さて………と。 ひとまず、コレで大丈夫なのよね。 パソコンのメールボックスの中には『警告メール』が、しっかりと残っている。 心なしか、ルイがにこりと笑って自信満々に胸を張っているようなそんな気がした。 『DD-ルイの名にかけて…………』 わかっていた。 呪いは、まだ始まったばかり………… 犠牲者は、これから増えてゆくだろう。 そのためには、あの警告メールを同じように送らなければいけない。 でも…………ただ送っただけじゃ、消されるのがオチね、どうしようかしら………。 第六話 翌日…………要するに、メールを受けてから三日目。 今日も、学校は休みになった。 でも、明日は学校らしい。 日付変わった時、真由が死んでなければ、の話だが。 『ルイ』から、説明を受け、真由のパソコンにはきちんと警告メールは残っている。 だから、大丈夫だと思っていたが、真由自身も少し不安だった。 ホントに、この警告メールだけで…………と思ったところで、逆の事に思いついた。 『幸せを呼ぶメールで殺せるんだから、警告メールで無効化できて、おかしくない』と言う事。 しかし、『ルイ』が言っていた【本】の呪いって、何の事なのだろう わからなかった。それはともかく、今日は茂之の葬儀がある、焼香に行かなくてはならない。 「可憐も、来るかな?」 火葬場へ向かう途中、真希がポツリと呟いた。 (さぁ………どうかしら…………最期があんなだから………たぶん、来れないと思うけど……) 真由がそうう呟くと、真希はただ一言「そっか…………じゃぁ、帰り、話しに行かなきゃ」と言った そうね、と真由が呟いたその時、バスのボタンを誰かが押したのだろう、『ぴんぽん』と独特の音が車内に鳴った。 何となく車内を見回すと、彼女のクラスメイト『夏目 竜平』が、バスのボタンに指を伸ばしていた。 不意に目が合い、竜平は複雑な笑みを浮かべて、ぺこりと会釈をして、席に戻った。 次の停留所は、火葬場に一番近いところ。 彼も焼香に行くのだろう。 竜平は、茂之の幼馴染みだったのだから。 ゆっくりバスは止まり、空気が抜けるような音がして自動ドアが開いて、真由と真希はバスを降りた。 そして、竜平が最後にバスから降りると、バスは走り去った。 再び真由は竜平と目が合い、彼は再び無言でぺこりと会釈した。 (そうだ、早乙女くんが回したって言うメール、ひょっとしたら夏目くんの所に………!?) 死ぬ直前の、早乙女くんの言葉を思い出した。 『二人にだけ回した』と言う言葉。 幼馴染みであった、夏目くんに送った可能性は、高いはず、と。 「夏目くん、あの………」 「りゅうへーくーんっ」 聞こうとしたところで、別の声に真由の声はかき消された。 声の主をきょろきょろと捜すと、歩道を制服姿で駆け寄ってくる………『夏目 竜平』に駆け寄ってくる、女生徒の姿が見えた。 二年四組、出席番号15番『桜崎 弥生』 噂には聞いていた。どうやら、竜平と付き合っているって言う噂は、本当だったようだった。 天下の往来で抱きつかれて、竜平が困り顔になっているのもお構いなく、弥生は嬉しそうに笑っていた。 「弥生、はろ」 「ん?」 真由が声を掛けると、弥生はじっと目を細めて真由を睨みつける。 「なんだ、マユじゃない、どしたの?あんたも早乙女くんの葬式?」 「………弥生…………アナタ、視力悪いならメガネ付けなさいよ」 「やーだ、だって、メガネ付けると可愛くないもん、りゅーへーくんだって、あたしがメガネ付けるの、見たくないもんねー」 と、恋する乙女のように、と言うよりその物なのだが、頬を染めて両腕に一層力を込めて、竜平に抱きつく。 「………メガネ属性の人もいるんだけどなぁ」 「…………マキ、なんかいった?」 真由の隣でポツリと呟き、その呟きを弥生が拾い、真希はしれっとして。 「べつに、なにも」 と言った。 見渡すほどの制服、男子も、女子も、沢山来ていた。 この中には、特に親しいかったわけではない人もいるかもしれない。 けれど、同窓生が、死んだのだ。 やはり、焼香だけでも、しないわけには行かないだろう。 そして真由は、その制服の山の中から一人の人物を捜す。 「………いない………ね」 可憐が、いなかった。 やっぱり、まだショックから抜け切れてないみたい………。 帰り、あの子の家に、様子見に行かなきゃ。 「………ほら、マユもマキも、列に並んで、こう言うところでおしゃべりしてちゃ迷惑だよ」 「………池宮、麻野、先行け」 …………こう言うところでは律儀なのよね、場の空気を読むのが上手いんだから、弥生は。 それから、焼香を終えるまで、弥生は一言も喋らなかった。 ただ、一言「あとで、アンタと夏目くんに、話がある、帰らないで待ってて」と言ったら「ん」と返ってきた。 焼香を済ませて、真由は他の人の邪魔にならないようにさっさと外に出る すぐ真希が真由の次に外に出てきた。 目で合図をすると、駆け足で真由の元に近寄ってくる。 「二人に、話すの?」 「…………そうね、まずは、夏目くんに、呪いが来ていないかの、確認をしなきゃ」 ひょっとしたら、時間がないかもしれない。 と、思っていたその時、弥生が出てきた。 