好きなことだけやらせていていいの?


初瀬基樹
  

 世間では「乳幼児の頃からいろんな教育をしなければ・・・」と早期教育が大流行です。○○式、▼▼流、□□法、△△メソッド、○▲システム・・・などなど。宣伝では、いかにも効果があるような、というより、それをやらないとうちの子だけみんなから遅れてしまうのでは・・・と心配になるような言葉がたくさん並んでいます。今はそうした世間一般の親のニーズに応えるべく、それらを売りにしている保育園や幼稚園もたくさんあるわけですが、ご存じのように、わが園では、そういうことはしていませんし、しようとも思いません。(どこからか「この園は遊んでばっかりで・・・。子どもの好きなことだけやらせていていいの?もっとあれも教えて!これもさせて!」という声が聞こえてきそうですが?)


 そうした乳幼児期の(超)早期教育は、もしかすると得るものもあるのかもしれませんが、「失うものも大きい」ということを私たちは知っています。(このことについて書いていると長くなってしまうので、興味のある方は園のホームページ内にある園長のページ2006年10月「ちょっと待って!早期教育」なども読んで頂けると幸いです。)


 さて、わが園では「遊び」を保育の中心と考えており、「好きな遊びに熱中して、とことん遊びこむこと」こそ、この乳幼児期に一番必要な活動だと考えています。

 それは「子どもたちは遊びながら、今必要なことをしっかり学んでいる」と実感しているからであり、この時期には、変に偏った教育よりも、遊びを通して「健康な体づくり」をし、「友だちとの付き合い方、思いやりの心」や、いずれ小学校に上がってから勉強するときに一番必要だと思われる「好奇心や不思議だなあと思う心、想像する力や工夫する力」(学習する「意欲」につながる部分)をしっかり育てておきたいと思っているからです。そして、私たち大人が思っている以上に子どもたちは遊びのなかでいろんなことを学んでいるのです。しかし、『星の王子さま』の一節ではありませんが、「本当に大切なことは目に見えない」のです。こうした子どもの「内面の育ち」は本当は非常に大切なものなのですが、目に見えにくいため、なかなか一般の方々に理解してもらうのは難しいのです。子どもたちのそばにいて保育に携わっている私たちが、もっと世間に訴えていかなければいけないのですが。


 先日、ある研修会で「多重知能理論」というのがあるというのを聞き、なるほどと思いました。これらのことを私たち保育者が意識して保育すれば、もっと目に見える形でおうちの方々にも、子どもたちが遊びを通して身に付けている力をお伝えしやすくなるのではと思うのです。


「多重知能理論」(※聞き違え、捉え違いがあるかもしれません)について簡単にご紹介しますと、



 ハワード・ガードナー氏が提唱 「多重知能理論(MI理論)」
「ひとつの活動、体験がいろんな分野の力をつけていく」

 誰しも7~9つのそれぞれ独立した多重の知能を持っており、人によって得手、不得手があるように人によってそれぞれの知能にも差がある。しかし、それぞれの知能は単独で働くのではなく複雑に絡み合って働くため、一つの知能を活用し、他の分野の知能をうまく育てて行くことも可能となる。

 つまり、一つの体験から一つの能力を獲得するのではなく、一つの活動の中からいろんな展開が可能であり、同時にいろんな能力も身に付けていくこともできるのである。


例えば、「虫捕り」をしている子どもはどんな力や能力を身に付けているでしょうか?

● 「どんなものを食べるのかな?」と考えることで、「食べる食べられる関係」を学ぶこともできる ⇒ 論理的知能

● 「虫はどんなところにいる?虫の名前は?虫の足は何本?」と大人や友だちと会話する⇒ 言語的知能 あるいは数えたりすることもあるので数学的知能も。

● 「虫には種類がある」ことがわかり分類するようになる ⇒ 博物学的知能

● 「虫、気持ち悪い、虫大好き、かわいい、小さい」など自分の感情と照らし合わせる ⇒ 内省的知能

● どうやって虫を捕まえるかを友だちと協力して考える ⇒ 対人的知能

● 「その虫は園のどの辺にいたの?」「どこにどんなふうにどんな虫がいる」など思い描くことが出来るようになる ⇒ 空間的認知

● 虫を捕るために、よじ登る、走るなど ⇒ 身体運動的知能

● 虫の音(大人には聞こえないものでも聞こえていたりする)を季節や歌につなげていくことも ⇒ 音楽的知能



 いかがでしょう。単なる「虫捕り」ですが、こんなにも様々な学びの要素を秘めているのです。これについては、まだ勉強不足なのですが、こうしたことを保育者一人ひとりが意識し、一つの活動からいろんな活動へと展開していけるようにすること。そして、それをおうちの方々にも「見てわかるようなもの」にできれば、と考えているところです。


 タイトルに戻りまして、じゃあ、「子どもに好きなことだけやらせておけばいいのか」というと、上記のような配慮をしながらであれば「無理して、したくないことをさせるより、好きなこと、やりたいことを思う存分やらせてあげたほうが、結果として幅広い力を身に付けていくことが出来るのでは」と思うのです。





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