祝祭



01 映画後にテンション高く未来にきたアテムと遊戯と十代に、いきなりすぎてついていけない遊星の話

 その日は何故か酷く落ち着かない気分で始まった。
 目が覚めて頭がはっきりとしてくると同時に浮足立ったような気持ちは強くなる。
 けれど遊星には原因に心当たりはない。
 今日は修理の依頼を終わらせた後に自分達のD・ホイールの調整をする。
 それからアキや龍亞や龍可が来ると言っていた。
 思い出せる事と言えばそれくらいしかない、ごくごく普通の日。
 それなのにそわそわと落ち着かず、何をするにも集中出来ない。
「おい、どうした。」
「何をさっきからそんなにきょろきょろしてんだ?」
 しかもどうやら態度や行動にも出ているらしい。
 気のせいだ、と言い聞かせて終わらせようと思ったのだが、不思議そうなジャックとクロウの様子を見ると無視し続けるのは無理のように思えてきた。
 仕方なく遊星は気分を晴らそうと外に出る。
 少し走れば訳の分からない気持ちも吹き飛んでくれるだろうか、と思ったがそれは少し躊躇われた。
 嫌な感じではないのだ。
 何かとても楽しみな事を心待ちにしている、そんな気分。
 理由が分かっていれば素直に楽しい気分になれたかもしれないが、原因が分からなければどうする事も出来ない。
 やっぱり少し走ってこよう。
 遊星がそう思ってD・ホイールを取りに戻ろうとした時に。
「いっけー、ネオス!遊星にダイレクトアタックだ!!」
「え…っ!?」
 自分の名前に反射的に振り返れば、目の前にはモンスターのソリッドビジョンがあった。
 見覚えのある、けれど自分の周りには使い手のいないモンスターが、2体。
「ブラック・マジシャンもダイレクトアタック!」
「えーっと…、2人あわせてダメージ5000だから、サイレント・マジシャンはパスで…。」
 1体だけ動かないモンスターと傍にいる3人の姿が見えた瞬間にソリッドビジョンの光が弾けて大きな音を響かせた。
 驚いたジャックとクロウが飛び出てきたが、遊星自身も何が何だか分からずに驚いていた。
 光が収まる頃にゆっくりと目を開けて顔を上げる。
「よう、遊星。元気だったか?」
「久し振りだな。」
「急にごめんね。えーっと、あれからどれくらい経ったかな?ボク達の事は覚えてる?」
「………、十代さんに遊戯さん達…。」
 そこにいるのは過去のデュエリストで現在にはいない筈の人達。
 夢だろうかと思いながらぼんやりと名前を口にする遊星へ、駆け寄った十代が両手を掴んで勢いよく上下に振る。
 掴まれた感触は確かにあり、温かさも感じる。
 夢や幻のようには思えなかった。
「あはは、ちょっと驚かせてやろうって思ったんだけど、そんなにびっくりしたか?」
「あ…、いえ…。」
「それで、ここって未来のどの辺?遊星ってそういや何処に住んでんだ?」
「ライディング・デュエルという奴を見てみたいな。見れる場所はあるのか?」
「そうそう、未来のデュエル!やっぱりそれ見なきゃ帰れませんよね!」
「出来たらお前がデュエルしているところを見ておきたい。」
「あ、そうだよ遊星!折角だからお前のライディング・デュエルい見せてくれよ、な?」
「もう2人とも!急に来て急に色々言ったら遊星君が困るだけだよ!」
 賑やかな声を確かに聞いている筈なのだが、遊星には何が何だか分からない。
 ジャックとクロウが困惑気味に、誰だこいつら、と聞いて来るが、それに応える事も出来ない。
 驚きに固まったまま、自分の手を掴む十代の手を見て、それから顔を上げて3人を見る。
 じわじわと状況を理解すると同時に、ようやく驚く事を思い出した遊星が声を上げた。
「十代さんと遊戯さん…っ、何故ここに…!?」
 何かを感じ取ってわくわくしていた気持ちの正体を素直に喜べるまで、時間はもう少しかかってしまった。





