そこはマンションの一室だった。

時間は正午頃だろうか。

南中にある太陽から、陽光が室内に差し込んでくる。

そこで一人の男が、引越しの片づけをしていた。

男の名は、 後中 忠治 あとなか ちゅうじ

この町に、今日引っ越してきた。

そう、その男こそ、全ての物語の始まりだった・・・・・・・。




幻影の天使たち

第0話



はじまりの合図




時刻は夕方。

商店街を、傾いた夕暮れの太陽の光が照らしている。



「ご主人様とおさんぽ〜、おひさしぶり〜♪」

「ナナ、散歩じゃ無いよ、買い物だよ、ランに頼まれた物を買いに行くんだからね」

「うんっ、お買い物終わったら、お散歩しようねっ、ご主人様っ♪」





ご主人様と呼ばれた男。

彼の名前は『睦悟郎』

ついこのあいだまで、不幸に見まわれていた彼だが、過去に飼っていたペットたちが、

守護天使として彼を守りに来て以来、不幸は起こらなくなっていた。

そして、ナナと呼ばれる、青い髪の少女も、その守護天使の一人である。



「あぁ、買い物終わってからだよ、散歩は」

「わ〜い、お散歩、お散歩っ。早くいこっ、ねぇ、行こうっ♪」



この少女は、彼が飼っていた、犬の転生した姿で、散歩が大好きなのである。

そして、2人は、いつも買い物をする近所のスーパーに着いた。

「ご主人様〜?何買うの〜?」

「そうだなぁ・・・・今日のご飯は何を造るのかな、ナナは何が食べたいんだい?」

「ナナは〜、スパゲッティが良いっ」

「じゃぁ、スパゲッティ麺と、ミートソース缶を何個か買おう」

「じゃ、ナナが探して取ってくるねっ」

といって、ナナは、彼の返事を聞かずに、走って行った。

彼は、1つ心配をしていた、それは・・・・・・

「ナナ、どこにあるのかわかっているのかな?」

至極、ごもっともな意見であった。



ナナは、犬であったにもかかわらず、方向音痴であった故に。

転生し、人間としての体を与えられたにも関わらず幾度か迷子になり、彼が苦労して見つける、と言う事がたびたび起こっていた。



そして、案の定。

「スパゲッティはどこ?ミートソースはどこ?」

迷っていた。

「あ、ナナ、こんな所にいたんだ。おいで、スパゲッティはここだよ」

といって、彼は、ナナにスパゲッティのある所をナナに教えた。

しかしナナはなぜか頬を膨らませている。

「ナナ、どうしたんだい?」

彼が不思議そうに訊ねる。

「ナナが見つけようと思ったのに〜、ご主人様のいじわる」

折角見つけたのに、いじわると言われる、不憫である。

「ミートソースはナナが自分で見つけるからねっ、ご主人様はここで待っててっ」

そういって、ナナはミートソースを探しに、駆けて行った。

彼は、ナナの後姿を見送り、一言呟いた。

「また・・・・探さなきゃ行けないのか・・・・・」

そういって彼は嘆息した。





彼の気持ちも露知らず、ナナはミートソースを探していた。

「ミートソース、ミートソース・・・・・・・・・」

辺りをきょろきょろと見まわしている。

その時、ふと、見なれない人物が眼についた。

「あれ??あの人、この辺で見たこと無い・・・・」

彼は、缶詰コーナーを見ていた。

見慣れない人物に、ナナは好奇心が沸いたが、次の瞬間には興味はミートソースの缶へと移った。

「あっ、あったっ♪」

ナナは、缶詰コーナーで、ミートソースの入った缶詰を見つけ。

2つを手に取り、回れ右をすると、ご主人様の元へと帰っていった。





スパゲッティ4束、ミートソース3缶

2つを持って戻ってきたが、足りないと言われたので、ナナはもう1つ持って来ていた。

そして会計を済ませ、二人は店を出た。

そして2人はそのまま、まっすぐ家に帰るのではなく、ちょっと遠回りをして、散歩をしようとした。

しかし、悟郎には1つの不安があった。




今から通る場所、そこの近くには、不良グループがたむろしている場合があり。

厄介ごとに巻き込まれやしないかと、内心に思っていたったからである。




しかし、ナナはそんなことは気にもせず、ただ散歩を喜んでいた。

「ここを通るのは始めてだねっ」

「うん、そうだね、ここはあんまり来ない場所だからね」

ナナは、彼の周りを、走りながらうろちょろしている。

初めて通る道がめずらしいのか、悟郎の周りをぴょんぴょんと飛び跳ねている。

「ナナ、僕のそばから離れちゃだめだよ、ここは危険・・・・ってっ、え?」

さっきまでそばで走りまわっていたはずのナナが、いなくなっている。

「な、ナナ?どこに行ったんだ?」




光と闇が混じる、黄昏の時。

歯車は動き始めた・・・・・・




第01話『子守唄』に続く