トート・タロット図解


1 アテユ

 トート・タロットでは通常「大アルカナ」と呼ばれる切り札をアテュと呼称する。古代エジプト語で館、小室、区を意味する。また、切り札を意味するトランプ・カードとも呼ばれる。

 アテュは全て生命の樹のケテル(王冠)に帰属すると共に、一枚一枚が生命の樹のセフィラーを結ぶ二十二本の小径(Path)に配置され、二十二文字のヘブライ語アルファベット、アレフベートに対応している。ケテルに帰属するアテュは第五元素としての「空」の性質を持つが、占星学対応によって四大エレメントに対応する。

 0番の「愚者」から、21番の「宇宙」までの行程はフールズ・ジャーニー、愚者の旅と呼ばれ、「大いなる業」を達人(アデプト)の域まで高める階梯を表す。

 トート・タロットの大アルカナ(アテュ)には、トラディショナルなデッキから変更された名称、また大胆に変更されたシンボルの意匠が数多く存在する。それらの変更はクロウリーのテレマ思想と、『法の書』の精神、また「ホルスのアイオーン」の新たなるタロットとしての立脚点となっている。

 実占においてアテュの力はスモール・カードよりも遙かに強く、また大きな意味合いを持つ物である。アテュのカードの外枠に記されたTRUMPSという言葉は「切り札」を意味しており、スモール・カードやコート・カードの配置を時には粉砕してしまう。

 トート・タロットを学ぶ者は、『トートの書』に記された意匠の意味を繰り返し読み、また実占を通じて深く理解していかねばならない。


 トート・タロットを含むGD魔術系のタロットは占断において正位置逆位置を採用しないが、隣接するカードの品位によって意味が弱められたりネガティブになる。各カードの意味する事についてはポジティブな面とネガティブな面を並記してある。

0 The fool フール 愚者

Hebrew letter א アレフ 牛 1
Astrology 風(空・天王星)
Path ケテル=コクマー
Element 風
Secret name エーテルの精霊

【カードの意味】自由
 Positive 自由 自発性 霊的な上昇 潜在力 可能性 純粋さ 確立されていない自我
 Negative 奇行 愚行 狂気 無責任 未成熟



 「愚者」のカードに描き込まれた象徴はあまりにも多く多岐にわたっている。「愚者」はタロットという体系において、大アルカナのみならず全てのカードを象徴する始まりであり終わりである。

 角の生えた人物はクロウリーもマンガラ・ビルソンも共にバッカス、ディオニソスであると言っている。彼はバッカスであると同時にゼウスでもありバフォメットでもある。角とブドウが彼がバッカスである事を示している。

 春を表す緑の衣をまとっているがその肌は黄金色である。頭頂には男根のシンボルであるリンガムが有り、右手にはクリスタルの角錐が付いたワンドを持ち、左手には燃えさかる松かさを持っている。彼の足は宙に浮いていて、地に足を着けてはいない。

 心臓から伸びた葡萄の蔓(マンガラ・ビルソンによれば臍の緒)が、四重に彼を取り巻いているが、そこには様々な象徴がある。ウェヌスの鳩、ハゲワシ、蝶と双子の蛇のからみついた翼のある球体があり、中央の螺旋に抱きついた双子の童子によって響き合い、強められている。童子の上には一にして三の花がある。下腹部のチャクラは太陽の輝きを放っている。

 左足には恐怖のシンボルである虎がじゃれついているが、愚者はそれに取り合っていないので、何のパワーも与えていない。ワニは死と誕生、創造と破壊の両方のシンボルである。

 愚者の札はケテルからコクマーへのパスに配置されるが、むしろ、ケテルの流出が始まる以前のアイン、アイン・ソフ、アイン・ソフ・アウル(無、無限、無限光)の彼方から舞い降りたエーテルの精霊である。占星学上の風(近代占星術では天王星だが、天王星は水瓶座のルーラーなのでやはり風である)に関連づけられているが、その実体は空(エーテル)である。しかるにエレメントの悪品位を受けにくい。

 愚者は完全な無垢と自由を体現する。それは自由を謳歌する事、束縛から離れる事と同時に神聖な愚行も意味する。彼にはあらゆる可能性があり、タロットという象徴体系を旅するフールズ・ジャーニーへと旅立つが、奥義を究めた後は再び全てを捨ててゼロに帰る。無は即ち無限なのである。


I The Magus メイガス 魔導師

Hebrew letter  ב ベス 家 2
Astrology 水星
Path ケテル=ビナー
Element 風・地
Secret name 力の賢者

【カードの意味】行為とコミュニケーション
 Positive 知性 コミュニケーション 器用さ オカルトについての知識とスキル メッセージ 
 Negative 詐欺 窃盗 ペテン 



 Magus、メイガスはMagicianと同様に魔術師のことを表すが、賢者の単数形でもあり、ゴールデン・ドーンのサード・オーダーでは上から二番目にあたる位階に与えられる尊称でもある。即ち、この魔術師、賢者は熟練した達人であって、ウェイト版に見られるようなニオファイト、初参入者ではない。故にMagicianである魔術師とは区別する意味で本稿では魔導師と呼称する。

 この魔導師はローマの神、メルクリウスである。ギリシアではヘルメスであり、魔導師のカードは水星の属性を持つ。ヘルメス・トリスメギストスとすとして偉大な錬金術師とも重ねられる。水星のパワーによって、魔導師の札は優れた知性とコミュニケーション能力を象徴する。

 魔導師は首領達人のワンド(カドゥケスの杖)を支えとして、絶妙のバランスを持って濃い青の空、あるいは宇宙を背にして立っている。周囲にあるのは達人のフォースによって浮かべられた、ワンド、ダガー、カップ、ディスクといった魔術的四大武器と、パピルスとペン、大達人のフェニックス・ワンドと翼の生えたタマゴがある。有翼のタマゴは、更なる高い次元の誕生の象徴である。

 魔導師自身は黄金色に輝いている。背後の宇宙に放たれた光芒は彼自身から発せられた物だ。頭上には蛇の絡みついたカドゥ-ケウスの杖があり、これはヘルメスの翼の杖でありG∴D∴系魔術結社の首領達人のワンドである。下方にいるのはハヌマーンで、これもやはり弁舌を象徴しているがそれはメルクリウスの影に過ぎないとも言われるが、エジプトのトート神は朱鷺の頭を持った神として描かれる事が多いが、狒々の姿で顕現する事もあるので、ヘルメスである魔導師と共に知識の神を象徴する。

 第一に、彼は言葉であり知恵である。そして巧みなスキルに優れている。品位が悪いと、これはペテン師や詐欺という側面を表す事になる。古典的なタロットでは、魔術師は街頭の手品師、香具師であり、ある種のペテンを行う者であった。魔導師の札がネガティブに働く場合は、隣接するカードが凶事を表すときに限られる。

 何故なら、水星は風相星座である双子座と、地相星座である乙女座の両方のルーラーであるので、風と地の相克による悪品位を中和できると考えられる。魔導師のカードのネガティブな面が発動するのは、他のポジションの凶の卦の原因として推論する場合に適用される。

 魔導師の位置するパスはケテルからビナーへの流出である。

II The Priestes プリーステス 女司祭

Hebrew letter  ג ギメル 駱駝 3
Astrology 月
Path ケテル=ティファレト
Element 水
Secret name 銀の星の女司祭

【カードの意味】感受性
 Positive 純粋 直観 処女性 サイキック・パワー 瞑想 殻を破る 秘教的な知恵 音楽や芸術の才能
 Negative 情熱に流される 頑固 ディスコミュニケーション


