消費税の非課税に関する取扱い

Updated:'03/04/06

1.公開の趣旨

筆者が消費税を担当することとなってから,かれこれ10年以上が経過しようとしています。その間,当社自身の税務調査や子会社の税務調査などもありました。ウチの会社で取扱う製品の中には消費税が非課税のものがあるのですが,世の中には非課税物品を扱う会社そのものがそれほど多くないようで,子会社の調査をする税務署員はもちろんのこと,担当の税理士や国税局の調査官ですら非課税の取扱いに関して知識が乏しく,かえって調査作業に支障を来たしたり,「更正」に関しても誤った決定をされて混乱したこともあります。
このような状況から察すると,他の非課税物品を扱うお会社の中でも,しばしば処理に戸惑うことがあるのではないかと思ったのとともに,ネットを検索しても非課税の取扱いについて言及しているHPも見付かりませんでしたので(実際にあったら,ごめんなさい(笑)),私が知る限りのことを公開してみようと思いました。
なお,非課税の取扱いを説明するに当たって,消費税のしくみなり考え方なりが分からないと,読んでも何を言ってるのか理解し難いと思いましたので,最初に簡単な説明を加えております。

2.このホームページの取扱い

筆者は,資格を持った税理士でもなければ公認会計士でもありません。したがって,ここで記述した内容を参考として頂きたいとは思いますが,ここの記述内容をそのまま引用または根拠としての税務当局他との一切の交渉は固くお断りいたします。万が一,引用したことによって紛争・損害等が生じても,筆者は一切の責任を持ちません。
それぞれの記述に際し,敢えて根拠となる法令等も附しましたので,それをご検討の上ご参照ください。
また,著作権はこの筆者に帰属しますので,無断での引用も固くお断りいたします。このページにリンクして頂けるのは大歓迎ですが,もしリンク頂ける場合は,2つある掲示板のいずれかお好みの方にお書込みください。記述内容に誤りがあった場合にも,同様にお知らせ頂ければ幸いです。

3.凡例

法 ………… 消費税法
令 ………… 消費税法施行令
規則 ……… 消費税法施行規則
法令 ……… 法人税法施行令

以上は,総務省の法令データ提供システム から参照できます。

通達 ……… 消費税法基本通達
消法通 …… 消費税法の施行に伴う法人税の取扱いについて(平成元年3月1日)

以上は,国税庁の法令解釈通達目次 部分から参照できます。

中間報告 … 消費税の会計処理について(中間報告)(平成元年1月18日 日本公認会計士協会 消費税の会計処理に関するプロジェクトチーム)

4.目次

T.消費税の課税対象
1.国内取引
2.外国貨物
U,税率
V.納税義務の免除
1.国内取引の場合
2.輸入取引の場合
W.事業者の申告・納付
X.端数処理
Y.簡易課税制度
Z.非課税物品を取扱う場合の消費税の概要
1.非課税物品等の指定の仕方
2.非課税物品の部分品を仕入れた場合の消費税の取扱い
3.仕入れに係る消費税額の控除
4.課税売上割合の計算方法
5.消費税の経理方式と控除対象外消費税の取扱い
6.損金に算入されない資産に係る控除対象外消費税の取扱い
7.「交際費」に係る控除対象外消費税の取扱い
8.「貸倒れ」に係る控除対象外消費税の取扱い
\.後記(これまでのエピソード)
1.消費税の立法当初
2.その後の動き
3.最近の税務行政
4.課税売上割合に準ずる割合
5.「免税物品」を設けないのは?

