東京高等裁判所 その7

各懲戒事由に関する事実認定、事実評価の誤り

株主総会出席 

  1. 一審判決は、コニカの株主総会に株主として出席したTの言動をもって、就業規則95条7号「事業場の風紀・秩序を乱したとき」の懲戒事由に当たる旨判断している。この判断には、以下に述べるとおり、法律の理念さえ無視した一審判決の不当な価値判断が集約されている。
  2. すなわち、一審判決は、「この事実によれば,Tは,株主総会で質問時間のほとんどすべてを独占し,必要があるとはいえないのに執拗に同じ質問を繰り返したり,他の株主との間で口論したり,不規則発言を繰り返すなど,株主としての正当な権利行使とはいえない異常な言動を維続的に行い,議事を妨害した。そして,当時,Tがコニカとの間で労働条件や残業代の支払についてコニカとの間で対立関係にあったこと,コニカはTの労働問題に関する団体交渉に応じていなかったことを考慮すると,Tは,株主としての立場ではなく,従業員としての個人的利益を図るためにこのような行動をとったと推認せざるを得ない。Tの行為は,コニカの最高意思決定機関である株主総会の議事運営を妨害し,秩序を乱すものであるから,就業規則95条7号「事業場の風紀・秩序を乱したとき」の懲戒解雇事由に当たる。」(判決書)と判断している。
  3. しかし、一審判決の上記判断は、以下の点において、重大な誤りがある。
  4. @第1に、就業時間外で、しかも事業所外である株主総会におけるTの行為に関し、就業規則の適用領域を拡張している点において、明らかに法律判断を誤っている。
  5. A第2に、上記@と関連するが、株主総会における言動等に関する議事進行権は、本来株主総会議長が有するものであり、刑罰法規等に触れるような場合は格別、当該株主総会を離れて、問責されるべき事項ではない。
  6. B第3に、本件株主総会におけるTの言動として、一審判決が認定した具体的事実は、反対尋問にさらされていない証拠価値のない陳述書の内容に依拠するものであり、ビデオ等(コニカ側で撮影したものがある筈であるが、提出されていない。)の客観的証拠に基づくものでもない。
  7. すなわち、上記@については、一審において、Tは、「株主総会の場を『事業場』などと称して、株主総会を会社の従属機関であるかのように認識し、これに就業規則を適用しようとするコニカの立論自体根本的に誤っている。」(一審の書類)と指摘したところである。
  8. ところが、一審判決は、上記正当な指摘にもかかわらず、就業規則の適用を不当に拡大し、従業員が株主として出席した株主総会の場にまで及ぼしている。一審判決の判断に随えば、株主総会において、従業員株主は、一般の株主であれば、サンクションを受ける余地のない規制を特別に課せられることになる。かかかる判断は、法律解釈として、明らかに不当であり、誤りである。
  9. 上記Aについては、会社の最高意思決定機関である株主総会の会議体における議事進行権限は、当該会議体の議長が有しているものであり、そこでの発言等(不規則発言なども含む。)は、議長の規制に従うものであるから、原則として、会議体の自律権の範囲内の問題である。したがって、株主総会が適法に終了した後、第三者が上記発言等を問題にすることは、全く理由がなく、明らかに不当である。
  10. 一審判決は、まさしく当該株主総会の自律権の問題につき、認識を欠落させたまま、不当な判断をするものであるから、法律判断として、その誤りは明白である。
  11. 上記Bについては、一審判決は、争いのある本件株主総会におけるTの言動につき、全く客観的証拠がないにもかかわらず、反対尋問にさらされていないコニカの総務本部のM総務課長の陳述書(乙9、21、28)を証拠にしている。Tの具体的言動に関する同陳述書は、何ら客観的事実に基づかない一方的に歪曲されたものである。一審判決は、これらを何ら検討もせず、あたかもそのような具体的な言動があったものと認定している(判決書)。
  12. かかる判断は、前述のとおり、主張をもって(反対尋問にさらされていない陳述書は単に主張として扱われるべきである。)、コニカの主張を認めたものであるから、一審判決は、証拠に基づかない判断である。これは、明らかに採証方法に違法があり、誤りである。
  13. 以上のとおり、株主総会において、Tが株主としてした言動につき、就業規則を適用する法律的余地は全くない
  14. また、具体的発言内容については、客観的証拠に照らし、コニカが主張するような言動があった事実は認められない。
  15. したがって、本件株主総会におけるTの言動は、いかなる意味からも就業規則95条7号「事業場の風紀・秩序を乱したとき」の懲戒事由に当たるとする余地はない。
  16. よって、一審判決は、取り消されるべきである。
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