山岳の本

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*ジャンル分けは明確な分類ができないので適当なものです。
*☆はお勧め本。

佐瀬稔のノンフィクション
メスナーのノンフィクション
作家によるノンフィクション
登山記など 1
登山記など 2
クライマーたち
登山知識


佐瀬稔のノンフィクション
ヒマラヤを駆け抜けた男 山田昇の青春譜 佐瀬稔 東京新聞出版局  山岳ノンフィクションを手がける作家は何人かいるが、佐瀬氏は最も読みごたえある作品を書くだろう。ヒマラヤ登山家山田昇氏を描いた「ヒマラヤを駆け抜けた男」では、高峰登山家の強さを、「虚空の登攀者」では冒険家として自らを見つめて山へ向かう長谷川という男を、「狼は帰らず」では登攀に狂ってゆく森田というクライマーを、それぞれ思いのあるひとりの人間として深く描いている。それらの作品により、この3人の登山家が何を考え、登ってきたのかが知られるようになった。その男たちの性格を端的に表すそれぞれのエピソードが実におもしろい。
 「喪われた岩壁」は戦後、日本の登攀の最前線にいた者たちの話で、奥山章氏を主人公に初登攀を成そうとする彼等の所業が描かれている。何にせよただそこを他人より先に登ることに賭けた者たちがいた時代の熱が伝わってくる。佐瀬氏が近年亡くなってしまったことがとても残念だ。
☆長谷川恒男 虚空の登攀者 佐瀬稔 山と溪谷社
☆狼は帰らず アルピニスト・森田勝の生と死 佐瀬稔 山と溪谷社
喪われた岩壁 第2次RCCの青春群像 佐瀬稔 中公文庫

メスナーのノンフィクション
ナンガ・パルバート単独行 ラインホルト・メスナー
 横川文雄訳 山と溪谷社
 超人メスナーは哲学的登山記をいくつも残しているが、翻訳された文章で読むと、間延びしておもしろさがない。その中でも「ナンガ・パルバート単独行」は迫力があった。最初の遠征隊で登頂を成すも弟を亡くし、自らも凍傷で指を切断。さらに後年単独でもう一度挑むのだ。”魔の山”ナンガとはどれほどの山なのか見てみたいという、旅の目的のひとつにもなった。
 「生きた、還った」は翻訳版ではなく英語版を手に入れ持っていたもので、8000m峰全山の登山を多くの迫力ある写真で見せていて、高峰への憧れを喚起する。世界で初めて8000m峰全てに登った上、酸素補給器も使わなかったという完璧なスタイルをやられてしまっては、誰も彼を超えることなどできない。登山の世界で最も成功した人間だろう。それを自身で振りかえり書いたのが「ラインホルト・メスナー自伝」。欧州アルプス登攀時代も描かれており、ルート中の核心部のホールドまでよく覚えていて、細かく描写されているのは驚きだ。各山行記より興味深く読むことができた。これだけ激しい登山を行ってきながら、いまだ生きている。彼はやはりそうとう強い人間なのだろう。そんなメスナーを描こうとする作家はいないものだろうか。
挑戦 二人で8000メートル峰へ ラインホルト・メスナー
 横川文雄訳 山と溪谷社
エヴェレスト 極点への遠征 ラインホルト・メスナー
 横川文雄訳 山と溪谷社
生きた、還った ラインホルト・メスナー
ラインホルト・メスナー自伝
 自由なる魂を求めて
ラインホルト・メスナー TBSブリタニカ

