冬の時代を撃つ 愛のロック・ミュージカル

冬のシンガポール

W I N T E R  I N  S I N G A P O R E


7/17(土)17:3018(日)14:00/18:0019(祝)12:30/15:30アトリエ・フォンテーヌ

YOKOHAMA KID BROTHERS

 

今回の公演にも、恭兵さんから花束とメッセージが届けられていた。
「僕にとっては THEATRE365 あの情熱の魂の空間〜(中略)〜大切な僕の作品だから どんなに時が流れても・・・」素晴らしいコメントだった。
どの回も大入満員。関係ないが、気のせいかアトリエ・フォンテーヌは来る度に狭くなっているような気がする・・・
観客が席に着く間の幕前、バーでマスターと客が会話している(もちろん口上の演出)。おしゃれな大人っぽいムードでいい感じ。
幕が開く。前回の「キッチン」のとき同様、スクリーンに東さんの映像が流れる。さあ、始まる。いきなり、KIDでは見られない感じの振り付けのダンス。
少女がやってくる。「シンガポールというバーはここでしょうか?」。少女は23年前の両親の思い出を訪ねて来た。父の名前は藤枝竜也だという。この名前は・・・
そして、時は遡り、バー「シンガポール」。リーゼントの隆之をはじめ、店員のヒロシ、ミチル、ケイコ、道代などがいる。
そうか、さっきのシーンは現代。今回のシンガポールは、劇中劇になっているのか。
冒頭のしのぶと竜也のシーン。やはりここからは当時と一緒の展開だ。サラリーマンが店に入ってきて、外が大雪であることを告げる。冬を憂い嘆く歌「LONG WINTER」。これが1曲目。
このあと老人が入ってくる。ホリベンさんだ。スリムのホリベンさんしか見たことがない私には、今回の老人役の動きのない冷静な言い回しがとても楽しみである。
続いてストリッパーが店に入ってくる。どうしても国谷さんのイメージとのギャップがあるが、当時のセリフと雰囲気を尊重して上手に演じている。
続いて「センチメンタル・シティボーイ」が流れる。飯山さんと金井さんの軽快なデュエットだ。この歌も懐かしさを感じる。
しのぶと竜也が店に入ってくる。竜也が入るなり馴れ馴れしいケイコに平手打ちを打って、会場に笑いが起こる。注文を取りにくるミチルも竜也に顔をくっつけてくるが、「近いんですけど」とつっこむ。
このあたり小松さんは、クールな竜也役を演じていた恭兵さんとそっくりである。二枚目な役の中に、笑いが起きるような小さな動きが入る。
ちなみに当時は、しのぶと別れ話を始めたところにお冷を持ってくるミチルに、「水を差すなよ」と言っていた。これも面白かった。変な客たちの言動に、冷ややかな目を送っている竜也。このあたりもカッコイイ。
思い出話を続けるしのぶと竜也。別れを決めたアベックは必ず過去の楽しい思い出を振り返る。そのときの辛さは絶望的といってよい。
「そう、全部、まるで一切の過去が僕たちが出会う日のための出来事だったかのように」のセリフを合図に、「時の魔法」のイントロが流れる。

この幸せ感!ただでさえ大好きな曲が、レコードで聞いてもジーンとくる曲が、正しい劇中の流れの中で聴けるのである。この感動は計り知れない。
隆之が竜也に言う。「夏の日のスポーツを、バスケットボールをしないか」
ここでいきなり暗転し、スクリーンに映画やテレビドラマが流れる。ホリベンさんと小松さんの共演シーンの紹介だ。
テレビドラマは「勝手にしやがれ!ヘイ ブラザー」で、恭兵さんとホリベンさん、小松さんが絡んでいる。客席も、わかっている人は歓声を上げている。
スクリーンが終わり、ホリベンさんと小松さんが登場。サングラスに黒のスーツを身に着ける。2人はスリムの有名曲「ロックンロール・パープー」を歌う。
スリムを観ていた人は聴いたことがあると思う。サービスコーナーだ。そういえば当時のシンガポールは、ここで男女の対決コーナーに入る。
KIDの芝居では必ずあるコーナーだが、シンガポールの男女対決は、「二月の旅人」「影郎」「WHITE DREAM」と3曲続く。とくに「影郎」は男性全員がリーゼントにサングラスで力強く歌うコーラス。
そう、シンガポールはロック・ミュージカルだ。その意味で、ベンさんと小松さんのこのスリムのコーナーは、「影郎」へのオマージュにもなっているのだろう。
だから、今回唯一リーゼントの隆之の髪型は、当時のシンガポールらしさの象徴であり、KIDファンをホッとさせている。
ただ、「WHITE DREAM」は聴きたかった・・・。男性対女性の掛け合いデュエットは、観ていて壮観で、感動しやすいのだ。
さて、再びしのぶと竜也が思い出を振り返る。蝶を追いかけた記憶。あれは夏の幻想だったのか。「妹よ」が流れる。竜也のソロだ。

