今回は直接鍛冶作業ではありませんが、前回までの鍛冶作業から使用している鋼について良く知るためにデスクワークをしました。
恥ずかしながら、一番先に行わなければならない作業をこんなに遅れて行いました。鋼にはいくつか種類があることは承知してはいましたが、今までは「地金にくっつけばいい!!」と、作業をしていました。しかし、自分で購入した鋼が今まで頂いて使ってきた鋼と作業の感覚が違うことから、今更のように調べることになりました。全く恥ずかしいです。(-_-;)
頂いていた鋼はSK−3でした。「鍛冶屋の教え」の中で示されている分類では、ヤスキハガネの白紙2号B・黄紙2号Bに相当する物でした。
熊公の使っている鋼は『SKS−3』という物です。鋼の種類では『合金工具鋼』といわれる鋼です。その中で、鋼の用途から『耐摩不変形用』と分類される鋼であることが分かりました。化学成分は下の表の通りです。
SKS−3材の成分表
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化学成分
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含有率
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成 分 特 性
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C
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炭 素
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0.90〜1.00% |
刃物の切れ味を出す根本元素です。 |
Si
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ケ イ 素
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0.35%以下 |
これが多いとまげに耐える性能が悪くなります。 |
Mn
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マンガン
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0.09〜1.20% |
これが多いと焼き入れの際割れる恐れがありますが、鋼の
中のS(硫黄)の悪さをのぞく役割を果たします。 |
P
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リ ン
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0.030%以下 |
これは有害元素、もろさをもたらします。 |
S
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硫 黄
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0.030%以下 |
この元素も有害、鍛錬性を悪くします。火造りの際、もろくな
ったり伸びや絞り、衝撃に耐えることが出来なくなります。 |
Cr
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クローム
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0.50〜1.00% |
この元素が若干添加された物は、鋼の粒子が高温になって
も粗くなるのを防ぎます。また、焼きが硬く内部まで均一に入
りやすく切れ味や摩耗抵抗を著しく増します。 |
W
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タングステン
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0.50〜1.00% |
粒子が微密になり、耐摩耗が良くなり、焼き入れ過敏性が無
く、焼きも入りやすくなります。 |
成分特性についての記述は豊国鍛工場のホームページの記述を拝借しました。
SKS−3鋼材の用途としては、ゲージ・タップ・ダイス・シャープレード・抜き型などに使われる鋼です。
焼きなまし温度は750度〜800度(徐冷)
焼き入れ温度は800度〜850度(油冷)
焼き戻し温度は150度〜200度(空冷)
参考までにヤスキハガネの成分表も載せておきます。
白紙2号B 黄紙2号B 青紙2号B
化学成分
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含有率
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含有率
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含有率
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炭 素
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1.00〜1.10% |
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1.00〜1.10% |
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1.00〜1.10% |
ケ イ 素
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0.10〜0.20% |
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0.10〜0.20% |
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0.10〜0.20% |
マンガン
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0.20〜0.30% |
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0.20〜0.30% |
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0.20〜0.30% |
リ ン
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0.025%以下 |
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0.030%以下 |
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0.025%以下 |
硫 黄
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0.004%以下
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0.006%以下 |
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0.004%以下 |
クローム
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−
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−
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0.20〜0.50% |
タングステン
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−
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−
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1.00〜2.00% |
以上のような鋼を素材としていることを知りました。ヤスキハガネではどんな位置に当たるのでしょうか?『黄紙2号』に近いのかな?クローム等も入っているのですから、少し青紙にも近い存在のようです。クロームとタングステンが含有していることで、作業感覚が違っていたことが分かりました。
今まで焼き入れには水を用いてきましたが、油での焼き入れを考える必要があることも知りました。
『鉄』と一言で言いますが、その奥深いことに驚かされます。 日本では2000年間「鉄の時代」と言えるわけで、人間の生活にとって「鉄」は欠かせない物であり、それ故色々な鋼が作り出されてきたのですね。
そして、SKS−3以外の色々な鋼の鍛接に挑戦したいという、新たな目標がムクムクと心の中に湧いてきました。その為にも火床の作成が急がれます。現在、火床の外枠を制作依頼中。次回は火床作りの様子を公開できると思います。
(2002.11.15.)
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