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CRC/C/JPN/CO/3
一般配布用
2010年6月20日
原語:英語

子どもの権利委員会
第54会期
2010年5月25日-6月11日
【子どもの権利委員会:第3回最終所見(福田・世取山仮訳)2010年10月】

条約44条に基づく政府報告審査
最終所見:日本

1.  本委員会は、日本政府第3回定期報告(CRC/C/JPN/3)審査を、2010年5月27日に開催された第1509会議および第1511会議(CRC/C/SR.1509、CRC/C/SR. 1511)において行い、2010年6月11日に開催された第1541会議において以下の最終所見を採択した。

A.序

2.  本委員会は、第3回定期報告(CRC/C/JPN/Q/3/Add.1)および質問リストに対する文書回答の提出を歓迎する。本委員会は、領域横断的な代表の出席および情報に富む建設的な対話を歓迎する。

3.  本委員会は、この最終所見が、子どもの売買、子ども買春および子どもポルノに関する選択議定書、ならびに、武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書に基づく締約国政府初回報告に対する最終所見(CRC/C/OPSC/JPN/CO/1、CRC/C/OPAC/JPN/CO/1)と関連付けられて読まれるべきことに締約国政府の注意を喚起する。

B.フォローアップのための措置および
締約国政府によって達成された進歩

4.  本委員会は、2004年8月2日における武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書、ならびに、2005年1月24日における子どもの売買、子ども買春および子どもポルノに関する選択議定書の批准を歓迎する。

5. 本委員会は、以下の立法措置が取られたことに留意し、評価する。 (a) 2004年および2008年に児童虐待防止法を改正し、特に、児童虐待の定義を見直し、中央および地方自治体の責任を明確化し、かつ、虐待事例の報告義務を拡大したこと。
(b) 2004年および2008年に児童福祉法を改正し、特に、地方自治体に要保護児童対策地域協議会を設置する権限を付与したこと。
(c) 2005年6月に刑法を改正し、人身取引【訳注1】を犯罪化したこと。
(d) 子ども・若者育成支援推進法を施行したこと(2010年)。
(e) 2010年【訳注2】に教育基本法を改正したこと【訳注3】

6.  本委員会は、また、人身取引対策行動計画(2009年12月)【訳注4】および2005年7月に採択された、自殺死亡率を引下げるための総合調整を促進する「自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議」 【訳注5】を歓迎する。

C. 主要な懸念事項および勧告
1. 一般的実施措置
(本条約第4条、第42条および第44条第6項)

本委員会による前回勧告
7.  本委員会は、締約国政府第2回報告(CRC/C/104/Add.2)審査に基づいて2004年2月に示された懸念および勧告(CRC/C/15/Add.231)のいくつかに対応するために締約国政府が行った努力を歓迎する。しかし、本委員会は、その大部分が、十全に実施されていないか、まったく取り組まれていないことに遺憾の念を表明する。本委員会は、本最終所見において、これらの懸念および勧告を重ねて表明する。
 
8.  本委員会は、第2回政府報告審査最終所見に示された勧告のうち、いまだ実施されていないもの(調整および国内行動計画に関する12パラグラフ、独立した監視機構に関する14パラグラフ、子どもの定義に関する22パラグラフ、名前および国籍に関する31パラグラフ、体罰に関する35パラグラフ、障害を持つ子どもに関する43パラグラフ、ならびに、青年の自殺に関する47パラグラフに示された勧告を含む)に取り組み、かつ、本最終所見に示された懸念に包括的に取り組むためのあらゆる努力をなすことを締約国政府に要求する。

留保
9.  本委員会は、締約国政府が本条約37条(c)の留保を維持していることに遺憾の念を表明する。
 
10.  本委員会は、本条約の十全な適用の妨げとなっている37条(c)に対する留保の撤回を検討することを締約国政府に勧告する。

立法
11.  本委員会は、子どもの権利の領域において、子どもの生活条件の改善および発達の向上に寄与する若干の法制定および法改正がなされたことに留意する。本委員会は、しかしながら、子ども・若者育成支援推進法が本条約のすべての範囲をカバーせず、子どもの権利も保障してないこと、および、包括的な子どもの権利法が制定されていないことを懸念する。本委員会は、また、少年司法の領域を含めて、国内法には、本条約の原則および規定と合致しない側面が依然として存在していることに留意する。  

12.  本委員会は、子どもの権利に関する包括的な法律の制定を検討すること、および、本条約の原則と規定に国内法を十全に調和させるための措置を取ることを、締約国政府に強く勧告する。

調整
13.  本委員会は、子どもの権利に関する政策の実施に関係している多くの政府機関、例えば、子ども・若者育成支援推進本部、教育再生会議その他の多様な政府審議会が存在していることに留意する。本委員会は、しかしながら、これらの機関の間の効果的調整、ならびに、中央、地方および地域レベルの間の効果的な調整を確保するための機構が欠如していることを懸念する。  

14.  本委員会は、中央、地方および地域レベルを問わず、子どもの権利を実施するために行われる締約国政府のすべての活動を効果的に調整し、かつ、子どもの権利の実施に関与している市民社会組織との継続的交流と共同体制を確立する明白な権限、および、十分な人的・財政的資源を有する適切な国内機構を設立することを締約国政府に勧告する。

独立した実施監視
14. 本委員会は、本条約の実施を監視するための独立した全国的な仕組み(system)がなんら存在していないことを懸念する。同時に、本委員会は、三つの県(prefectures)において地域オンブズマンが設立されたとの情報および、次期国会に人権委員会の設立に関する法案が提出されるとの情報を歓迎する。法案は法務大臣に対して責任を有する人権委員会を予定しているとの政府代表からの情報に照らし、本委員会は当該機関の独立性を懸念する。さらに、本委員会は、人権委員会が本条約の実施を監視する権限を明示的に与えられていないことを懸念する。

国内行動計画
15.  本委員会は、子ども・若者育成支援推進法(2010年4月)などの多くの個別的措置が取られたことを歓迎し、かつ、すべての子どもの発達を援助し、すべての子どもを十分に尊重するために、関連政府組織の統合を目的とする「子ども・子育てビジョン」および「子ども・若者ビジョン」を策定したことに留意し、関心を払う。本委員会は、しかしながら、本条約のすべての領域をカバーし、特に、子どもの不平等および格差に対応する子どもの権利を基礎にした包括的な子どものための国内行動計画が欠如していることを引き続き懸念する。  

