東京高等裁判所 その2

事実認定の誤り

事実認定の遺脱

  1. Tは、一審において、本件懲戒解雇は、コニカによる違法な時間外労働規制に端を発した労働紛争である、という客観的事実を具体的に主張し(一審の書類)、本件懲戒解雇の本質は、Tの正当な労働条件改善を求める争議行為に対し、これを嫌悪するコニカがTを排除しようとして、コニカ労組の容認のもとに懲戒解雇処分に仮託して行ったところにある旨指摘した(一審の書類)。
  2. すなわち、Tは、本社採用の正社員として、雇用されたが、所属部署には、タイムレコーダーも設置されておらず、記録上は、時間外労働の事実が表示されない扱いになっていたため、時間外賃金は、ほとんど支払われない実態であったこと、Tの勤務も、退社時間が午後10時過ぎになることが多くあり、月に2日か3日は、休日出勤もあったが、時間外労働については、割増賃金は言うに及ばず当該賃金さえ支払われていなかったこと、これに対し、Tは、入社当時からコニカに改善を求めていたが、一向に改善されることなく、残業代の支払いのないサービス残業の実態は、継続していたこと、数年後、Tは、時間外労働の問題について、改善を要望したところ、上司のU課長から、「人員施策について」と題する文書(甲12)を示され、コニカでは、会社の方針として、残業代を支払わないといっている旨説明されたこと、その後間もなく、Tは、事前にはもちろん直後にも何らの告知や説明もないまま、8級職から7級職に降級されたこと、Tが上記降級の事実を初めて知ったのは、東京本社の人事部に呼び出された際、M人事課長から説明されたときであり、降級理由については、その際も具体的説明がなく、Tは、どのような理由で降級されたかを知る由はなかったこと、Tがコニカ側の降級の理由を初めて知ったのは、それから4年近くも経て、コニカ労組に呼び出されたときであるが、その際、見せられたコニカのコニカ労組宛文書によると、「3年間新規顧客開拓ゼロ」という明らかに事実に反することが降級事由の1つにされていたこと、等につき、Tは、具体的事実を主張した。
  3. ところが、一審判決は、上記重要事実には全く触れず、判断を欠落させたまま、「証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
    (ア)Tは,勤務成績の不良を理由に8等級から7等級に降級させられた。Tは,そのころから,降級処分は納得できない,残業代が支払われていないと主張し,管理職との間で数回面談した。Tは,日野工場へ異動した後も,管理職との間で数回面談するとともに,当時所属していたコニカ労働組合に対し,Tの労働条件についてコニカとの間で協議するよう求めた。ところが,Tは,コニカ労働組合はTのために適切に対応してくれないとして,ユニオンに加入した。」(判決書)などと事実をまとめている。
  4. しかし、上記のような事実のまとめ方は、降級処分を受けるに至った重要な原因であるコニカによる違法な時間外労働賃金規制の実態に目を覆い、Tの不満がいかにも個人的な降級処分だけにあったかのような印象と誤解を与えるものであり、正確に背景事実を摘示していない。
  5. したがって、一審判決の上記判示は、本件解雇処分の重要な背景事実に関する客観的事実につき、意識的に判断を遺脱しているものというべきであり、この判断の遺脱は、本件懲戒解雇の正当性の判断に重要な影響を与えていることは、明らかであるから、一審判決は、取り消されるべきである。
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