――コレは警告メールです。

このメールを受け取った人は、同じようなメールを受け取った事があると思います

普段なら、読まずに消すか、おもしろがって他の人に回すかしてしまうと思います。

しかし、一つだけ、本当の呪いがかかっているメールがあります。

その呪いは、確実にアナタの命を奪ってしまうでしょう。

ワタシのミスです、ワタシではもう抑えることが出来ません。

アナタの身を守ることが出来るのはアナタだけです――





奈落の呼び声 第壱章

チェーン・メイル
第二話

偶然と必然、呪われし文面





「あ…………………………は………ぐ……………はぁッ」

一瞬、呼吸の方法を忘れた。

一体コレは、どう言ったことだ、何が起こった………

真由は、一度息を大きく吸って、吐く。

すると、ようやく少し落ち着くことが出来た。

心臓は、まだ早鐘の様に鳴って、今にも喉からでてきそうだったのだが。

『落ち着け、落ち着け………………オ チ ツ ケ…………』

心の中で、呪文の様に繰り返す。

『何が起きた………事件か、事故か』

そう言って、目の前、歩道のタイルに直立する鉄骨を、凝視する。

「………まだ寝てる…………ワケじゃないみたいね」

鉄骨の下、花火の様に弾けた赤い跡は、血だ。

それも、同じ学校の、隣のクラスの生徒。

「いっそ夢ならよかったのに…………」

鉄骨の下を見ようとして、直視できず目をそらしてしまう。

無理。絶対無理。

さっきまで、隣の恋人と楽しそうに話をしていた男子生徒だ、それなのに…………

『落ち着け、落ち着けぇえぇ、わたし』

胸に手を当てて数回深呼吸をする。

『まずは、えっと、こういう場合は…………そうだ、警察…………あ、救急車呼ばなきゃ』

真由は真希から携帯を借りる。

真由は携帯を持っていない、パソコンがあるから必要性はあまり感じてない、だから持ってなかった。

震える親指を抑えつつ、番号をプッシュする。

ぷるるる、がちゃっ

――ピッピッピッ、ポーン。午前7時58分を――

即座に切る、落ち着け、何で時報なんか押してるんだ。

警察、あと、救急車は消防から。

110と、119。

震える親指を必死になだめすかし、今度は間違いなく、プッシュした。




連絡して電話を切ると、真希に携帯を返す。

………わたし何話したっけ。

覚えていなかった。ただなんだか大声で色々言った様な気はしていたのだが。

ふと、可憐を思い出す。

そうだ、可憐、可憐は何処に…………?

鉄骨が落ちてきた、早乙女 茂之のすぐそばにいたはず、あの子は………

いた。

直立している鉄骨のすぐそばで、焦点の定まらない目で何かを呟いていた。

――しげ………しげくん、どうしたの、起きて、こんなところで寝てちゃ邪魔になっちゃうよ――
――早く、早くがっこいこうよ。ねぇ、今日おべんとう作ってきたんだよ――
――しげくんが食べたいっていってた玉子焼き、ちょっと失敗しちゃったけど――
――ねぇ、しげくん、起き………起きてよぉ――

