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P u r p l e M i r r o r


「紫鏡」・・・この言葉は20歳になる前に

綺麗さっぱり忘れないと、死んでしまう。

こんな話を聞いた事はないだろうか?


私は、この言葉を不幸ながらにも知ってしまったのは

今でも忘れない20歳まであと1ヶ月と言う、

夏の日の午後であった。


オカルト好きの友人の家にて、不幸にも

私はその言葉を知ってしまった。

友人は私より1歳若いので、この言葉をきっと

20歳になる前に忘れられるであろう。


しかし、足元まで迫ってきた20歳と言う

年齢を目の前にした私は、どうしたらいいのであろうか?


今から、明日20歳の誕生日と言う友人に電話をして

この「紫鏡」と言う言葉を覚えていても

生きていけるか、実験台になってもらうか?


しかし、本当にそれでこの世を去られては

あの世で私と再会した時、さんざん目の敵にされるであろう。



ああ、私はもうすぐこの世を去るのか・・・


生きてるうちに何か派手な事をしたい。

ラッツ&スターの様に顔に靴墨を塗り、

世の中を歩く。と言うのはどうであろうか?


これは複数でやればきっと、

「赤信号、みんなで渡れば怖くない」だ。

早速、友人達を巻き込み、実行に取り掛かるか?



いや、まだ時間がある。そう思った私は22歳の友人に

「なにか派手な事」の相談を持ち込んだ。

すると返ってきた言葉は

「銀行強盗なんていいんじゃない?」であった。さらに

「みんなストッキングかぶってるよねえ〜。思い切って

紫色の網タイツにしてみるって言うのはどう?」

と、提案してくれた。



それを実行したい!と思った自分の、心の奥に潜む野望と

向き合うと私は、だんだん自分を見失っていくのを感じた。

最後には自分が
「チンドン屋」になりたい願望があるのか?

とさえ思ってきた。


自分を見つめなおしているうちに、私は20歳になってしまった。

「紫鏡」の言葉は、しっかり覚えていた。



あれから8年が過ぎ、今でも「紫鏡」と言う言葉を忘れていない。

まだ生きている。

あの時、「何か派手な事したい」と思い、

思いつく限りの馬鹿っぷりを世間に披露していたら

私は、間違いなく死にたくなったであろう。

中途半端に馬鹿な自分で、命が救われた。

「紫鏡」を覚えていても平気だ。私が生きた証人である。


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