T.消費税の課税対象(法第4条)
1.国内取引(第1項)
@ 国内において
A 事業者が事業として
B 対価を得て行う
C 資産の譲渡等(資産の譲渡・貸付け,役務の提供)
したがって課税の対象(不課税)となるのは,例えば,
@で言うと,日本の商社が外国にある物を日本以外の国へ売る場合
Aで言うと,個人どうしで行う不動産の売買
Bで言うと,ダダで物をあげたり貸したりした場合
Cで言うと,保険料・保険金,賠償金,配当金,権利金,敷金,保証金など   
2.外国貨物(第2項)
@ 税関などの保税地域から引き取られる
A 外国貨物
さまざまな場面で,課税か不課税か判断しなくてはならない場面に当たると思いますが,この基本を理解しておくと,答えが出ることが多いはずです。

U.税率
1.消費税法による「消費税」の税率は100分の4(法第29条)。つまり4%。
2. 消費税」の100分の25(地方税法第72条の83),つまり4%×25%で1%が地方消費税。なお,消費税法上は「地方消費税」と言いますが,地方税法では「譲渡割」という言い方をします。
1.と2.で,合計5%が一般的に言われる税率です。

V.納税義務の免除
1.国内取引の場合
「T.」で述べたように,事業者であれば個人事業者であろうと法人であろうと納税をする義務がありますが,納税事務の負担を軽減するという意味合いから,基準期間(※注)課税売上額が1,000万円(平成16年3月31日以前は3,000万円)以下の小規模事業者の場合は,納税義務を免除されます(法第9条第1項)。したがって,客先から預かった消費税は,その事業者の収益ということになります。 但し,免税事業者の適用を受けない旨の届出書を管轄の税務署長に提出した場合は,届け出た翌年度から,課税事業者となることも出来ます(同条第4項)。課税事業者として申告した方が,消費税の還付を受けられるなど有利な場合が考えられるでしょう。

(※注) 基準期間」とは(法第2条第1項第14号)
よく勘違いされ易いのですが,課税売上額が1,000万円(平成16年3月31日以前は3,000万円)以下かどうか,また後で出て来る「簡易課税制度」の適用を受けられる5,000万円(平成16年3月31日以前は2億円)以下かどうかの判定は,その申告をしようとする年度の課税売上高で行うのではありません。簡単に言えば,前々年度の課税売上額により判定することとされていますので,この点は間違いのないよう十分に理解してください。この前々年度の期間のことを「基準期間と言います。したがって,新設した会社は最初の2年度目までは基準期間が存在しませんので,消費税を納税する義務はありません。
しかし,資本金が1,000万円以上である場合は,この第9条第1項の適用はありませんから(法第12条の2),その年度の課税売上額にも何にも拘わらず,設立初年度から消費税を納税する義務を負います。また,3年度目以降の基準期間の課税売上額に関し,設立初年度が1年に満たない場合は,1年分に換算して課税売上額を判定します(法第9条第1項第2号)。

2.輸入取引の場合
輸入取引の場合は国内取引のような免税規定がないため,金額に拘わらず,また事業者であろうが個人であろうが納税をする義務があります。かと言って,自分でいちいち納税するような煩わしいこともなく,実際は通関業者(運送屋など)から貨物を受け取る時に,消費税を支払うことになります。

W.事業者の申告・納付
消費税法においては,「事業者が,国内において課税仕入れを行った場合,課税標準額に対する消費税額から課税仕入れに係る消費税額を控除する」こととされています(法第30条第1項)。簡単に言うと,「受け取った(預かった)消費税」から「支払った消費税」を差し引いた残りを税務署に納めることになります。
また申告書の書き方としては,税率4%の世界で計算が進みます。プラス1%の地方消費税が出て来るのは,国税のいわゆる「消費税額」が確定した後,単純にその「消費税額」に25%を掛けるだけです。どうも,「消費税は5%」と思い込んでいるので,申告書を作成する際も,ついついい5%で考えてしまうことがありがちですから,ご注意ください。
なお地方消費税は,「消費税」と合わせて税務署に納めることになっており(もちろん,銀行で納付するのでも構いませんが),地方税であるからと言って別途県税事務所などに納める必要はありません

