用 語 解 説

遍路(へんろ)
祈願のために、弘法大師修行の遺跡である四国八十八箇所の霊場を巡り歩くこと。また、その人を指す。親しみをこめて「お遍路さん」と呼ばれる。
四国八十八箇所の起源は、辺境の地を巡る「辺地修行」で、十二世紀頃の聖の修行場としての「四国辺地」、中世の山伏による「四国辺路」がルーツとなり「四国遍路」となったと考えられる。
遍路の始まりに関しては弘法大師と衛門三郎の伝承が有名。
西国三十三箇所観音巡礼や坂東三十三箇所巡礼のように一般的な霊場巡拝は「巡礼」といわれ、「遍路」という呼び方は四国以外では用いられない。
遍路道(へんろみち)
お遍路の歩く道。遍路道沿いには大師伝説が数多く残り、大師ゆかりの霊場が点在する。
遍路ころがし(へんろころがし)
遍路道のうち、急な坂道のある難所。
第十一番藤井寺から第十二番焼山寺へ至る山道や、第二十一番太龍寺へ至る急坂、第六十六番雲辺寺への起伏の多い遍路道、第八十番國分寺から第八十一番白峯寺へ向う急坂などが知られる。
札所(ふだしょ)
仏教の霊場で、参詣したしるしに札を受けたり、納めたりするところ。四国八十八箇所、西国三十三箇所など。
遍路をする際、かつてはご本尊が安置されている堂宇の柱などに、木製や金属製の納札を打ちつけて礼拝したことから、巡拝の対象となる寺を「札所」という。
打つ(うつ)
札所に参拝することを「打つ」という。
順打ち、逆打ち(じゅんうち、ぎゃくうち)
札所の巡り方は大きく分けて2種類ある。第一番札所から順番どおりに第八十八番札所までを巡拝することを「順打ち」、第八十八番札所から逆回りに巡拝することを「逆打ち」という。
通し打ち、区切り打ち(とおしうち、くぎりうち)
巡拝で、八十八箇所全行程を一度に打ち上げる巡拝を「通し打ち」という。また、適当な区間に区切って打つのを「区切り打ち」という。「区切り打ち」する場合には、区切りの最後の札所の大師堂で打ち止めの報告をし、再度打ち始める際には、打ち止めした札所から始める。
同行二人(どうぎょうににん)
四国遍路で自分はつねに弘法大師とともに巡拝しているという意。複数人で遍路していても、個人と弘法大師の二人と考える。この言葉は、金剛杖、菅笠や納札などに書かれる。
金剛杖(こんごうづえ)
修験者(しゆげんじや) ・巡礼者などがもつ、四角または八角の白木の杖。長さは等身大。杖の本体は卒塔婆(そとば)を表しており、巡拝の途中で倒れた場合、杖がそのまま墓標となった。
四国遍路では弘法大師の分身とされ、遍路道中もっとも丁重に扱われる。
昔のお遍路さんは道に迷えば「南無大師遍照金剛」と唱え、杖を倒して倒れた方向へ歩いた。
宿に着くとまず杖を洗い、床の間などの上座に安置するようにしていた。
南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)
「南無」とは帰依すること。すなわち、神仏や高僧などのすぐれた者を信じ、それによりすがること。
「遍照金剛」とは、弘法大師が唐の長安で青龍寺の恵果阿闍利(けいかあじゃり)から授かった灌頂(かんぢょう:免許皆伝にあたる)名。
つまり、自分を弘法大師に任せるという意味。参拝の際に唱えるが、お遍路同士の挨拶言葉としても使われる。これはお遍路さんへの礼儀でなく、相手とともにおられる弘法大師を礼拝している。
ご詠歌(ごえいか)
霊場の巡礼者や浄土宗信者の歌う、仏や霊場をたたえる歌。和歌や和讃に単調で物悲しい節をつけ鈴(れい) を振りながら歌う。巡礼歌。詠歌。
お勤めの最後に詠う和歌で、経文読経と同じ功徳があるとされる。札所本尊の功徳や霊験、札所周辺の風景を詠った内容のものが多い。
 八十八箇所ご詠歌  別格二十霊場ご詠歌
お接待(おせったい)
一般の人がお遍路に無償で食べ物や飲み物などを提供するほか、一夜の宿を貸すなど、便宜を図ること。
お接待をする側は、間接的に巡拝に参加し功徳を積むことができるとされる。
お接待を申し出られた場合、極力断らないのがマナーとされる。
四つの道場(よっつのどうじょう)
四国霊場は、国別に四つの道場に見立てられている。阿波(現・徳島県)の23箇所は「発心の道場」、土佐(現・高知県)の16箇所は「修行の道場」、伊予(現・愛媛県)の26箇所は「菩提の道場」、讃岐(現・香川県)の23箇所は「涅槃の道場」と呼ばれる。
発心の道場(ほっしんのどうじょう)
四国霊場のうち、阿波(現・徳島県)の23箇所は「発心の道場」と呼ばれる。求道(ぐどう)心を起こし、いかなる困難にも負けない心を得る場所。
修行の道場(しゅぎょうのどうじょう)
四国霊場のうち、土佐(現・高知県)の16箇所は「修行の道場」と呼ばれる。弘法大師が室戸岬などで修行をしたため、修行を実践する場所とされる。
菩薩の道場(ぼさつのどうじょう)
四国霊場のうち、伊予(現・愛媛県)の26ヵ所は「菩提の道場」と呼ばれる。煩悩を断ち切り、迷いから目覚める場所。
涅槃の道場(ねはんのどうじょう)
四国霊場のうち、讃岐(現・香川県)の23ヵ所は「涅槃の道場」と呼ばれる。煩悩も迷いも消し去り、悟りの境地を得る場所。
補陀落(ふだらく)
《梵Potalakaの音写。光明山・海島山・小花樹山と訳す》仏語。インド南端の海岸にあり、観世音菩薩が住むという八角形の山。この信仰は和歌山県熊野や栃木県日光が代表的な地として知られる。
そして鎌倉・室町期、本当のインド補陀落浄土を目指して小舟で決死の船出をする補陀落渡海が流行し、その出発点となったのも熊野灘であり、四国では南海に突き出している高知県の室戸岬と足摺岬が補陀落渡海の東門とされた。
結願(けちがん)
巡拝コースのすべての札所を巡り終わって、最後の札所を打つこと。「けつがん」とも読む。
四国八十八箇所の第八十八番札所大窪寺は「結願所」といわれる。
また、最初の寺を打つことを「発願」という。
お礼参り(おれいまいり)
遍路には「お礼参り」という習わしがある。満願の後、無事に巡拝できたことの報告とお礼のために、打ち始めの札所へ参拝する。四国遍路では、さらに弘法大師の入定地である高野山奥ノ院に参拝することが多い。

参照:週間四国八十八ヵ所遍路の旅 講談社、他