ポツポツと、曇天から雨が降りて来て。 最初は少しずつ、次第に強く。 そして雨音は、轟音となって辺りに降り注ぐ。 街灯の上に存在する人間だったモノは。 もはや何も言う事はなく。 泣く事も、笑う事も、息すらも、することはない…………… ――さすれば、アナタはその退屈な世界で退屈な人生を続けることが出来ます。 ですが、止めた場合は、ワタシがめくるめく幸せな世界に連れて行って差し上げましょう。 また、送ったメールが満三日間で三名に満たない場合も、同様に連れて行って差し上げます。 誤魔化しは通用しません。 必ずや、アナタの前に参上いたします―― 第四話 ごくりと、真由はつばを飲み込む。 考えてみれば、昼から何も飲んでいなかった、喉がカラカラに渇いていた。 「偶然なんかじゃ、無い…………」 同じ偶然は、二度は続かない。 以前読んだ、マンガで言っていた事を思い出す。 同じ偶然は、二度は続かない、コレは本当になにかがある。 キーとなっていたのは、メール………… 幸せを呼ぶメールという、その、メール。 「珠美っ!あぁ何で………これから、ずっと上手くやっていけると思ったのに、珠美ッ、タマミィイイィィ………」 街灯の下で泣き崩れる、男の人。 その人に、言おうか、言わないでおこうかと悩んでいると、真希が真由のシャツの裾を引っ張った。 「…………帰ろう、あたし達。【関係ない】んだし」 「マキ、アンタ………」 真希を睨み付けるが、唇が青くなっているのに気付いた。 真希も、気付いている。 メールは本物。本当に、呪いがかかっている。 信じたくないけど、信じないわけにはいかない………… 「…………話は、わたしの家でしよう、とりあえず、帰ろう」 こくりとうなずいて、真希は真由の手をぎゅっと握った。 普段は紅い唇から、既に血の気は失せて、ほんの少し震えている。 繋いだ手から、真希の体温が真由の手の中に伝う事はなく、ただ少しひやりとしていた。 帰り際、真希は弱々しく腕にすがりつく。 ちゃらちゃらしたお兄さん方が話しかけてきたけど、そんな場合じゃないので無視して帰ろうとした。 『まったく、マキがこうだと、わたしが冷静にならざるをえないじゃない』 溜息混じりに呟いた。 肩に手を置いた男の人………ごめんね。 すると、真由はその人の手をぎゅっと握って、 「きゃあぁぁあああぁ〜、痴漢よ〜」 と言った。するとまたたく間に正義感溢れる人が集まってくる。 後はその人達にまかせて、二人は帰った。 色々、時間もない。 真由はポケットから鍵を取り出して、玄関の扉を開ける。 彼女に両親はすでにいない。 だから、中から返事が返ってくる事は、無い。 はずなのだが………… 不思議な感覚が有った、 出迎えてくれる人などいるはずがないのに、何かが待っていたようなそんな感覚。 ――オカエリ―― ふるふると頭を振ってそんな考えをかき消した。 気のせいだ、そんな事よりまずは話からしよう。 外の雨は、どんどん強くなっていき、いっこうにやむ気配はない。 けれど、今日話さないわけにはいかなかった。 今日、街中で女の人が死に。昨日、茂之が死んだ。 真由が真希からメールを受け取ったのは、一昨日の………正確には、月曜日の午前零時零分。 今日は火曜日、日付が変わって水曜になった時満二日だ。 そしてその次、日が変わる時、真由は…………どうなるんだろうか。 「マユ…………あたし、どうしよう………あた、あたしの所為で、マユが…………」 ふう、と真由は溜息を零す。 全くだ、真希がメールを送らなければ……………と言っても、送らなければ真希が死んでいたのだろう。 「ねぇ、ちょっと聞いていい?」 「?」 「マキの所にあのチェーンメール来たのって、いつ?」 「……………土曜日の………えっと、六時十三分」 今日が火曜日で…………今の時間が六時八分。 という事は、送っていなければ、あと五分で、マキが死んでいた、と言う事になる。 そう思うと、ぞっとする。 メールを送るだけで、あとは、止めたモノを、殺す。 「あと、五分」 「…………送ってなかったら、あたしが…………死ぬ時間だね」 それだけを言うと真希は沈黙する。 真由の部屋の中、しっとり湿った空気の中、雨音と時計の針が進む音だけが、ただ静かに鳴っていた。 ――メールが届くまで、あと四分三十秒―― 「そうだ…………一応、パソコンでこの事について調べて見なきゃ」 そう呟いて、真由はベッドの隣に置いてあるパソコンの電源を入れる。 「こんなモノが、本当にあったならどこかで噂になっていてもおかしくないし………もし、噂になってないなら、教えなきゃ」 信じてもらえるとは、思えないけどね、と心の中で付け加える。 Windowsのロゴが表示されて、起動準備に入る。 今日に限って、なんだか起動が遅く感じた。 CPUはそんな遅くないはずだし、メモリも、いとこに頼んで足して貰ったから問題はないはず。 わたしが焦りすぎなのかな。 真由がそう考えているうちに、デスクトップのアイコンが表示されていった。 ――メールが届くまで、あと二分十秒―― ちらりと壁掛け時計に目をやると、六時五分…………あ、そう言えばこの時計狂ってるんだった。 