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2003年11月15日(土)


FIELD TRIP V−1 嵐のFIELD TRIP 序章

今回の旅(?)は4泊5日、山々の連なる巨大な国立公園での野外授業。
私の住むクイーンズランド州と有名なシドニーのあるニューサウスウェールズ州の境にある、ラミントン国立公園へ行ってまいりました。

その昔、山に不時着した小型飛行機に乗っていた人々が開拓を始め、そのうちこの場所は自然を堪能したい客が訪れる場所となったらしい。

キャンプができるということで、テントも車も持っている友人にあつかましくもすべてをゆだねたまでは良かったが、車で目的地に着くまでにすでにトラブルが発生した。

「地図によるとこれが近道なのよ」と自身満々の友人が行き着いた道は農家用の、普通車ではおおよそ時速10キロでしか走れないようなガタガタの砂利道。
たまに現れる対向車はすべて農業用トラックというすばらしい近道であった。
激しい揺れのため、硬直した顔と共にハンドルにしがみつくドライバーと取っ手にしがみつく私。

「なあ待って、標識の道路名と地図に載ってる道路名が違うねんけど」

「え?ああ!田舎だから標識には郊外名しか書かれてないんだわ!」

「おい!ほんならどこで曲がるかわからんやんけ!」

広々とした農園の牛や馬、爽やかな春の気候、ハンググライダーを楽しむオヤジが砂にまみれた車窓の外側できらめいておりました。

公園の入り口まで熱帯雨林に囲まれた車道が続く。
「お〜お白樺〜」とすでに2時間あれば着くだろう距離に4時間を費やし
遅刻をしているくせにのん気に生えてもいない白樺の、存在するかも怪しい歌を思い出していた。

おかげでテントを張る暇もなく課題が始まった。
熱帯雨林というものは
「私なんとなく、熱帯雨林やねん」
というものはないらしく、他の「熱帯雨林でない」生態系とサッパリ境を作っているのだそうだ。

そうして連れてこられた場所はジトジトとうっそうとした熱帯雨林グループと、コアラが葉を食べるユーカリの(実際にコアラが上で寝ていた)乾いた木々グループのブッツリ切れた境目。

ここまではっきり別れてもらうと、あの雨の境目を見たときのような感動を受ける。
どうやら彼らも「植物皆兄弟」てなわけにはいかないらしい。

原因は森に入る光の量だのが影響していて、
実際にあの公園の入り口まで続いていた、熱帯雨林に囲まれた車道は光の入る量を狂わすため、問題になっているらしい。

ということでメジャーを使って森の中に入る太陽の光の範囲をユーカリVS熱帯雨林で調べる。

「・・・暇やな・・・」
「・・・暇ね・・・・」
「お腹すいた・・・」
「私も・・・・・・」


その日は曇りであった。

 FIELD TRIPV−2 土蛍

「これは絶対高山病やねんて・・・ほらあの酸素薄いから頭痛なったり気持ちわるなったりする、アレやでこれは・・あかん晩御飯食べられへんわ。」

大丈夫かと友人は心配してくれながらもかなり怪訝な顔をしている。

この時はかなり苦しかったので、きっと英語がちゃんと通じていないからだろうと思っていたが、健康状態の彼女はたかが標高1000メートルにも及ばない場所で高山病にかかる奴がどこにおるんじゃ、と冷静な判断を下していただけであった。

