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        「 NAKATA SPEAKS 」 中田英寿 (現 イタリアセリエA・パルマ所属)


〜サッカーにとって大切なこととは何か、と尋ねられて〜
日本が長い間韓国に勝てなかった理由は、「精神的な弱さ」だと言う人は多い。確かに韓国は日本を相手にするときに、猛烈なエネルギーを放出し「おまえたちにだけは負けない」という気持ちを顔や態度に表していた。その絶大な威圧感は、日本選手を必要以上に怯えさせた。
韓国は本当に強かった。精神面だけでなく90分間走り続ける体力があり、速攻を仕掛ける戦術と個人の技術があり、正直言って、実力で日本に勝っていた。
中田がこう言ったことがある。
「韓国や中近東の国に日本は勝てないって言われますけど、負けるってことは、こっちが下手だってことでしょう。相手がどんなに張り切ってガンガン来たって、ゆうゆう振り切る力があれば問題ないわけだし。敵に勝る戦術がないから勝てないんで、勝つためには技術で上回る以外ない。要は、テクニックを身につけていけば結果に繋がるんだと思うけど」
サッカーの技術とは何なのか。彼が考えているサッカーはシンプルだ。「足でボールを操り、コントロールして、目指した場所へ蹴る。ただそれだけのこと」
では、どうすればその技術が向上するのか。答は簡単だった。
「ミスをするから相手にチャンスを与えることになる。そのミスをしないのが一番大切なこと。確実なプレーが出来るようにするには、練習するしかないけどね」
中田が練習を「嫌いだ」というのは、事実だ。けれど、練習が必要なことだけは小学生時代から痛切に感じてきた。練習をして技術を磨かなければ勝てないことを知っていた彼は、嫌いな練習も進んでやった。
「派手で美しいプレーを見せようと思ったら、地味な練習を死ぬほどしないと。基本があれば、1を100にだって出来るんだから。基本がない選手は、いつか消えていくでしょう。」
練習で1番時間を割いているのは、もっとも地味な対面パスだ。
「ふたり一組になってパスを出し合う練習を何度も何度も繰り返すこと。これが重要です。」
しかし、なにも考えないで蹴るだけでは、進まない。
「足のどの部分で、どれくらいの力で蹴ると、どういうパスになるのか、頭の中にインプットしながら蹴らなきゃダメ」
それと同時に、自分がどういうボールを蹴るのか、しっかりとイメージするのだ。
「球質や緩急など、イメージしたボールと同じボールを蹴れるまでパスを繰り返す。
そうやって練習して、ある程度ちゃんとボールが蹴れるようになると、いちいちボールに視線を落とさなくてもパスを出せるようになる。
実際、彼はチームでもこの基本練習に多くの時間を費やす。同じ相手と何度も何度もパスを交わしている。見ているものが飽きてしまうほどの単調なボールのやり取りに、一瞬たりとも気を抜く気配がない。
「この基本技術が、一瞬のチャンスをものにするよね」
それが終わるとフリーキック、ゴールの練習へ続く。
「ボールにドライブを掛けて、右や左に曲げるためにはどうすればいいのか、確認しながら蹴ってみる。誰かに教わっても、自分の体が覚えなければ、すぐに忘れるだけだから」
試合中、絶妙なスルーパスやハーフェイラインからのロングパスは、観衆を熱狂させる。
中田のパフォーマンスは、幾度も幾度も繰り返されるパスの練習に支えられていることを忘れてはならない。






                                                                 
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