02 お前いいよなー、とか遊星のD・ホイール相手に思っている十代の話

 遊星は赤い色のD・ホイールをとても大切にしている。
 ジャックやクロウの物も大切に整備をしているが、色々と試す意味もあるのだろう、自分が作った物に触れている姿を1番良く見る。
 今は遊星が席を外しているので、十代はD・ホイールの傍へと寄って手を伸ばす。
 遊星がいる時に触っても気にされないだろうが、今はいない方が都合がよかった。
「遊星の相棒かー…。」
 スタンディングでもライディングでも強さを見せる遊星だが、彼は主にライディング側の人間だ。
 ライディングであればいつでも共に戦うこのD・ホイールを相棒と呼んでも多分間違ってはいないだろう。
 手を伸ばして赤い車体に触れる。
 話に聞けば何度も転倒や衝突を繰り返しているらしい、しかもかなり派手に。
 それでも車体は綺麗だ。
 随分と大胆な扱いをしているが、大切にされているのがよく分かる。
 それでなくとも時間があれば調整や整備に時間を割いているのだから、わざわざ触れて確認するような事でもない。
 大切にされている遊星と共に戦う存在。
 十代も遊星のデュエルは何度も見てきたが、このD・ホイールはそれ以上に一緒に戦い見守ってきた。
「お前、ちょっと羨ましいな。」
 苦笑交じりに十代は言う。
 D・ホイール相手に何を言っているんだと馬鹿らしい気持はあるが、遊星にあれだけ気持ちと時間を割いてもらっているのだ、羨ましいという言葉はきっと正しいだろう。
 その気持ちをつい言葉に出してしまえば、自分の声を自分で聞いた瞬間に無性に恥ずかしくなってきた。
 本心だが心の中で留めるべきだった。
 恥ずかしさと羨ましさ振り払うように十代は頭を左右に振る。
「十代さん?」
「うわぁっ!」
 そのタイミングでちょうど良く遊星に声をかけられて思わず大声を上げる。
 振り返れば遊星も驚いたように目を丸くしていた。
「………、どうしました?」
「何でもない、本当に何でもない!」
「そうですか?」
「そうだよ!だから早く終わらせてオレの相手しやがれ!」
「………、はぁ…。」
 何だかよく分からない、そう顔に書いてあるまま遊星は曖昧な返事をする。
 けれど先程の呟きを正直に聞かせる事など出来ないので、とにかく何でもない、と誤魔化しにもならない叫びを十代は繰り返した。





03 TF5のクロウ君との数字の話が無駄に気になった話

「遊星。その、えーっと…、デュエル、しようぜ。」
 いつもなら意気揚々と目を輝かせながらデュエルを申し込んでくる十代が、その日は何故か酷く歯切れ悪く遊星にそう言った。
 ここまであからさまだと理由を聞くなという方が無理な話。
 返事をする前に、どうしたんですか、とまず遊星は聞いた。
 十代は少し困ったようだったが、話さなきゃ訳が分からないよな、と十代は事情を話し始めた。

 遊星の部屋に来る前。
 ガレージで話をしているクロウとコナミがいたので十代は声をかけた。
「よう、2人とも。何やってんだ?」
「あ、ちょうどいいや。ちょっと降りてこいよ。」
「え?」
 クロウに呼ばれて2人の話に混じる。
 何を話しているのかと思えば遊星の事だった。
 簡単に言えば、遊星に彼女がいるんじゃないかどうか、という話。
「彼女って、アキとか?」
「どうなんだろうなってコナミと話してたんだよ。」
「コナミは何か心当たりあるのか?」
 尋ねれば彼は苦笑するだけだった。
 何か知っている様子だが、話す気がないのか話せるだけの確証がないのか、どちらなのか判断するだけの材料を十代は持っていなかった。
「本人に聞けば?」
 さらりと十代が言えばクロウとコナミが揃ってため息をつく。
 何だよ、と不満顔をする十代に、クロウが言った。
「じゃあ十代が聞いてこいよ。」
 そう言われた瞬間に2人がため息をついた理由を十代は理解した。