X.端数処理
申告書では,課税売上額あるいは課税仕入額に税率を掛けて消費税額を計算するようになっていますが,その事業者が取引の都度税抜き処理をしていた場合は,申告書の計算によって求めた消費税額と実際に計上してある消費税額との間に差額が生じます((例)参照)。この場合は,差額を販売費・一般管理費あるいは営業外収益で調整するのもひとつの方法ですが,取引の都度積上げて計上した消費税額によって申告書を作成することも許されており(規則第22条第1項),会計上計上した消費税額に,100分の80を掛けて(5%の内の4%分で)計算して行きます(通達15−2−3)。申告書の「規則第22条第1項の適用」欄の「有」に○を付けてください。
また,取引の都度税抜き処理をする時の1円未満の端数処理について,所得税など他の税金では国税通則法によって「切捨て」などと定めていますが,消費税についてはそのような規定がありません。このことから逆に,四捨五入にするか切上げあるいは切捨てにするかなどは,事業者側が自由に選択出来るものと解されています(国税庁タックスアンサーNo.6383)。しかし仕入れについては,切捨てと四捨五入のみが認められており,切上げは認められないと考えられます(同No.6391)。
(例) @ 取引1 本体価格90円 消費税額は,切捨てだと4円,四捨五入・切上げだと5円
取引2 本体価格50円 消費税額は,切捨てだと2円,四捨五入・切上げだと3円
合計税額 切捨ての場合6円,四捨五入・切上げの場合8円
A 本体価格合計 140円 消費税額7円
このように@とAでは,消費税額に差額が生じて来ます。

Y.簡易課税制度
基準期間の課税売上額が5,000万円(平成16年3月31日以前は2億円)以下の場合は,「W.」のような正規の計算に替えて,簡単な方法により控除対象仕入税額を計算することも出来ます。(法第37条第1項)
控除対象仕入税額=課税売上に係る消費税額×みなし仕入れ率
(取引金額にみなし仕入れ率を掛けるのではなく,税額にみなし仕入れ率を掛けることにご注意!)
この時のみなし仕入れ率は,各業種により次の通りとなっています。(令第57条)
第一種事業 (卸売業) 百分の九十(90%)
第二種事業 (小売業) 百分の八十(80%)
第三種事業 (製造業等) 百分の七十(70%)
第四種事業 (その他の事業) 百分の六十(60%)
第五種事業 (サービス業等) 百分の五十(50%)