ばっちり目があったが、何故か、無視された。 出口のそばで突っ立って、誰かを待って………って一人しかいないが。 それからすぐの事、竜平が出てくると、弥生は彼の手を取って真由を指さした。 竜平は、弥生の顔をと真由達の方を交互に見る。 そして、弥生に腕を引かれるまま、二人の所へ、やってきた。 「で………あたし達に話って、何?」 弥生が唐突に切り出してきた。 真由は頷いきながら、竜平の顔を見て、こう訪ねた。 「ねぇ夏目くん、早乙女くんからメール貰わなかった?」 『【幸せを呼ぶメール】って言うタイトルのメール』 真由と真希、二人の声が重なった。 すると、彼は目を丸くして。 「何で…………池宮がその事を知ってるんだ?」 と言った。 【夏目 竜平】 読み方は『なつめ りゅうへい』 詳しいプロフィールは知らない。 ただ、真由のイメージとして、賑やかな早乙女 茂之と対照的で、机に座ってゆっくりと過ぎゆく時を楽しんでいるような感じを受けた。 【桜崎 弥生】 『さくらざき やよい』 その名の通り、3月生まれ。 おそらくクラスで最後に誕生日を迎えるであろう女生徒だ。 そして、夏目 竜平の彼女。 いつ頃から付き合いをしているのだろうか、噂は聞いてたけど、学校ではあんまり一緒の所は見てなかったから、真由は判らなかった。 そして、その二人は同じように目を丸くして、真由の顔をマジマジと見つめる。 ………あんまり見ないで、恥ずかしいから。 少し頬を赤らめて視線をそらした瞬間、弥生が怒気を露わにして叫んだ。 「ちょっと、マユ、何でアンタがりゅうへーくんに来たメールの事知ってるのよっ!」 と、がーと牙を向いて弥生がいう。 真由は、真希と目を見合わせて、頷いた。 「大切な話があるの…………命に、関わる事」 「い………命って………誰の命よ」 「夏目くんよ」 素っ気なく言うと、弥生は言葉を失って、ぱくぱくと金魚のように口を開閉させた。 真由は、二人に仲の良い人を呼んでもらった。 信じてもらえると良いんだけど………。 すると、竜平が男子を二人、弥生が女子を二人…………一人下級生だった。 制服の肩に付いているピンバッチの色でわかる。 まぁ、特に気にするような事ではないから、いいだろう。 「あまり人が多くても困るだろうから、オレからは二人、『塚本 時緒』と『伊沢 薫』だ」 と、長身の二人を竜平が紹介する。 『メガネを掛けるのが塚本くんね、よし、覚えた。』 と、外見的特徴と名前を結びつけて覚える。 「どうも」 「…………」 伊沢 薫に睨まれ、真由は後頭部に汗を浮かばせつつ、次に弥生が呼んできた女生徒を紹介する 「えっと、こっちが幼馴染みの『川崎 里花』あたしと一緒のテニス部、こっちが『団 碧』この子も同じテニス部」 「よろしゅぅ」 「えっと、よろしくお願いします」 ぺこりと、後輩の子、団 碧がお辞儀をする。 「んでなぁ、ウチらに、話があるちゅう話らしいけど、何を話すのん?」 里花が、大阪弁で聞いてきた。 「え……えぇ、その前に夏木くん、夏木くんの携帯の、メールの履歴見せてもら『だめっ!』っても…………」 言い切るのを待たずに、弥生の言葉が飛んでくる。 「ダメッ、私でさえ見せてもらった事無いのにっ、マユっ、アンタに見せ………え、なに?」 竜平が、弥生の肩をぽんぽんと叩いていた。 「弥生………話の腰を折るな、見られて困るモノはないから………オレは別に気にしない」 「え…………そんな…………」 ぽんぽんと竜平は弥生を慰めるように肩を叩き、携帯を真由に手渡した。 そして、真由は携帯のメールボックスを開いた。 新着メールはない。 ピピピと、スクロールさせて『幸せを呼ぶメール』と言う件名のメールを探す。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ あった。 受信日時は、日曜日の午後四時三十五分となっている。 「今、四時二十分だよ」 ほっ、っと携帯を持ったまま溜息をこぼす。 どうやら間に合ったみたいだった。 「…………で、雨宮、その『幸せを呼ぶメール』が、何かあるっていうのか?単なるチェーンメールじゃないのか?」 「…………そうね、信じてもらえるとは思えないけど…………早乙女くんが死んだのは、事故じゃないわ」 『!?』 真由の言葉に、誰一人として驚かないモノは居なかった。 それはそうだろう、鉄骨が上から落ちてくる、ワイヤーは老朽化により自然に切れていた。 しかし、それも、コレも、何もかも、そのメールが原因だったのだ。 「『幸せを呼ぶ』なんてのは嘘っぱち、止めた者、止まったところの携帯を所持する人を、確実に殺す呪いのメールなのよ!」 言ってしまった。 まぁ、コレ以外言える事はないんだし…………しかたないんだけど。 「ぴっ、と。送信完了」 真由の後ろで、右手に自分の、左手に竜平の携帯を持って、何かをしていた真希が携帯を閉じた。 「コレで夏目くんも大丈夫だね」 「そうね………………でも、この人達、しばらく復活しそうにないわね」 真由は、石のように固まった六人をちらりと一瞥して、ため息を吐いた。 |
Next
【直視と認識、実在する呪い】