子連れ地蔵
〜富田林北部 宮町に伝わる民話〜
むかしー。喜志の里に住んでた平助はんがな、高野参りの帰り道、足を引きづりながら村はずれまでたどり着いた時のことや。何やら後ろの方で、話し声みたいながしたそうや。

ひょいと振り向くと、夜道やというのに、そこだけがうっすらと白い光がさしててな、ように見ると、地蔵さんが、六体集まって話をしてたそうや。

「みなはん、こんどは、南わきの忠兵衛とこへ子を授けようと思うとるやが、どうやろうか」
「うーん。そやな。」
「いーや、いや。あそこはまだ早いんと違うか、東わきあたりにしたろやないか。あのへんは、いまだにどことも子がでけてへんさかいにな。」
「そうか、それやったらお前がええ子を連れっていってやれ。」
「それがええな。」 

なんと子を授ける相談やがな。

もうちょっと、近よろうとしたんや。そしたら、パッと光が消えてしもうた。あたりは、まっ暗闇や。物音一つせへんがな。なんやキツネにつままれた気がしたよってに家までつっさいて帰ったそうや。 

家に着くなり、嫁はんに、さっきのこと話したがな。 そしたらどうや、
「あほくさ、お前さんがあまり子欲しい子欲しいて思うてるさかい、おおかた村はずれの悪キツネにでもつままれたんやろ。まあ、きょうはゆっくり休みなはれ。そらー、ほんまのこというたら、うちかて子は欲しいわいな。せやけど、でけへんもんはなー。」
 と、まったく話にもならへんのや。とにかく、疲れたさかいじっきに寝てしもうたそうや。

ひとねむりしたかちゅう時や、嫁んはんが、おっきな声でな、
「お前さん、お前さん、ちょっと起きとくなはれ。今しがた、あんさんが言うてたとおなじことが、夢にでてきましてん。地蔵さんが、うちへ。まーるい男の子つれてきてくらはりましたで。」
て、言うんや。

気になるがな。 

明け方、二人は、ゆうべ地蔵さんを見たちゅう村はずれの門口あたりまで行ってみたんや。あっちこっち見わたしたけんど、べつにこれというて変わった様子もなかった。
けどな、道のはっしこのほうに、地蔵さんが、二体転がってたそうや。

一体は子供の地蔵さんやったそうや。

日頃から信心深いこの夫婦のことや、思わず地蔵さんを抱きあげてな、

「あー、もったいない、もったいない。どこのだれが捨てたんやろ。このままやと、バチがあたるで。わしらの村で、お祀りしようやないか。」

「そやな、街道を通る人の無事をお祈りしまひょうか。それから村じゅうの安全もな。」

そういうて、村はずれの街道沿いに祠をたてて、手厚うにお祀りしたそうや。

それから、どれくらいたったやろな、不思議なことが起こったんや。

「お前さん、わてな、なんや体の具合がおかしいんやわ。子ができたみたいやで。」
「えっ、ほんまかいな、なんぞのまちがいとちゃうやろな。」
「いいや、ほんまや、あの時の地蔵さんやで。うちにもええ子連れてきてくらはったんや。」

 二人は、とるものもとりあえず、村はずれの地蔵さんまで走っていって、なんべんもなんべんも、お礼をいうたそうや。

 それからというもん、村人らは、子授け、安産の地蔵さんやいうて、お参りするようになったんや。

線香もろうそくも、ようあがったるで。

註:子連れ地蔵さんは近鉄喜志駅下車
徒歩十分、宮町二丁目。
  子供地蔵は平成6年5月から行方不明になり、現在は親地蔵さま
だけになっています。

 

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