 このカードに描かれた女司祭は古典的タロットに描かれていた女教皇ではない。異教の女司祭であり、秘教の祭司である。女司祭のカードは何よりも月を象徴し、ここに描かれているのはアルテミスでありイシスである。永遠の処女である彼女は光のベールだけをまとっているが、それでもベールを被ったイシスである。

 魔導師の札が活発なコミュニケーションを意味していたとすれば、女司祭の札は閉じられた瞑想的な秘教の知恵を表す。月のシンボルによって、彼女は直観や霊感に優れてはいるが、その霊感は秘教の知識に裏打ちされている。女司祭の札が配置されるパスはケテルからティファレトに向かうパスであり、ケテルからの第三の流出であると同時に、ティファレトの位階に達した達人達を一気にケテルまでのぼらせる径でもある。そしてその径の背後には知識を意味する隠されたセフィラー、ダートがある。故に女司祭は直観や霊感だけでなく知識をも象徴するのである。

 彼女の上半身は天空からの啓示を受け取るアンテナのように開かれており、下半身はどっしりしていて、受け取った啓示を更に下方に向かって流出させる光の流れを作っている。膝の上には猟師でもあるアルテミスの弓が置かれていて、この弓は同時に楽器でもある。しかるに女司祭の札は音楽やその他の芸術への理解、才能を示す事もある。

 カードの前面にある種の鞘や果実、花は啓示の現実的な顕現を示し、クリスタルはそれらの知的な結晶である。対応するヘブライ文字ギメルの意味するところは駱駝であり、カードに描かれた駱駝は受け取った啓示を砂漠の大海を押し渡って運ぶ船である。女司祭の受けた啓示は秘教的な秘密の伝授に関わるので、品位が悪いとディスコミュニケーションや孤独を意味する場合がある。また象徴する月の満ち欠けと同様、感情に流されやすい側面もある。

 月に帰属する女司祭のカードは、月が支配星となる蟹座の影響で水のエレメントに対応する。而るに火のエレメントを持つカードとは相克の関係になって品格が悪くなる。

 クロウリーによればこのカードは完全に女性的であり、処女性を持つ事を熟考することが肝要であると『トートの書』に記されている。

III The Empress エンプレス 女帝

Hebrew letter  ד ダレス 扉 4
Astrology 金星
Path コクマー=ビナー
Element 風・地
Secret name 万能の主の娘

【カードの意味】慈悲
 Positive 愛 美 幸福 豊饒 快楽 成功 多産 共感 同情 気遣い 脇役としての成功 母性
 Negative 放蕩 浪費 不活発 怠惰 官能主義


 女帝のカードはヘブライ文字のダレスに対応する。その意味するところは扉であって、彼女は達人にとっての天への扉である。また、ダレスはコクマーとビナーを繋ぐ径であり、コクマーには全てのナイト(伝統的タロットではキング)、ビナーには全てのクイーンが対応するので、ダレスは父と母、夫と妻を繋ぐ径である。

 彼女は錬金術の塩を意味する姿で座っている。玉座の背もたれは青い炎にも見える。マンガラ・ビルソンは彼女は地母神であるデメテルであり、同時にウェヌスでもあると言っている。古典的カードから女帝は大地の豊壌と母性を表すので、女帝をデメテルとみなすのは自然であるし、また、女帝のカードは金星に対応するからウェヌスである事もまた頷ける。

 またクロウリーによれば、彼女はイシスであり尚かつネフティスである。エジプト神格において、この二柱の女神は姉妹である。女司祭がベールを纏ったイシスであるのに対して、女帝はベールを脱いだイシスであって、処女性ではなく母性と官能を象徴する。

 右手に持ったブルー・ロータスは受動のしるしである、彼女の母性を示している。衣にはミツバチが描かれ、黄道十二宮のベルトを締めている。足下のタペストリーにはアイリスの花と魚が刺繍されている。

 また、この女帝のカードには多くの鳥が描かれる。雀は感受性を、鳩はおおらかに生と向き合う事を示し、自分の血を餌としてヒナに与えているペリカンは母性その物を表す。盾に描かれているのは錬金術の白鷲であり、次の皇帝のカードと対比する必要がある。

 女司祭が直観と知識を武器としていたとすれば、女帝の武器は感情と情緒であり、母性的な愛である。クロウリーによれば、このカードは細部に囚われず、全体を見渡さなければならないとされている。

 金星は地相星座である牡牛座と風相星座である天秤座、二つの支配星であるので、女帝のカードは風と地の相克による悪品位を中和することが出来るが、地母神を表す女帝はどちらかと言えば地に傾きがちである。スモール・カードの相克は中和されるが、風のアテュである『調整』の中立さは情に傾き、『星』の恵みは浪費となる場合がある。ただし、決定的な悪品位となる訳ではないので、設問や他のカードとの関連で慎重に読み解くべきである。

IV The Emperor エンペラー 皇帝

Hebrew letter צ ツァダイ 釣針 90, 900
Astrology 牡羊座
Path コクマー=ティファレト
Element 火
Secret name 暁の子・万能主の首領

【カードの意味】責任
 Positive 責任 権威 父性 支配 短期決戦による勝利 征服 野望
 Negative 過剰なプライド 誇大妄想 事が長引くと失敗する 傲慢 抑圧


 皇帝の札はヘブライ文字のツァダイに関連し、牡羊座に関連する。ヘブライ文字の対応は守護天使エイワスからの啓示を受けて書かれたクロウリーの『法の書』の一説、「ツァダイは星に非ず」に起因して、従来の皇帝のカードの関連であったヘーを星のカードと入れ替えた物である。

 皇帝の札は冠をいただき、礼服を身につけ、王尺を手に玉座に座る男性を描いている。玉座の柱頭はヒマラヤの野生の山羊の頭である。足下にはうずくまっている子羊と旗がある。アリエスは野生の動物で孤高を愛する習癖があるが、飼い慣らされると臆病になり群れ集う性格がある。これは統治の論理である。また牡羊座はリーダーシップのサインである。

 皇帝のカードは錬金術的には、水銀の女司祭、塩の女帝と共に、硫黄を表す札となる。彼は頭と両腕で、上の方に三角形を作り、下の方では組んだ足が十字を表す。それは錬金術の硫黄の象徴である。硫黄は男性的なエネルギーなのだ。女帝の母性に対して皇帝は男性性と父性を表す。

 更に重要な象徴は盾に描かれた、真紅の円盤を頭上に戴く赤い双頭の鷲である。赤い色合いは錬金術では金を表す。女帝の白鷲が銀を表す物だった事と対照的である。

 クロウリーは皇帝の背後から頭上に降り注ぐ白い光が生命の樹におけるこのカードの一に注目すべきだと『トートの書』に書いている。クロウリーによれば、それはコクマー(創造の叡智)に由来し、ティファレトの組織された人間に及ぶとされている。だが、コクマーとティファレトを繋ぐ径はヘーの小径であるので、ヘーとツァダイの交換は無効な物になってしまう。また、皇帝がツァダイに、星がヘーに振られるのなら、皇帝は水瓶座に、星は牡羊座に対応する事になってしまう。

 この矛盾点について、『トートの書』は何も語っていないし、原書、邦訳の双方に記載されている生命の樹の配置では、ネツァクとイエソドを結ぶ径に配置されている。だが、クロウリーはパス(小径)その物を置き換えたのではなく、対応するヘブライ文字のみを入れ替えたのではないかと考えられ、OTOの解釈でもצ(ツァダイ)の文字と校訂のカードは、コクマーとティファレトを結ぶ径に配置されているようだ。(注……この件について、信頼するにたる証言を受けているが、ソースは現段階では明かせない)

