長い、校長先生のお話。 彼女たちには、何の意味もない話。 「このような………事故が………起こって、私達は………非常に………尊い………仲間を…………失って………しま………いました」 ほとんど馬耳東風で聞き流す。 何も、わかってない、校長先生も、先生達も、そして……… そして、彼女は、首を動かした。 まるで露地栽培されているカボチャのように、同じような姿をし、同じような背格好をした、二種類の人間。 各クラス二列ずつに並ぶ男生徒と、女生徒。 彼らも、彼女らも、わかっていない。 「このような………悲劇が………二度と………起こらないことを………祈りましょう」 そして、二分間の黙祷。 ほんの少し、頭を垂れる群衆の中で。 ひねくれ者が九名。 彼女を含めて、黙祷をせずに、じっと壇上のカボチャを見つめていた。 第九話 解散を告げる直前、列に含まれていない、生徒会のメンバーの一人が挙手をした。 「失礼、少々話したいことがあるので、各クラスの学級長、副学級長は残ってください」 伊沢 薫だ。 おそらく、クラスの代表に、伝えるのだろう。 どうやら、生徒会の面々には既に告げているらしかった。 書記の女生徒と男生徒は、薫の後ろできょろきょろと挙動不審になっている。 ただ、副生徒会長の女生徒は、彼のそばで背筋を伸ばして屹立している。 さすが、彼の認めた女生徒だ、と真由は思った。 この学校は、生徒会役員は、基本的に会長の指名で任命される。 他の学校はどうかは知らないけど。 副を任されるほどのヒトだから、信じてもらえるか不安だったけど、心配はなかったみたい。 すると、真由の視線の先で、クラスから学級長と副級長の二人が、前に出て行った。 「他の生徒は、もう教室に戻っていて構いませんよ。では、解散」 普段と変わらない薫の口調。 真由は、これからその彼から聴かされるであろう事を思い浮かべると…………級長達がどんな反応をするのか、見てみたい気もした。 ちなみに、真由のクラスの学級長の名前は………やめておこう、これ以上名前を増やしたら、色々大変になる。 必要になったら、言うことにする。 と、その時、不意に真由は薫とばっちり目が合った。 ………ぅ…… 思いっきり睨まれ、萎縮する。 (はいはい、わかりましたよ。でてけば良いんでしょ、でてけば) ほんのかすかな抗議のつもりで、ダンダンと体育館を踏みならして、出入り口から出ていく。 他の生徒に希有の目で見られたような気がするけど、そんなこと気にはしなかった。。 う〜……………厄日だ。 と、団 碧は教室に繋がる廊下を歩きながら思った。 昔っからそうだ、弥生ちゃんに呼ばれたあと、ろくな目に遭わない………。 小学二年の時、海水浴に行った時のこと。 弥生ちゃんに呼ばれて振り返った瞬間、シマシマの大きなボールが飛んできた。 次の瞬間、バゴンと言う音を立てて気絶した。 そう言えばあれなんだったんだろう………… と思ったけど、思い出せない。 また、小学六年の時、弥生ちゃんはブラジャーをし始めた。 けれど、その翌年、弥生ちゃんは代わり映えのしない私の胸を見て、あろう事か。 『ないちち』 と言われ、さすがに殺意がわいた…………けど、何とか収めた。 『胸の大きさは個人差だもん、あたしもそのうち大きくなるもんっ』 と、タンカを切ったが、案の定碧は成長してない。 身長は仕方ないとしても、もう少しくらい胸大きくなって良いと思うんだけどなぁ。 毎日牛乳飲んでるのに………… そう言えば、最近は言われてない、何でだろう………… と思ってたが、わからないから考えるのを止める。 そして、一年三組の教室の前に着いた。 先に帰っていたクラスメイトが、なにやらお互い話をしている。 その中の1人が、碧の姿に気付いた。 頭の上で両手を振って、来い来いと、碧を手招きする。 「ミドリ〜、もうやんなっちゃうよねー、話」 「え…………?」 碧がそのクラスメイトに寄ったその時、彼女が唐突に話し出した。 「校長の話だよ。まったく、確かに先輩が死んだ事は大変だけど、グチグチ言わなくてもあたしらは大丈夫だって、ねぇ?」 「うんうん」 と、話を聞いていた他の子らも、その言葉に同意するように頷いた。 しかし、碧は、同意することが出来なかった。 「…………何よミドリ。何か言いたいことでもあるわけ?」 じっと睨み付けられて、慌ててミドリは首を振る。 なんでもない、ただ………… 「葵?あぁ、あいつ?さぁ知らない、興味もないし………大体アイツ気持ち悪いのよね、毎日毎日ぶつぶつ人形作って………」 その言葉に、碧は何とも言えない表情を作った。 「何、アンタアイツと友達なの?」 