16.  本委員会は、地方当局、市民社会および子どもを含む関連するパートナーとの協議と共同に基づいて、本条約のすべての領域をカバーし、かつ、中期目標と長期目標を備えた子どものための国内行動計画を策定、実施すること、適切な人的、財政的資源を提供すること、その成果を検証する監視機構を設立すること、および、必要な場合には策定された措置の変更調整を行うことを締約国政府に勧告する。本委員会は、特に、行動計画が、収入および生活水準における不平等、ならびに、性、障害、民族的出自、および、子どもが発達し、学習し、責任ある生活に備える機会に影響を与えるその他の要素に基づくさまざまな格差に対応することを勧告する。本委員会は、子どもに関する国連特別総会の成果文書、すなわち、「子どもにふさわしい世界」(2002年)および「中期事業計画」(2007年)を考慮することを締約国政府に勧告する。

独立した監視
17.  本委員会は、国内レベルにおいて本条約の実施を監視するための独立した機構が欠如していることに懸念を表明する。本委員会は、これに関連して、5つの自治体が子どものためのオンブズパーソンを任命しているとの締約国政府からの情報に留意する。本委員会は、しかしながら、その権限、独立性、機能、および効率性を確保するために利用可能な財政その他の資源、ならびに、残念ながら2002年以来懸案となっている人権保護法案によって設立される人権委員会との予想される関係についての情報が欠落していることに遺憾の念を表明する。

18.  本委員会は、締約国政府に以下のことを勧告する。
(a) 人権保護法案を早期に成立させ、国内組織の地位に関する原則(パリ原則)に準拠した国内人権委員会の設立を早めること。本条約の実施を監視し、不服を調査し、かつ、子どもの権利の組織的な侵害を調査する権限を国内人権委員会に与えること。
(b) 次回政府報告において、国内人権委員会およびオンブズパーソンに与えられた権限、機能および資源についての情報を提供すること。
(c) 独立した人権組織に関する本委員会一般的注釈第2号(2002年)を考慮すること。

資源の配分
19.  本委員会は、締約国政府の社会支出がOECD諸国の平均よりも低いこと、近年の経済危機のもとで貧困がすでに増加し、現在では、人口の約15%が貧困であること、ならびに、子どもの幸福【訳注6】および発達のための補助金および手当がそれに対応して増加していないことを深く懸念する。本委員会は、新しい子ども手当制度および後期中等教育授業料を不徴収とする法律を歓迎するものの、中央政府および自治体予算における子どものための予算配分がまったく明らかになっておらず、子どもの生活へのインパクトとの観点から支出を捕捉し、かつ評価することが不可能となっていることを引き続き懸念する。  

20.  本委員会は、以下のことを締約国政府に強く勧告する。
(a) 財政配分が、子どもの権利を実現するという締約国政府の義務を履行できるものとなることを確保するために、子どもの権利の視点から中央および自治体レベルにおける予算を精査すること。
(b) 子どもの権利の優先性を反映した戦略的な予算線 を設定すること。
(c) 財源規模の変化にかかわらず、子どものための優先的予算線【訳注7】を堅守すること。
(d) 政策の成果を指標に基づいてフォローアップするための評価制度を確立すること。
(e) あらゆるレベルにおいて市民社会および子どもとの協議を確保すること。

データ収集
21.  本委員会は、子どもおよびその活動に関する大量のデータが定期的に収集され、かつ、公表されていることを認識している。本委員会は、しかしながら、本条約によってカバーされている領域であっても、貧困の下で生活している子ども、障害を持つ子ども、および日本国籍を持たない子どもの就学率、ならびに、学校における暴力およびいじめなど、データが欠落している場合があることに懸念を表明する。  

22.  本委員会は、権利侵害の危険に直面している子どもに関するデータを収集する努力を強化することを締約国政府に勧告する。締約国政府は、また、本条約の実施において達成された進歩を効果的に監視、評価し、かつ、子どもの権利の領域における政策のインパクトを評価するための指標を開発すべきである。

広報、研修、意識向上
23.  本委員会は、子どもとともに、子どものために【訳注8】 働く専門家、および公衆の本条約に対する意識を向上させるための締約国政府の努力に留意するが、それが十分でないこと、および、本条約の原則と規定を広報する計画が実施されていないことを引き続き懸念する。特に、子どもおよび親に情報をより効果的に普及することが焦眉の急として求められている。本委員会は、また、子どもとともに、子どものために働く専門家の研修が不適切であることを懸念する。

24.  本委員会は、子どもおよび親に本条約に関する情報を普及することを締約国政府に奨励する。本委員会は、子どもとともに、子どものために働くすべての者(教師、判事、弁護士、警察官、メディア関係者、すべてのレベルにおける公務員を含む)のための、子どもの権利を含む人権に関する体系的で継続的な研修プログラムを開発することを締約国政府に要求する。

市民社会との共同
25.  本委員会は、市民社会組織と何回にもおよぶ会合についての締約国政府からの情報に留意するものの、子どもの権利のための政策およびプログラムの開発、実施および評価のすべての段階において重要となる、継続的な共同の実践が、いまだに確立されていないことを懸念する。本委員会は、また、市民社会組織が、本委員会の第2回最終所見のフォローアップに参加していないこと、および、締約国政府第3回報告の作成に当たってその意見を提出する適切な機会が与えられなかったことを懸念する。  

26.  本委員会は、市民社会との共同を強化すること、および、定期報告の作成を含む本条約の実施のすべての段階においてより体系的に市民社会組織を参加させることを締約国政府に奨励する。

子どもの権利と財界
27.  本委員会は、子どもおよびその家庭の生活に民間企業が巨大なインパクトを与えていることに留意し、子どもの幸福【訳注9】および発達に対する企業セクターの社会的および環境的責任に関する政府の規則−もしあれば−に関する情報が欠如していることに遺憾の念を表明する。  

28.  本委員会は、地域社会、特に子どもを、企業活動がもたらす悪影響から保護することを目的として、企業の社会的責任および環境的責任に関する国際準則および国内準則の企業による遵守を確保するために、規則の制定と実施のための効果的な措置を取ることを、締約国政府に奨励する。

