練習後のケアによって、その練習が100%効果を上げるか、あるいは極端にいえば疲れただけで終わってしまうかに関わってくるといっても過言ではない。それほど練習後のケアは大切なのである。そこで今回は練習や試合の後、どのようなことに注意したら練習の成果が表れるのか、食事に的を絞って考えていきたい。
(練習後の食事の基本的な考え方) 練習後の食事については、最初に練習といっても、内容により大きく2つに分けて考えられる。ふつうの練習の場合、つまり技術練習やミニゲームなどを実施した日について見ていきたい。 この場合大切なのは、(消費したエネルギーをしっ かり補給すること)である。使ったエネルギーを補給するために30分以内に食事をした時とそうでない時では、グリコーゲンの回復が随分違うことがわかっている。グリコーゲンの回復が早くなされているということは、疲労の回復が早くでき、翌日の練習も集中力や判断力も十分の状態で望めるということになるわけである。 逆にもし練習で消費したエネルギーの補充が出来なかった時は、体は使われたエネルギーの補充のために筋肉のタンパク質をも分解してエネギーにしてしまうことさえある。 具体的な話をしよう。例えば、高校生の場合、通学時間を考えると学校での練習後に何か食べておくのが望ましいのだが、その何か≠ノ問題がある場合がけっこうある。例えば、「エネルギーを消費したからそ れを補充しなくては・・」というのではなく、「おな かがすいたから何か食べたい」とか 「のどが渇いた」が先行して、コンビニの店先などで、炭酸飲料を飲んだり、スナック類を食べている光景をよく見かける。 このような食べ方はどうだろう。マナーとかの問題ではなく、炭酸飲料は一般的に糖類だけしか含まれていないことが多く、その糖分も約10%も含まれている。またスナック類は脂肪だけを含んでいるためエンプティーフード≠ネどと呼ばれている。そのような間食を運動後に食べていると、どうなるだろう。 一番の問題は「糖分の摂りすぎにより一時的に血糖値が上昇し満腹中枢が働いてしまう」→「満腹感があるため、必要な栄養素を含んだバランスがよいはずのき、また偏った間食で済ませてしまうことになる」などの悪循環が生じやすくなる。そしてこの悪循環は、疲労を蓄積したり、脱力感をもたらす要因となる。 これに近いことは高校生に限ったことではない。練習が終わってすぐに食事が摂れる環境にない選手もいるし、疲れのあまり食欲が落ちてしまう選手もいる。 この悪循環を断ち切るにはどうしたらよいだろうか。午後(夕方)の練習が終了1時間以内に食事が摂れないようなら、食事を練習終了後と帰宅後の2回に分けて食べるように考えるのも一つの方法である。つまり練習終了後に、エネルギー源になる物(おにぎりやバナナ、またはエネルギーゼリーのような物)をとりあえずでもきちんと食べておき、後から(それでもなるべく早く)夕食(最初に食べてしまっているエネルギーを差し引いたバランスの摂れた食事)を摂るようにする。 これは分食≠ニいわれている方法で、タイミングよく食事ができない人にとって便利な食事の摂り方の1つといえる。 (分食のパターンとその他の栄養) 極端の疲れのために食欲がなくなった場合でも、食べなくてはいけないのだが、このような時もまず喉ごしのよいエネルギーゼリーなどで一時しのぎをして、少したってから食事を摂るという「分食」のパターン(表1)が効果的である。ただそうはいっても、疲労から胃腸もかなりダメージを受けていることがあるので、後からの食事は消化が良くて喉ごしのよいもの、そして何より好きなものを食べるようにする。 冬に向かう季節だったら煮込みうどんとか、雑炊・お雑煮などがよいだろう。また夏場や暖房のきいた室内などのときは喉ごしの点からも冷たいそーめんなどをすすめたい。 エネルギー源の補給と共に忘れてはいけないのは炭水化物(糖質)をエネルギーにするとき欠かせないビタミンB群である。ビタミンB群は乳酸など疲労物質を除去する作用もあるといわれている。なおビタミンB群を効果的に摂取するのに都合のよいのは、強化米入りの白米や胚芽米を普段から利用しておくことである。 (表2) その他のビタミンやミネラルも運動中に汗などで失なっている可能性が大きいので、これらも忘れずに補給したい。(主食+主菜+副菜+α≠フバランスのとれた食事がここでも大切になってくる。ミネラルやビタミン類を手軽に補うにはタブレットなどのサプリメントを利用するのも一つの方法) また練習後のケアに最近注目されているのが、アミノ酸である。