風の歌に想いを乗せて・・・
朝からの雨がまだ降り続いていた。
夏の終わりを告げるような、冷たく、静かな雨。
私は傘も差さずに立ち尽くしていた。
・・・傘はどうしたんだろう?今日は朝から雨だったからちゃんと持って家を出たのに。
それに学園を出る時もちゃんと・・・そう、今は家に帰る途中なんだ。
でも、鞄もない・・・どうして・・・
それよりも早く傘を捜さないと、このままじゃ、風邪をひいてしまう。こんな冷たい・・・
・・・冷たい、雨?・・・違う気がする。生温いような・・・あまり濡れてる感じがしない。
いや、実際に濡れていないんだ。制服も、長い髪も、雨に濡れる事無く、さらさらに乾いている。
でも、どうして?雨は今もまだ降り続いているのに。
それなのに、全く身体に雨粒が当たらない?・・・というより、当たってもそのまますりぬけているような・・・
なんだろう?妙な感覚。何気なく辺りを見回す。
いつもの道。いつも学園への行き帰りに通る交差点。でも今日は何かが違っているような気がする。
少し離れた場所に私の傘が転がっていた。その先には鞄もあった。
やっぱりちゃんと持ってきていたんだ。
そんな事を考え、ふと気付いた。
道路に転がっている私の傘。その傍に・・・女の子。
黒くて長い髪が綺麗な女の子。・・・凛ちゃんだった。
凛ちゃんは、傘も鞄も投げ出して、スカートが濡れるのも構わず道路に座り込んでいた。
その綺麗な黒髪もすっかり濡れてしまっている。
そしてその腕に何かを抱きかかえて、じっと動かない。
凛ちゃん・・・どうしたんだろう。
そっと、近づいて、気付いた。
震えていた、凛ちゃんのその小さな背中が、肩が・・・
・・・泣いているの?
たまらなくなって声をかけた・・・
『凛ちゃん、どうしたの?泣いてるの?』
それでも、凛ちゃんは聞こえていないのか、何も反応しない。ただ震えている。
『ねぇ、凛ちゃん、そんな事してたら風邪ひいちゃうよ。帰ろう・・・』
私も同じような物なのだったけど、今はただ、凛ちゃんの事が心配だった。
再び声をかけても、凛ちゃんは動こうとしない。やっぱり聞こえていないのかな。
私は凛ちゃんの肩に手を伸ばし、触れる直前で止まった。触れてはいけないような気がした。
同時に、凛ちゃんが抱きかかえているものに気づいた。凛ちゃんの足元に横たわる人影。
・・・女の子、だった。
凛ちゃんと同じ制服を着た、凛ちゃんによく似た女の子。
――― それは、私。
どうして!?何で私がそこに倒れているの!?私はココにいるのに!?
ひどく混乱した。それはそうだ。ここに立っている筈の自分が目の前に倒れているんだ。
倒れている自分は、全く動かない。制服はひどく汚れて、擦り切れている部分さえある。
そして、私を抱きかかえた凛ちゃんの制服を赤く染めているのは・・・・・・血?
なにがあったのだろう わたしはどうなっているの なぜりんちゃんがないているの?
「結衣ちゃん、結衣ちゃん・・・うぅ、結衣ちゃん起きてよぅ・・・・・」
もうまともに考える事さえ出来なくなっていた私に凛ちゃんの声が聞こえてきた。
「結衣ちゃん・・・・・・結衣ちゃん・・・・・」
泣きながらひたすらに私を呼ぶ声。
その声は震えて、弱々しかった。もしかしたらずっと呼び続けていてくれたのかも知れない。
その声は不思議と私を落ち着かせた。
そして――――、
(あぁ、そうだ・・・)
不意に、気づいた。何があったのか、自分がどうなってしまったのかを。