セロ・トーレ巡礼

南米パタゴニア パイネ山群・フィッツロイ山群 2000/2/17-21、2/29-3/2

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アセンスィオ谷
チリ・パタゴニアの名トレール、パイネを歩く。パイネの塔に至るこの谷は、樹香漂う森と清冽な水を湛える小川が幾筋も交差し味わい深い。自然な癒しの環境に満ちている。
パイネの塔
パイネ山群は氷河、森、湖、岩峰など山相が多様だ。中でもパイネの塔は傑出した異彩を放っている。3つ並ぶ塔それぞれに世界のクライマーが登攀ラインを引いている。実際目の前にすると、その迫力に気圧され、いったいどこが登れるのか見当もつかない。鍛錬を積めばそれに打ち克つ強い精神力を獲得できるのだろう。
パイネ主峰
切り立ち氷帽を頂く主峰山塊は氷河を抱き、日中幾度となく崩壊雪崩れを起こし、轟音が響いていた。山頂部には大小の切れ込む皺が何本も見え、猛り狂う形相に触れ難い印象を残した。
パイネ・クエルノ
パイネの角。異様なまでに分かれた層色と切れ込みは、鬼を連想させる。主峰が猛る女なら、こちらはいきり立つ男。パイネの峰には積極的に主張する表情がある。麓の落着いた森と湖の対比がショックだ。
ノルスデンクホロ湖
風のパタゴニアにあるこの湖面には白波が立つことが多いようだが、この時は凪いでいた。透き通った空と広い大地の向こうにも白い氷河と山が見え、「あそこには何があるのか」という純な冒険心が呼び起こされる。
グレイ氷河
広大な氷河の開口部に立つ。果てしなく長い時を経て流れ下り、崩壊して湖に浮かんだ氷片を拾い、砕いてウィスキー・グラスに入れる。オン・ザ・ロックを傾けるトレッカー。実に粋なアウトドアの楽しみである。
フィッツロイ山群
アルゼンチン・パタゴニアの峻峰セロ・トーレを見ることが、パタゴニアでの最大の目的だった。その存在を知ったのはドイツの鬼才W・ヘルツォークの映画「彼方へ」であった。「この世にあんなに凄い山があったのか」以来その姿が忘れられず、この目でみることを願っていた。
フィッツロイ3441m
荒漠とした地に立ち上がる鋭角の塔は、挑戦的クライマーの欲望を満たす舞台となってきた。今の自分には眺めるだけでも充分。現地名チャルテンは「煙を吐く山」の意。始終強風が吹き、ジェットストリームが長く伸びる。
氷河湖
見る角度や光線の具合によって湖はエメラルド・グリーンにもなる。フィッツロイへ近付こうとガレ場を登って振り返ると、対岸とは異なった表情を見せた氷河湖の姿にはっとした。本性はどっちなんだ。
セロ・トーレ3128m
たなびいていた雲がとれ、ついに姿をさらした。この峰を目の当たりにすることは、巡礼といってもよい願望だった。モレーンを駆け上り、視界にセロ・トーレを捉えた瞬間は、至福の時であった。対面の時間を心ゆくまで味わう。
アデラ山群と氷河
セロ・トーレの並びに広がるのはアイスフォールを落とす氷河を抱えた山塊。この山の背後にはパタゴニア南部氷床と呼ばれる広大な氷原が広がっている。原初の自然も人にとっては風の地獄だ。

セロ・トーレ氷河湖畔のモレーンと山裾の間に、隠れるように流れを持つ沢を見つけた。荒涼としたフィッツロイ山群一帯にあって、樹間に苔むし透明な水を落とす沢すじは、日本の渓的風情を備え、裏道に穴場を発見したような喜びがあった。意外と多様な形相である。

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