「そういうわけでして…。」
「そうですか…。」
 何故か十代がベッドの上で正座をしたので、遊星も正座をして向き合った。
「逃げ切れなかったんだ…。」
「クロウとコナミは相手が悪いですね…。」
「というわけでデュエルしよう。」
「というわけ、と言われましても…。」
「オレが勝ったら遊星は大人しく白状する。」
「そう言われても…。」
「タダでとは言わない、お前が勝ったらオレが好きな奴を白状する、それでどうだ!」
「………、え!?」
 考えてもみなかった条件を出されて遊星は驚く。
 好きな相手を白状するという事は、十代に好きな相手がいるという事になる。
 完全に勢いだったのだろう、しまった、と十代の顔色が変わったが前言撤回はしなかったので後に引けないと思ったのだろう。
「………。」
「………。」
 顔を見合わせて2人は考える。
 これで勝てば、自分が好きなのは目の前にいる、という事がデュエルに託けて伝えられる。
 だが負ければ、相手の好きな人を聞かされ、覚悟も決めないままに高確率で失恋する事になる。
 完全に勢いと場の流れだけでそれをしてもいいのか。
 けれどデュエルをしなければ下で待っている2人への言い訳が出来ない。
「えっと…、それじゃあやりましょうか…。」
「悪いな…。」
 デュエルディスクを構える気になれない2人は、静かにベッドの上にカードを広げた。





04 過去に会いたい人がいる相棒と、未来に会いたい人がいる十代の話

「十代君。今日はキミに素敵な物を持ってきたよ。」
 そう言って遊戯がテーブルの上に置いたのは数枚の書類だった。
 久し振りに会って食事をしながらお互いの近況などを楽しく話をしていた、その中で置かれた文字がぎっしり書かれた書類に十代は読む前に若干の拒絶反応を感じた。
 勉強が苦手なのは昔からで、どうも文字が多い物は苦手だ。
 けれど遊戯が素敵な物だと持ってきてくれた物なので適当な扱いは出来ない。
 十代は受け取って細かい文字をしっかりと目で追って行く。
 専門的な文字が並んでいるので難しい顔をしていた十代が、段々と驚きに目を丸くしていく。
 予想通りの反応に遊戯は満足そうな笑みを浮かべた。
「遊戯さん、これ…!」
「内緒だよ。特別に借りて来たんだ。新しいデュエルシステムについての企画書。」
 難しい事は良く分からない。
 けれど、この書類に書かれている事はD・ホイールの事だと、実物を見ている十代は理解出来た。
 まだD・ホイールという名前は出ていないが間違いない。
 苦手意識など吹き飛んで十代は何度も書類の細かい文字を読んだ。
 まるで全てを記憶しようとしている様子が微笑ましくて遊戯は黙って見守る。
「これって実用目途は立っているんですか?」
 何度も読んだ後に十代は尋ねた。
 遊戯は困ったような笑みを浮かべて首を横に振る。
「まだ何も。これが採用されるかも決まっていない段階。まぁ、未来に実物があるんだから通るんだろうけど。」
「そうですか…。」
 実際にD・ホイールが動いているのを見たが、それを使うライディングデュエルというものについては言葉で説明を聞いただけだ。
 しかも1度聞いただけの説明なので、もう記憶が薄い。
 また説明してもらおうにも、話してくれた青年はここにはいない。
 きっとこの世界にもいないのだろう。
 正確な時間は分からないが、あの青年は遠い未来を生きている人だったから。
「………、余計な事をしちゃったかな?」
 書類を見ながらも、ここではないどこか遠くを見ているような目をする十代に、遊戯はそっと尋ねる。
 顔を上げた十代は慌てて首を横に振った。
「そんな事ありません!あいつに近づけたみたいで凄く嬉しいです!」
 1度だけ出会った未来から来た青年。
 1日にも満たない時間で帰ってしまって、交わした言葉なんてたいしたものではないのに、何故か強く印象に残った。
 出会った日から随分と経った今でも印象は色褪せてくれない。
 この感情が何なのか分からないが、出来ればもう1度、望めるなら1度だけでなくもっとたくさん、会いたいと思う。
 けれどそれが叶う事はない。
 だって彼はこの世界の何処にもいないのだから。
「本当に嬉しいんですけど…、だたちょっと…、ちょっとだけ、辛いだけです。」
「………、そっか。」
 遊戯は手を伸ばしてそっと十代の頭を撫でた。
「キミが彼を忘れたくないなら、それを大切にしていいと思う。」
「でも…、会えるかなんて分かりませんし…。」
「分からないなら会えるかもしれない。キミが思うのは未来で、決まった過去じゃないんだから、可能性なんてたくさんあるよ。」
 十代は顔を上げられなかった。
 遊戯は詳しく話そうとしないが、彼が心を向けているのは過去だというのを知っている。
 それに比べれば自分は未来だ。
 遊戯が笑って励ましてくれてる、それを否定する材料なんてどこにもない。
 可能性の1つがこうして手にあるのだから尚更だ。
「遊戯さん…、この書類ってもらえませんか?」
「残念ながら内緒の物だから。」
「だったら…、また何かあったら教えてください。」
「うん。約束するよ、絶対に。」
 書類を宝物を見るかのように眺めてから顔を上げて、優しい表情で笑ってくれている遊戯に、十代も笑い返した。