 牡羊座は火相星座であり、水のエレメントを持つカードに隣接すると、悪品位にとなって、皇帝の支配や責任感は抑圧や横暴として働く場合がある。『戦車』と隣接すれば破壊的な力となり、『月』に隣接すれば欺瞞に満ちた統治を意味する。

V Hierophant ハイエロファント 神官

Hebrew letter ו ヴァウ 釘 6
Astrology 牡牛座
Path コクマー=ケセド
Element 地
Secret name 永遠なる神の賢者

【カードの意味】理解
 Positive 神聖なる知恵 霊感 目上からの助力 体験的な学び 知識 組織 忍耐 自発的に召喚されたオカルト的能力
 Negative 骨の折れる仕事 自己満足 頑固 保守



 古典的タロットではこのカードは法王、もしくは教皇と呼ばれてきた。伝統的タロットにおいては、そこに描かれいているのはローマ法王であったが、ハイエロファントと名付けられたGD以降のカードを法王、教皇と呼ぶのは間違っている。ハイエロファントは古くはギリシアの神官を意味し、GDにおいては、儀式の先導者の一人に与えられる尊称である。故に、本稿ではハイエロファントを法王とは呼ばずに、日本語版『トートの書』の訳語に従って神官と呼称する。

 神官はヘブライ文字ヴァウの小径に配置され、その意味するところは釘である。カードの上方には出窓を打ちつけるための釘が見えている。また神官のカードは牡牛座に由来し、彼の聖座は雄牛の背と象で出来ている。象もまた牡牛座に帰属するからである。

 神官自身と聖座は万物の合一を表す六芒星を作っており、中心には踊る童子の姿が五芒星を作っている。それは大宇宙と小宇宙の合一である。クロウリーは五芒星の中の童子をホルスであると言っており、マンガラ・ビルソンはそれに加えて神官自身をオシリス、前に立つ女性をイシスだと言っている。イシス、オシリス、ホルスのアイオーン(永劫)はそれぞれ二千年ずつを支配し、現在はホルスのアイオーンである。クロウリー自身は手前の帯剣した女性は新しい時代の緋色の女であり、牡牛座を支配する金星を表すウェヌスだと語っている。神官の尺に付いた三つの輪は、やはりイシスとオシリス、そしてホルスの三つのアイオーンを示す。

 カードの四隅にはケルビムの四聖獣がいる。獅子は獅子座を表す火の番人、雄牛が牡牛座を表す地の番人、人の顔は水瓶座を表す風の番人、鷲は蠍座を表す水の番人である。彼らはカラッポの仮面として描かれていて、形式的な知識の空虚さを物語っているようである。神官の頭の後ろには白い光が花びらとなり、変容の蛇がそれを囲んでいる。

 女司祭の知恵は啓示的で霊感に満ちた物だが、神官の知識は体験的な学びであり、それを多くの人々に分け与える事である。

 牡牛座は地相星座であり、風のエレメントとは相克となって悪品位になるが『魔導師』や『女帝』のアテュと隣接すれば、相克は中和される。


VI The Lovers ラヴァーズ 恋人

Hebrew letter ז ザイン 剣 7
Astrology 双子座
Path ビナー=ティファレト
Element 風
Secret name 神声の子ら・全能主の神託

【カードの意味】愛
 Positive 霊感、直観に心を解放する あらゆる次元と形の愛 教養 魅惑 選択による合一 相反するものの合一、契約 和解 結婚 恋愛の成就
 Negative 子供っぽさ 自己否定 決断力の無さ 上滑りな関係


 恋人のカードはヘブライ文字のザインに対応し、その意味するところは剣である。故にこのカードは剣のアーチによって縁取られた礼拝堂での結婚式を描いている。トート・タロットの恋人は伝統的なマルセイユ・タロットや出自となったゴールデン・ドーンのタロット、またライダー・ウェイト・タロットと言ったオーソドックスなタロットのどれとも違っている。

 恋人のカードには双子座が対応するが、このカードには白人と黒人の双生児が描かれていて、クロウリー自身、このカードに兄弟の副題をつけている。黒い子どもはカインで、白い子どもはアベルである。また上方の裸の女二人はエヴァとリリスである。

 このカードはあらゆる局面における愛を表すが、秘教的な意味合いからすれば、それは錬金術的な統合であり、黒のキングと白のクイーンによる錬金術的結婚である。黒のキングは火を表す槍を持ち、白のクイーンは水のカップを持っている。黒のキングに付き従うのは火を表す獅子座の赤獅子、白のクイーンは水を表す蠍座の白鷲を従えている。黒のキングの服には蛇が刺繍され、白のクイーンの衣にはミツバチの刺繍が施されている。カードの下部には翼のついたオルフェウスの卵がある。これが象徴するのは男女の原理に基づいて生まれる生命の本質である。

 中央のフードを被った人物はアテュIXに現れる隠者と同じであり、同時にアテュIの魔導師、メルクリウスのもう一つの姿である。彼はゴールデン・ドーンの秘教体系でホルスのサインと呼ばれる入場者のサインを送っている。クロウリーによればこれは結婚する黒のキングと白のクイーンへの祝福のサインである。

 恋の矢を放とうとするクピドの図像は古典的なマルセイユ・タロットでは一般的な物だが、錬金術やカバラーにおいては特に重要視されている象徴ではない。恋人のカードの合一はアテュXIVで完結する。このカードは単独で理解する事は難しい。合一の意思は確認されたがまだ合一には至っていない状態である。そして射手座に関係するアテュXIVには射手であるところのクピドの姿はない。

 一般的な占術においては、恋の成就と受け止めても差し支えないであろう。ただ、隣接するカードとの品位を見極める事が将来の見通しとしては肝要である。

 双子座は風相星座であり、このカードは風のエレメントに属する。地のアティユである『神官』と隣接すれば愛への干渉、『隠者』と隣接すれば愛の拒絶、『悪魔』と隣接すれば愛への耽溺を示すことになる。またディスクのカードに対してはその地道さを阻害する。

 ビナーからティファレトへ至るパスは、グレート・マザーの愛と美への加護を表すので、『女帝』のカードとは相性が良い。

IV The Chariotチャリオット 戦車

Hebrew letter ח ケス 柵 8
Astrology 蟹座
Path ビナー=ゲブラー
Element 水
Secret name 水のパワーの子ども・光の支配者

【カードの意味】パワー
 Positive 凱旋 征服 勝利 希望
 Negative 伝統的思想維持への暴力 服従


 戦車のカードはヘブライ文字ケスのパスに割り当てられ、ビナーからゲブラーに到る小径にあり、蟹座に関連づけられている。蟹座は水の活動宮であり、水のエレメントの積極的な面を表す。

 伝統的なマルセイユ・タロットの絵柄では、凱旋する征服者の戦車が描かれていたが、今日のカードの多くはエリファス・レビによって描かれた戦車の図柄の影響を受けている。即ち、戦車を牽くのが馬ではなくスフィンクスに描き改められた事だ。オスワルト・ウィルトのタロウやライダー・ウェイト・タロットでも戦車を牽くのはスフィンクスである。

 このトートではスフィンクスに変わってケルビムの四聖獣が戦車を牽いている。エゼキエル書に現れる四つの生き物だが、古来のケルビムは、ほぼエジプトのスフィンクスと似た姿で描かれていると考えられる。ケルブの頭と胴体はそれぞれに入れ替わっているが、それはパワーを手にする中で起こるエネルギーの入れ替えを表す。

 戦車の御者は琥珀色(マンガラ・ビルソンによれば黄金色)の甲冑を纏って瞑想の姿勢で座っている。甲冑にはアッシャーの星が十個付いており、ゲブラーの色である赤いマントを着けており、戦車の店外は青い。やはりゲブラーの色である真紅の車輪は回転する力を表す。御者はケルビムの手綱を握ってはおらず、指揮をとる必要はない。運行は完全に釣り合っているからである。彼の唯一の役目は聖杯を捧げ持つ事だ。