頬についた血をぬぐおうともせず、学校指定の白い制服はすでに真っ赤に染まり。

可憐は、既に死んでしまっている茂之の傍らで、必死に彼を喚んでいた。

「雨宮さん…………」

――起きて、ねぇ、起きてっ。しげくん、ね、学校行こうよ、ねぇ、ねぇってばっ、返事してよっ、しげくんっ――
――ふざけてないで、ねぇ、しげくん、しげくんっ!――

止めて………可憐、もう無理なのよ。

そう、心の中で思うも、真由はその言葉をぐっと飲み込んだ。

信じたくないかも知れないけど、彼はもう…………

と、その時、サイレンが聞こえてきた。

真由はきちんと通報出来ていたことにほんの少し安堵した

ふと時計を見ると、8時5分。

HRが8時20分からだから、あと15分で遅刻になる。

しかし……………

「雨宮さんをそのままにしておけない…………学校に連絡しておこう、たぶん、先生も駆けつけてくれると思う」

真希が、真由の考えをズバリと当てた。

そう…………可憐をそのままにしておけなかった。

それに、面倒だけど事情聴取がある、今の可憐に何か聞けるとは思えなかった。

自分たちが付いていてあげた方がいいと。

真由が学校に連絡しようとしたところで、連絡をしている警察が目に入った。

「・・・者は、都立日暮高校の男子生徒、頭上から落ちてきた鉄骨の下敷きになり頭蓋骨を圧砕、即死したモノと思われる、名前は………」

そして、それにそっと近づいて、

「早乙女 茂之くんです」

「………………早乙女 茂之」

「二年五組」

「……二年五組」

「そして彼女は、彼の恋人です」

真由は、泣き叫ぶ可憐を指さして、連絡をしている警察の人に驚くほど静かな口調でそう言った。






真由は我ながら、よくもまあここまで落ち着いて話せたモノだと、感心していた。

すぐさま警察から学校に連絡が行き、どうやら学校は臨時休校とする話になったらしい。

真由の担任と、可憐の担任の先生が、30分もせずに駆けつけてきた。

校長と教頭の両先生は、臨時朝会で生徒達に休校の旨を告げたあと、来るとのことらしい。

「池宮さんっ、それに麻野さんっ、二人とも無事っ、怪我は無いっ!?」

真由の担任の湯本 春菜先生が、血相を変えて駆け寄り、真由の肩をがっしりと掴んだ。

力入れすぎ、ちょっと痛かった。

「わたしも、マキも大丈夫です、でも…………あっちが………………」

そう言うと、真由は可憐とその担任、橋本 裕吾の方を見た。

鉄骨は、既に取り除かれ、早乙女 茂之の血と、肉片を片付けている最中だった。

…………吐きそう、気持ち悪い…………

真由はそっと口を押さえる。

道路に飛び散った血の、鉄の匂いがここまで漂ってきた。

…………鉄と同じ匂いなのに、どうしてこんなに気持ち悪くなるのだろうか………

「先生…………あたし達、どうすれば………?」

真希が、春菜先生に訊く。

「えっ…………え、えぇ、そうね、あなた達は、帰って、お家で休みなさい。こんな事を目の前で見たんですから、ショックでしょうし」

そう言う春菜先生の唇も、青くなっていた。わかっている、先生とか、生徒とか、関係ない。

今、嘔吐しても、誰も責めやしない。

ただ、先生は、先生だから、生徒たちがいるから、しっかりしなきゃと、思っているのだろう。

「先生、雨宮さんは………?」

『どうするの?』と言う意味を込めて、真由はパトカーの後部座席で寝息を立てる可憐を指さして訊く。

どうやら鎮静剤を打たれて、眠っているようだった。

「え……えぇ、雨宮さんは橋本先生が、お家に送るそうです、ほら、あなた達も、帰りなさい」

真由は、真希と顔を見合わせて、小さくうなずいた。

「雨宮さんの家まで、付き添います。心配ですから…………」






気を付けて、という湯本 春菜に背を向けて、二人は可憐の載っているパトカーへと近づく。

「………池宮、麻野、どうした?」

橋本 裕吾が、二人の姿を認めてそう訊いてきた。

「雨宮さんの家にまで付き添います」

「え………いや、付き添いは先生が………」

