東京高等裁判所 その3

事実認定の誤り

違法な採証方法による事実認定

  1. 本件裁判では、コニカ側から人証申請する予定もない従業員から多数の陳述書が提出されたため、T側は、一審弁論準備期日において、コニカに対し、「人証申請する予定のない夥しい陳述書を垂れ流し的に提出し、事実上の心証形成に影響を及ぼすようなやり方は、控えてもらいたい。」旨申し入れていた。
  2. 周知のとおり、裁判における陳述書の取扱について、様々に議論されているが、陳述書の効用を肯定する立場においても、限界をわきまえずに、人証と同じような証拠価値を認めることまで積極的に肯定するものは見あたらない。とりわけ、反対尋問にさらされない陳述書については、極めて問題があり、本来証拠価値を認めるべきでない。もちろん、これを事実上の心証形成に用いることなども当然避けられるべきである。かかる陳述書は、単に主張として扱われるべき性格のものである。それ故、一審において、かかる陳述書の扱いには、当然しかるべき配慮がなされるべきであった。
  3. ところが、一審判決は、争いのある重要な具体的事実やTの具体的言動等につき、専ら反対尋問にさらされていない陳述書を根拠にコニカの主張事実を全面的に認めている
  4. たとえば、不良プリントの件につき、一審判決は、反対尋問にさらされていないコニカの従業員の陳述書(乙36の別紙報告書部分)を根拠に、「「7N3」のプリントレベルは適正に出ていた。」(判決書)、「これら4名の従業員の陳述書(乙36の別紙報告書部分)には、いずれも、Tから相談されたり、協力を求められたことはなかったとの記載がある。」(判決書)などとし、Tの供述を採用しない、と判断している。
  5. また、株主総会におけるTの言動につき、一審判決は、反対尋問にさらされていないコニカの総務本部のM総務課長の陳述書(乙9、21、28)を証拠にし、同陳述書は、他に何ら客観的事実に基づかない一方的に歪曲されたものであるにもかかわらず、何ら検討もせずそのような具体的な言動があったものと、認定している(判決書)。
  6. 一審判決の上記判断は、訴訟法上極めて問題の多い「陳述書裁判」の弊害に対し、全く無批判、無自覚というべきであり、採証方法として、許容できる範囲を逸脱しているものである。
  7. したがって、一審判決は、証拠に基づかず、主張をもって(反対尋問にさらされていない陳述書は単に主張として扱われるべきである。)、コニカの主張を認めたものであるから、一審判決は、明らかに採証方法に違法がある。そして、この違法は、各懲戒事由の認定に重大な影響を与えるものであるから、一審判決は、取り消されるべきである。
次へ

TOP