 聖杯は純粋なアメジストで作られていて中央には血が輝きを放っている。彼は困難な聖杯探索を成し遂げたパーシバルかガラハッドであるかも知れない。冑の眉庇が下げられているのは、彼の顔を見た者は死ぬからであるとクローリーは言う。

 戦車の乗り手は征服者であって世襲制の王ではない。土星の位置するビナーから火星の位置するゲブラーに降りる小径に配置されている戦車のカードは、それが困難を克服しての勝利や栄光である事を示している。

 蟹座は親愛の宮であるが故に、『戦車』の示す戦いは私心に起因しない。火のエレメントを持つアテュとは相克となって破壊的な力が働く場合がある。


VIII Adjustment アジャストメント 調整

Hebrew letter ל ラメド 鞭 30
Astrology 天秤座
Path ゲブラー=ティファレト
Element 風
Secret name 真理の支配者の娘・バランスの保持者

【カードの意味】見守る事
 Positive 公平 公正 調整 バランス 見守る 適正 結婚 満足
 Negative 裁判への出頭 宙に浮いた決断


 伝統的なタロットではこの札は正義と呼ばれている。ゲブラーからティファレトへのパスに配置され、ヘブライ文字はラメド、占星学では天秤座に関連づけられる。そも、有名なウェイト版が、伝統的なマルセイユ・タロットのVIIIとXIの入れ替えを行ったのは、生命の樹を様々な秘教体系の整理ツールとして用いたゴールデン・ドーンの教理によれば、VIIIとXIを入れ替えなければ、剛毅が天秤座に、正義が獅子座に関連づけられてしまうからである。つまり、正義と剛毅の入れ替えはゴールデン・ドーンの秘教体系に基づくのだ。クロウリーはVIIIとXIに加えてIVとXVIIの交換を行った。この照応はトート・タロットとその系列のタロットを特色づける

 クロウリーによれば、調整のカードに描かれているのはエジプトの正義の女神、マアトである。彼女はまた愚者のパートナーでありハーレクインだともクロウリーは述べている。というのも、クロウリーのテレマ思想の根幹となる『法の書』において、ヘブライ語アレフベートのアレフとラメドは最も重要な文字とされているからである。

 彼女は魔導師の剣を手に、爪先立ちで微妙なバランスを保っている。仮面を着け、マアトの駝鳥の羽の冠を被っており、この冠は極めて精巧でかすかな思考の揺らぎでも王冠を揺るがせるに違いないが、その冠からは原因の鎖によって天秤が吊され、その天秤の上ではΑとΩ、アルファとオメガ、始まりと終わりの球体が完全なバランスを保っている。玉座は角錐と球体からなる玉座の前に彼女はおり、半透明のベールを纏っている。

 クロウリーはまた、この女神を満ち足りた女性だと記している。それについて、男根に似た魔導師の剣の柄を握っているからだとも言う。このカードは『法の書』の根幹となる「愛は法なり・意志下の愛こそが」の絵文字である。対立物の均衡を図る事による愛と満足を象徴する。

 天秤座は風相星座であるので、地のエレメントを持ったカードとは相克となって悪品位になる。同じ風のエレメントに属する『恋人』のカードと隣接すれば、法と愛に関連する問題は結婚を表すであろう。また天秤座を支配する金星のカードである『女帝』と隣接すれば、『法の書』の精神をより強く示す。

IX The Hermitハーミット 隠者

Hebrew letter י ヨッド 手 10
Astrology 乙女座
Path ケセド=ティファレト
Element 地
Secret name 光の声の賢者・神の預言者

【カードの意味】独りある事
 Positive 内側からの光 神聖な知恵 思慮分別 用意周到 自分を見つめ直す 沈黙
 Negative 今ある事から退く 引退


 隠者の札はヘブライ文字のヨッドに対応しその意味するところは手である。ヨッドは全ての文字の基礎であり神聖四文字テトラグラマトンの最初の文字であり父の象徴である。父は智慧であり水星の最高の姿であり、全世界の創造者であるロゴスである。水星は乙女座を支配し、この老隠者がアテュIの魔導師メルクリウスのもう一つの姿である。下方から上昇する精子の象徴はやはり創造の象徴である。

 乙女座は地の柔軟宮で完全無欠を求める神経質さを持ち、それ故にこのメルクリウスは自己の内側を見つめて隠者となる。手にしたランプが照らすのは内なる光である。老隠者の視線はオルフェウスの卵に向かっており、創造と乙女座の表す肥沃さ故に隠者の背後には小麦畑がある。隠者に付き従うのはケルベロスであり地獄の番犬である。内面を見て自分の深みを学ぶ事の象徴である。

 手にしたランプから放たれる光芒以外、カードはくすんだ色で満たされているが、それは外の世界に魅力がない事を示している。隠者のマントは彼を懐胎するビナーの色である。このカードで表されるのは「ヨッドは男根であり精子であり手でありロゴスであり処女である」という神秘の全般である。たとえでも言い換えでもなくまさしくその物であるとクロウリーは記している。

 いずれにしても、「隠者」のカードは、一人になって物事を考え直す事、深く内省する事を促すカードであり、「神官」とは別の意味における年長者の導きに従う事を促すカードでもある。

 『生命の樹』の上では、ケセドとティファレトを結ぶ径に割り振られており、対応するヘブライ文字はヨッドである。ヨッドはすべての文字の基本となるもので、この老隠者の根源的な知恵を表す物であろう。慈悲によって美の合一に至るというのが樹の解釈である。

 一見、老隠者に配属された星座が乙女座であることに違和感が怒るかも知れない。しかし、乙女座の持つ勤勉さと神経過敏を考慮すればあながち外れた解釈とは言えない。

 ポジションが悪いと、隠者が独りある事は、世間からの隔絶や引き籠もり、退行的な孤独を表す事になる。地相星座である乙女座に関連するこのカードは、風のエレメントを持つカードとは相克となる。

 好品位の中では、隠者の内省は必ずしも孤独であることを意味しない。ランタンの中の光に光明を見出すべし。

X Fortune フォーチュン 運命

Hebrew letter כ カフ 掌 20, 500
Astrology 木星
Path ケセド=ネツァク
Element 火・水
Secret name 生命力の支配者

【カードの意味】流れと共にある事
 Positive 幸運 運の変わり目 良い変化
 Negative カルマ


 このカードは木星に帰属し、占星学的には「大いなる幸運」を表す。アレフベートではカフに対応し、カフは掌を表す。周知の通り、手相術では掌の線から運勢を読む。七大惑星からの稲妻と三角形の中心から渦巻くエネルギーの中で回り続ける運命の輪は絶えず変化していく宇宙その物を表す。

 車輪の上には三個の像が乗っている。それはギリシアとエジプトの神々で、スフィンクス、ヘルマニュビス、テュフォンであり、ヒンズー教の三貴神、創造のブラフマー、維持のヴィシュヌ、破壊のシヴァでもある。そして錬金術の基本要素である、硫黄、塩、水銀を表す。クロウリーもマンガラ・ビルソンも、それらはヒンズー哲学のグナの概念に対応すると語っている。三つのグナとはサットヴァ、ラジャス、タマスで、サットヴァは平静、智慧、明白、均衡、ラジャスはエネルギー、火、興奮、輝き、不安、タマスは闇、不活性、怠惰、無視、死などを表す。