熱帯雨林の中に長時間居て気分が悪くなることはあるらしい。
空気が濃すぎるとかえって体が疲れるとか。

「これから夜の森探索なのに大丈夫?」
「行きたい・・しかし・・・。」

「えーそれでは各自懐中電灯持って付いて来て下さい。土蛍のいる場所を案内しますので・・・・。」

「なんと!?」
土蛍(Glow worm)とは暗闇で蛍のように光を発する不思議なウジ虫のようなもので、私はかなり以前からこの土蛍が見たくてしょうがなかった。

当然、想像高山病は一瞬で急激な回復を見せた。

真っ黒な森をしばらく下っていくと川の流れる音が聞こえ、水場にいるその虫を見る時が近づいているのがわかった。

「懐中電灯、消して消して。」
と前方にいる生徒が言い出し、辺りは真っ暗になった。

「・・・すごい・・・」

相手はなにしろウジ虫なので別に声をひそめる必要は全く無いのだが、なぜかこういう時、人は小声で感動を述べるものらしい。

「作りもんとちゃうか」と疑うくらい数十匹のそれははっきりと青白い光を発して、小川の向かいの岩壁にはびこっておりました。

「いやー自然の魔術やねえ」
と皆しばし、うっとり。


しかし私を含め五人の生徒はどうやらうっとりし過ぎたらしい。

「他の生徒・・・どこ?」
ようやく一人の生徒が気付いた時にはもう遅かった。

この後、私とマヌケレベルが同等な生徒達は森の中をそのマヌケさゆえに深夜まで路頭に迷うはめとなったのである。

恐るべきは自然の魔術。

FIELD TRIPV− 3 鼠の反撃


午前3時。
山の天気は変わりやすい。外は暴風に見まわれていた。

「と、飛ぶ!テント飛ぶっ!!」

「留め釘打ち直さないとだめだわ!!」

丘の一番上にテントを張った私達はこの暴風をまともに食らうはめとなった。なんとか持ち直し、やっと寝れるかと思いきや、この日は午前6時起床。

「ねっ、眠い・・・。」

しかし昨日森に大量に仕掛けておいた罠を見に行かなくてはならない。
ペンケースのような最新式の箱型罠に閉じ込められたネズミを調べるのが課題。

蓋の閉じられた罠を持ち上げてみると、
「重い・・あわれな野鼠め、かかったな、フフ。」

可哀想だとわかっていても罠が成功した時にこみ上げてくるこの喜びは絶えられないものがある。
中を見ようとこっそり開けてみると、

「うっ」
臭い。猛烈に臭い反撃。

これが獣の臭いというものか。

ただでさえ濃い臭気を放っている動物が長時間箱詰めにされていたので、目まいを催すほどの臭いを私はかいでしまったのだ。

やはり皆同じ事をしているらしく、双方からうめき声が上がっていた。

捕まえた鼠を袋に入れ、種類など判別した後逃がしてやる。
面白いことにジャンプしながらすごいスピードで逃げるのと、木によじ登って逃げるのとがいる。

住処の違う種類によって同じような鼠でも動作が異なるらしい。走り去る鼠を皆ほほえましく見ていた。

臭いながらも愛くるしい。

「あれ、なんでこんなとこにでっかい渦巻き貝殻があんの?」
帰り道、直径10センチ近い巻貝が木の下に落ちていた。

「それはカタツムリの貝よ」

「ヒッ」

熱帯雨林よ君はすばらしい。

FIELD TRIPV−4蛙の事情

嵐は日に日に猛烈になり、雨は止まず満足に炊事もできず、
まさに自然の厳しさを目の当たりにしながらも私達にはやらなければならない課題があった。

その国立公園に生息する動植物を一つ選んでその生態の特徴を小グループで調査しなければならないのだ。

亜熱帯とはいえ季節はまだ春先、高くはないけれど一応山の上、この天候のせいで気温は低い、日の暮れきった夜に私達生徒4人は「蛙の池」にいた。

「・・寒い・・腹が減った・・自然とはなんと厳しいものなのか・・・」

真っ暗闇でこの寒い中、
ゲーゲーと鳴り響く蛙の声がなんだか異様に感じた。

「足元、気を付けろよ。」

「あー蛙踏んだら大変やもんな。」

「いや・・じゃなくて蛇がいるから。」

わず片足をのけぞるほど浮かしてしまった。

それというもの
「この公園、毒蛇がいるから気を付けてくださいね。」
とあらかじめ注意を受けていたからであった。

ヒイイという思いとウウムこれぞ食物連鎖なり、
と感心する思いを錯綜させながら
さっそく学院生の指導のもと、蛙の実態を暴く作業に取り掛かった。