「女の事は、女同士の方がよくわかります。裕吾先生は、雨宮さんを抱えて家に連れて行くまでにしてください、あとはわたしたちが付き添います」

しばらく裕吾は考えたあと、うなずいた。

「わかった、二人に任せよう、パトカーに乗せてもらえるそうだ。わたしは車があるからそちらで雨宮の家に行こう。お前達は、雨宮の家を………」

『知ってます』

顔を見合わせ、真由は、真希と顔を合わせてそう答えた。






パトカーの後部座席に座る可憐を真ん中に追いやって、真由と真希は両サイドに守る様に座った。

「しげ……くん」

つう、と涙が頬を伝って、首を流れ制服に染み込む。

「………可憐。早乙女くんのこと、本気で好きだったからね」

そうね、と真希の言葉に一言だけ応えた。

高校の入学式の時、一目惚れしたらしい。

意を決して告白して、オーケー貰ったと、嬉しそうに話をしていた。

それが、高校一年の7月のこと

二人がつきあい始めて、可憐とはあまり一緒に行動しなくなった。

あまりに仲が良さそうだったから、わざわざその中にはいることは、真希も真由もしなかった。

そして、いつからか、人前では、真由たちは可憐のことを『雨宮さん』と呼ぶ様になっていた。

『着きましたよ』

ハンドルを握ってる警察官が、後ろに声を投げてきた。

真由が窓の外に目をやって、表札を見る。

『雨宮』

一体いつの間に……………

「あたしが」

と、真希が言った。

真由が考え事をしている間、真希が道筋を指示していたらしい。

と、その時、パトカーに追随していた裕吾先生の車がパトカーの後ろに停車する。

真由も真希も降りて、先生に道を空ける。

後部座席で静かに座る可憐の背中に手を回し、膝の裏から抱える様に、車から降ろす。

「麻野、ドアを開けてくれ」

真希が無言でうなずき、従う。

インターホンを押し中から返事が来て、予想通りの人が現れる。

「はーい……あ、マキちゃん、学校は……………可憐!」

真希の姿を見、その後裕吾に抱きかかえられた可憐の姿を見て、可憐のお母さんは絶叫した。

当然だろう、力無くだらんと垂れ下がった両手は肘の辺りまで真っ赤に染まり、白いブラウスも同様に染まっていたのだから。

「せっ、先生ッ。か、可憐は、可憐はどうしたんですかッ!?」

がーっとまくし立てる可憐のお母さんを、真希がなだめる。

「大丈夫、あの血は可憐の血じゃないです。ともかく落ち着いて、一番ショック受けてるのは、可憐の方だから」

おだやかに、子供を諭す様な口調で真希がお母さんをなだめる。

その口調に、お母さんは平静さを取り戻した。

「あ………ごめんなさい、つい…………とりあえず、上がってください」

「はい、ですがわたしは、雨宮さんを寝かせたあと戻ります。あとは、この二人が付き添うとのことで、お任せします」

裕吾が可憐のお母さんにきっぱりとそう言って二階に上がり、可憐の部屋に入って、ベットに寝かせる。

「すみません、ベットを汚してしまって…………」

いえ、と可憐のお母さんが言った。

「ベットや毛布はあとで洗えば問題はありません。先生、ありがとうございました」

そう言ってぺこりとお辞儀をする可憐のお母さんの肩を、真希がつんつんとつつく。

「?」

真希が何かを耳打ちすると、あっ、と言う風な顔をして、可憐のお母さんは階下に行った。

「じゃぁ、麻野、池宮、雨宮のことを頼んだぞ」

そういって、裕吾も階下に降りて、外に出る。

『では、わたしは戻ります、事情はあの二人から聞いてください。わたしより詳しいはずです』

階下で声が聞こえ、その後車のエンジンをかける音がし、裕吾は学校に戻った。

現場では、することはない。

現場検証は警察の仕事、まずは職員会議からが先決なのだろう。

遠ざかる排気音の中、とんとんと階段を上がってくる音が聞こえる。

「マキ、おばさんに何を言ったの?」

怪訝そうに尋ねる真由の口調に、真希はしれっとしてこう答えた。

「着替えとタオル、体拭いてあげなきゃ」

なるほど、と真由は思った。




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【誤解と不安、無慈悲な落雷】