 ヒンズー哲学のもっしも重要な格言は「グナは循環する」という事であり、このカードはまさにそうした運命の循環、分岐点、転換点などを表す。占星学との関連付けがベネフィックの木星であるという事のみならず、多くの場合、このカードは運命が良い方向に転換する事を示す。何故ならタロットによる鑑定を必要としている質問者は殆どの場合不安や問題を抱えているのであるから、それは良い変化を意味する以外にないのである。

 木星は射手座のルーラーなので火の属性を持つが、古典占星術では、かつては水相星座である魚座のルーラーでもあった。従って、火と水の悪品位を中和できるので、よほど悪いカードに囲まれないかぎりはネガティブな解釈はしないで良い。ただし、周囲が悪品位のカードに囲まれ、事態の好転が望めないと判断されるときは、その運命がカルマに支配される事を示す場合がある。

 樹の中ではケセド(慈悲)からネツァク(勝利)にいたる慈悲の柱の付け根に通じている。ただし、このカードのもたらす幸運とはあくまで転機の訪れであるので、完成や達成ではない。ケルティック・クロス・メソッド、ヘキサグラム・メソッドなどの展開法で最終結果にこのカードが出れば、運命は未だに流動的であると判断しなければならない。対策は隣接しているカードから探すこと。


XI Lust ラスト 欲望

Hebrew letter ט テト 蛇 9
Astrology 獅子座
Path ケセド=ゲブラー
Element 火
Secret name 炎の剣の娘・獅子の指導者

【カードの意味】エネルギッシュ
 Positive 強さ 力の発揮 生きるエネルギー 大恋愛 情熱 行動力 魔術的力の行使
 Negative 野性的 抑え難い欲望 欲望に身を任す


 これは伝統的なカードでは、力、或いは剛毅と呼ばれてきたカードである。従来のアイオーンで示されたカードの意味は、愛による獣性の超克や克服、コントロールであるが、このトートでの意味は全く異なる。力はむしろ欲望の解放に作用し、その力を行使する事の喜びを含む。即ち、『法の書』の最重要な格言である「汝の欲する事を為せ」を具現化したカードである。

 このカードは獅子座に関連するが、欲望のカードの獣は伝統的カードに描かれたライオンではない。七つの顔を持つ、「ヨハネ黙示録」の666の獣である。クロウリーが自身をマスター・セリオン、獣の王と名乗った事はつとに有名であるが、獣の七つの顔の最下部にある顔はクロウリー当人であるようにも見える。獣にまたがる女は従来の女力士ではなく、やはり黙示録の緋色の女であり、大淫婦ベイバロンでであり、獣の花嫁である。彼女は恍惚として陶酔したように仰け反っている。欲望のエネルギーに逆らうことなく身を任せているのである。

 このカードはケセドとゲブラーを結ぶパスに配置され、それはケセド(慈悲)がゲブラー(峻厳)に及ぼす力を表している。ヘブライ文字はテトであり蛇を意味する。蛇は女が右手に捧げ持つ聖杯、もしくは火の器に向かって放射状に集まっている獣の十本の角として描かれている。それは世界を破壊し、再建するための力だ。

 花嫁の後ろには十個の明るい光線の輪があり、それは潜在的で未秩序なセフィロトである。ぼんやりと見える幾つかの顔は、古きアイオーンの聖人達である。それは新時代によって淘汰された古い宗教や道徳観を表す。彼らのエネルギーは獣とその花嫁に明け渡されたのである。

 クロウリーによれば、このカードは黄道十二宮に配属された12枚のカードの中で最も強力である。獅子座は太陽の本来の宮であり、その意味するところは意志を行使することである。従って、『欲望』のカードは、トート・タロットその物を象徴するカードの一枚だと考えて差し支えあるまい。

XII The Hanged man ハングド・マン 吊し人

Hebrew letter מ メム 水 40, 600
Astrology 水・海王星
Path ゲブラー=ホド
Element 水
Secret name 万能の水の霊

【カードの意味】苦しみ
 Positive 強いられた犠牲による購い 苦難 苦悩 困難や苦しみによる変容 忍耐 
 Negative 損失 罰 死


 『吊し人』のカードには「死に行く神」の別名が付けられている。ライダー・ウェイト・タロットやGDタロットにおいて、それは自己犠牲や奉仕を表す聖人のカードとして扱われてきたが、このトートでは違う。それは過ぎゆくオシリスのアイオーンの祈念碑に過ぎないとされている。マンガラ・ビルソンによれば、このカードの意味するところは困難や苦しみによる変容である。

 裸の男はむき出しのエゴであると解釈できる。彼はエジプシャン・アンクによって吊られ、両手と右足を貼り付けにされている。目、鼻、耳、口は無いのか或いは閉ざされている。彼の感覚が内なるプロセスを体験するために内側に向けられている事を意味している。上半身は三角形を作り、下半身は十字を作っている。それは闇を救うための光のシンボルである。

 その手足と頭部には緑色の円盤があり、緑は金星とネツァクの色であり優雅さを表す。ゴールデン・ドーンの秘教体系によれば彼は水没する神である。ヘブライ文字のメムは水を表し、また占星学的な対応も水である。水面上の空気の色も緑色で、ケテルからの白い光が放射されている。背景の格子は社会的因習の融通の利かなさや彼の苦難が強いられた物である事を現している。

 アンクに吊された足には蛇が巻き付き、また、頭の下にもとぐろを巻く蛇がある。蛇は古い物を脱却して皮を脱ぐ新生のシンボルである。故にトート・タロットにおける吊し人は、新しい物が古き物の束縛に直面する事を意味しているとも言える。品位が悪いと、それは損失や刑罰を表す事になる。罪や罰は過ぎ去りしオシリスのアイオーンの遺物である。

 近代占星術では、海王星は魚座の支配星となったので、やはり付与されるエレメントは水である。純粋な火のエレメントと結びつけられた『永劫』のカードと隣接すると、アイオーンの変わり目に課せられる、産みの苦しみとしての忍耐や苦難を象徴するであろう。

XIII Death デス 死神

Hebrew letter נ ヌン 魚 50, 700
Astrology 蠍座
Path ティファレト=ネツァク
Element 水
Secret name 大いなる変成の子・死の門の支配者

【カードの意味】死
 Positive 変化 何かの終わり 手放す レット・ゴー 意識の変容 新生と復活
 Negative 外見上の破壊や死 苦難


 死神のカードに描かれているのは死の舞踏を踊る大鎌を持った黒い骸骨で、それ自体は伝統的タロットに通じる物だが、トートの死神にはより多くの象徴が描き込まれており、その意味するところは錬金術的な知恵に満ちている。

 死のカードは生命の樹ではティファレトからネツァクに下る小径に配置されており、ヘブライ語アレフベートではヌンに割り当てられ、その意味するところは魚であり、占星学上の関連は蠍座にある。カードにも魚と蠍が共に描かれている。

 蠍は古い自然観察者には窮地に陥ると自殺する生き物であると認識されていた。魚は蛇と共にある宗派における生き返り、又は生まれ変わりの象徴である。蠍座は死とセックス、エロスとタナトスを司るサインである。魚は魚座の時代であるキリスト教を象徴し、それは蘇りを意味する。

 骸骨の前には死者の魂が上方へと登りながら別の形に生まれ変わる準備をしている。これらの魂もまた踊るのである。骸骨はオシリスの冠を被っているがその上には更に上昇しようとする鷲が描かれている。マンガラ・ビルソンによればこの鷲はフェニックスでもあり、より高次な転生を表す。つまり死神のカードは破滅的な死を表すのではなく、新生、再生のための死である。

 錬金術では変化の過程の中で腐敗、或いは黒化という過程を経なければならない。死神のカードが意味するところは錬金術的な腐敗の過程であり、変化のために何かを壊す、終わらせる、手放すという事を意味している。またクロウリーによれば、このカードはアテュXIの欲望のカードの完結であり、アテュXIIの吊られた男がそれらを繋ぐ溶剤となっている。