ところでこの院生、
もし蛙が崖の下でゲロゲロ鳴いておろうものならば、

「そこでおとなしく待っておれ!」
と命綱も付けずに飛び降りていくだろう勢いの蛙狂いであった。

彼の勢いは蛙だけには留まらず、
木の幹にトグロを巻く蛇を見つけては、

院生「うーんすばらしい。写真とっとこう。
バシッバシッ(←フラッシュたきまくり)」

生徒「これ、毒蛇じゃないんですか?黒と黄の縞模様って・・・」

院生「おそらくそうかもしれないね(←蛇専門ではないので曖昧な答。よって信用できない)」

生徒「すごいなー。こんな間近で見ることもそうそうないわ。」

院生「もっととっとこう。バシッバシッバシッバシッ」

生徒「・・・・(一抹の不安)」

蛇 「シャーッ!シャーッ!シャアーッ!!(案の定、激怒)」

全員「うおぉう!!!(5人同時に後ずさり)」

蛇に噛み付かれんばかりに威嚇されたのは初めてであったが、

その原因が指導者によるものであるのは
後にもこの時だけであろう。

FIELD TRIPV−5 蛙の事情2

蛙はおそらく種類によって違う鳴き方をするのだろう、
ということは知っていたが、
雌は鳴かず、雄しか鳴いていないという事実を私は知らなかった。

「春の繁殖の時期になると雄が鳴いて同種の雌にモーションをかけるわけだ。しかしそのためだけに鳴いているわけではないようなのだ、これが。」

私達が相手にしていた蛙はその一種類だけなので他の蛙は知らないが、奴らはまずより良い家を得て雌を引きつけやすくため、他の雄とテリトリー争いをするのだそうだ。

自分の家を守るため、奪うために他の雄に鳴いて威嚇するのだという。

女はただボケーッと待っているだけで戦いに勝ち抜いた猛者のもとへ
「私の為に戦ってくれたのね、ウフフ。」と当然のように嫁げるのだ。

「蛙になりたい・・・。」むかって右がSAKKOです

この国立公園には他にも、緑か青だけの色のついたものだけを集めてそれはそれは綺麗な巣を作り、雌を呼び寄せる好色一代鳥がいる。

下手な巣には雌は寄ってこないのだそうだ。

なんだか人間より現実的やなあ、と思い逆に、実は人間ほど現実的でない生き物はいないのかも、とぼんやり思う。

それとも、私がなんとなく人間以外の動物を別の世界のモノのように幻想化していたから、だろうか。このへん、文章にしにくいですね。

ともあれ、「蛙のテリトリー争いの実態を暴け」というのが私達の課題であった。
同じ種類の雄の鳴き声だけをテープに録音し、あらかじめ見つけておいた、それぞれの家にいる雄達にそのテープの声を間近で聞かせる。

すると、流す音量の違いで、雄は違う反応をするのであるらしい。

「ゲーッ(音量:小)」

「あっ!コノヤロー!こっからここまで俺んちだかんな!入ってくんなよこのチビ!ゲーッゲーッ」

「ゲーッ(音量:大)」

「うっ!?なっなんだよやる気か!?おおおてなみ拝見といいいこーじゃねーか!ゲーッ」

「ゲーッゲーッゲーッゲーッゲーッ(音量:大5回)」

「・・・・(喧嘩売った相手が実はヤクザであった。と気付いたかのごとく黙る)」

これはあくまで理想のパターンで実際そうは反応しない事もあるのですが、統計?平均?でみるとそうなるわけです。

ようするにこの実験を数十匹の蛙に行うわけです。
しかもこの種類の蛙は1センチほどの蛙で探すのにも一苦労なわけです。

他の細かい調査の手間も手伝って、

「わあ!もー夜中の1時!?」

日暮れから始めて毎晩6時間以上、ただひたすら蛙の会話を楽しむこととなったのです。

しかし上↑のような会話が聞こえなくてもこれだけ長い時間、ゲーゲーを聞いていれば本当に家が隣あっている雄同士が交互に会話しているのがわかってくる、という不思議な体験をしました。

野外授業の最終日、ようやく天から日がさした。この5日間テントを共にしテントを一緒に嵐から守りぬいた私と友人は心の底から同じことを言った。

「太陽の光をこんなに嬉しく思ったことは今までなかった・・・。」

丘の一番てっぺんに立てた私達のテントの前から見下ろした眺めは最高であった。なぜなら私達を除く他の生徒達のテントはすべて嵐のせいで廃墟と化していたからである。

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