05 どっちが上になるかで騒いでいる十代と遊星の話

 軽く唇を触れ合わせて、触れるだけでは足りなくなってキスをして。
 それだけでは足りなくなった頃に十代は遊星の肩を掴む。
 拒絶されなければ体重をかけてそのままベッドに倒れて事が進む筈なのだが、十代が少し体重をかけた所で遊星も十代の肩を掴んだ。
 お互いの肩を掴んで相手を後ろへ倒す為に押す。
 最初は軽く力を入れる程度だったのだが、相手が倒れないのを見て段々と力が入って来る。
 そのうち先程キスをしていた余韻など欠片もなく2人とも思いきり力を込めて相手の肩を押していた。
 埒が明かないと思った十代が、ちょっとストップ、と声をかける。
 遊星が素直に動きを止めたのを見て、十代もようやく肩から力を抜いた。
「何だよ、今日は駄目なのか?」
「いいえ。」
 十代の質問に遊星は首を横に振った。
「ただ、今日はオレが貴方を抱きたいです。」
 やけに真顔でストレートに言われ、思わず十代は息を詰まらせて怯んでしまう。
 それでも肩から手をどかして後ろへと逃げなかったのは奇跡だ、自分で自分を褒めたくなった。
 顔が赤くなるのを自覚しながら、ほんの少しも照れた様子を見せない遊星を十代は真正面から見返した。
「される側だと不満か?」
「不満と言うか…、前回もその前も十代さんにしてもらうばかりだったので、今度はオレが十代さんを…。」
「いや、言うな、それ以上言うな。何か恥ずかしい事言うつもりだろうお前。」
「意見を言いたいだけです。」
「それでも言うな頼むから。」
 重ねて頼めば遊星は素直に口を噤んだ。
 けれど話し合っている内容については引く気がないらしい。
 遊星の表情からそれは分かるが、それは十代も同じだ。
「十代さんこそオレに抱かれるのは嫌なんですか?」
「だから抱くとか真顔で言うな恥ずかしいんだよ。そうじゃなくて、別に嫌だとかは全くなくて何となく気分だよ、気分。」
「気分ですか…、成程。」
 納得したように遊星が頷く。
 男同士なのでどちらかが妥協しなければ行為は成立しない。
 大抵は言い出した方が、やりたいんだからそうだよな、と主導権を得る。
 けれど今日はお互いに同じ方向で気分が一致してしまったらしい。
 早い者勝ちで決まるなら今日は十代になるのだが、止めて意見までしてきた遊星の気持ちを完全に放っておくなんて流石に出来ない。
 けれど何の理由もなく相手に主導権を渡すには気分が邪魔をして、確かに何となく気分という言葉が正解だ。
 どうしようか。
 お互い妙に真剣な顔で悩む。
 話し合いで片付けてもいいのだが平行線を辿って長引きそうだ。
 そんなじれったい事を今この状況でするのはお互いに辛かった。
 こうなれば方法は1つだ。
 十代と遊星は同時に勢いよくベットから降りて立ち上がった。
「よっし、それじゃあデュエルだ!」
「受けて立ちます。」
 出来る限り即行で勝負をつける、そんな事を無駄に真剣な顔で考えながら、2人はデッキを手に取った。





