永富家住宅
Nagatomi



 
国指定重要文化財 (昭和42年6月15日指定)
兵庫県揖保郡揖保川町新在家字横田337

国道2号線を北へ折れ薄口醤油の産地として有名な播州龍野へ向かう途上、揖保川沿いの平地に当家は所在する。威風堂々たる屋敷構えから相当な素封家であったことは容易に想像されるところであるが、鹿島建設の中興の祖・鹿島守之助の生家としても著名である。現在は鹿島建設の関連会社が実に見事に保存しておられる。
今から20年程昔、民家廻りを始めた時分には、この家の美しさに魅せられて幾度と無く足を運んだ思い出がある。もちろん保存方法の良さに拠るところは大いにあるだろうが、個人的には近世民家の完成例ではないかと思っている。
当家は能楽の祖・観阿弥・世阿弥の系譜を引くという由緒を誇るが、実質的に当家の礎が築かれたのは江戸時代中頃の土地集積による地主化である。納屋と連続する長屋門を潜ると見事に手入れされた前庭の向こうに主屋が鎮座している。本瓦と白壁の対照的な色彩が見事な美しさを醸している。大戸口から土間に足を踏み入れれば、天に架かる長大な湾曲した梁が連続する。これらの材は上方(大阪)からわさわざ運ばれてきたものである。明治期に入るとこうした素封家の屋敷は財力にモノを言わせて大名屋敷のような姿へ変貌していくこととなるが、当家の場合は庶民としての分限をどうにか越えずに我慢を重ねることで、内なる美しさを醸すことに成功した建物ではないかと思っている。


 

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