊島家住宅
Toshima



国指定重要文化財 (昭和45年6月17日指定)
愛媛県松山市井門町421-1
建築年代/宝暦8年(1758)
用途区分/農家(大庄屋)
指定範囲/主屋・表門・長屋門・長屋・米倉・衣裳倉・中倉
公開状況/非公開

初めて松山を訪れたのは40年も昔のこと。素直に「いい町だ」と思った。道後温泉や松山城に代表される文化遺産もさることながら、人情の温かさや家並みの落ち着き具合に何故だが気持ちがほっとしたものである。しかし時代は移り、町は変わった。あれほど頻繁に訪れた穏やかな町は私の心の中にしか残されていない。日本ではこれが当たり前と自分に言い聞かせる。
松山南郊の田園風景が広がる只中に所在する当住宅も私のお気に入りだった。白壁の土塀越しに八ツ棟造の巨大な茅葺屋根が鎮座しているその姿は気品に満ち溢れ、長い歴史によってのみ紡がれる旧家独特の清廉な雰囲気が醸しだされていた。周囲に残る田園風景も何百年と変わらぬ姿を保っていた。何とかツテを頼って屋内を案内していただいた際の感動は今でも忘れない。日本を代表する民家を挙げるならば、当住宅は最有力候補の1つだと個人的には思っている。
けれども、静かだった田園風景は今や付近に設けられた高速道路のICのせいで喧騒に包まれた無味乾燥でつまらない風景へと転化した。当家の存在だけが周囲と隔絶した世界をかろうじて保っている。まさに孤高という言葉が相応しい。
ヒトには守らなければならないものがあるはずである。しかし、それを許さない日本という国の社会システムを私は恨む

 

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