その言葉に、碧はじっと考え込んで、こういった。 「…………展開によっては、そうなるかもしれない………」 と、その時、担任の先生と一緒に、学級長が帰ってきた。 そして、その後、どこかに行ってきたのだろうか、向日 葵が、教室に入ってきた。 席に座ると、カバンからソーイングセットを取り出して、またちくちくとやり始めた。 …………わかる、あの人形は。 「………あたしだ」 碧の目の前の女子が、呟いた。 【向日 葵】 『むこう あおい』 趣味は裁縫、読書、調べモノ、って入学式のあとのHRで言っていた。 裁縫かぁ、家庭的だなぁ、と思ったその矢先、席に付くなり先生そっくりの人形を作り出した。 あ、いや、何か人形を作り出したと思ったら、それが先生だった、と言うのが正しい。 しかも、口癖なのかなんなのか。 「ちくちくちくちくちくちくちく」 と、針を縫うたび言う。 名前と正反対で、地味で、暗い子だと、思った。 でも、そんなことは言ってられない。 入学して、あっという間に校内最恐と最脅を誇る、新聞部とオカルト部の、その片方なのだ。 それに、気を引きそうな話題を、こっちは持っている。 力を貸してくれたら、良いんだけど……………… 昼休み、友達と弁当を食べて…………またちくちくやってる…………しかもさっきと別の人。 葵の席を見て、後頭部に汗を浮かべた。 ちくちくやってる前の席では、姉の百日 紅が、お箸を葵の弁当に伸ばそうとして失敗している。 諦める気はないようで、執拗に葵の弁当を奪おうと躍起になっている。 どうやら、姉妹と言っても別々に暮らしてるため、弁当も別のようだった。 ………………だから、なんでお箸で……… 縁起悪いんだから、せめて学校ではやらないでってば。 葵は右手で人形をちくちくして、左手でお箸を持って伸びる紅のお箸をガードしてる。 だから、お箸をかちゃかちゃしないでってば、ご飯に突き立てるのの次くらいに不吉なのに。 かちゃかちゃ鳴るお箸の音に、三組で食事を取っていた人はさすがに気付く。 例外なく、後頭部に汗を浮かばせている、ちなみに、碧も。 そして、みんなの気持ちはただ一つ。 ――やめてくれ、不吉にも程がある―― 「あぁっ、もう、さっきからカチャカチャカチャカチャ五月蠅いっ」 耐えきれなくなったのか、三組で弁当を広げていたクラスメイト。 ………あ、朝会から戻った時、話した子だ。 ちなみに、その子の名前は【小岩井 恵子】 『こいわい けいこ』 悪い子じゃないんだけど、結構短気。 何かあるとしょっちゅう気に入らないって言って文句つけたりする。 そのところを考えると、保った方なのかも、紅と葵のお箸のかちゃかちゃに。 「もらい」 「あ……」 恵子の行動に一瞬気が反れたのか、葵が紅のお箸を防ぎ損なった。 ――紅は海苔巻き卵を手に入れた―― 「んー、やっぱり葵のお弁当は美味しいわー、ねぇ、ボクの分も作ってきてー」 「………うー…………」 笑顔で言う紅を、葵が三白眼で睨み付ける。 「こらぁ!そこの線対称姉妹!あたしを無視するんじゃないわよっ!」 「ん?」 「ん〜?」 紅が玉子焼きをもぐもぐし、葵が恵子の方を見た瞬間、今度はたこさんウィンナーを奪いながら、視線を動かす。 「ごくん、線対称はあんまりだと思うなぁ」 「………………」 ウインナーを飲み込んで言った紅の言葉に、葵がこくこくと頷く。 「うるっさいっ!だいたい、あんた達毎日毎日うるさいのよ、ご飯食べる時くらい静かに出来ないの!?」 「おしゃべりはそっちの方が声大きい…………」 「うるさいっ、口答えするなっ」 紅の抗議もなんのその、恵子はその我の強さ故に捲し立てる。 その恵子の言葉を意に介せず、葵はごそごそと己のカバンを漁る。 「人が話してる時は最後まで…………っ!?」 突然、恵子が驚いた表情で口をぱくぱくとさせた。 碧は、頭に疑問符を浮かべながら、恵子を見つめた。 そのため、葵が持っているモノに気付くのが遅れた。 「あおちゃん…………それ、いつの間に用意してたの?」 「………今日作った、早速使うとはわたしも思ってなかった」 こめかみに脂汗を浮かべて、紅は葵の手元をじっと見る。 そこには、今日葵が作っていた、恵子そっくりの人形が握られていた。 ただ、何故か青いペンで口元に×が付けられていた。 「……喋れないでしょ……?気を付けるようにするから………あんまり言わないで………ね?」 右手に恵子の人形を左手に青色のペンをもって、うつむき加減で、お願い口調で葵は言う。 穏やかで、かつ有無を言わさぬ口調で。 雰囲気に気圧され、恵子はただ頷いた。 |
Next
【葵と紅、小さな唇大きな人形】