東京地方裁判所 その8

懲戒解雇事由の不存在

株式総会出席

  1. コニカは、Tがコニカの株主総会に出席して、発言した行為を捉えて、これを懲戒解雇事由の1つにしている。そして、この事由こそ、コニカが本件懲戒解雇を行った核心的動機であり、本当の理由であることに留意すべきである。
  2. すなわち、Tが株式総会に出席して、発言したことがコニカ上層部の逆鱗に触れ、これが決定的動機になり、正当な労働条件改善運動をしていたTを排除するため、行われた処分が本件懲戒解雇である。このことは、先の事実経過から、客観的に判断されることであり、また、コニカの主張及びコニカ側証人の供述において、本件株主総会出席問題が最も強調して位置付けられていることからして明らかである。
  3. コニカは、本件株主総会出席を懲戒解雇事由として挙げるのであるが、先ず、株主総会に関するコニカの認識こそ根本的に誤っていることを指摘しておかなければならない。
  4. コニカの主張及びコニカ側証人の供述によれば、株主総会に対するコニカの認識は、これが会社の従属機関であるかのような意識に立ち、従業員であれば、株主といえども、会社の方針に従うべきであるなどと考えていることが解る(H人事課長調書)。
  5. しかし、コニカの株主総会は、けっしてコニカの従属機関ではなく、会社法上の最高の意思決定機関である。株主が株主権を行使し、株主総会に出席し、発言することは、株主の最も重要な権利である。たとえ、株主が当該会社の従業員である場合でも、これを行使することは、全く自由である。その場合、株主としての立場は、当然会社の立場と対立する場合も多いであろうから、当該従業員株主が株主総会において、会社を追及する局面も本来あってしかるべき姿である。
  6. したがって、株主総会の場を「事業場」などと称して、株主総会を会社の従属機関であるかのように認識し、これに就業規則を適用しようとするコニカの立論自体根本的に誤っている。
  7. Tは、一株主としての株主権の行使として、株主総会に出席し、質問をしたものである。そして、Tがコニカの株主総会で行った質問は、全て経営あるいは経営者の責任にかかわる事柄であり、Tの個人的利害に関わる事柄では全くなかった。
  8. Tの質問により、コニカの株主総会がいわゆる「シャンシャン総会」で終えることができなかったとしても、それは、むしろ本来の株主総会のあるべき姿であり、それをもって、Tを非難することは筋違いである。まして、これが労働契約上の問題として、懲戒解雇事由に当たることなど如何なる法理上もありえないことである。
  9. 付言すれば、本件とは異なり、仮に、株主総会において、株主から個人的利害にかかわる問題が発言されたとしても、それは、議長が議事運営において、当該発言をどのように扱うかの問題であるから、やはり、労働契約上の問題が生じる余地はない。
  10. したがって、会社法上の機関である株主総会におけるTの行為は、そもそも就業規則第95条7号の「事業場の風紀・秩序を乱したとき」に該当するものではない。
  11. このように法理上成立する余地がないことが明らかであるにもかかわらず、コニカがあえて、本件株主総会出席問題を懲戒解雇事由に挙げているのは、前述のとおり、本件事件は、本来の懲戒解雇事件ではなく、コニカ上層部の強い意向による極めて恣意的な懲戒解雇であることを明確に物語るものである。
  12. 以上のとおり、コニカが懲戒解雇事由としてあげる各事由は、いずれも就業規則の懲戒事由に該当するものではなく、かつ、懲戒事由として相当性を欠いている。

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