この曲も恭兵さんのシングルで聴いてばかりいると、劇中の流れで聴く新鮮さにジーンとくる。
このあとケイコの独白がある。当時北村さんは、「〜なぜその後もっと哀しくなるんですか。哀しくなると涙が出るのはなぜですか。なぜ、なぜあたしは一人なんですか。なぜ、なぜ、なぜそれはなぜですか」
という長ゼリフを言っていた。今回はちょっとアレンジされていたが、この場面のBGMのほうはもしかしたら当時と同じだったかもしれない。
横浜KIDは、前回の「キッチン」のときもそうだが、BGMまで徹底的にKIDの芝居を再現してくれる。感動を求めるにあたって、そのあたりも心強い。
しのぶの妊娠が発覚するシーン。ここでは次回予定作の「メロス」の「序曲」が用いられていた。
大雪で電車もバスもストップし、閉じ込められた客たち。心も閉ざされているようだ。みな、恐ろしい形相をして立ち尽くす・・・

ここで前半終了。「2人のお店」など、何曲か歌はカットされていたが、セリフはほとんど変わらない再現ぶり。やはり「時の魔法」と「妹よ」のシーンがよかった。
シンガポールを忠実に再現しようとすると、どうしても気になるのが当時の時代感との関連性だ。昭和53年、「しらけの時代」とも言われた熱しやすくも冷めやすい若者たち。
シンガポールは、この若者へ向けてメッセージを発信していたと言っても過言ではない。セリフは、現代にも溶け込むだろうか。
そこで顧みるのが、今回小松さんたちがキャッチフレーズにしている「魂の叫び」という言葉である。時代が過ぎても、魂を叫ぶことができる人間は少ない。
ましてやシンガポールの登場人物たちのように、自分の過去をさらけ出す人間は少ないだろう。つまり当時と何ら変わりがない・・・。よかった。ホッとした。
もう1点気になるのが、ストーリー展開である。シンガポールは、まだ全国公演(ストーリーがわかりやすくなった)をしていないTHEATRE365時代の作品である。
個人的には「一つの同じドア」系列の芝居だと思われる。だから、アングラ時代の名残りもあり、登場人物たちのエピソードが並列に叫ばれ進んでいく。
わかりやすい起承転結が見えにくく、極端な言い方をすると、しのぶと竜也が主人公という感じも強くない。
シンガポールを初めて観る人(あるいは前回の「キッチン」(全国公演)を観た人)にとっては、途切れ途切れな感じがして感情移入もしにくいストーリー展開ではないか。そんな心配をしてしまう。

