請求書の社印は省略出来る

Updated:'03/05/31

1.請求書の社印を省略した経緯

昔のウチの会社では,売掛金の請求書と買掛金の仕入明細書に,社印を押印しておりました。当時の管理職さんには検印を押印する作業も加わり,売掛金・買掛金合わせて毎月500通ほどありますので,その事務負担たるや相当のものがあったことと思われます。
この事務負担を軽減するべく,請求書の社印を省略出来ないかと考えましたが,わが国では社印を押印した請求書を使用するのが商慣行となっており,また請求書に類する書類に社印を要しないとする税務上の法的根拠にも疑問が残りましたので,売掛金の請求書だけ印刷という格好で社印を残すことにし,押印作業を省くことにいたしました。
買掛金の仕入明細書においても,ウチの会社の社印は不要との判断に至り省略いたしましたが,お取引先様の社印のある請求書等に基づかない買掛金の支払いは,税務上,その費用を否認される恐れがあるとのことから,しばらくはそのまま社印を押印した上での返送を頂いておりました。
そんな折,6年ほど前に購買業務において電子注文化(EDI化)を図り,いよいよ社印のある請求書を省略したいと思っていたところ,その準備の過程で,EDIに関して先進的なある企業の資料に触れ,取引において請求書が不要であるとの見解を知りました。これによって,電子注文化を行うことが出来たのはもちろんのこと,返送される請求書の開封整理・確認・保管等の作業を大幅に合理化することが可能となり,またお取引先様においても社印押印・返送という作業の省力化と郵送料の削減が図れることになりました。
以下,当社にて請求書不要と判断した根拠等を掲載いたします。これを読んだ読者のお会社でも是非ご参考にされ,請求作業の省力化を図って頂ければ幸いです。

2.このホームページの取扱い

筆者は,資格を持った税理士でもなければ公認会計士でもありません。したがって,ここで記述した内容を参考として頂きたいとは思いますが,ここの記述内容をそのまま引用または根拠としての税務当局他との一切の交渉は固くお断りいたします。万が一,引用したことによって紛争・損害等が生じても,筆者は一切の責任を持ちません。
それぞれの記述に際し,敢えて根拠となる法令等も附しましたので,それをご検討の上ご参照ください。
また,著作権はこの筆者に帰属しますので,無断での引用も固くお断りいたします。このページにリンクして頂けるのは大歓迎ですが,もしリンク頂ける場合は,2つある掲示板のいずれかお好みの方にお書込みください。記述内容に誤りがあった場合にも,同様にお知らせ頂ければ幸いです。

3.税務当局の見解

筆者が目にした資料には,「東京国税局の係官によると,請求書等に社印を押さなければならない決まりはなく,強いて言えば新消費税法の『請求書等の範囲』の解釈に関係している」との内容が掲載されていました。
その消費税法について検討してみます。

4.凡例

法 ………… 消費税法
消費税法は,総務省の法令データ提供システム から参照できます。

通達 ……… 消費税法基本通達
消費税法基本通達は,国税庁の法令解釈通達目次 部分から参照できます。

5.消費税法の考察

1. 消費税法では,課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合には,仕入れ税額控除を認めないとして居り(法30条第7項),この「請求書等」とは,課税資産の譲渡等の場合,
@ 他の事業者が交付する請求書,納品書その他これらに類する書類(法第30条第9項第1号)
A 自己が作成する仕入明細書,仕入計算書その他これらに類する書類(法第30条第9項第2号)
と定めています。   
2. 上記の@及びAとも社印を要する旨の定めは見当たりませんが,だからと言って直ちに社印を要しないとする根拠にもなりません。特に@に関しては,他の事業者が作成した証拠としてその社印が必要であるとも考えられます。
3. 逆にAに関しては同条において,相手方の確認を受けたもののみが「請求書等」として認められるとして居り,その確認において社印の押印が必要であるとも考えられましたが,通達においては「課税仕入れの相手方の確認を受ける方法」を次のように定めています。

「課税仕入れの相手方の確認を受ける方法」(通達11-6-5)
法第30条第9項第2号((請求書等の範囲))に規定する「課税仕入れの相手方の確認を受けたもの」とは,保存する仕入明細書等に課税仕入れの相手方の確認の事実が明らかにされているもののほか,例えば,次のものがこれに該当する。
(1) 仕入明細書等への記載内容を通信回線等を通じて課税仕入れの相手方の端末機に出力し,確認の通信を受けた上で自己の端末機から出力したもの
(2) 仕入明細書等の写し等を課税仕入れの相手方に交付した後,一定期間内に誤りのある旨の連絡がない場合には記載内容のとおり確認があったものとする基本契約等を締結した場合における当該一定期間を経たもの

4. 前掲(1)は電子商取引における確認方法を示したものでありますから,ここで問題となっている確認方法とは関係がありません。
5. 前掲(2)によれば社印を要することなく消費税法上の「請求書等」とする法的根拠となるように考えられますが,「基本契約等を締結した場合」と言うところに一考の余地が残ります。しかしながら,これについても下記のような国税当局の見解が出ていたため,ウチの会社が発行する仕入明細書をもって消費税法で言う「請求書等」とすることが出来ると判断し,従来の請求書を廃止することといたしました。その後の税務調査等でも,何の問題も発生していないことを申し添えます。

改正法取扱通達1−3−4(筆者注;現「消費税法基本通達11-6-5」)((課税仕入れの相手方の確認を受ける方法))の(2)の趣旨は,基本契約書に限定するものではありませんから,仕入明細書等の記載事項が課税仕入れの相手方に示され,その内容が確認されている実態にあることが明らかであれば,新たに基本契約を締結する必要はありません。
すなわち,改正法による改正後の法30条第9項第2号((請求書等の範囲))の要件を満たすために,例えば,
@ 平成9年4月1日以後の取引に係る仕入明細書等については,「送付後一定期間(例えば10日)内に誤りのある旨の連絡がない場合には記載内容のとおり確認があったものとする」旨の通知文書を相手方に送付し了解を得て,
A 平成9年4月1日以後最初に送付する仕入明細書等に同様の文言を記載し,以後は同様の取扱いをする旨を明示して相手方の了解を得る等,相手方になんらかの文書を送付する,
方法により,本通達と同様の効果が生ずるものとして取り扱われます。
また,@の文言が印刷されている仕入明細書等を相手方に送付する場合も同様です。
(国税速報 平成9年2月13日 第4918号)

結局ウチの会社では,20日締めの翌月15日支払いとしていることから,「支払日の5営業日前までに,誤りの連絡がない場合は確認頂いたものといたします。」とのことと,上述の法的根拠および社印押印による請求書の返送は不要であるなどを盛り込んだ文書を,請求書を廃止する時に配布するとともに,毎月送付する仕入明細書の末尾にも,同様の文言を印刷することで対処いたしました。

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