 死神のカードは本質的に変化と新生を表すカードだが、悪品位のカードと隣接すると、単なる物事の終わりを意味してしまう。

 蠍座は水のエレメントに属する宮であり、その支配星は、近代占星術ではエロスとタナトスの境界にいる冥王星であるが、古典占星術では火星が蠍座の支配星である。火星は同時に火のエレメントの宮である牡羊座の支配星でもある。火星と冥王星の属性を鑑みると、『死』のカードは『皇帝』、『塔』、『永劫』のカードと隣接した時に特別な意味を持つと考えられる。


XIV Art アート 技

Hebrew letter ס サメク 支柱 60
Astrology 射手座
Path ティファレト=イェソド
Element 火
Secret name 生命の運び手・調整者の娘

【カードの意味】統合
 Positive 諸力の結合 実現 綿密な計画に基づく行動 準備の末の成功 集中力 芸術 多芸多才
 Negative 八方美人


 技(わざ)のカードは伝統的なタロットでは「節制」の名が与えられている。トートで描かれている技の人物は錬金術師でありアテュVIの錬金術的結婚の成就である。黒のキングと白のクイーンは完全に合一して両性具有の存在となり、春を表す緑の衣を纏い、キングとクイーンの衣に刺繍されていた蛇と蜜蜂が二つながらに刺繍されている。衣の色が愚者と同じである事に留意せよ。

 白い顔の黒い手は火の松明を握り、黒い顔の白い手は水のカップの水を大鎌に注いでいる。火の赤獅子は水の色の白に変わり、水の白鷲は火の色の赤に変わっている。彼の赤い血が彼女の白いグルテンと入れ替わったのである。火は水を燃え立たせ、水は火を消す。大釜には骸骨に留まる烏が描かれていて、その生成された大釜の蒸気からは矢が立ちのぼり錬金術師の衣に二条の虹を作っている。このカードはティファレトからイェソドに下る、或いはイェソドからティファレトへ登る小径に配置され、ヘブライ文字サメクの意味するところは支柱である。占星学との関連は射手座であり、射手座はホロスコープ上では双子座の対極に位置する。アテュIVとXIVに共に描かれた矢は重要である。(中央にある上昇する矢は見落としがちなので注意せよ)

 技のカードはアテュIVで始まった大いなる業の最後の段階が表されている。錬金術師の背後には虹から生じた光背がありマンガラ・ビルソンはこれを黄金の太陽と呼んでいるが、虹色に染まった両縁にはVISTA INTERIORA TERRAE RECTIFICANDO INVENIES OCULTUM LAPIDEM すなわち「大地の内なる領域を調査せよ。汝、浄化により賢者の石を見出すべし」とラテン語で記されている。

 このカードが「技」と呼称される事で、伝統的タロットでキリスト教的文化の四大徳行を表す、「賢慮」、「正義」、「剛毅」、「節制」のタイトルを持っていた名称は、新たなアイオーンのタロットであるトート・タロットでは一掃されるに至った。

 このカードの示すところは熟練した達人の技である。統合による物事の新しい段階や多芸多才を示すが、悪品位のカードに隣接すると八方美人的な曖昧さを示す場合がある。ただし、カードの持つ意味が火と水の融合であるという点から、火のエレメントの宮である射手座に配属された『技』のカードは、水のエレメントと隣接する際の相克に対して、ある程度の強さを持っているから、スモール。カードもカップのスートと並んでも、あまり大きな影響は受けない。


XV The Devil デヴィル 悪魔

Hebrew letter ע アイン 眼 70
Astrology 山羊座
Path ティファレト=ホド
Element 地
Secret name 物質の門の支配者。時の力の子。

【カードの意味】現実の受容
 Positive 基本的な現実 如性 あるがままを受け入れる 制限に対抗する 科学知識
 Negative 盲目的衝動 無節操 誘惑 強迫観念 治りにくい病気


 悪魔のカードはティファレトからホドへ下る小径に位置づけられ、アテュXIIIと対称の形を作る。アレフベートは目を意味するアインで、ヒマラヤ山羊の額の中央には全てを見通す第三の目がある。占星学では土星の支配する山羊座に関連する。エリファス・レヴィは伝統的な悪魔のカードをバフォメットとして描いたが、クロウリー、またマンガラ・ビルソンもこのヒマラヤ山羊を官能とユーモア牧羊神パンであると記している。

 山羊座は元々、怪物テュフォンから水に逃れる牧羊神パンが、下半身だけを魚に変身させた姿を象徴している。定冠詞であるTheを付けられThe Devil は、単なる悪魔ではなく、魔王サタンを意味するとされるが、むしろこのカードは魔王ではなく、牧羊神パンとして解釈すべきである。

 キリスト教的な道徳観において、地上の快楽や肉体の喜びは非難の対象となった。故に快楽のシンボルであるパンは善なる神の光に対する闇の力である悪魔と結びつけられるようになった。アテュXVは最も物質的な創造のエネルギーを意味するとクロウリーは述べている。しきたりや善悪に囚われずに突き進むエネルギーであり、マンガラ・ビルソンによればあるがままの現実を受け入れるという受容である。山羊はその受容によってほくそ笑んでいる。

 また、山羊は生命の樹の前に立っているが、この樹は男根のシンボルであり、その幹は天を貫いている。上部の輪は女性的なヌイトの胴体の輪である。下にあるのは睾丸で四人の男性と女性の形をした精子は天に昇る準備が出来ている。山羊の前には首領達人の杖であるカドュセウスの杖があって、こちらは地球の中心へと際限なく下がっている。これらは低次と高次の結びつきとその受容によって可能となる崇高な状態を示す。

 山羊座は冷静と分別を併せ持つが物質偏重でもある。高品位にあるとき、トート・タロットの悪魔のカードは受容や科学知識を意味するので凶札ではない。品位が悪ければ物質や肉体の快楽への耽溺や誘惑を意味するが、キリスト教的な道徳観に従うか否かはそれぞれの価値観に譲られるべきであろう。

XVI The Tower タワー 塔

Hebrew letter פ ぺー 口 80, 800
Astrology 火星
Path ネツァク=ホド
Element 火・水
Secret name 万能の軍の支配者

【カードの意味】崩壊
 Positive 大いなる変容 より深い真実への道を作るために、古い自我のパターンが壊れる事 野望 勇気
 Negative 口論 闘争 計画の失敗 突然の崩壊



 トート・タロットにおける塔のカードには戦争の別名がある。争いを表す火星と関連づけられているからである。生命の樹ではネツァクとホドを結ぶ平行の小径にあり、ヘブライ文字ぺーの意味するところは口である。カードの下部にはクロウリーによれば冥府の神、マンガラ・ビルソンによればドラゴンの口があって、古い時代遅れの構造を焼き尽くそうと炎を吐いている。

 この絵の示す物は、アテュXXで示される最後の審判、もしくは新しいアイオーンの為の古い価値観の破壊である。伝統的タロットでは「神の家」とも呼ばれ、傲慢や驕りに対する天罰や崩壊、破滅を示したカードであるが、このトートにあっては、大きな変容のための古い価値観の破壊の啓示となる。

 頂点にあるのはホルス、或いはシヴァの目であり、その目が開かれたとき、宇宙は破滅すると言われている。ホルスの目の力によって破壊された塔からは四人の人間が投げ出されているが、その姿は幾何学的な構造となっていてもはや人間の形をしていない。それらはもはや必要でなくなった古い形の精神、感情、肉体と魂を表している。

