タクシーに乗って
それは1年前の2月の話である。
肌寒い白い空を感じながら、モーモー牛柄のフコフコのコ−トを
身にまとった私は、空から舞い落ちる白い結晶に目を奪われている。
今、私は仕事中で会社の商品を受け取りに、ある中心部にいる。
駅にいるのはいいのだが、訪問先が分からない。
お客様とのお約束の時間までに、売り場に帰る為には
地図を片手に、街を歩くのでは間に合わない。
ここから先のアクセスは、タクシーである。
乗り込んだタクシーの運転手さんは、とても明るい話好きな人であった。
運転手さんは「今から仕事ですか?」と言う。
ナイトスポットの街を指定したが、昼間だからウォータービジネスではないと
思われていると私は感じていた。すると
「風俗なら、今からだよね!」と運転手さん言ったのだ。
牛柄の、このコートがそう見えるのか?私は、そのような所で働けるような
ナイスバディではない。私は今が仕事中である事を伝えた。
運転手さんは、私と波長の合う人であった。
タクシーでオバケを乗せた事があるか?の
くだらない私の質問にも目を輝かせて話をしてくれた。
心霊スポットである場所を指定されて、「着きましたよ」と振り返ると
誰も乗ってなかったと言う。でも、雨の日ではない。良く雨の日にその様な
話を耳にするが、運転手さんが乗せたオバケは中年女性で、
晴れた夕方だったと言う。
さらに意味ありげなカップルは「バイパス沿いで下ろして下さい」と
言うらしい。「利用目的の場所」を言わない事やら
「前の車を追ってください!」と言い、写真を撮る20代前半男性やら
私の日常とは違う光景が聞けて楽しかった。
帰りも、この楽しい運転手さんに私を運んでもらう事にした。
私は、つかの間の時間を楽しく過ごした。
業界が違うと、見えてくる日常が変わってくる。
私は客商売をしていて、色んな人と出会えるのが楽しい。
運転手さんも、人間が好きな人だから、波長の合う見知らぬ人と
話すのが好きなのかもしれない。
もう、会えないかもしれないが、何かの機会にこの運転手さんに
会えたら「オバケを乗せた分の運賃は、どうなったのですか?」と
聞いてみたい。こうして私は¥1550払ったのであった。
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