病院デビュー


新世紀になり、そこから病院探しが始まった。
私の中では「車で30分以内」「出産もできる所」「何かあった時の対処が早い所」
この3点だった。
しかし不妊症の友達は近所にいないし、地元ではないので病院情報も入ってこない。
そこで出産した人の話を参考にした。
出産でいい感じの病院ならば、不妊治療もきっと良いだろう。
思い込みは怖い。
でもそこで私はラッキーだったのだろう。
選びに選んだ病院は大学病院が後ろ盾になっていて、しかも不妊外来もある産婦人科だった。
そして不妊外来は大学病院の先生が来て行なっていた。
それ以外の日は婦人科があり、そこで見てくれるらしかった。

しかし私はこの時もまだ自分の現状を理解してなかった。
お医者さんに掛かって、タイミングをしてそしたらあっという間に子供が出来て、今までの時間は何だったの?な〜んて笑い話になるんだろうと漠然と思い込んでいた。
そして私の名前が呼ばれる。
診察室に入ると、大学病院の先生がいた。
しかし行なった検査は子宮ガンの検査のみだった。
あとで解った事だが、この時の先生は大学では教授で、しかもなるべく自然妊娠に近い状態がベストと考える先生だったらしい。

初めての病院はあっという間に終ってしまい、少しだけ拍子抜けだった。
あんなに悩みに悩み続けた病院だったのに。

そしてこの時に大事な事を忘れて帰ってきてしまった。
夫の精子検査の事。
でも次回聞けばいいか〜と初めての病院デビューは終った。


2回目の検査日。
子宮内膜の状態を見るとの事で指定された日に病院へ行く。
しかしまだ少し早いと言われて帰ることになった。
検査が無いと思ったら、ふっと精子検査を思い出した。
そして先生に聞くと、細長い容器を渡されて次回来る時に持ってくるように。
そして朝、採取してから2時間以内に持って来る事を言われた。


3回目の病院の日。
朝から夫に頑張ってもらい、採取した大事な精子を持って病院へ行く。
検査の結果は当日には出ないかもしれないと言われていたので、ちょっと気楽に待っていた。
しかしその日に限って、なかなか呼ばれる気配が無い。
2時間以上待ち、やっと呼ばれる。
そして診察室に入ると、看護婦さんは手を休めて下を向いてうなだれている感じの格好をしている。
先生は気難しい顔をしている。
ただならぬ雰囲気。
そして先生からある事実について報告を受けた。

「ご主人の精子検査の結果が出ました。ん・・・・・・精子が1匹もいませんでした。」
・・・・・・・はっ?え?どういう意味??
私の頭は?マークばかりです。
段々と状況がはっきりしてきた。
夫の検査結果が今日出た。
そしてその検査の結果は精液中に精子がいなかった。
多分私は無意識のうちに言葉として発していたのかもしれない。
先生はただ頷くだけだった。
「おかしいと思って全ての精液中を探したんだけど、1匹もいなかったんだよ。
1回の検査で全てがわかるわけじゃないが、ゼロだとするとこの先に検査をしてもどうなのか・・・」
じゃあどうすればいいんですか?と聞くと、
「残る道は顕微受精しかありません。ご主人は無精子症と思われます。あとは大学病院の先生とご相談して頂かないと・・・」
私も自分の中で一生懸命整理しようとしていた。
すると先生は気づいてくれたのか「ご主人に病院側から話そうか?」と言ってくれた。
私は大丈夫です。自分で話せます。大学病院の先生の日に夫とまた来ます。と、告げて診察が終了した。
しかし結構自分でも強いなと思ったら、その日に限ってお子様がうろうろするほど病院は混んでいた。
その子供たちを見ていたら、段々と悲しくなってきて・・・。
でもこんな所では泣きたくなかった。
両腕を組んで、自分の腕をつねって泣くのをこらえた。
あとで見たらつねっていた所は痣になっていた。

その夜、夫に検査結果を話した。
夫の反応は意外なほど冷静だった。
話した時は夫が帰ってくるまでに調べ上げた資料や本を見せながら、話をした。
そしてすぐに結論が出た。
子供諦めたくは無い。
これが二人の出した結論だった。

そしてすぐに転院し、顕微受精に向けての検査が始まった。