作家によるノンフィクション
本田靖春集4
 K2に憑かれた男たち
 栄光の叛逆者
本田靖春 旬報社   「K2に憑かれた男たち」はあまりに登場人物が多い上、各人に著者の中途半端な論評が付されていたりで読みにくかった。登攀描写を抜きに登山は描き切れないと思う。「栄光の叛逆者」は小西政継氏がヒマラヤ高峰のバリエーションに執心していた頃に描かれた半生記だが、社会人山岳会で強いクライマーを生み出してゆく小西氏のリーダーシップがよく書かれ、登山に深くはない著者ならではの視点があり、興味深い。
死者は還らず 丸山直樹 山と溪谷社  妥協のない厳しい文章でアクの強い丸山氏だが、ぼくは作家の色が出ていて好きだ。「死者は還らず」は山岳遭難を取材してその報告をしているが、原因究明や責任追及など、とにかくはっきり書き切っている。それだけに批判も多いようだが、これだけ著者自身を表に出すと、文にも強さと迫力が出てくる。「ソロ」にも丸山色が強く出ていて、山野井氏を知る本というより、丸山氏という作家の本になっている。非常に男らしい文章で、極限の登山をする山野井氏の物凄い体験が、本人の口以上にうまく語られているようで、「かっこいい」と思った。
☆ソロ 単独登攀者 山野井泰史 丸山直樹 山と溪谷社
みんな山が大好きだった 山際淳司 中公文庫 それに比べ「みんな山が大好きだった」は気軽で、むしろそれがもの足りない。
彼方の山へ 谷甲州 中公文庫 「彼方の山へ」は登山も行う作家谷氏のエッセイで、登山者向けでない、一般読者も読める内容になっているが、さすが。
空へ
 エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか
ジョン・クラカワー
 海津正彦訳 文藝春秋
ナンバ・ヤスコさんが遭難した時のエヴェレストを描いた本が2冊「空へ」「デス・ゾーン」と出ていて、読み比べるとおもしろい。立場が違うと見方もだいぶ違うもので、事実の認識さえも異なっている部分がある。訴える力の強いのはプロ作家でもあるクラカワー氏の方で、彼の見方が一見正しいように思えるが、ブクレーエフ氏の本も読めばそうでもないと感じられる。
デス・ゾーン
 エヴェレスト大量遭難の真実
アナトリ・ブクレーエフ
 鈴木主税訳 角川書店
空と山のあいだ
 岩木山遭難・大館鳳鳴高生の五日間
田澤拓也 角川文庫 昭和39年冬の高校生遭難を、遭難者と救助者側の同時進行形式で描いていて、構成がユニークだ。フィクションではないので意外性はないが、徐々に事実が知らされていく様が読ませる。
谷川岳に逝ける人びと 安川茂雄 遠藤甲太編
 平凡社ライブラリー
世界で最も多くの人命が失われている山、谷川岳。その一ノ倉の岩壁登攀で開拓期に起きた死亡事故を何篇かでまとめたのが「谷川岳に逝ける人びと」。「近くてよい山なり」や、遭難死した息子の追悼の折、「こんな山があったのか。・・・あきらめなくてはならない」と行った父親の言葉。それらを有名にした30年以上前の刊行書の再編。遭難記録書ではあっても小説ではなく、ちょっと読みにくい。
百の谷、雪の嶺
「凍」
沢木耕太郎 新潮2005年8月号内  「百の谷、雪の嶺」(「凍」)は山野井夫妻のギャチュンカンでの生還を主題とした沢木氏のノンフィクション。登山とは疎遠だった沢木氏だが、クライミングというものの捉え方、視点は確かで、分かり易い内容になっている。ただ、アルパイン登山に関わる者として読むと目新しい話もなく、沢木氏のもっと踏み込んだ思いや感想を読みたかった。

登山記など 1
なんで山登るねん 高田直樹 河出文庫 楽しいエピソードを綴った登山エッセイ。ぼくは偉ぶる人が嫌いだが、この本にも行間に偉ぶるような態度が見え、どうも気になった。
立山からチベットへ
 わが山旅の日々から
岡 秀郎 山と溪谷社MY BOOKS 日本の登山で経験を積んだ普通の男が、ヒマラヤの高峰まで行った手記「立山からチベットへ」。憧れを実現する話だが、読み物としてはいまいち。
垂直に挑む 吉尾弘 中公文庫  日本の各岩壁にとりわけ冬季の初登攀を目指して突っ込んでいた男たちがいた。そのうちの何人かが登攀記を出版している。「垂直に挑む」は若年から注目を浴びた吉尾氏の記録で、天才肌の力強さが読み取れる。卓抜の文体で傑出してかっこいいのが松本氏の「初登攀行」。当時から岩壁登攀の確かなビジョンを持った彼のことばは、今でも説得力がある。芳野氏の「山靴の音」は登山仙人のような彼の山生活が描かれている。ハンデを背負っても尚山の前線へ向かい続けようとした情熱が凄い。
☆初登攀行 松本竜雄 中公文庫
新編 山靴の音 芳野満彦 中公文庫
果てしなき山行 尾崎隆 中公文庫  ヒマラヤ登山記も何人か登山家本人によって出版されている。最近ほとんど名が聞かれなくなった尾崎氏の最も活発に登山を行っていたころの話が「果てしなき山行」。登山にかなり長けた人であったことが、これを読んで初めて知れた。かなり挑戦的な登山も実行していて、一線を退いたのは命の危険を感じたからか。
雪煙をめざして 加藤保男 中公文庫 これもまた強い男の自著「雪煙を目指して」。彼の書くものには登山の苦しさは感じられず、天賦の才なのかヒマラヤの高峰も実に容易く登ってしまったようでもある。本当はそんなこともないのだろうが。
魔頂チョモランマ 今井通子 中公文庫 女性隊長としてチョモランマ北壁と2年越しで関わった記録が「魔頂チョモランマ」。まっとうな遠征記だが、ひねりもなく読んでいてやや退屈してしまう。
EPIC 山頂に立つ
 登山家たちのサバイバル
クリント・ウィリス編 扶桑社セレクト文庫  「EPIC 山頂に立つ」は登山家自身による登攀記、苦闘記で、各登山記のハイライト部分のみを集めたもの。西前氏の「冬のデナリ」で描かれた同じ遠征を登頂者であるA・デイヴィッドソン氏が描いた「マイナス148度」も採録。それにしてもこの本の翻訳はつまらない。学生の英文訳のようなのんべんだらりとした文章をどうにかして欲しい。登山に一般的に使われる言葉も奇妙な日本語になっている。面白い翻訳ができて登山知識もある訳者というのはいないのだろうか。「われ生還す」は第2弾。原文に忠実である必要はない。文意が違わなければ日本語らしい表現をして欲しい。
EPIC われ生還す
 登山家たちのサバイバル
クリント・ウィリス編 扶桑社セレクト文庫