さて、後半が始まる。妊娠とわかったしのぶに対して積極的でない竜也。家庭をもつことが怖いという。母親が気が狂い、兄が自殺したことがトラウマとなっている。
老人が立ち上がる。シンガポールに従軍した話を始める。今回のシンガポールの注目のシーンの一つだ。ホリベンさんの長ゼリフ。
当時こんなにアカデミックなセリフだったかと思うほど、教養が身に付いているような老人の話しぶり。新鮮である。スリムのホリベンさんと比べても新鮮である。
スクリーンに戦争時の映像が流されたということもあったが、それを差っ引いてもカッコイイシーンだ。セリフはまだ続く。今度は失恋の話。その現地で恋をし、自分の目の前で地雷を踏んで亡くなった彼女。
峰さんのときは、乾物屋の娘と別れる辛さを語っていたので多少アレンジされている。
「人は一生のうちで一度だけ、自分に必要な人間に出会う。愛する人がいない人生は空っぽで、わしみたいにそれをアルコールで埋めるしかなくなってしまう」
の名ゼリフのあと、「お酒ください」のイントロが入る。しんみりとした時間が流れる。続けてサラリーマンが立ち上がる。
「生活という言葉があります。お前は生活をしていないと言われたら私は許しません。お前は大した生活をしていないと言われたら、私は同感です」という、これも名ゼリフだ。
ところで、随所に、「黄色いハンカチ」だの八代亜紀の「舟唄」だの藤圭子の「夢は夜ひらく」だののセリフや歌が出てくる。これも当時のままなのだろうか。嬉しい。
次に隆之が語り出す。自分の子どもを孕んだ彼女の姉を殺したという隆之は、その原因を、お前には育てられないから堕ろせと言われたことだと語る。
竜也は、「人はいろんな傷を背負い込んで生きているんだ。あんんただけじゃない。不幸な人たちだけが身を寄り添って生きる。そんな時代なんだよ」と慰める。
今のしのぶと竜也に関係のない話でもない。隆之にとっても、しのぶと竜也が結婚することで自分の過去を現実のものとして受け入れることができる。
このあたりのシーン、BGMにオリーブの「愛そうとして愛せない」が使われている。場面のセリフに忠実なBGMの選択だ。
竜也はしのぶに、君の赤ちゃんを抱いている夢を見たと言う。しかし顔が自分に似ていないことに気づき、抱いている手を離した。下はコンクリートだった。赤ちゃんはトマトみたいに潰れた・・・
その話を聞いてしのぶは、もうおしまいねとつぶやき、店を出ようとする。

竜也は、行くな!と引き留めてから、「寒さに震え、コートを羽織るように、人は日常生活の営みの中に無感動に入ってゆくのか・・・」と、過去と現実を天秤にかけ、苦悩する。
過去の苦悩(冬)を語り始めた客たち。「心が寒い」と、いつまでも現実に前を向けないサラリーマン、老人、竜也・・・
最後にストリッパーが、売れなかった過去、帰れなくなった故郷を思い嘆いて絶叫し、ここでメインコーラス「冬のシンガポール」のイントロが入る。
登場人物全員が絶望的になった瞬間の歌。ここで私は涙が流れてきた。我々観客にも誰にも言えない悲しい過去(冬)がある。このコーラスで、登場人物の生き方が自分の生き方に投影されたのだ。

訴えかけるようなコーラス。苦悩の形相・にらみが我々観客に真剣に訴えかけている。そう、KIDのコーラスには、にらみが不可欠なのだ。
隆之は、冬に震えているままの竜也に言う。「もうあんたは、酔っぱらって空騒ぎするバカもしない。怒りってもんがねえ。破滅に向かう絶望もない。他人に無性に話し掛けてみたくなるという心の淋しさもない」
そう言って竜也に殴り掛かる。そして、竜也が殴り合えたことで、天井から陽が差してくる・・・
立ち上がり、竜也はしのぶに、夏の日のスポーツ、バスケットボールのゴールが成功したら、結婚しようと告げる。
そして、しのぶのシュートがゴールに入り、ラストコーラス「僕等の四季」だ。
♪そうなんだ、僕等には絶望を語って、時を過ごすゆとりなど許されていない。台風の兆しに優しさの羽をついばむ鳥に似て。
春はいつも冬のまぶたの下で、おののきいじけて過ぎた。だから夏の爆発にカモシカたちは挫折していく。
時代を予感しないことだけが幸せへの道なら、僕等にとって春は錆びついた季節かもしれない。

再び現代に戻る。シンガポールというバーは今はライブハウスになっているらしい。
竜也の娘は、そこで竜也に似た歌手SINに会う。その歌は「鼓動」
今回「LET'S MAKE SHINING SUMMER」の代わりに小松さんが歌うアンコール曲だ。

過去を振り返ることもいいが、(冬)に脅えていつまでも生きてはいけない。愛や夢に向かって戦おう。
難しいことだが、東さんもSINも、そう言いたいのだろう。時代にかかわらず・・・
(了)

