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  (プレー出来るかどうかの判断)
Jリーグでは治るのに1週間以上かかるケガに対し て、各チームのドクターが障害報告を提出するよう義 務づけられている。その結果、Jリーグでは一番多い試合中のケガは打撲。この他に捻挫や肉離れ・擦過傷 など傷のあるケガなどが多く見られる。1試合平均約 1件弱の割合でこうしたケガが起こっているのが現状だ。
Jリーグの開幕当初は、世界のリーグの統計などを比べてみると、顔面と頭部の外傷が非常に多かった。世界的には全体の5〜10%なのが、Jリーグの最初の年は30%みられた。現在はこうしたケガの約70%は下肢のケガで、頭部・顔面は10〜15%。あとは上肢・体幹のケガとなっている。世界と比べるとまだ少し首から上の外傷が多い傾向だ。さて、こういった試合中の対処だが、現在のJリーグのルールでは選手がケガをしたときには、ドクターなどのスタッフ1人がグラウンドに入ることが出来る。そしてGKの場合は別になるが、基本的にグラウンドの中での治療は絶対にしてはいけない。
そこでまず大事になってくるのが、ケガの判断だ。選手の状態を見た時、そのまま試合ができるのか、あるいはプレーを続行するのに治療が必要なのかどうかをすぐに見極めることが大切だ。プレーを続行することができない場合は、すぐにその旨をベンチに伝える。
鹿島アントラーズでは、ドクターの判断でいいから、選手がプレーできるのかどうかをできるだけ早く見極めてほしいといわれている。プレーできる場合はそのままグラウンドに立たせるが、治療が必要な場合はグラウンドの外へすぐに担架を呼んで早く治療をしなければならない。
選手が外で治療するときは中の選手は10人で戦わなければならず、不利が生じるからだ。少しでも判断が遅れるといけない。プレーできる選手に関しては、早く治療して早くグラウンドに戻してあげるのがドクターの務めだ。
プレーできるかできないかの判断は、まずは選手とコミニュケーションをとって、できるかできないかを問う。できないと言う選手には交代。また靱帯を切ったり、骨折した場合はもちろん、本人ができると言ってもドクターストップをかける。肉離れの場合も、プレーを続行すると悪化するので、起きた瞬間に休ませないといけない。
選手ができるといっても、例えば足をケガした場合はまずその場に立たせてみること。プレーができるかどうか、軽く足踏みさせたり、関節を動かして大丈夫かどうかを見たほうがいい。打撲のケースでは打った部位が関節に近いかを見る。関節から離れた部分ならば少し休ま
ればプレーできると思うが、ヒザや関節に近い場合は、動きに障害が出てくるおそれがあるので、そのときは交代して他の選手を出すこともある。また捻挫はまず本人の痛みの程度により判断する。足首のケースが最も多いが、軽いものと重いものがあるので、力が入るか、踏ん張れるかなどもチェックする。

  (肉離れ、捻挫にはアイシング)
試合中すぐに応急処置しなければならないものは傷の手当だ。現在のJリーグでは出血したときは、必ず止血をしてからでないとグラウンドに戻れない。縫うような傷であっても、ほとんどの場合は患部を抑えれば血は止まるので、ガーゼを当ててからテーピングでしっかり個定すれば止血は可能だ。
傷のない打撲に関しては、まずは痛くてしびれているかもしれないので、冷たい水をかけるなどして痛みを見るようにする。
次に試合後の処置に関して。打撲・肉離れ・捻挫に関しては何はともあれ必ずアイシングすることが大切なポイントだ。アイシングは患部の腫れ・内出血を最小限に食い止めるのに大きな役割を持つ。きちっとやることで治る早さも大きく違ってくるので重要視してほしい。
ビニール袋などに氷を詰めて患部を冷やす。冷たすぎる場合、間にガーゼやタオルを巻いてみるのもいいだろう。時間は15〜20分。これ以上は凍傷の心配もあるので避ける。Jリーグの選手でもたまに冷やした状態で歩いている選手を見かけるが、アイシングをする時は必ず安静にしていなければならない。歩きながら冷やすと効果は半減してしまうので、座るなど安静の状態を保つこともポイントだ。
軽度のケガならばこれでいいが、捻挫など腫れがひどい場合は、30分〜1時間位間をおいてから何度か繰り返しアイシングする。ひどい時は必ず病院でチェックを受けることが必要だ。
肉離れも徹底したアイシングが必要だ。肉離れの場合、軽いものであっても完治するのに2〜3週間はかかる。中途半端に直すと再発する可能性が高いので、電気治療などを行いながら必ず休んで、次に運動したらいい時期を必ず決めて、きちっと治した方がいい。
骨折が疑わしい場合は、氷で冷やしながら添え木をして病院へ。基本的には上下二関節固定と言うが、部位に一番近い上と下の関節を動かさないように固定する。例えば、スネを折ったならば、ヒザと足首を固めること。
土のグラウンドでプレーすることが多いチームでは傷の手当が多いはずだ。これは傷をきれいに洗うことが第一。傷に泥が入ってしまうから、しっかりと洗わないとばい菌が入って化膿してしまい、治りも遅くなる。
まずは水道水でかまわないのでガーゼなども一緒に使いながらよく洗い流す。その後、傷の深さを見て、縫ったらいいのか塗り薬などで大丈夫なのかを判断する。

  (予防へのアドバイスの仕事)

ドクターの仕事は、日本のサッカーがプロになる前はケガの治療が主だった。しかし、プロ化してからはケガをしてからでは遅いということになり、予防のアドバイスや栄養面・水の取り方のアドバイスなども必要になった。
またJリーグはドーピング検査があるので、薬に対しての知識も選手に与えている。特に一般に使用されている風邪薬に、ドーピング禁止物質が含まれていることが多いのでむやみに飲んではいけないなどの注意をしなければいけない。
チームではケガをしても無理してやってしまう選手や逆にすぐにダメといってしまう選手など、色々な性格・タイプの選手がいる。だからドクターとしては選手個々の性格をよく知っておく必要がある。ドクターを置いていないチームでも、監督は練習で常に顔を突き合わせているので、普段から1人1人とコミュニケーションをとることが大切だろう。
また試合中の突発的な打撲はアクシデントなのでしょうがないが、肉離れなどはウォーミングアップをしっかりやるなどすれば発生率も変わってくると思う。捻挫でも試合や練習前に関節の柔軟性をよくしておく等の予防ができる。
試合前のウォーミングアップは非常に大切な問題で、チームでは選手全員が揃ってやることが多いだろうが、例えば中高生ぐらいの段階でも特にケガが多い選手に関しては、全員でやる前の段階で個人で必要な準備をするべきだろう。
この他、小中学生では成長期のオーバーユース症候群に気をつけてほしい。毎日毎日、負荷をかけて練習することで、関節やその近辺に痛みが出てくることがある。長く痛みがある場合は、必ず1回病院でチェックしてほしい。






                                                                 
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