登山記など 2
大いなる山大いなる谷 志水哲也 白山書房   「大いなる山大いなる谷」は志水氏の青春記で、山への情熱を描いたものでは傑出作。北アルプス全山縦走から、居を移してまで遡行しつぶした黒部の谷、冬季南アルプスの単独縦走など、目標への打ち込みようが凄まじい。
☆果てしなき山稜 志水哲也 白山書房  北海道の分水嶺を冬のひとシーズンで歩き切った紀行が「果てしなき山稜」で、人生に悩みながら、考えながら旅を進めていく彼の姿が、非常に胸を打つ。これほど素晴らしい山行記は他にはない。
達人の山旅1 山と私の対話 志水哲也編 みすず書房 そして志水氏が編者の「山と私の対話」はソロクライマーと山や自然を対象にするアーティストの書き下ろし書。山野井、中嶋正宏、鈴木謙造各氏らのエッセイではソロイストの世界観が刺激的。また武川氏担当の章では岡田昇のカッコいい生き方を再認識させてくれ興味深い。
グランドジョラス北壁 小西政継 中公文庫  小西政継氏はその登山自体がかなりハードなため、記録を著すだけで価値があるという別格な存在だろう。「グランドジョラス北壁」では6人パーティーの計27本の指が凍傷で失われたらしいが、それと引き換えでも山に向かう人種がいるのだと教えられる。
山は晴天 小西政継 中公文庫 「山は晴天」は登山に関わる逸話とK2北壁への旅の話で、登攀記ほど重さがなく、文筆家としては平凡のような印象を受ける。
行きぬくことは冒険だよ 長谷川恒男 集英社文庫 長谷川氏は困難な登攀を成していながら、登攀記はあまり残しておらず、登山を通して精神論や意見を多く書いている。「行きぬくことは冒険だよ」「山に向かいて」もそうで、登山から学び取ったことを嫌味なく彼なりの平易なことばで綴っていて、登攀からイメージされる強靭な男とは異なる姿が表れている。
山に向かいて 長谷川恒男 福武文庫
☆ミニヤコンカ奇跡の生還 松田宏也 山と溪谷社  中国の高峰ミニヤコンカでは、劇的な登山が成されていた。生還ものの、いや山岳記録の最高傑作と言えるのが「ミニヤコンカ奇跡の生還」。とにかくあれほどなまなましい体験記があるなんて、凄いとしか言いようがない。
生と死のミニャ・コンガ 阿部幹雄 山と溪谷社 同じ山を舞台にした「生と死のミニャ・コンガ」はまた違った迫力がある。一本のロープに7人がつながったまま地獄へと引きずり込まれる描写は、阿部氏の目から見た恐ろしさをそのまま読む者に与えるような力がある。ミニャ・コンガと阿部氏らの関わりには運命のようなものさえ感じられてしまう。
垂直の記憶 岩と雪の7章 山野井泰史 山と溪谷社  世界の難壁に凄まじいまでの挑戦を行ってきた山野井氏が、ヒマラヤでの登攀を中心に綴った「垂直の記憶」は、クライマーとしての彼の考え方がよく表れている。常人は決して経験しない生命の境を感じる行為の描写は、登山という独特の世界に生きそれを体験した者でないと描けない。ただ、氏が願うように、どれだけ極限の登攀という行為が一般人に伝わったかは疑問だ。違う世界に生きる人と思われがちだから。どこかいそいで作ったような印象で、書籍としての完成度があまり高くないように感じられるのは残念。
サバイバル登山家 服部文祥 みすず書房  「自然に対してフェアに」山に挑む男の登山記。彼はそのスタイルをサバイバル登山と呼んで実践した。冬の知床、南ア、日高、そして冬の黒部横断。確固たる思想をもとに熱く山を行く氏が羨ましく、また本書は読み物としても秀逸。ただ、登山から視野を広げて論調的に世界観を書いてしまったのが悔やまれる。山行そのもと山行記だけで表現者として充分な力量が感じられるが。