国際協力
29.  本委員会は、政府開発援助が依然として巨額であることに留意し、2003年における改定戦略が、貧困減少、持続可能性、安全と平和維持措置を優先していることを歓迎する。本委員会は、しかし、締約国政府が継続的に政府開発援助予算を削減し、GDPの0.7%を政府開発援助に支出するという国際合意からは程遠い0.2%にとどまっていることを懸念する。本委員会は、特に、発展途上国における気候変動に対応するための措置といった特定の目的のための追加的な資源配分、および、アフリカ諸国に対する援助の顕著な増加を除き、政策の全般的な変更を予定していないとの締約国政府の指摘を懸念する。

30.  本委員会は、特に子どもにとって利益となるプログラムと措置への資源配分を増加させることを目的として、国際開発援助政策を再検討することを締約国政府に勧告する。本委員会は、さらに、受領国に対する子どもの権利委員会の最終所見および勧告を考慮することを締約国政府に提案する。

2. 子どもの定義
(本条約第1条)

31.  本委員会は、第2回最終所見において婚姻最低年齢に関する男女の区別(男18歳、女16歳)を撤廃すべきであるとの勧告(CRC/C/15/Add.231, paragraph 22)が示されたにもかかわらず、区別が維持されていることに懸念を表明する。

32.  本委員会は、その立場を再検討し、男女ともに婚姻最低年齢を18歳に引き上げることを締約国政府に勧告する。

3. 一般原則
(本条約第2条、第3条、第6条および第12条)

差別の禁止
33.  本委員会は、いくつかの立法措置が取られたにもかかわらず、法定相続分に関する法律において、婚外子が婚内子と同じ権利を依然として享有していないことを懸念する。本委員会は、また、民族的少数者に属する子ども、日本国籍を持たない子ども、移民労働者の子ども、難民の子どもおよび障害を持つ子どもに対する社会的差別が継続していることを懸念する。本委員会は、男女平等の促進を定めていた教育基本法5条が廃止されたことに対する女性差別撤廃委員会の懸念(CEDAW/C/JPN/CO/6)を重ねて表明する。

34.  本委員会は、締約国政府に以下のことを勧告する。
(a) 包括的な反差別法を制定することおよび、いかなる理由に基づくものであれ子どもを差別するあらゆる法規を廃止すること。
(b) 差別的慣行、特に、女の子、民族的少数者に属する子ども、日本国籍を持たない子ども、および障害を持つ子どもに対する差別的慣行を減少させ、かつ防止するために、意識向上キャンペーンおよび人権教育を含む、必要とされる措置を取ること。

35.  本委員会は、刑法が女性および女の子だけを強姦および関連犯罪の被害者としていること、ならびに、したがってこれらの規定のもとに与えられる保護が男の子に与えられないことを懸念する。  

36.  本委員会は、男の子であれ女の子であれ強姦の犠牲者すべてに同じ保護を与えられることを確保するために刑法改正を検討することを締約国政府に勧告する。

子どもの最善の利益
37.  本委員会は、子どもの最善の利益が児童福祉法において考慮されているとの締約国政府からの情報を承知しているが、1974年【訳注10】に制定されたこの法律には、子どもの最善の利益の第一義性が適切に反映されていないことに留意し、懸念する。本委員会は、特に、すべての子ども(難民および登録されていない移民の子どもを含む)の最善の利益を考慮すべきことが義務付けられておらず、この原則がすべての法律に定型的かつ、体系的に組み入れられていないことを懸念する。

38.  本委員会は、すべての法規、司法的および行政的決定、ならびに、子どもにインパクトを与えるプロジェクト、計画およびサービスにおいて子どもの最善の利益原則が実施され、遵守されることを確保するための努力を継続し、かつ強化することを締約国政府に勧告する。

39.  本委員会は、子どものケアまたは保護に責任を有する施設の多数が、特に、そのスタッフの数および適格性、ならびに、監視およびサービスの質に関して、適切な基準に適合していないとの報告に留意し、懸念する。

40.  本委員会は、締約国政府に以下のことを勧告する。
(a) 公的セクターおよび私的セクターの双方に適用される、子どものケアまたは保護に責任を有する施設の提供するサービスの質および量に関する基準を開発し、かつ規定するための効果的な措置を取ること。
(b) 公的および私的セクターの双方において、基準を厳格に遵守させること。

生命、生存および発達に関する権利
41.  本委員会は、「自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議」を含めて、子ども、特に思春期の子どもの自殺に対応するための締約国政府の努力に留意するが、子どもおよび思春期の子どもによって自殺がなされていること、ならびに、自殺および自殺未遂に関連する危険要因に関する研究が欠如していることを、依然として懸念する。本委員会は、また、子ども施設における事故が、このような施設において安全最低基準が遵守されていないことと関連しているとの情報を懸念する。

42.  本委員会は、子どもの自殺の危険要因に関する研究を行うこと、予防的措置を実施すること、学校にソーシャアルワーカーによるサービスと心理相談サービスを提供すること、および、子どもの指導に関する仕組み【訳注11】が困難な状況にある子どもにさらなるストレスを与えないように確保することを締約国政府に勧告する。本委員会は、また、子どものための施設を備えた機関が、公立であろうと私立であろうと、適切な安全最低基準を遵守することを確保することを締約国政府に勧告する。

子どもの意見の尊重
43.  本委員会は、司法的および行政的手続、学校、児童養護施設、ならびに家庭において子どもの意見が考慮されているとの締約国政府からの情報に留意するが、公的な規則が年齢を高く設定していること【訳注12】、児童相談所を含む子ども福祉サービスにおいて子どもの意見がほとんど考慮されていないこと、学校において子どもの意見が考慮される領域が限定されていること、ならびに、政策策定過程において子どもおよびその意見が省みられることはめったに無いことを、引き続き懸念する。本委員会は、子どもを、権利を持つ人間として尊重しない伝統的な見方が、子どもの意見に対する考慮を著しく制約していることを懸念する。

44.  本委員会は、本条約12条および意見を聞いてもらう子どもの権利に関する本委員会の一般的注釈12号に照らし、学校、およびその他の子ども関連施設、家庭、地域、裁判所、行政組織、ならびに政策策定過程を含むすべての場面において、子どもに影響を与えるすべての事柄について、子どもがその意見を十分に表明する権利を促進するための措置を強化することを締約国政府に勧告する。

4. 市民的権利および自由
(本条約第7条、第8条、第13条ないし第17条、および第37条(a))

出生登録
45.  本委員会は、第2回最終所見(CRC/C/15/Add.231)においても留意されているが、締約国の多くの規則が、移民登録をしていない親など、ある特定の状況にあるためにその子どもの出生を登録できない親のもとに生まれた子どもの出生登録の可能性を制限していることに対する懸念を重ねて表明する。これらの規則により、多くの子どもが登録されず、法的に無国籍な状態とさせられている。