Z.非課税物品を取扱う場合の消費税の概要
非課税物品を取扱う場合は,単純に「W.」のような一般的な計算によることはできず,特別な処理が必要となります。
1. 非課税物品等の指定の仕方
筆者の会社が取扱う非課税物品とは,身体障害者用物品ですが,これに限らず他の物品等でも,概ね同じように非課税として指定しているように感じられます。どのように定められているか見てみましょう。
@  消費税法第6条
国内において行われる資産の譲渡等のうち,別表第一に掲げるもの(第1項),及び保税地域から引き取られる外国貨物のうち,別表第二に掲げるもの(第2項)には,消費税を課さないとされています。
A  別表第一又は別表第二
さまざまの物品等を規定してありますが,「政令で定めるもの」と,具体的内容については,消費税法施行令に譲る記述が多くあります。
B  消費税法施行令
この消費税法施行令で課税・非課税の判断が付くものもありますが,「省令で定めるもの」とか,「○○大臣と○○大臣が協議して指定するもの」という記述も多く,更に他の文献まで辿らなくてはならない場合もあります。
C  省令
より専門的に,機能・性能・構造などが記述してあり,場合によっては専門的知識がないと判断が付かないようなものもあります。また,同じ物品であっても,特定機種(型式)を指定している場合もありますので,特に課税・非課税を判断するのに注意を要します。
2.非課税物品の部分品を仕入れた場合の消費税の取扱い
消費税法において非課税物品となるのは完成品になった時であって,未完成の間に流通する場合は課税扱いとなります。筆者の会社が取扱う製品に関しては,「身体障害者用物品の一部を構成する部分品については,身体障害者用物品には該当しないのであるから留意する。」(通達6−10−2)とされ,材料部品等を仕入れた場合は非課税とはならず,課税扱いになると明示されています。 なお,完成品は非課税物品であるため,消費税の申告・納付を行う際には,その仕入れに掛かった消費税を受け取った消費税から控除することは出来ず,「控除対象消費税」として費用処理する必要があります。
<今までの争点>
どの時点で「完成品」となり非課税の対象となるのか,また,その他のことに関しても疑問が生じたことがありましたので,ここでまとめてご紹介いたします。
@  機構部分品
筆者の会社では,ちょっとした設備と技術によって,簡単な造作を加えれば完成品になる機構部分品も販売しており,仕入れる側は非課税になった方が控除対象外消費税を負担せずに済むため,その機構部分品について,東京国税局に課税・非課税の確認をしたことがありました。これに対しては,その機構部分品そのものでは完成品の機能を有さないとの判断から,課税扱いとされました。同じ業界の中では,非課税として取扱っている企業も多いらしいので,少しでも疑問が持たれるお会社には,国税局に確認することをお勧めします。
A  付属品
完成品を動かすための電源(バッテリー,乾電池)など,他の用途でも使用出来るものは基本的に非課税とはなりませんが,完成品と一体として販売する場合は非課税となりますし,「修理」そのものも非課税とされているため,それらの交換を販売店などが行った場合も,「修理」ということで非課税となります。
B  検査・梱包前の完成品
当社で取扱う製品が,下請会社から納入される際は,ひとつのロットの形で入って来るため,「製品」にするためには本社で検査・梱包をする必要がありますし,お客さまに販売する際も,いくつかの部品を装着して初めて使用出来ることになります。そこで,下請会社に控除対象外消費税を負担させないようにとの見地から,未完成品と解釈して課税対象としていた時期がありました。しかし,検査・梱包をする以外は機能的に完成品と同一ですし,最終的な部品の装着も,使用者側で簡単に出来ることから,「非課税」となります。
C  販売に係る紹介手数料
身体障害者用物品を販売する時,当然のことながら,医師からの紹介を受けて販売することもあります。そのような医師に対しては覚書を交わした上で「手数料」を支払うこともあるのですが,非課税物品に対する手数料であるし,また金員による支払いでもあるとのことから,「非課税」と誤認したケースがありました。しかし,手数料そのものは「役務の提供」に対するものでありますから課税対象であり,非課税売上げに対する課税仕入れと混同したものと考えられます。
D  事業者間での「修理」委託
先に述べたように,当社製品の「修理」も非課税とされています。他社製品であっても当社のお店に持ち込まれた場合は当社で受け付け,そのメーカーへ修理の依頼をするということが業界の中では普通に行われているのですが,非課税となるのは個人を相手とした場合であって,事業者間の取引の場合,非課税とはならないのではないかとの疑問が生じました。
確かに,物品税法の時代には,個人と事業者間で異なる取扱いをしたことがありましたが,消費税法においては,ただ単に「修理」としか言っていないのであるから扱いに異なることはなく,事業者間の取引であっても非課税であると考えられます。
3. 仕入れに係る消費税額の控除