壁掛け時計を当てにするのをやめて、パソコンの時計表示を見てみた。 デジタル表記で、【18:11】と表示されている。 あと二分…………! 大急ぎでブラウザを立ち上げて、トップページの検索サイトにキーワードを打ち込む。 キーワードを『幸せを呼ぶメール 呪い』と打って、検索する。 画面右上の窓のマークがくるくると動いて、検索結果が表示される。 『幸せを呼ぶメール 呪い の検索結果 1 件中 日本語 のページ 1 - 1 件目 (0.05 秒) 』 と明記され、検索結果が表示される。 マウスを動かして、リンクをクリックすると、某巨大掲示板が現れた。 ――チェンメで、人殺せると思う?―― ――チェンメって、このメールを○○名に送らないと、って言う類の?―― ――うん、この前、友達がそう言うの来たって話して、内容聞いたその二日後、突然事故って死んだ―― ――ネタか?―― ――違う。本当に死んだ、今日葬式で、さっき帰ってきたところ。誰か知らない?―― ――………そう言う話は初めて聞くけど、偶然じゃないの?―― 書き込みは、そこで止まっていた。 真由は書き込みをする事に少し躊躇いながらも、ゆっくりとキーを叩いてレスをする。 ――わたしの友達の恋人が昨日死にました。死ぬ直前【迎えに来る】というメールが来てました―― さらに、キーを叩く。 ――さらに今日の外出時、ビルの屋上から落ちた人のメールにも、同じようなメールが直前に来てました。同じ偶然が二度続くとは思えないのですけど―― エンターキーを押して、書き込みを終了した、その時。 ――ピロリロ、ピロリロ―― どっくんと心臓が飛び跳ねる感覚、ホントに心臓に悪い……… 「マユ…………どうしよう………メール、来ちゃった………」 携帯を握ったまま、真希は涙目で真由を見る。 …………そりゃぁ、見るしかないんじゃないの? 三人に送ったんなら、大丈夫………………だと思うし。 真由がそう伝えると、真希は意を決して、メールを開いた。 腰を上げて真希の後ろに回り込み、真由は携帯をのぞき込んでメールを読む。 「………………はぁ…………大丈夫………みたい………」 のぞき込んだその先には、件名が【残念です】とあった。 内容を、読む。 ――せっかくの厚意を無駄にするとは、あまり賢い判断とは思えませんが、致し方有りません―― ――その退屈な世界が気に入っているのであれば、続ければいいでしょう―― ――ですが、わたしはまた貴方を誘いに来ます―― ――その時は、よい返事を、期待しております―― …………どうやら、マキは大丈夫みたいね。 そもそも、部屋の中だし、どうやったら死ぬのか、って感じだけど。 時計は、18:14と表示されている。 三通送ると、問題ないみたいね…………でも、また来たら………また送らないといけないんだろうか。 おそらく、そうだろう。 『また誘いに来る』って言ってるから、再びチェーンメールが回ってくる事は、当然の事だ。 止めたら死ぬ、このメールが噂になれば、否応なくメールは蔓延する。 逃れる手段が、回すしかないのなら…………メールの加速は、止まらない……… 情報が欲しい、何でも良いから、何か情報を………… そう思って、マウスで更新ボタンを押す。 すると、新しい書き込みが表示された。 ――オレん所だけじゃなかったのか。オレのところでは、中学生二人、携帯を持ちながら横断歩道を渡っている最中、トラックに轢かれたらしい―― ――メールで思い出したけど、近所のマンションで首を吊った人が、そう言う話をしていたって聞いた―― 自分の所だけじゃ、無い事をまじまじと確認した。 でも、こうして噂になると………… ――マジで、死ぬのかな―― ――さぁ、でも、自作自演じゃない事は確かだけどね―― 誰かが、ふざけているわけではない。 本当に、呪いが有る。 信じられない事だけど、それだけは、確実なようだった。 「マユ………他に逃れる方法、書いてない?」 後ろからの声に、真由はもう一度書き込みを見渡す。 「…………無いみたい、やっぱり、三通送るしか手段はないのかな」 再び更新ボタンを押して、新しい記事を表示させる。 ――そう言えば、ちょっと前、みんなが言ってるのとは別だけどチェンメらしきモノが来てたぞ―― ふと、目を引いた書き込みだった。 ――タイトルが『警告メール』ってなってて、内容が…………何だったかな、忘れた―― その時、ふとメール閲覧ソフトを、開いてみた。 『サーバに接続中』 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 『メールを受信しています』 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 『四通の新着メールです』 起動時の、メールチェックの後、いくつかの新着メールが表示される。 ……………有った。 『警告メール』 そして、その内容は………………… |
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