46.  本委員会は、締約国政府に以下のことを勧告する。 (a) すべての子どもの登録を確保し、法的な無国籍から子どもを保護するために本条約7条の規定に従い、国籍法および関係規則を改正すること。 (b) 無国籍者の地位に関する条約(1954年)および無国籍者の削減に関する条約(1961年)の批准を検討すること。

体罰
47.  本委員会は、学校において体罰が明示的に禁止されていることに留意するものの、禁止が実効的に実施されていないとの報告に懸念を表明する。本委員会は、すべての身体罰が禁止されるとしなかった1981年の東京高等裁判所のあいまいな判決【訳注13】に留意し、懸念する。委員会は、さらに、家庭および代替的ケア環境における体罰が法律によって明示的に禁止されていないこと、ならびに、民法および児童虐待防止法が、特に、適切な懲戒の行使を許容し、体罰が許容されるのか否かについて不明確であることを懸念する。

48.  本委員会は、締約国政府に以下のことを強く勧告する。
(a) 家庭および代替的ケア環境を含むすべての状況において、体罰およびあらゆる形態の品位を傷つける子どもの取扱いを法律によって明示的に禁止すること。
(b) すべての状況において体罰の禁止を実効的に実施すること。
(c)  非暴力的な代替的懲戒に関して、家族、教師、および、子どもとともに・子どものために働くその他の専門的スタッフを教育するための、啓発キャンペーンを含む対話プログラムを実施すること。

子どもに対する暴力に関する国連研究のフォローアップ
49.  本委員会は、子どもへの暴力に関する国連事務総長研究(A/61/299)に関して、以下のことを締約国政府に勧告する。
(a) 子どもに対する暴力に関する国連研究の勧告を実施するために、東アジア・太平洋地域会議(バンコク、2005年6月14日から16日)の成果および勧告を考慮して、あらゆる適切な措置を取ること。
(b) 以下の勧告に特に注意し、上記研究に示された子どもに対するあらゆる形態の暴力を廃絶するための勧告を優先的に実施すること。
(i) 子どもに対するあらゆる形態の暴力を禁止すること
(ii) 子どもとともに・子どものために働くすべての者の能力を向上させること。
(iii) 子どもの回復および社会再統合サービスを提供すること
(iv) 子どもが利用でき、かつ、子どもに優しい通報システムとサービスを創設すること。
(v) 説明責任を確保し、免責を廃止すること。
(vi) 体系的な国内データ収集および研究を開発し、実施すること。
(c) すべての子どもがあらゆる形態の身体的、性的および精神的暴力から保護されることを確保するための道具として、また、このような暴力および虐待を防止し、それらに応答するための具体的かつ、適当な場合には、期限を定めた行動を活性化させるための道具として、これらの勧告を、市民社会とのパートナーシップに基づいて、特に、子どもの参加に基づいて用いること。
(d) 次回定期報告において、締約国政府による上記研究の勧告の実施に関する情報を提供すること。
(e) 子どもに対する暴力に関する国連事務総長特別広報官と協力し、それを支援すること。

5. 家庭的環境および代替的養護
(本条約第5条、第18条第1項・第2項、第9条ないし第11条、第19条
ないし第21条、第25法、第27条第4項および第39条)

家庭環境
50.  本委員会は、日本社会において家族的価値の重要性がゆるぎないものであることを認識しながらも、親子関係の荒廃が、子どもの情緒的および心理的幸福度【訳注14】に否定的な影響を与え、その結果子どもの施設収容さえも招いているとの報告を懸念する。本委員会は、これらの問題は、老人介護と子どもの養育との狭間での葛藤、ならびに、学校における競争、仕事と家庭生活との非両立性、および、特にひとり親家庭を直撃している貧困などの要因に起因する可能性のあることに留意する。

51.  本委員会は、養育責任を果たす家庭の能力を確保するために、男性および女性の双方について仕事と家庭生活との適切なバランスを助長すること、親子関係を強化すること、および、子どもの権利に関する意識の向上を含む、家庭を援助し強化するための措置を導入することを締約国政府に勧告する。本委員会は、さらに、不利な状況下に置かれた子どもと家庭に対して社会サービスを優先し、適切な財政的、社会的、心理的援助を提供すること、および、子どもの施設収容を防止することを勧告する。

親のケアを受けていない子ども
52.  本委員会は、親のケアを受けていない子どものための家庭を基礎とする代替的なケアに関する政策が欠如していること、家庭から引き離されてケアを受ける子どもの数が増加していること、小規模グループおよび家庭タイプのケアを提供するための努力にもかかわらず、多くの施設において基準が不適切であること、および、代替的なケアのための施設において子どもの虐待が蔓延していると伝えられていることに留意し、懸念する。本委員会は、これに関連して、不服申立手続が創設されたにもかかわらず、残念ながらそれが広く実施されていないことを懸念する。本委員会は、里親の研修が義務化され、手当が増加したという事実を歓迎するが、一定類型の里親には財政的な支援がなされていないことを懸念する。

53.  本委員会は、18条に基づいて以下のことを締約国政府に勧告する。
(a) 里親または居住型ケアにおける小規模グループなどのように、家庭に類似した環境のもとで子どもにケアを提供すること。
(b) 里親ケアを含む代替的ケアの質を定期的に監視すること、および、すべてのケアが適切な最低基準に合致することを確保するための措置を取ること。
(c) 代替的ケアのもとでの子ども虐待に責任を有する者を調査し、訴追すること。虐待の犠牲者が不服申立手続、カウンセリング、医療的ケアおよびその他の適切な回復のための援助を利用することを確保すること。
(d) すべての里親への財政的援助の提供を確保すること。
(e) 子どもの代替的養護に関する国連ガイドライン(参照、国連総会決議64/142)を考慮すること。

養子
54.  本委員会は、養親または養親の配偶者の直系卑属の子どもの養子縁組が司法の監視または家庭裁判所の許可なくして行われることに留意し、懸念する。本委員会は、さらに、外国において養子縁組された子どもの登録の欠如を含めて、国際養子縁組の適切な監視が欠如していることを懸念する。

55.  本委員会は、締約国政府に以下のことを勧告する。
(a) すべての養子縁組が裁判所の許可に服すること、子どもの最善の利益に合致すること、および、養子縁組されたすべての子どもが登録されることを確保するための措置を取り、実効的に実施すること。
(b) 国際養子縁組に関する子どもの保護および協力に関するハーグ条約33号(1993年)の批准を検討すること。