 後光を放っているライオンの頭を持った蛇はアブラクサスである。物質と魂、生と死を一つにする拡大した意識(後光)を表している。オリーヴを加えた鳩は、混沌と破壊の中でも、その起こっている事を気づきを持って受け入れるなら安らぎを得て自分に優しくあれる事を示唆している。蛇と鳩は生きる意志と死ぬ意志が相矛盾するものではなく、同じエネルギーの二局面であるとクロウリーは記している。

 品位が悪いと口論や争い、突然の崩壊や計画の失敗を表す。

 『死』のカードでもふれたように、火星は火のエレメントに属する牡羊座の支配星であり、故に『塔』のカードは火の属性を持つが、古典占星術では火星は水のエレメントの宮である蠍座の支配星でもある。よって、水のエレメントによる相克がある程度は中和されると考えて良いので、『塔』のカードの破壊的な側面が、常に水のエレメントに属するカードに影響されると考えすぎないことである。

 元々、『塔』のカードは『死』のカードと同様、一般的には凶札として捉えられているから、実占においては、むしろポジティブな側面からのアドバイスを心掛けた方が良い。


XVII The Star スター 星

Hebrew letter ה ヘー 窓 5
Astrology 水瓶座
Path ネツァク=イェソド
Element 風
Secret name 天空の娘。水中の住人

【カードの意味】信頼
 Positive 自己信頼 希望 芸術 洞察力 快復力 奇跡的な救い 博愛
 Negative 夢見がち 失望 無駄遣い



 星のカードは『法の書』の「ツァダイは星に非ず」の啓示から、ネツァクからイェソドに下る小径(この径の配置についての考察は『皇帝』の記述を参照せよ)の文字、ヘーに割り当てられており、意味する事は窓である。占星学的には水瓶座と関連づけられ、描かれているのは天空の女神であるヌイト(ヌト)であり水瓶座のシンボルである水を運ぶ人である。

 このカードでは全てが螺旋状のエネルギーとして描かれている。ヌイトの背後にあるのは月のように見えるが実は天球儀である。その中でひときわ輝いているのは七つの光芒を放つ金星である。伝統的タロットでは、星のカードの中心的な星はシリウスであると解釈されてきたが、GDを出自とするタロットでは金星を表す。

 そして最上部から螺旋のエネルギーを放つ星はベイバロンの星であるとクロウリーは記している。それはクロウリーが首領を勤めたA∴A∴(銀の星団)の記号である。クロウリーによれば、ベイバロンはヌイトの原型の具象化である。従って彼女はアテュXIの緋色の女と同じ女神であり、聖なる娼婦である。

 ヌイトでもあるベイバロンは二つのカップを携えている。右手の金のカップは頭上に高く掲げられ、自らの頭に水を注いでいる。左手の銀のカップからは大地に水が注がれ、そのエネルギーは地上においてクリスタルの形をとる。それは信頼によって得られた明晰さを象徴する。脇に描かれた花と蝶は信頼のプロセスによって生まれる開花と変容の象徴である。

 このカードの螺旋のエネルギーがアインシュタインが計算によって導き出した基本的な宇宙の運動の形である事はクロウリーとマンガラ・ビルソンの両者が指摘している。このカードの真の意味を理解するには『法の書』の熟読が必要である。

 星のカードは古来から希望のカードとされてきたが悪品位にあれば夢想や浪費を表す事がある。

 水瓶座は風のエレメントに属する宮であり、支配星は変革を司る天王星である。しかしながら、古典占星術では地のエレメントに属する山羊座と同じく、土星が水瓶座の支配星となる。従って地のエレメントの相克に対する耐性はある程度望めると考えて良い。

XVIII The Moon ムーン 月

Hebrew letter ק クォフ 後頭部 100
Astrology 魚座
Path ネツァク=マルクト
Element 水
Secret name 干満の支配者。万能主の孫。

【カードの意味】未知
 Positive  未知 無意識 不可知 神秘的 希望はもうそこまで来ている 重要な変化の瀬戸際
 Negative 錯覚 ヒステリー 狂気 詐欺 嘘 秘密 とまどい


 月のカードはネツァクからマルクトに下る小径にあり、アレフベートのクォフに対応する。意味するところは後頭部である。従って月のカードは小脳の潜在意識や本能に関係する。占星学的な対応は最後のゾディアックである魚座であり、冬の終わりを意味する。そしてこのカードは真夜中を表す。真夜中には明日の芽生えがあるので、嫌悪の図表に染められた水底に聖なるケフラが太陽の円盤を挟んだ姿を見せている。古典的タロットの這い上がるザリガニの危険とは意味を異にしている。すなわちそれはすぐそばまで来ている希望である。

 水面上の光景は不吉で不気味である。血の混じったリンパ液の流れが見え、不純物を含んだ血がヨッドの文字の形で月から滴り落ちている。月は天頂にも昇り最下層にも達するので最も普遍的な惑星とみなされ、アテュIIのそれでは神と人を結ぶ啓示であったがこのカードではその満ち欠けが示すような不安定な状態を表す。それは欠け行く月であり毒を流したような闇だが、前述したように光が復活する素地でもある。

 丘の上には謎と戦慄と恐怖とを表す黒い塔が立っており、一対のジャッカル神ケムが見張り番として立っている。エジプトの死の神アヌビスである。アヌビスは黄泉の国の番人であり、この塔の門は死への入り口であると同時に生の入り口である。アヌビスの足下にはジャッカルその物が見張りに立ち、神を観た事がない者や神の名を知らなかった者に襲いかかり、その死体を貪り食おうと待ちかまえている。

 潜在意識の門からの道を辿る事には危険が伴う。薬物などを使って無意識の次元に入る事は文字通り狂気に陥る事を意味する。しかし恐れてはならない。闇が深くなるのは夜明けが近付いているからでもあるからだ。

 一般的に『月』のカードは未知への恐れや秘密を表すが、配属されている魚座は深いインスピレーションと共感を意味するサインであり、夢幻を意味する海王星を支配星とするが、古典占星術では、火のエレメントに属する射手座と同じ木星を支配星としている。直観や霊感への恐れを払拭することが木星の拡大する力を強めるだろう。

XIX The Sun サン 太陽

Hebrew letter ר レシュ 頭 200
Astrology 太陽
Path ホド=イェソド
Element 火
Secret name 世界の火の支配者

【カードの意味】全体性
 Positive 解放 成功 繁栄 大勝利 病の回復(安楽死)
 Negative 横暴 自惚れ


 太陽はホドとイェソドを結ぶ径にあり、アレフベートのレシュが対応する。意味するのは頭であり占星学的に太陽その物に対応しているので、文字通り主体的な意志を表す。クロウリー曰く、最も単純なカードの一つである。ヘル=ラ=ハ、新しいアイオーンの主が、人類に太陽として顕現する際の精神的、道徳的、物質的諸相を表し、光、生命、自由、愛の神である。トート・タロットのその他のアテュ同様に新しいアイオーンの目標である人類の完全な解放に寄与するのである。

 中心部に薔薇をの花弁をもった太陽があって、薔薇は太陽の影響力による開花を表す。絵の外周には黄道十二宮が正しく配置されている。クロウリーによれば、十二宮図はヌイトの身体を子供らしい表現で描いた物である。

 緑の小山は豊饒な大地を表し、マンガラ・ビルソンによれば有頂天であり、天に届く事を熱望しているかのようである。しかし小山の頂上近くには壁が立ち並んでおり、マンガラによれば契約による関係性の危険と限界を表し、クロウリーによれば新しいアイオーンを熱望する事が統制の欠如による物ではない事を現す。

