東京高等裁判所 その8

各懲戒事由に関する事実認定、事実評価の誤り

上司に対する反抗 

  1. 一審判決は、上司に対する反抗的言動として、@「W部長とN課長(CSセンター市場グループリーダー)は,ビラ配布の翌日,東京事業場の研修室内でTと面談し,Tが前日に正門前で行ったビラまきの件について問いただし,ビラには事実と異なる記載がある,Tの行動が職場の他の従業員に対する迷惑になっていると指摘したところ,Tは,興奮状態となり,W部長らの指摘は自らが行っている組合活動への不当な干渉である,コニカが団体交渉に応じないからビラまきをしたなどと反論するとともに,「職場の人に迷惑がかかったとしても,それは自分のせいではない。」,「仕事を与えられていない。」などと発言し,「違うのか。おい,こら。」「がたがたぬかすな。」などと怒鳴り,強く何度も机をたたくなどした。」
  2. A「W部長とN課長は,株主総会の翌日,事業場の会議室でTと面談し,Tが前日の株主総会で議事を妨害し,議場を混乱させた件について問いただしたところ,Tは,株主総会における行動は,コニカの従業員としてではなく,株主として行ったものであると何度も反論するとともに,大声で「仕事をさせろ。」,「お前は何を言いたいのだ。」「いったい何を言いに来たのか,おんどりやあ,人のことを何だというのだ,やかましいや。」「お前の話を聞いてると,頭にくる。」などと怒鳴るとともに,何度も机やホワイトボードなどを力任せにたたくなどした。」(判決書)と判示し、
  3. 「この認定事実によれば,上司のTに対する指摘は,Tの正当な権利行使を妨害しようとしたものとはいえない。Tは,上司に対し,一方的に極めて粗暴な言動を行っており,このような行為は,自らの行為の正当性を上司に強く主張するために行われたものであることを考慮しても,正当な行為と評価することはできず,上司の指示に従わず,職場秩序を乱すものといえるから,就業規則97条5号「職務上の命令・指示に反抗して職場の秩序を乱し、または乱そうとしたとき」の懲戒解雇事由に当たる。」と判断している。
  4. しかし、一審判決の上記@及びAの具体的言動に関する事実認定は、Tの主張及び供述証拠を全く無視し、一方的にコニカの主張及び供述証拠に依拠し、コニカのいうままの事実認定をしているだけである。特にコニカが主張するホワイトボードを叩いた云々については、Tは、否定しているとおり(T調書)、そのような事実はないにもかかわらず、一審判決は、コニカが歪曲誇張したかかる状況をそのまま認めている。これは、まさしく偏頗な事実認定である。
  5. しかも、TとW部長及びN課長の面談は、上記@は、Tの正当な労働争議におけるビラ配りに対し、コニカが不当な干渉をして、止めさせようとした件においてである。コニカは、職務上の指揮命令が及ばない労働運動に関し、不当な干渉を行ったのであるから、これに対し、Tが多少強い言動をもって抗議し、抵抗することは、当然に是認されることである。日常業務の中で、同様の言動が上司に対し用いられたものとは状況が全く異なる。
  6. また、上記Aは、Tが業務を離れて株主として株主総会に出席し、発言したことにまで干渉した件においてである。コニカは、Tが職場外において、株主として行った行為にまで労働関係における規制を及ぼそうとするものであるから、明らかに不当である。つまり、日常業務の中におけるTの言動ではなく、理不尽なコニカの干渉に対し用いられた言動である。したがって、Tがこれに対し、多少強い言動をもって抗議し、抵抗することは、正当な行為である。
  7. さらに、上記@及びAにおける現場の状況は、いずれもW部長及びN課長二人がTに面談を求め、二人がかりでT一人に対し、話しをし、特にW部長は興奮した様子で話しをしていたのである。そのため、Tがこれに対抗し、多少強い調子の言動を用いるに至ったというに過ぎない。これは、双方の意見が対立し、口論状態になったというだけで、暴行などはない。
  8. 一審判決の上記判断は、業務上の指揮命令が及ばない事項についてまで、従業員たる者は上司の指示、命令に従わなければならない、というような明らかに誤った価値判断に根ざすものである。
  9. 以上のとおり、Tが上記理不尽な干渉に対し、多少強い言動で反論したことをもって、就業規則第96条7号「職務上の命令・指示に反抗して職場の秩序を乱し、または乱そうとしたとき」に該当する、ということはできない。また、上記行為により、職場の秩序を乱そうとしたり、乱された事実も存在しないから、就業規則第97条5号「職務上の命令・指示に反抗して職場の秩序を乱し、または乱そうとしたとき」に該当しない。
  10. よって、一審判決は、取り消されるべきである。
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