児童虐待および遺棄
56.  本委員会は、虐待防止のための機構を創設し、それを実施する児童虐待防止法および児童福祉法の改正などの措置を歓迎する。本委員会は、しかしながら、民法における「親権」という概念が「包括的支配」権を親に与えていることにより、また、親が子どもに不適切な期待をかけていることにより、子どもが家庭において暴力の危険性にさらされていることを依然として懸念する。本委員会は、児童虐待が継続的に増加していることに留意し、懸念する。

57.  本委員会は、児童虐待問題に対応する現在の努力を、以下のことを含めて、一層強化することを締約国政府に勧告する。
(a) 虐待および遺棄の否定的な影響についての公衆向けの教育プログラム、および家庭向上プログラムを含む予防的プログラムを実施し、建設的にして非暴力的な形態の懲戒を促進すること。
(b) 家庭および学校において虐待の犠牲となった子どもに適切な保護を提供すること。

6. 基礎的保健および福祉
(本条約第6条、第18条第3項、第23条、第24条、第26条、
および、第27条第1項ないし第3項)

障害を持つ子ども
58.  本委員会は、締約国政府が、障害を持つ子どもを援助し、学校における共同的な学習を含む社会的参加を促進し、かつ、その自律を発展させるために、法律を制定し、サービスおよび施設を設立したことに留意する。本委員会は、根深い差別が依然として存在すること、および、障害を持つ子どものための措置が注意深く監視されていないことを依然として懸念する。本委員会は、また、障害を持つ子どもの、必要な施設および設備を整備するための政治的意思や財資源が欠如してることにより、教育へのアクセスが制限され続けていることに留意し、懸念する。

59.  本委員会は、以下のことを締約国政府に勧告する。
(a) 障害を持つすべての子どもを十全に保護するために法改正や法制定を行うこと。達成された進歩を注意深く記録し、実施における問題点を特定する監視システムを設立すること。
(b) 障害を持つ子どもの生活の質の向上、その基礎的ニーズの充足、および、インクルージョンと参加の確保に焦点をおいた、地域を基盤とするサービスを提供すること。
(c) 既存の差別的態度と闘い、かつ、障害を持つ子どもの権利および特別なニーズを公衆に理解させるために、意識喚起キャンペーンを実施すること。障害を持つ子どものインクルージョンを助長し、かつ、子どもおよび親の、意見を聞いてもらう権利の尊重を促進すること。
(d) 障害を持つ子どものために、適切な人的、財政的資源を伴うプログラムおよびサービスを提供するためのすべての努力を行うこと。
(e) 障害を持つ子どものイクルージョン教育のために必要とされる設備を学校に整備すること。障害を持つ子どもが希望する学校を選択し、その最善の利益に応じて、普通学校と特別学校との間を移動できることを確保すること。
(f) 障害を持つ子どものために、障害を持つ子どもとともに働いているNGOに援助を提供すること。
(g) 教師、ソーシャアルワーカー、保健・医療・セラピー・ケア従事者など、障害を持つ子どもと働く専門的スタッフに研修を実施すること。
(h) 関連して、障害を持つ者の機会の平等化に関する国連標準規則(General Assembly resolution 48/96)および障害を持つ子どもの権利に関する本委員会の一般的注釈9号(2006年)を考慮すること。
(i) 障害を持つ者の権利に関する条約(署名済み)およびその選択議定書(2006年)を批准すること。

精神的健康
60.  本委員会は、驚くべき数の子どもが情緒的幸福度【訳注15】の低さを訴えていることを示すデータ、ならびに、その決定要因が子どもと親および子どもと教師との間の関係の貧困さにあることを示すデータに留意する。本委員会は、また、発達障害支援センターにおいて注意欠陥多動性症候群(ADHD)に関する相談件数が増加していることに留意する。本委員会は、ADHDの治療に関する研究および医療専門家への研修の開始を歓迎するが、この症状が主として薬物によって治療されるべき生理学的障害とみなされていること、および、社会的決定要因に対して適切な考慮が払われていないことを懸念する。

61.  本委員会は、あらゆる環境における実効的な援助を確保する学際的アプローチにより、子どもおよび思春期にある子どもの情緒的および心理的幸福度【訳注16】の問題に対応するための実効的な措置を取ることを締約国政府に勧告する。本委員会は、また、ADHDの数量的傾向を監視すること、および、薬品産業から独立してこの領域における研究が実行されることを確保することを締約国政府に勧告する。

健康サービス
62.  本委員会は、学校の期待する行動を取らない子どもが児童相談所に送致されていることを懸念する。本委員会は、子どもの意見を聞いてもらう権利および子どもの最善の利益に対する考慮をどのように実現するのかを含む、児童相談所の専門的な対応基準についての情報が欠落していることを懸念し、また、成果に関する利用可能な体系的評価がないことに遺憾の念を表明する。63.  本委員会は、子どもの指導に関する仕組み【訳注17】、および、リハビリ成果の評価を含むその作業方法について独立した調査を行うこと、ならびに、次回政府報告においてこの調査の結果に関する情報を提供することを締約国政府に勧告する。

HIV/AIDS
64.  本委員会は、HIV/AIDSおよびその他の性感染症の感染率が増加していること、ならびに、これらの健康問題についての思春期の子どもへの教育が貧弱であることに懸念を表明する。

65.  本委員会は、締約国政府が、思春期の子どもの健康と発達に関する本委員会の一般的注釈4号(2003年)を考慮して、性と生殖に関する健康についての教育を学校のカリキュラムに導入すること、10代の妊娠とHIV/AIDSを含む性感染症の予防を含む、性と生殖に関する健康に関する権利を思春期の子どもに十全に知らせること、および、HIV/AIDS、その他の性感染症を予防するためのすべてのプログラムへの思春期の子どもの容易なアクセスを確保することを、締約国政府に勧告する。

適切な生活水準に関する権利
66.  本委員会は、2010年4月より、すべての子どもを対象とするより優れた子ども手当制度が実施されているとの情報を締約国政府との対話において得たが、この新しい措置が、ひとり親家庭、特に、母子家庭の援助のために生活保護法のもとで取られてきた措置およびその他の措置以上に、貧困のもとで暮らす人々の割合(15%)をより実効的に減少させるものであるかどうかを評価するための利用可能なデータはない。本委員会は、経済政策および財政政策(例えば、民営化政策および労働規制緩和)が、給与カット、男女間賃金格差、ならびに、子どもの保育および教育に関する私費負担の増加をもたらし、親、特に、シングルの母親に影響を与えることを懸念する。