非課税物品を一部取り扱う事業者でも,「W.」で述べたとおり課税標準額に対する消費税額から仕入税額を控除出来ますが,課税売上割合が100分の95(95%)未満の場合は(法第30条第2項),下記のいずれかの方法により控除対象仕入税額を算出することとなります。
(1) 個別対応方式――仕入税額の区分が次のように明らかにされている場合(同条同項第1号)
@課税資産の譲渡等にのみ要するもの(課税分)
A課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するもの(非課税分)
B課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通にして要するもの(共通分)
控除対象仕入税額@の仕入税額+Bの仕入税額×課税売上割合
これは,課税売上げに対する仕入れ分・非課税売上げに対する仕入れ分・どちらにも分けられない共通分と区分した上で,共通分に課税売上割合を乗じたものに,課税売上げ分を加えたものを控除対象仕入税額とする方法です。
(2) 一括比例配分方式 ―― (1)以外の場合(同条同項第2号)
控除対象仕入税額仕入税額の合計×課税売上割合
これは,(1)のように区分出来ない場合,仕入れ税額全体に課税売上割合を掛けたものを控除対象仕入税額とする方法です。
4.課税売上割合の計算方法(令第48条第1項)
A. 課税資産の譲渡等の対価の税抜金額(課税売上額)
B. 課税資産の譲渡等の対価の返品の税抜金額(課税売上の返品額)
C. 全ての資産の譲渡等の対価の税抜金額(総売上額)
D. 全ての資産の譲渡等の対価の返品の税抜金額(売上の返品総額)
免税取引は,課税される消費税の免除(0%課税)であるため,A及びBの金額に含めて計算します。また,課税売上割合の計算においては非課税資産を輸出した場合の対価の金額もA及びBの金額に含めて計算します。(令第51条第2項)※
課税売上割合=(A−B)÷(C−D)
単純に言うと,全体の売上げ額に対する課税売上げ額の割合を言い,返品分をそれぞれマイナスするとともに,課税分には免税分と非課税物品の輸出分も含めるということです。
非課税物品の輸出取引の取扱い
消費税は,流通段階の税負担を控除し最終消費者が税負担する付加価値税のしくみとなっています。
この付加価値税は,各国で導入されておりますが,最終消費国における公平な価格競争を図るため,国際取引は税抜価格で行うとするガット(関税と貿易に関する一般協定)の規定を受け,日本の消費税法においては,実際に利用または消費する国で課税しようとする仕向地原則を採用しました。
そこで,輸出取引を免税とし,仕入れに係った消費税を税額控除(実際は還付)することで国境税調整を行い,税抜価格による競争を保証したものです。
非課税物品の輸出に際し,仕入れに係った消費税を税額控除出来ないとすると,この国境税調整の趣旨に反する(実質的に,税額を価格に上乗せすることになる)との観点から,課税売上割合の計算上は課税売上に算入し,事実上,非課税物品に関しても,税抜価格により輸出出来ることとしたのです。
5. 消費税の経理方式と控除対象外消費税の取扱い
控除対象外消費税を有する企業にとって,法人税法の個別通達である「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」(以下,「消法通」と言う)は,非常に重要な通達です。経費処理をする控除対象外消費税の全てについて,その処理方法が示されていると言っても過言ではありません。
まず消費税の経理方式に関しては,「法人が行う取引に係る消費税の経理処理については,税抜経理方式又は税込経理方式のいずれの方法によることとしても差し支えない」(消法通3)としており,事業者側で選択することが出来ます
しかし,「消費税の納税義務が免除されている法人については,その行う取引に係る消費税の処理につき,3(税抜経理方式と税込経理方式の選択適用)にかかわらず,税込経理方式によるのであるから留意する。」(消法通5)とし,「この取扱いは,消費税が課されないこととされている資産の譲渡等のみを行う法人についても適用がある。」(消法通5(注1))としているため,非課税物品のみを取扱う事業者は税込経理方式を採用しなければならず,選択の余地はありません。
以下,各経理方式を選択した場合の控除対象外消費税の取扱いについて説明いたします。
(1) 税抜経理方式の場合
前述のように,仮払消費税から控除対象仕入税額を算出すると,仮払消費税の中には控除出来ない消費税額が残ります。これを控除対象消費税と言い,販売費及び一般管理費の租税公課を勘定科目として(中間報告 第5−U−3),基本的には当該課税期間の損金(注)の額に算入することとなりますが(消法通6),資産に係る控除対象外消費税に関しては,課税売上割合に応じ,次のような処理が必要となります。(法令第139条の4)
(注) 「損金」とは
税金計算において費用と認められるもののことを「損金」と言います。
@ 課税売上割合が80%以上である場合(同条第1項)
