練習と汗は裏切らない

ライン



          「スパイクもグラブも自分の枕元に置くぐらい好きになれ。バットももちろん全て愛情を持って、
          自分の道具は自分で管理しろ」
          道具の管理は、自分がユニチカのキャプテンだった当時から取り組んでいたこと。その習慣
          がチーム全体に良い影響を与えることを、私は確信していた。
          「こんな辛いじゃ、強くならなきゃ嘘だ」「強くなりたい」と、選手達が目を覚ませば、チームは
          良い方向に向くはずだ。
          ハードな練習を乗り越え、自信がつき「私は強いんだ」という意識が出てくれば、さらにハー
          ドな練習にも耐えられる。
          私には、中学時代にソフトボールをやり始めてから、いつも心に浮かぶ思いがある。自分の
          なかには、ふたりの自分がいるのだと。強い自分、弱い自分。
          強い方は「私は強いから、強く生きられる」と思っている。そして弱い方は「私もう駄目、どう
          しよう」といつも迷っている。
          どちらを取るか、決めるのは私自身。だから、いつも自分のなかの強い自分を取らなくては
          いけない。しっかりと心定めて。「私はできるんだ」と思う強い自分でいれば、とんでもなく辛
          い練習にも平気で挑める。
          逆に弱い方の自分を取ってしまえば、諦めの気分が先に立ち、やる気もでない。
          やる以上は全部できるか、何もできないか。意識の持ち方から生まれる差は、天と地ほど、
          それぐらい大きく開くのだと思う。
          それは、山を登りながら中腹で立ち止まっているときの心境と似ている。見上げれば頂上、
          見下ろせばふもと。
          強い自分、弱い自分、どちらを取るかで、たどり着く先ははっきり別れる。そのときこそ、強
          い自分を取って、頂上を仰ぐのだ。
          シドニー五輪を前にした夏、全日本チームの選手達にも山歩きをさせたのは、そのことをも
          う一度、確認させるためだった。
          そんなわけで、私は、かなり頻繁にミーティングの機会を持った。
          自分の体験談も色々と話しながら、選手達を叱咤激励した。
          「おまえたちはやればできるんだ、絶対にできるんだ」
          まるで暗示をかけるように、私は言い続けた。
          「私もこうして頑張っているから、おまえ達もきちっと練習しな。これだけは言っておく。練習
          はおまえ達を裏切らない」

                                        「努力は裏切らない」全日本女子ソフトボール監督・宇津木妙子

                                                                 
ライン