67.  本委員会は、貧困の複雑な決定要因、子どもの発達に関する権利、および、ひとり親家庭を含むすべての家庭に保障されるべき生活水準に関する権利を考慮し、貧困削減戦略の策定を含めて、子どもの貧困を根絶するために適切な資源を配分することを締約国政府に勧告する。本委員会は、また、子どもの養育責任を有しているがゆえに、親にとって労働規制緩和および労働の柔軟性などの経済政策に対処することが困難であることを考慮すること、ならびに、提供された財政的およびその他の支援が子どもの幸福【訳注18】および発達に不可欠な家庭生活を保障するに足ものであるかどうかを注意深く監視することを締約国政府に要求する。

養育費の回収
68.  本委員会は、養育費の回収の促進を目的とする2004年における民事執行法改正に留意するものの、日本から出国した親を含め、離別または離婚した親の多く、ほとんどは父親、がその扶養義務を履行していないこと、および、未払いの養育費を徴収するための既存の手続が適切でないことを懸念する。-

69.  本委員会は、締約国政府に以下のことを勧告する
(a) 婚姻関係の有無に関わらず双方の親が子どもの扶養に平等に貢献すること、および片方の親がその義務を履行しない場合に扶養義務が実効的に履行されることを確保する既存の法律および措置の実施を強化すること。
(b) 義務を履行していない親の扶養義務を代わりに履行し、適切な民事または刑事手続により、未払い養育費を事後に徴収する国家基金といったような、新たな機構を創設し、それを通して養育費の回収を確保すること。
(c) 親責任および子どもの保護措置についての管轄、準拠法、承認、執行および協力に関するハーグ条約34号(1996年)を批准すること。

7. 教育、余暇および文化的活動
(本条約第28条、第29条および第31条)

教育、職業訓練および指導を含む
70.  本委員会は、日本の学校制度が並外れて優れた学力を達成していることを認識しているものの、学校および大学の入学をめぐって競争する子どもの数が減少しているにもかかわらず、過度な競争への不満が増加し続けていることに留意し、懸念する。本委員会は、また、高度に競争主義的な学校環境が、就学年齢にある子どもの間のいじめ、精神的障害、不登校・登校拒否、中退および自殺に寄与しうることを懸念する。

71.  本委員会は、学力的な優秀性と子ども中心の能力形成【訳注19】を結合し、かつ、過度に競争主義的な環境が生み出す否定的な結果を避けることを目的として、大学を含む学校システム全体【訳注20】を見直すことを締約国政府に勧告する。これに関連して、締約国政府に、教育の目的に関する本委員会の一般的注釈1号(2001)を考慮するよう奨励する。本委員会は、また、子ども間のいじめと闘うための努力を強化すること、および、いじめと闘うための措置の開発に当たって子どもの意見を取り入れることを締約国政府に勧告する。

72.  本委員会は、中国、北朝鮮およびその他の出自の子どものための学校への財政補助が不十分であることを懸念する。本委員会は、また、これらの学校の卒業生が日本における大学入学試験を受ける資格を持たないことを懸念する。

73.  本委員会は、日本人のためでない学校への補助金を増額すること、および、大学入学試験へのアクセスが非差別的なものとなることを確保することを締約政府に奨励する。教育における差別の禁止に関するUNESCO条約の批准を検討することを締約国政府に奨励する。

74.  本委員会は、日本の歴史教科書が、歴史的事実に関して日本政府による解釈【訳注21】のみを反映しているため、アジア・太平洋地域における国々の子どもの相互理解を促進していないとの情報を懸念する。

75.  本委員会は、アジア太・平洋地域における歴史的事実についてのバランスの取れた見方が検定教科書に反映されることを確保することを、締約国政府に勧告する。

遊び、余暇、および文化的活動
76.  本委員会は、子どもの休息、余暇および文化的活動に関する権利について締約国政府の注意を喚起する。公的場所、学校、子どもに関わる施設および家庭における、子どもの遊びの時間およびその他の自主的活動【訳注22】を促進し、容易にする先導的取り組みを支援することを締約国政府に勧告する。

8. 特別保護措置
(本条約第22条、第37条(b)ないし(d)
および第32条ないし第36条、第38条、第39条、第40条)

保護者に伴われていない難民の子ども
77.  本委員会は、犯罪行為の疑いがない場合であっても、難民申請をしている子どもを収容する慣行が広く行われていること、および、保護者に伴われていない難民申請をしている子どもをケアするための機構が確立されていないことに懸念を表明する。

78.  本委員会は、締約国政府に以下のことを勧告する。
(a) 難民申請をしている子どもの収容を防止し、入管収容施設から難民申請をしているすべての子どもを即時に解放し、かつ、彼らにシェルター、適切なケア、および教育へのアクセスを提供するために、公的な機構を設立することを含めて即時的な措置を講じること。
(b) 公正かつ子どもに配慮した難民認定手続のもとで、子どもの最善の利益が第一義的に考慮されることを確保すること。保護者に伴われていない子どもの難民申請手続の進行を早めること。保護者および法的代理人を任命すること。親およびその他の親戚を追跡すること。
(c) 子どもの最善の利益の公的決定に関する国連難民高等弁務官ガイドラインおよび難民の子どもの保護とケアに関する国連難民高等弁務官ガイドラインを含む、難民保護の領域における国際準則を尊重すること。

人身取引
79.  本委員会は、人身取引【訳注23】を犯罪化した2005年7月の刑法改正および2009年人身取引対策行動計画を歓迎する。本委員会は、しかしながら、この行動計画に割り当てられた資源に関する情報、調整機関および監視機関に関する情報、ならびに、人身取引、特に子どもの取引に対する措置の効果についての情報が欠落していることに留意する。

80.  本委員会は、締約国政府に以下のことを勧告する。
(a) 人身取引、特に子ども取引に対応するための措置の実効的監視を確保すること。
(b) 人身取引の犠牲者への身体的および心理的回復のための援助を確保すること。
(c) 行動計画の実施に関する情報を提供すること
(d) 国際組織犯罪に関する国連条約を補充する人身取引、特に、女性および子どもの取引の予防、鎮圧および処罰に関する選択議定書(2000年)を批准すること。

