◆ 夢 ◆
眠っている彼女を見ていた。
連戦が続いて、疲れていたのだろう。
私が入ってきた事になど全く気付いていなかったし、会議まではまだ少し時間がある。
私は無理して起こす事もないと考えを改めた。
彼女は、幸せな夢の中にいる様で、たまにこちらまでつられそうな笑顔を浮かべる。
私は婦女子への配慮も忘れついその寝顔に見入ってしまった。
…彼女はこの反乱軍を組織するリーダーだ。
その華奢な双肩に「誇りと責任」を乗せて、どんなに辛い事にだって背を向ける事のない強さを持っている。
だが、時折少女に戻りそうになる弱さに私は気付いていた。
それを支える資格が自分にない事がたまに切なくなる。
『ランスロットの手は暖かいな。サイノスと一緒だ。』
触れた彼女がそう言って、昔を思い出して少し哀しげに笑った事もあったか。
私は吸い寄せられる様に彼女の髪を撫でた。
「レティシア殿。」
いつか、彼女がこの戦いから開放されて、ただの少女に戻る事だろう。その時誰が共に彼女と歩むのか…。
私はそんな事に思いを馳せて、彼女の頬に軽く触れた。
日に焼けてやや小麦色の肌は健康的で、彼女に良く似合っている。
本当は、愛しいと思う。
亡き妻への愛が無くなった訳ではなくそれは私の中に確かに存在しているというのに、彼女にはどうしても惹かれてしまう。
私は彼女の額に、触れるか触れないかのキスをした。
してしまってから自分の卑劣な行為に後悔する。
彼女の意思も知らずに一方的な思いを遂げようとするのは卑劣だ。
「あららら、ランス坊やっタラ」
突然すぐ右から艶かしい声がした。
私は全く油断していて、もう少しで椅子を蹴倒して転げる所だった。
デネブが笑いを堪えて唇に細くて白い一指し指を添える。
「レッティが起きちゃうデショ。静かにしてネ。」
「………………私は、先に行く、ので、デネブ殿が、レティシア殿、を、起こ、して来てくれ。」
どもらなかったものの、変な所で息継ぎをして単語の羅列のような喋り方になる。
デネブの笑いを堪える顔に、自分の失態を見られた恥ずかしさが倍増する。
「誰にも言わないカラ、そんなに警戒しないでヨ。うふふふふふ」
「…失礼する。」
私は真っ赤になっているだろう。
兎に角、デネブから逃げたい一心で部屋を後にした。
「あれぇ隊長どうかしましたか?」
私とよく隊を組む事の多い部下、ランバルディだ。
「…顔色が悪い様ですが、具合でも悪いのですか?」
どうやら私はひどい顔をしているらしい。
ランバルディの心配そうな視線を受けてますます私は落ちこんだ。
「…………………悪いのは性根だ…。」
「は?なんて言ったのですか?あの、もし大変なら施療院までお連れしましょうか?」
「いや、大丈夫だ。それよりもランバルディ、アッシュ団長は何処におられるか知っているか?」
「訓練場でお見かけしました。」
ランバルディに礼を言って私は足早に訓練場に向かった。
だが、訓練によって落ちつかせた気持ちも、突然胸に飛びこんで来たレティシアによって乱されてしまった。
私の背中を恐ろしいほど冷たい汗が流れる。
本当に、デネブはバラしていないのだろうか…?
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こっちはちゃんとランス×♀オピ(笑)。
デネブ、ちょっと嘘ついた。