アラビアンナイトは眠らない 〜前編〜

 

 ケニア航空310便は、ほぼ定刻通りにナイロビを発った。ドバイまでは5時間10分の空の旅である。

 離陸して1時間ほど経つと機内サービスが始まり、機内食が配られる。それを食べてお腹が満たされると、時間的に眠気が催すはず…だが、気持ちが昂ぶっているのか目はランランと輝き、一向に眠くならない。まぁ、いいでしょう、ドバイに着いたらホテルが手配されており、次の便の出発まで丸々24時間の滞在はゆっくり出来るはずだから、そこでゆっくりすればいい。そう開き直り、そしてケニアでの楽しい旅の想い出の余韻に浸りつつ、見るともなしに目の前のスクリーンで上映されている映画を見て過ごす。周りでは、灯りが落とされ暗くなると眠ってしまう人が多かったが、結局私は一睡も出来ないままドバイに着いた。

 着陸に向けて機体が降下し始めると、窓の外に無数のオレンジ色の灯りが広がっているのが目に入る。日付が変わった24日1:20ドバイ到着。

 それにしても真夜中だというのに、ドバイの空港内は明るく、昼間と変わらないのではないのかと思う位、大勢の旅人が行き交っている。各所に設けられた離発着案内のモニターには夜中の3時過ぎまでの出発案内がズラリと並び、夜も眠らない空港のようだ。
 そして、さすがお金持ちの国(?)アラブ首長国連邦の国際空港。広くてキレイで近代的だし、絢爛豪華なシャンデリアが頭上を飾り、なぜか金の延べ棒で作られたヤシの木もある。(もちろん模造品だけど)こんな時間でも免税店やレストランは日中と同じように営業している。免税店にはブランド品が溢れ、ショッピングゾーンの一角には新車が展示してあった。

 しかし、離発着の案内を知らせるモニター画面や看板などに書かれたグルグルのアラビア文字を目にしたり、赤や白の長い布をかぶり、ディスタージャと呼ばれる白く長いワンピースを着た男性や、アバヤと呼ばれる黒いワンピースで顔以外は隠している女性に会うと、あぁアラビアンナイトの国に来たのだな〜という実感がふつふつと湧いてくる。
 でも、セキュリティチェックなど要所要所にいるカーキ色の軍服に黒いブーツ姿の軍人さん(単なる警備員さん?)は、なぜかサダム・フセイン大統領を連想してしまい、ちと怖かったけど。(ここはUAE、フセインさんはイラクですね。警備員さん、怖がってごめんなさい〜!)

 こんな時間でも長い行列が出来ている入国審査を通り、機内預け荷物にしたカバンを受け取るためターンテーブルの所に行く。ここではナイロビでのロスト・バゲージの記憶が甦り、カバンが出てくるまでドキドキする。(ケニア航空自体を信用していないわけではないが、機内預け荷物に関しては神経質になっていた)…が、程なくカバンが出てきて、
ホッと胸を撫で下ろす。

 税関を通り、両替所でUAE通貨の“ディルハイム”に両替してから、空港出口に向かう。

 出発前の旅行会社の案内では、空港出口を出た所に現地係員が待っている…とのことであったが、出てみてビックリ!夜中の2時前だというのに、『Mr〇〇』とか『Ms〇〇』、あるいはホテルやツアー会社の名前を書いた紙を持った出迎えの人がズラリと並んでいたのだ。
 ゆうに30メートル位は続いている人垣の中の中から、自分を出迎えに来た係員さんと出会えるのだろうか?と思うが、とりあえず動いて探してみることにする。自分のツアー会社のバッジが目立つように胸につけ、紙に注意しながら人垣の前をゆっくり2往復するが、見つけてもらうことも見つけることも出来ない。
 やれやれ、もう1往復してみるか…と思った時、ようやく現地係員さんに見つけてもらえた。