性的搾取
81.  本委員会は、第2回政府報告審査の後に示された、買春を含む子どもの性的搾取の増加への懸念を重ねて表明する。

82.  本委員会は、子どもの性的搾取に関する事件を捜査し、性的搾取を犯した者を訴追する努力を強化すること、および、性的搾取の犠牲者にカウンセリングその他の回復のための援助を提供することを締約国政府に勧告する。     少年司法の運用

83.  本委員会は、締約国政府の第2回報告審査に基づいて2004年2月に表明した、2000年の少年法改正がかなり厳罰主義的なアプローチを採用し、非行少年の権利および司法的保障を制限したことに対する懸念を重ねて表明する。特に、刑事処分可能年齢【訳注24】の16歳から14歳への引き下げにより、教育的措置の可能性が減じ、14歳から16歳までの多くの子どもが刑務所【訳注25】収容にさらされている。重大な罪を犯した16歳以上の子どもは刑事裁判所に送致されうる。観護措置【訳注26】は4週間から8週間に延長された。素人裁判官制度である新しい裁判員制度は、専門の少年裁判所による少年犯罪者の処遇の障害となっている。

84.  本委員会は、さらに、成人用の刑事裁判所に送致された子どもの数が顕著に増加していることを懸念するとともに、弁護士へのアクセス権を含む、法に抵触した子どもに対する手続保障が体系的に実施されておらず、特に、自白の強要および違法な捜査活動という結果をもたらしていることを遺憾に思う。本委員会は、また、少年矯正施設における収容者への暴力が高い水準であること、および起訴前勾留において少年が成人と一緒に勾留される可能性を懸念する。

85.  本委員会は、少年司法における子どもの権利に関する本委員会の一般的注釈10号を考慮しながら、少年司法システムを、本条約、特に、37条、40条および39条、ならびに、少年司法運営に関する国連最低基準規則(北京ルールズ)、少年非行防止に関する国連ガイドライン(リヤド・ガイドライン)、自由を奪われた少年の保護に関する国連規則(ハバナ・ルールズ)、および、刑事司法システムにおける子どもに関する行動についてのウィーン・ガイドラインを含む少年司法の領域における国連準則に合致させることを目的として、少年司法システムの機能を見直すことを締約国政府に要求する。本委員会は、特に、以下のことを締約国政府に勧告する。
(a) 子どもを刑事司法システムに接触させる社会的条件を廃絶するために、家庭および地域の役割を援助することなど、予防的措置を取ること。後の烙印を回避するためにあらゆる可能な措置を取ること。
(b) 刑事処分可能最低年齢に関する法律【訳注27】を見直し、以前の16歳までに引き上げることを検討すること。
(c) 刑事責任年齢未満の子どもが、刑事犯罪者として取り扱われたり、矯正施設に送られないことを確保すること。法に抵触した子どもが常に少年司法システムにおいて取り扱われ、専門裁判所でない裁判所において成人として裁判にかけられないことを確保すること。このために、裁判員制度の見直しを検討すること。
(d) 既存の法律扶助制度の拡大などにより、すべての子どもが手続のあらゆる段階において法的およびその他の援助を提供されることを確保すること。
(e) 例えば、保護観察、和解、地域奉仕命令、自由刑の執行猶予など、可能な場合には常に、自由の剥奪に代わる措置を実施すること。
(f) 公判前および公判後の自由の剥奪が、最終的手段として、可能な限り短期間用いられることを確保すること。自由の剥奪が、その回避を目的として、定期的に見直されることを確保すること。
(g) 自由を剥奪された子どもが、成人と一緒に勾留・収容されないこと、および公判前の身柄拘禁中を含めて、教育へアクセスすることを確保すること。
(h) 少年司法システムに関わるすべての専門家に対して関連する国際準則についての研修を確保すること。

少数者および先住民族に属する子ども
86.  本委員会は、アイヌの状況を向上させるために締約国政府によって取られた措置に留意するものの、アイヌ、朝鮮・韓国人、部落出身者、およびその他の少数者の子どもが、社会的および経済的に疎外体験を継続していることを懸念する。

87.  本委員会は、民族的少数者に属する子どもに対する、生活のあらゆる領域における差別を撤廃するために必要な法的その他の措置を取ること、および、本条約において提供されているあらゆるサービスと援助への平等なアクセスを確保することを締約国政府に要求する。

9. フォローアップおよび広報

フォローアップ
88.  本委員会は、本勧告が十全に実施されることを確保するためのあらゆる適切な措置を取ること、特に、本勧告を、適切な検討および更なる行動のために、最高裁判所、内閣、および国会の構成員、ならびに可能な場合には、地方自治体に配布することを締約国政府に勧告する。

最終所見の広報
89.  本委員会は、さらに、本条約、その実施および監視に対する意識を向上させるために、第3回政府報告、締約国政府の提出した文書回答、および本最終所見が、公衆一般、市民社会組織、メディア、若者グループ、専門家団体、および子どもに、自国における諸言語を用いて、インターネットも含め、広く利用可能とされるよう勧告する。

次回報告
90.  本委員会は、2016年5月21日までに、第4回・第5回統合報告を提出することを締約国政府に要請する。この報告は120ページを超えるべきではなく(CRC/C/118)、本最終所見の実施に関する情報を含むべきである。

91.  本委員会は、また、2006年6月に、第5回人権条約機関間会議において承認された報告に関する統一ガイドライン(HRI/MC/2006/3)に示された共通コア文書の要件に従って、最新のコア文書を提出することを締約国政府に要請する。

(福田雅章・世取山洋介訳 2010年10月25日現在)


◆訳 註

【訳注1】日本の刑法において禁止されたのは「人身売買」であるが、traffickingが通常「取引」と訳されているので、ここでは「人身取引」と訳出した。

【訳注2】 教育基本法(以下、教基法)が改正されたのは2006年なので、2010年との記述は誤りである。

【訳注3】新教基法を「留意し、評価する」との記述には相当に違和感を覚えることと思う。しかし、国連子どもの権利委員会が新教基法を「評価した」と受け止めるべきではない。さまざまな法改正例の一つとして新教基法が挙げられてしまったために、他の法改正と同様に「留意し、評価する」との表現が用いられたに過ぎない。また、パラグラフ71では、権利条約29条に規定された教育の目的に従って公教育制度全体の見直しを行うことが勧告されており、子どもの権利委員会が、新教基法の制定を含めて日本の教育政策全体を批判的に見ていることが示されている。訳注20も参照のこと。