損金経理をした時は(注),当該事業年度の損金の額に算入します。
A 課税売上割合が80%未満である場合(同条第2項)
次に掲げるものについては,損金経理をした時は(注),当該事業年度の損金の額に算入します。
第1号 たな卸資産に係るもの
第2号 個々の資産(たな卸資産を除く)ごとにみて控除対象外消費税が20万円未満のもの
控除対象外消費税の金額が20万円未満かどうかは,地方消費税も含めた5%で判定するので(消法通1−(6)),税抜金額で言えば4,000,000円未満のものと言うことになります。
(注) 「損金経理」とは
損益計算書において費用処理したものが,必ずしも税務上の「損金」になるとは限りませんし,逆に会計上で費用処理をしていなくても,税務上の「損金」と認められるものもあります。「損金経理」とは,会計上も費用処理することを言い,損金経理が要件となっていない場合は,資産科目で処理をしていても,税金計算の上で課税所得から減額することが出来ますが,損金経理が要件になっている上述の資産に係る控除対象外消費税の例で言うと,例えば租税公課での費用処理をせずに,資産科目である仮払消費税に残したままの場合は,税務上の損金とは認められません。
(2) 税込経理方式の場合
税抜経理方式と同様に個々の控除対象仕入額から正確に仕入税額を算出する場合は,全体の税込金額から算出した税額との間に差額が発生するため,理論上は控除対象外消費税が発生することもあり得ます。しかし,通常,税込経理方式を採用する場合その消費税は,仕入金額・取得価格に含めた各勘定科目での処理となります(消法通5−(注)2)ので,上記(1)で問題となった資産に係る控除対象外消費税に関しても,税込経理方式の場合は適用されず,特別の経理処理は必要ありません。
6. 損金に算入されない資産に係る控除対象外消費税の取扱い
損金経理を怠ったたな卸資産の控除対象外消費税や,固定資産の控除対象外消費税で20万円以上のものは,次の方法により毎期償却を行って行きます。
(1) 資産を取得した初年度は,控除対象外消費税を60で割って当該事業年度の月数を掛けた金額の2分の1(法令第139条の4第3項)を,租税公課の勘定科目により(中間報告第3−W−3)損金に算入します。
初年度の損金算入額控除対象外消費税÷60×月数(通常は12ヶ月)÷
つまり,基本的には5年間で償却して行くのですが,取得初年度は,3月決算の会社であれば,4月に取得しても3月に取得しても,60分の6か月分がその初年度の償却額になります。また,新設した会社の初年度が,例えば8ヶ月しかない場合は,60分の4ヶ月分がその年度の償却額になります。
(2) 資産を取得した翌年度以降は,控除対象外消費税を60で割って当該事業年度の月数を掛けた金額(法令第139条の4第4項)を,租税公課の勘定科目により(中間報告第3−W−3)損金に算入します。
翌年度以降の損金算入額控除対象外消費税÷60×月数(通常は12ヶ月)
なお,ここで言う「控除対象外消費税」とは,初年度に償却した後のものを言うのではありません。控除対象外消費税においては,固定資産で言う期末簿価とか期首簿価などの考え方は存在せず,あくまで最初に計上した金額を5年間で償却することになります。したがって,3月決算の会社であれば,5年後の9月で償却が終了します。
7. 「交際費」に係る控除対象外消費税の取扱い
課税物品のみを扱う企業での交際費に係る消費税を,控除対象とすることには未だ議論もあるようですが,税抜経理方式を採用している場合は,交際費の額に含めないことを明言しています(消法通12)。しかし,控除対象外消費税の場合は,厳格に交際費と同様に扱い,法人税法上損金とはならないことに気を付けなければなりません(消法通12(注)2)。具体的には交際費と同様に,法人税の申告書別表十五「交際費等の損金算入に関する明細書」の中で,「交際費に係る控除対象外消費税」などの名目で,記載する必要があります。
税込経理方式を採用している場合は,消費税額も含めた交際費の金額を損金不算入額とすることになるため,特に問題は生じません(消法通12(注)1)。
8. 「貸倒れ」に係る控除対象外消費税の取扱い
課税資産に対する売掛金その他の債権について貸倒れが生じた場合は,控除対象税額として計算出来ますが(法第39条第1項),逆に非課税資産の売掛金に対して貸倒れが発生した場合は,もともと仮受消費税が発生していないのであるから,控除対象税額は発生しません。
但し,その貸倒れとなった売掛金などが,課税資産に係わるものか否かを区分することが著しく困難な場合は,課税売上割合などで控除対象税額を計算します(通達14−2−3)。
また,貸倒れ処理後に配当などがあった場合は,同じ割合によって計算した金額を仮受消費税額に加算します(法第39条第3項,通達14−2−3(注))
さらに,前述のように申告書の記入は4%の世界で進みますので,貸倒れに係る消費税額を申告書に記入する際は,4%の金額であることに注意を要します。筆者も,つい貸倒れに掛かった全体の5%で記入してしまったことがあり,指摘を受けたことがありました。