クライマーたち
冬のデナリ 西前四郎 福音館日曜日文庫  「冬のデナリ」は冬季デナリ初登頂の物語で、3人称で語られているが、実は著者西前氏がそのメンバーの一人であった。描写が非常に詳しく、しかも読み物としてもよくできている。登山物語としても傑作と思う。
彼ら『挑戦者』 新進クライマー列伝 大蔵喜福 東京新聞出版局  「彼ら『挑戦者』」はクライミングを中心に前線で活躍する者たちのインタビューで、放浪や旅などをしている者も出てきて、そうした独特の活動を展開するクライマーたちの話がとてもおもしろい。
ピークス・オブ・グローリー
 世界の山を登る
ステファーノ・アルディート 山と溪谷社  大判の登山写真集を二つ。「ピークス・オブ・グローリー」は様々なクライマーにより、世界中の山を舞台に撮られたアルパイン写真で、どれも迫力がある。各山域にまつわるエピソードや有名登山家のことばなどが多く載せられ、読み物としても書かれていて、高い金を出して買っても損した気分にはならない。
ヒマラヤン・クライマー ダグ・スコット

「ヒマラヤン・クライマー」はD・スコット氏の凄まじい登攀歴を写真で振りかえったもので、これも迫力あって、何度も見返し、そのたび刺激を受けている。

ユージ・ザ・クライマー 羽根田治 山と溪谷社  稀代のフリークライマー、平山ユージのクライミング半生を取材したノンフィクション。洞察の鋭い内容とは言えないが、読みやすい文章で、ユージのクライミングに対する姿勢が、同じクライミングをする者には刺激となる。プロ・クライマーの登り一辺倒の生活も知れておもしろい。
クライミング・フリー リン・ヒル 小西敦子訳 光文社文庫  男女の体力的差異を超越してトップレベルのクライミングを成し遂げてきた超有名女性クライマーの半生を振り返った自伝。翻訳がやっぱり意味不明の部分もあるが、彼女がクライミングとどう関わってきたのか、また、アメリカ、とくにヨセミテのフリー化の歴史なども詳しく興味深い。彼女が体得したクライミングのコツが書かれて、これは参考になる。

登山知識
登山のルネサンス 原真、高山研究所編 山と溪谷社  20年も前に、今でも通用する高所登山の考え方を示した本があった。「登山のルネサンス」がそれで、登山家や一般の人の協力で集められたデータのおかげで、かなり明確なタクティクスがたてられるようになった。その通りに高峰登山が実践されるようになってきたのは最近のことのように思われる。
☆登山の運動生理学百科 山本正嘉 東京新聞出版局  「登山の運動生理学百科」は明快に登山を科学した本で、登山に関わる体のあらゆる部分をデータをもとに分かり安く解説している。対策、栄養、トレーニングなど、これ一冊読むだけで登山能力が向上しそうだ。
ヤマケイ登山学校 海外登山とトレッキング 敷島悦朗 山と溪谷社 敷島氏と保科氏の解説書は、それよりむしろ挿入されている彼等自身の体験記のほうが興味深い。
ヤマケイ登山学校 アルパインクライミング 保科雅則 山と溪谷社
インドア・クライミング 東秀磯 山と溪谷社  「インドア・クライミング」などのハウツー本は読んでも実際うまく登れるのか、わからない。机上の学習はだれも同じようにできるが、実技でそれが発揮できるかはひとによりだいぶ異なるようだ。

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