 側の駐車場に停めてある車に案内され、リビエラホテルへと向かう。

 車の中で渡された紙に目を通すと、ドバイ滞在に関する案内と共に、翌日出発までの自由行動における観光モデルコースが書かれていた。その中の『デザート(砂漠)サファリ』について目が引き寄せられる…。
 旅立つ前、ケニアに関する情報収集は念入りに行ったが、ドバイに関してはそれほど関心がなかったため、あまり詳しいことを知っているとは言えなかった。デザートサファリがあることは知っていたが、心はケニアの方に奪われていたため、おおいに関心があるというわけでなかった。ところが、出発の数日前になって、ムツゴロウ動物王国の石川さんが主催されているHPの掲示板で、同じUAEはアブダビ在住の方が、生まれたばかりの子ラクダが立ち上がろうとしている場面に出会ったこととその写真を投稿されているものを読んだ。さらに、その方のHPに行って広大な砂漠の風景写真を目にして、一気に惹きつけられるものを感じたのである。
 …なので、ここまで来たらデザートサファリに行くしかない!と思っていたのだ。(すごく短絡的な発想・笑)

 デザートサファリはお一人様260ディルハイム(1ディルハイム=約35円)で15:30頃ホテル出発、21:30頃ホテル帰着で、砂漠サファリドライブやラクダ乗り体験、アラビックウェエルカムコーヒー、BBQディナー、水タバコ、ベリーダンスショー体験などが出来ると書かれている。
 翌25日1:15発の飛行機で帰国するために、ホテルに現地係員の方が迎えに来てくれるのが22:00だったので、ぎりぎり行けないこともない。案内書の最後には、デザートサファリ希望者は、ツアー会社の現地日本人担当者に問い合わせするよう書かれていたので、朝になったら連絡してみようと決めた。

 さすがにこの時間、街の中は静まり返っているが、夜だというのに街灯で明るい道を10分くらい走って、運河沿いにあるリビエラホテルに到着する。

 チェックインの手続きをしていると、欧米系男性コンシェルジュが、「デザートサファリは予約しているのか?素晴らしいから、ぜひ行くべきだ」と話し掛けてくる。
 私は、朝になったらツアー会社に連絡すると答えると、今ここで予約しなさいと言われる。?と思って怪訝な顔をすると、彼は側にあったツアー会社(勿論、私が連絡しようと思っていたツアー会社のもの)の観光案内パンフレットを見せ、ホテルとツアー会社が提携しているので、今ここで予約するのもツアー会社に直接連絡するのも同じだと説明してくれる。もちろん、料金も同じ260ディルハイムだと。
 私は、サファリ終了時間とホテルに迎えが来る時間の間に余裕がないのが気になっていたので確認すると、大丈夫、間に合うとのことだったので、それなら…と、ここで260ディルハイムを払って予約した。(この前払いが、後でちょっとしたゴタゴタになりかけるのだけど)

 部屋に着くと、もう3時近くになっていた。ケニア時間なら午前2時前、朝起きたのが午前5時で、一睡もせず21時間も過ごしてきた事になるが、気持ちが昂ぶったままで目が冴え渡り、ちっとも眠くなかった。
 テレビをつけると、真夜中だというのにいくつものチャンネルでは番組が流されており、その中に現地駐在日本人向けのものだろう、NHKなど日本の番組を放送しているチャンネルを見つける。日本のリアルタイムの放送から1時間ほど遅れて録画放送している日本のニュースを見るが、懐かしい気持ちとなんだか遠い異国の出来事のように感じる気持ちが半々だった。
 眠れないまま、ケニアの余韻に浸りつつお風呂に入って、洗濯して過ごす。バスタブのあるお風呂はナイロビ初日のパナフリックホテル以来だったし、ドライヤーがあるホテルはこの旅初めてで、さすがドバイ(?)と訳もなく感動す
る。

 明るくなってきた6時頃よりやっとウトリウトリと眠り始め、気がついた時には午前11時をまわっていた。