これは食品ではなくサプリメントからの 摂取になるわけだが、練習後にアミノ酸を摂取することにより、筋肉の合成を高めたり、筋肉の分解を抑えたりするといわれている。ご存じのように、アミノ酸はタンパク質の構成物質で、アミノ酸が100個以上結合してできたものがタンパク質である。また、アミノ酸がいくつかつながったペプチド≠ニいうものがあり、現在はペプチド結合のものが吸収がよいといわれている。(ペプチドやアミノ酸のサプリメントしてはプロテインやドリンク・タブレットがある) (筋力トレーニングのあとの基本) 次に筋肉トレーニングの場合について考えてみよう。こうした練習の日は費やしたエネルギー補給ももちろ んだが筋肉トレーニングの効果を上げるために、筋肉 の材料になるタンパク質を補給することが大切である。 筋肉づくりに大きく関わる三要素はトレーニング・休 養・栄養である。 筋肉づくりの基本ともいうべき筋肉の超回復 (図1)を見てほしい。トレーニングをすることによ り筋肉はいったんミクロレベルでこわれる。それが十分な栄養と休養で元の筋肉より強くて大きい筋肉になる(筋肥大)わけだから、筋肉の主な材料であるタンパク質は不可欠なものといえる。もし、筋肉づくりのためのトレーニングをしながら、筋肉の材料であるタンパク質が不足していたらどうるか。筋肉ができないばかりでなく、逆に筋肉は低下してしまう。超回復の図でもわかるように、筋肉作りの過程で筋肉はいったん壊れてしまうわけだから、筋肉に修復材料が足りなければ筋肉の低下は当然だが・・・・。成長期の場合はさらに成長そのものにも影響が出かねな い。よく「トレーニングと栄養は車の両輪」というが、まさにその通りといえる。 では筋肉作りのための材料であるタンパク質は、どのように補給するのが最も効果的なのか。 タイミングよく<^ンパク質を摂るにはタンパク質の消化吸収時間を考える必要がある。ウェイトトレーニングによって成長ホルモンが分泌されるのにあわせて、タンパク質が吸収されている状態であることが望ましいわけである。 そのためには練習後だけに気を配るのではなく、ト レーニングの2時間位前にも食べる。それはタンパク 質を多く含む食品でも消化吸収時間にばらつきがあるので一慨にはいえないのだが、1週間のプログラムのなかで筋肉トレーニングがあるとわかっている日には昼食からしっかりタンパク質源のおかずを食べておく ことが大切。それとトレーニング直後がベストである。 (試合後の食事) 試合後の食事に関しては、基本的には≪普通の練習後の場合≫と同様に考えればよいだろう。まず試合で消費したエネルギーを少しでも早く補うことである。 特に中高生の場合によくあることだと思うが、試合が連日だったりする場合は、2日目以降のことをしっかり考えておかなくてはならない。 練習後の食事のところでもふれたように、試合終了後のエネルギー補給が翌日のコンディションにまで影響するのである。分食などの方法で素早いエネルギー補給の方法を日頃から身につけておく必要がある。 1日に何試合かをこなさなくてはならないようなトーナメント形式の大会などの時は、エネルギー補給がうまくできたかが勝負の行方に大きく影響するともいえる。 試合が終わったら次の試合までの時間を計算し、試合時間にあわせた食事をするようにしたい。 また、試合というと、普通の練習に比べ精神的なストレスが多いと考えられるので、エネルギー補給の他にそちらのケアを考えることも大事なこととなってくる。スポーツをすることによって生じるストレスに対抗するためのビタミンとしては、ビタミンCがあげられる。試合後のケアとしてはビタミンCを積極的に摂取する事も大切である。 さらにビタミンCの利点としては、免疫力の強化と言うこともあげられる。試合などで疲労が貯まってきて、風邪を引きやすくなった体にもよい。また、練習後と試合後のケアで共通項として忘れてはならないのが、水分補給である。夏場は忘れずにいても、寒くなってくると、うっかり忘れがちである。しかし寒くなってきても、水分補給は忘れてはいけない。 練習後と試合後のケアと言うことで大きく分けて話してきた。そのなかには共通項目もたくさんあった。そのときになってから、「やれ、主食をしっかり食べろとか「主食のお米は強化米を入れて」などというのではなく、普段から食事に対して興味や関心を持っていただきたい。それは≪サッカー選手として強くなるため≫以前の≪健康でいられるため≫にも大切である。 冬本番になってくる寒さの中で、サッカーに燃える方≠烽ォっと大勢いるだろう。日頃のバランスのとれた食事に「使ったエネルギーの補給」と「ビタミンの補充」を忘れずにプラスしてほしい。 |