【訳注4】2004年12月の誤りである。

【訳注5】参議院厚生労働委員会が採択したもの。

【訳注6】「幸福」の原語はwell-beingである。この用語は、19パラグラフのほかに、27、50、60、61、67パラグラフにおいても用いられている。福祉領域ではウェルビイングとそのままカタカナに訳すのが一般的となっているが、「幸福」と訳出したのは、<精神的および物質的に充足された状態>というwell-beingが有している本来の意味をはっきりと表現するためである。例えば、50パラグラフではthe emotional and psychological well-beingという形で用いられ、精神的な充足度という意味になっている。本翻訳では、「幸福」という訳語を用いることとし、適宜「幸福度」と訳出した。

【訳注7】「予算線」の原語はbudget linesである。予算線とは「予算制約式を、財・サービスの消費量と財価格のグラフ上に描いた直線」(ウィキペディア)のことである。予算制約式とは、持っている金銭の総量を上限として、複数の財を消費することのできる量を示した式のことである。例えば、2つの財xとyを仮定し、これらの財の価格をそれぞれPx、Py、これらの財を買う量をそれぞれX、Y、持っている金銭の量をMとすると、予算制約式はPx X + Py Y=Mとなる。これをグラフに描いたのが予算線である。「子どもの権利の優先性を反映した戦略的な予算線」を設定するためには二つのことが求められる。一つは、子どもの権利のための財(x)につき、その価格(Px)、買うべき量(X)、買うために必要な金銭の総量(Mx)を確定すること。すなわち、ニーズに基づいた予算策定である。子どもに関連する公費支出の総量を対GDP比で設定しても、それが子どものニーズに基づいて設定されていないのであれば、このパラグラフの要請に応えたことにならない。もう一つは、子どもの権利のための財のために消費する金銭の総量(Mx)と、子どもの権利に関係のない財(y)のために消費する金銭の総量(My)とを加えた額が予算の総量(M)を超える場合(M<Mx+My)には、前者(Mx)を後者(My)に優先すること、さらには、優先させるためのルールを設定することである。

【訳注8】「子どもとともに、子どものために」の原語は、with and for (またはfor and with) children であり数カ所で用いられているが、本翻訳では「子どもとともに、子どものために」と言う表現で統一した。子どもとの関わりが、いずれか一方の場合と両方の場合が共に含まれる。

【訳注9】訳注6参照。

【訳注10】1947年の誤りである。

【訳注11】 「子どもの指導に関する仕組み」の原語はchild guidance systemである。今回の審査において、問題に直面した子どもに対する援助全体を通じて、その基礎に存在している「子どもに対する指導」という概念の問題点が鋭く指摘されていた。子どもの指導に関する仕組みとは、児童相談所だけではなく、警察による相談活動や学校におけるスクールカウンセラーなど、問題を抱えた子どもに援助を提供するさまざまな仕組みも含まれている。

【訳注12】 例えば、家事審判規則54条は、子どもが「満15歳以上」である場合に限って、子どもの監護に関する決定を行う前に子どもから意見を聴取すべきことを家庭裁判所に義務付けているに過ぎない。

【訳注13】 ここで言及されているのは、いわゆる水戸五中事件に関して、東京高裁が1981年4月1日に示した判断である。この判決は、「生徒の好ましからざる行状についてたしなめたり、警告したり、叱責したりするときに、単なる身体的接触よりもやや強度の外的刺激(有形力の行使)を生徒の身体に与えること」を「学校教育上の懲戒行為としては一切許容されないとすることは、本来学校教育法の予想するところではない」とした。本パラグラフがこの判決に言及したのは、文科省が、「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(通知)」(18文科初第1019号)(2007年2月5日)において、この判決を根拠にして法禁される体罰の範囲を曖昧にしたからであると考えられる。最高裁は、2009年4月28日に、児童「を追い掛けて捕まえ,その胸元を右手でつかんで壁に押し当て、大声で『もう、すんなよ。』と叱った」ことが、「教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく、学校教育法11条ただし書にいう体罰に該当するものではない」との判断を示している。本パラグラフはこの最高裁判決に言及していないが、法禁される体罰の範囲を曖昧にするものであることには変わりはないので、この判決もまた懸念の対象となっているものと読まれるべきである。

【訳注14】訳注6参照。

【訳注15】訳注6参照。

【訳注16】訳注6参照。

【訳注17】訳注11参照。

【訳注18】訳注6参照。

【訳注19】「子ども中心の能力形成」の原語はchild-centered promotion of capacitiesである。

【訳注20】 「大学を含む学校システム全体」の原語は、the school and academic systemである。これを直訳すれば「学校および大学制度」あるいは「学校制度および大学制度」となる。しかし、このパラグラフが、子どもの人格の完成という教育の第1目的に基づいて、初等中等教育システムと大学システムの双方の見直しを勧告していることをはっきりさせるために、本文のように訳出した。意訳をすれば「幼稚園から大学に至る学校システム全体」となろう。

【訳注21】 「日本政府による解釈」の原語はJapanese interpretationである。「日本の解釈」と訳出しなかったのは、検定を経た教科書に示されている解釈は、文科省のそれであるという事実をはっきりさせるためである。

【訳注22】 「子どもの遊び時間およびその他の自主的活動」の原語は、children's play-time and other self-organized activitiesである。

【訳注23】 訳注1参照。

【訳注24】 「刑事処分可能年齢」の原語はthe age of criminal responsibilityである。「刑事責任年齢」と訳出しなかったのは、2000年少年法改正によって16歳から14歳に引き下げられたのは刑事処分可能年齢であり、刑法はその制定以来一貫して刑事責任最低年齢を14歳と規定している、という事実を反映させるためである。

【訳注25】 「刑務所」の原語は、correctional centersである。「矯正施設」と訳出しなかったのは、刑事処分可能年齢の引き下げにより、より低年齢の子どもが刑事罰を受け、法律上刑務所に収容されうるようになったことをはっきりと表現するためである。

【訳注26】 「観護措置」の原語はpre-trial detentionである。「公判前勾留」と訳出せず、「観護措置」と狭く訳出したのは、2000年改正において4週間から8週間に延長されたのが「観護措置」であることを踏まえてのことである。

【訳注27】 「刑事処分最低年齢に関する法律」の原語はits legislation in relation to the minimum age of criminal responsibilityである。「刑事責任最低年齢」と訳出しなかった理由は、訳注24を参照のこと。

以上

 



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