[.後記(これまでのエピソード)
1. 消費税の立法当初
消費税の立法以前も,歴代の政権はなんとか大型間接税の導入を図りたいと画策しましたが,特に「売上税」の時は,成立直前まで行ったにも拘わらず,国会で廃案になった経緯もありました。そこでこの消費税導入に際しても,とにかく国会を通したいという意図が強く,その内容は「なんでもいいから消費税を導入してくれ。」という感じでした。
新法に慣れない企業側は,そんな状況を知っていたのもあって,ほとんど「ドンブリ」に近い処理方法を取っていたのも事実です。税務行政側もその通りで,調査があってもほとんど消費税については触れることもなく推移して来ました。
2. その後の動き
ところが,段々と税収が厳しくなって来たのと同時に,税務当局も消費税法に対する理解が深まって来ると,計算の妥当性を検証するためのソフトを開発するなど,消費税法を厳格に適用して税収を上げようという機運にありますから,立法当初の「ドンブリ」というイメージは変えなければなりません。特に,税率が3%から5%に引き上げられた平成9年の改正時には,控除対象と出来る仕入税額に対して要件も強化されました。(法第30条第8項)
本来の消費税法の考え方は,「受け取った(預かった)消費税は全て納税しなさい」という立場に立っており,仕入れに係った税額を控除するのは二重課税を避けると言う命題はあるものの,言わば「控除出来る」といった感じの例外的な規定になっています。最近は税務調査においても,消費税法第30条第8項の要件を満たさない場合は,控除対象仕入税額を否認するということが増えているようです。通常の会計ソフトは,「簿記」で求められている項目のみに傾き,消費税法で求められる「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」とか「課税仕入れに係る資産又は役務の内容」が,必須入力項目になっておらず,企業側が任意に「摘要」部分に入力するしかないため,当局としても突っ付き易いのではないかと考えられます。この点は,企業側も十分に防御出来るように対処しなければなりません。
3. 最近の税務行政
昔は税務当局って言うと,昔ながらのとにかく力づくで処理をする職人ってイメージが強かったのですが,ここ6〜7年ぐらい前から,かなり急速にコンピュータの力を使うようになったようです。「法定調書」の提出が,「書類」(紙)ではなくコンピュータのデータでも提出出来るようになったのは,もっと以前のことではありますが,そのデータが有効に活用されている様子はあまりありませんでした。しかしながら,今では国税局も含めて各税務署間のネットワークも繋がり,瞬時にさまざまなデータを検索出来るようにもなりました。(データの入力方法に,未だ難もあるようですが。)
当局側の職員の中には,年齢的になかなかパソコンに慣れない方も多いようですが,税務行政以外にパソコンそのものの研修会を頻繁に行っているようですし,パソコンを得意とする人間に関しては,国税局の枠を超えた人事交流も行っていますので,対応する企業側でも,この変化を十分に理解しておく必要が出て来ています。税務調査の時に,調査官からパソコンデータを求められることも多いので,迅速に対応出来るよう個々人のパソコン知識を高めておく必要があるのも当然のことです。
4. 課税売上割合に準ずる割合
前述のように,消費税の導入当初は当局側も実務に混乱を来たしていて,当社では法文をまともに読んで有利な割合を届け出て承認を受けました。しかし,結果的にはその混乱に紛れて承認を受けた格好になったのは事実です。ただ,当局側のソフトの作りが,「『課税売上割合に準ずる割合』に対応していないから,本則に戻してくれ」ともし言うのだとすれば,それは本末顛倒で,法律で認められている以上,ソフトの方を対応させるべきでしょう。
5. 「免税物品」を設けないのは?
消費税法上「免税事業者」があるにしても,今のところ「免税物品」と言うものは一切設けていません。これは,一部に免税物品を設けたとすると,他の業界からも免税指定の要請が相次ぎ,税務行政に負担を受けるのを恐れたのと,免税にするとゼロ%課税であるが故に,還付消費税が増えることによって税収が減ることを恐れたためです。
「免税」ではなく「非課税」にすれば,一般消費者から支持を受けられるという意図がある一方,企業側に対しては「非課税物品の場合は,企業が負担する控除対象外消費税を販売価格に転嫁せよ。」という暗黙の意図があります。

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