YOKOHAMA KID BROTHERS



今回、再び六本木でホール・ライブをする事に『縁』を感じます。
銀座、新橋、六本木⇒繁華街⇒80's時代を築いたpowerの街⇒サラリーマンの街=大人の街⇒
中途半端なやんちゃな背伸び若者が憧れ集まった街⇒街は存続する為に姿形を変貌しながら昔を
尊重しながら、今を確立している。
果して人間はどうだろうか?
古きを排除し…。 だからとて新しい人間のpowerも萎えている。
己のルーツをこの『魂』が泣いている時だからこそ見積めるべきであると僕は感じる。

『ルーツ』=『家族』

まずは、今の世代に親=家族を守って来た人間の人生(いきざま)を知るべきだと感じます。
子と親の関係が希薄な現在だから…。
若い親の世代も愛に対して鈍感になりつつあると考えます。
そして『命』に対しても…。
若い世代に親の世代の青春を知って頂き、時代は変わっても悩み生きる事の葛藤は一緒である事を……。
感じて欲しい。

「温故知新」

親の背中を見て愛を理解してもらいたい。
そして、自分も愛を溢れさせて生きて行きたい。
輝いて『今』を生きる『今』を楽しむ。
だって折角、産まれてきたんだから……
自分は独りで育って来た分けではない…
身体の中には、親の愛が流れている。
温かくやわらかな『血』が…。
何があっても産んでくれた『命(あい)』が
育ててくれた『命(あい)』が
分かって欲しいとは思いません。
感じて欲しい…。そして あなたの躰の中で生きようと必死で叫んでいる『鼓動』を聴いて欲しい…。
どんな時代も自分の居場所を求める孤独な鼓動はあります。
僕も同じです。
でも 自分が自分らしく僕が僕らしく輝くにはまずは、自分から何かを始めなければと考えます。
人間が誰でも、抱えている孤独感や、やり場の無い憤りや、無力な自分への挫折感
でも
君は独りじゃない!!
耳を澄まして聴いてごらん心の音を……。
そこには
あなたを誰よりも愛している
温かく優しい『命』が
あるから…。

【冬のシンガポール】

僕は
感じて欲しい
今、再び僕等が
『命叫(あい)』の為に戦うという事を…。
あなたのたったひとつの
観客席、
そう『心』で…。

小松 伸

 
横浜キッドブラザース「冬のシンガポール」ちらし(PDFファイル)

 
 
 
  冬のシンガポール

「冬のシンガポール」は、1978年、THEATRE365での第二作目として上演され、翌年のぴあ誌「もあテン」第1位に輝きました
(「もあテン」とは、過去の演劇作品の中でもう一度観てみたいと思われるベストテンのこと)
ちなみに、「ぴあテン」(昨年度のベストテン)の1位もKIDの「失なわれた藍の色」でした。
その「もあテン」のおかげで、1980年、「シンガポール」は新宿コマで再演されました。
この再演は、結果的に、三浦さんの最後の公演となり、
今回上演されると、そのキャスティング以来ちょうど30年ぶりになります(本演からだと32年ぶり)。
横浜キッドブラザースは、1987年に大塚ジェラスにて「シンガポール」を上演
したがって、実質、東さんの「シンガポール」を観られるのは、それ以来つまり23年ぶりで、
今回再び上演する運びになったのも、同じ横浜キッドブラザースなのです。
ENDLESS KID.の「KID好きな芝居アンケート」(2001〜4年;回答数200名)でも、「キッチン」に次ぐ第2位となった人気のある作品です。
KIDファン、とくに三浦さんやアリスさんを生で観られていたファンの方々、
また、今回は元KIDのホリベンさんが共演、峰さんが演じていた老人役をされることが予想され、
365以前のファンの方々も、懐かしむチャンスであると思われます。
さらに、78年当時「シンガポール」の楽曲を作った加治木剛さんも、今回再び参加されています。
繰り返しますが、たしかに東京キッドブラザースの公演ではありません。
しかし、「冬のシンガポール」が観られるという事実。東さんの作品に触れて感動が甦るという事実。
これが、何より嬉しく、いちばん大事なことなのではないでしょうか。

文責 イリちゃん(ENDLESS KIDBROS.)

 

横浜キッドブラザース
ENDLESS KIDBROS.

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