 壁の外側には二人の翼を持った子供がいて光の中で踊っている。彼らはこれまで様々な形で大アルカナに現れた双生児であり、男であり女であり、火と水であり、陰と陽である。永遠の若さや無垢を表す。二人の下には薔薇と十字の組み合わせがあり、二人が生まれ落ちた母体である。二人の子供は人類が到達すべき次の段階を表している。新しい段階とは、死や罪と言った概念からの完全なる自由である。

 総じて、太陽のカードは『法の書』における「汝の欲する処を為せ」の意志の発動を表すのである。しかしながら悪品位のカードに囲まれれば、傲慢や増長と言ったエゴの肥大を意味する。テレマの意志とは神人合一の意志であるから、エゴの増大とは対極にある。

 太陽は獅子座の支配星で火のエレメントに属する。獅子座と関連する『欲望』のカードとは密接なつながりを持ち、この二つのカードが隣接すれば、クロウリーのテレマ思想の最重要目的である「意志のもとの愛」を表す。

 『太陽』のカードは時として、安楽死としての突然死を表す場合があるとされるが、近代タロットの母と称されたイーデン・グレイは、タロット・リーディングでは決して死を予言したり仄めかしてもならないと戒めており、太陽から死のメッセージを読み取るのは、極々特別な場合に限られる。

XX The Aeon アイオーン 永劫

Hebrew letter ש シン 歯 300
Astrology 火 冥王星
Path ホド=マルクト
Element 火(特別な場合のみ水)
Secret name 原初の炎の霊

【カードの意味】高次の見通し
 Positive 最終決定 ターニングポイント 再誕生 未来への新しい見地 広大な見方 神人合一
 Negative Negative 産みの苦しみ 変容の前の苦難


 伝統的タロットで最後の審判を描いていた天使、或いは審判のカードは、トートにおいて完全に新しい象徴に書き改められた。それはアレイスター・クロウリーが守護天使エイワスより『法の書』の啓示を受けた1904年を境に、世界はオシリスのアイオーンからホルスのアイオーンに移行し、その際にオシリスのアイオーンの最後の審判は為されたという解釈による物である。アイオーン《永劫》とは約二千年を一周期とする期間を意味し、元来はグノーシス用語で「至高神」を意味する。クロウリーの思想においては、多神教の時代をイシスのアイオーン、キリスト教などの一神教の時代をオシリスのアイオーン、人間が神と化する人神教の時代をホルスのアイオーンと呼ぶ。

 永劫のカードはホドからマルクトに下る小径に配置され、ヘブライ文字シンに対応する。シンの意味するところは歯であるがシンは火に関係する。故に永劫のカードは、アテュXVIで示された、火による世界の破壊、或いは浄化の後に来る物を予見させる。

 カードを取り巻く暗い青の影は天空の神ヌイトであり、翼を持つ火の玉として描かれているのはヌイトの配偶者であるハディトである。両者の結婚によってホルスが生まれるとクロウリーは記している。ホルスは一般的なエジプト神話ではオシリスとイシスの子であり、セトの敵対者である。ホルスはハヤブサの頭を持つ神であり、中央の玉座に座っている。またホルスは児童神でもあり、半透明の姿もまたホルスの顕現の一つである。それは沈黙のサインを送っている。

 カードの下部には花に模されたシンの文字があり、上部のヨッドの形の中には新しいアイオーンの神髄に触れようとする三人の人間の姿がある。それは神人合一の胎児である。そしてシンの文字の後方には天秤座の印が象徴的に置かれているが、それは更なる次のアイオーンの前兆である。

 永劫のカードの理解のためには『法の書』の熟読が必要であるが、いずれにしろこのカードは高次の理解から来る一定のステップを意味し、クロウリーをはじめ、レディー・フリーダ・ハリス、マンガラ・ビルソン、ジェームス・ワッシャーマン、いずれも悪品位にあったときのネガティブな解釈を記していない。

 近代占星術では、『審判』のカードに冥王星を配属し、冥王星は水のエレメントを持つ蠍座の支配星である。従って、生命の樹の中で『審判』と同じ径に配属される『永劫』にも冥王星が割り当てられ、火と水の相克を中和すると考えることが出来る。

 ただし、純粋な水のエレメントのカードである『吊し人』と隣接すれば、それは変容や革新に対する苦難を表す。『吊し人』は過ぎ行くオシリスのアイオーンの残滓だからである。

XXI The Universe ユニバース 宇宙

Hebrew letter ת タウ 十字形 400
Astrology 土星
Path イエソド=マルクト
Element 地(風)
Secret name 時の夜の大いなる者

【カードの意味】完結
 Positive 完成 達成 絶頂 実現 総合 有機的な完結や自然な開花
 Negative 遅延 不活発 避けられない結末


 宇宙のカードはイェソドからマルクトへ真っ直ぐに下る小径に配置され、アレフベートのタウに対応する。タウの文字は十字形、即ち四方への拡張を意味する。占星学との関連では土星に対応する。古典的な占星学ではマレフィック、凶星として認識されている土星が、伝統的タロットでも最大最強のラッキー・カードである『世界』、即ちここでは宇宙に配属されているのは何故かをいぶかる向きもあるであろう。ゴールデン・ドーンの秘教体系による生命の樹への万物照応において、土星は七大惑星の一番外側にあり、最も運行の遅い星である。土星外惑星、トランスサタニアンの発見以前は、土星は天の番人であり、太陽系の支配者だからである。

 そして土星は地相星座である山羊座の支配星であるが、古典占星術においては風相星座の水瓶座の支配星でもあった。従って、宇宙のカードは風と地の悪品位を中和する力を持つと考えられる。

 また、宇宙のカードは愚者のカードの補完者である。愚者のアレフと宇宙のタウが合一する事で、Ath、即ち本質、エッセンスという言葉を形成する。無で始まった愚者の「大いなる業」フールズ・ジャーニーはこの宇宙のカードで完結する。全ての現実とアテュの本質は愚者と宇宙のカードの間にあって、達人=アデプトの様々な諸相を形成してきた。無で始まった物は無で終わる。それはビッグ・バンとビッグ・クランチの宇宙論で考えると理解しやすい。この二枚のカードに挟まった二十枚のカードは「大いなる業」の各段階における代理人である。そして終わりは始めの始まりである。故に宇宙の像は処女の像である。

 宇宙のカードは踊る処女の像で表される。踊りの相手はアテュXIXのヘル=ラ=ハであり、処女が変容の蛇の頭に立っているのは、変容が飼い慣らされて今や完結したという印である。処女の周囲には光の輪が生命の樹の形態を手ほどきして、十惑星が網の目を作っており、ホルスの目から出ている処女の手にした鎌はこの網を切り裂く力がある事を示している。

 カードの中央下部に描かれたパルテノンは神々の住まいであり、物質の家の建築骨組図である。それはJ・W・N・サリバンによってデザインされた九十二個の化学元素の階層的な配置である。

 カードの四隅にはケルビムの四聖獣がいて、神官のカードでは空虚な知識の仮面であった物が、存在にチャネルしてエネルギーを噴き出している。新しいアイオーンは充満した光をもたらしたのである。もはや地球は黒くなく、全く鮮やかな緑色であり、真夜中のヴェルヴェットの青が土星を藍色に染め、踊る乙女はここから現れ、永遠に向かい神人合一を果たす。宇宙のカードの幸運や達成は降って湧いた幸運を意味しない。それはあくまで大いなる業の達成であるからだ。

 品位が悪いと、或いはスプレッドの位置によっては遅延や不活発や避けられない運命を表す事がある。達成や完結の後には物事は良くなりようが無いからである。だが、このカードは他のどのカードよりも明るく、鮮やかに燃え立っているとクロウリーは記している。イェソドからマルクトに下る径は創造主の力が具体化することを示すのだ。

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