06 クリスマスを全力で考えたらこうなった話

「メリークリスマス。」
 そんな声をと共に突然自室の窓がガラリと開けば誰だって驚くだろう。
 勿論遊星も急な襲撃に驚き、びくりと肩を跳ねさせて慌てて声が聞こえた方を振り返れば、そこには真っ赤な衣装を着た不審者がいた。
「………、十代さん…?」
 不審者、もとい十代は、クリスマスという今日この日にはうってつけの格好をしていた。
 赤い服と帽子にいかにも玩具と分かる白いひげを付けて大きな袋を担いでいる。
 確認しなくてもサンタクロースの格好だ。
 窓から侵入を果たした十代の元へ駆け寄ると、窓の外には帽子をかぶった雪だるまのきぐるみを着たヨハン、そうして訳の分からない生き物がいた。
「あの…?」
「ああ、オレがサンタクロースでヨハンが雪だるまな。」
「ではなくて…。」
「それでトナカイ代わりにヨハンの精霊、サファイア・ペガサス。かっこいいだろう。」
 赤い色の丸い物を鼻先に付けられたペガサスは、遊星の視線にただため息をついた、どうやら不本意らしい。
 十代が突然不法侵入してきた事。
 ヨハンと揃って変装している事。
 それよりも精霊が見えている事。
 もうどれに驚けばいいのか遊星には分からず、そうですか、と間の抜けた返事を返すしか出来なかった。
「というわけでサンタからいい子にしていた遊星にプレゼントだ。」
 担いでいた白い袋には何か大きなものが入ってたらしい。
 十代が取り出すと、それは大きなクマのぬいぐるみだった。
 きょとりと目を丸くする遊星に十代はそれを押し付ける。
「………、え?」
 ふわふわとした柔らかい感触がする茶色の大きなクマのぬいぐるみ。
 思わず受け取ってしまったが、そんな物を欲しがるような趣味を遊星はしていない。
 困惑でいっぱいという表情で遊星はクマと十代を交互に見る。
「なんかヨハンが言うには、そのクマがオレに似ているらしい。」
 そうだろうか、と遊星の腕の中でくったりと柔らかい体を曲げているクマを見る。
 少なくとも遊星には十代との類似点は見つけられなかった。
「似てるだろう。なんかその間が抜けた感じとか、あと茶色いところとか。」
 ヨハンがそう補足した。
 間が抜けていると言う部分には同意できないが、確かに十代の髪とよく似た茶色をしている。
「ヨハンの主張は良く分かんないけど、そういうわけで。」
「でも何故これをオレに渡そうと…。」
「ぬいぐるみ抱えている遊星って面白いかなって。」
「………、そうですか…。」
「まぁオレがいない時にでも代わりと思って可愛がってくれ。」
「はぁ…。」
「それじゃあ遊星、またな!」
 再び十代は窓から外へ出てサファイア・ペガサスの背に乗ると、ヨハンと共に手を振ってそのまま空へ飛び立って行った。
 妙にメルヘンチックな光景で、クリスマスという日に似合うと言えなくもない。
 そうして遊星の腕には、これまたメルヘンチックな可愛いクマのぬいぐるみ。
 とりあえずこれを何処に置こうか、と自分の身長の半分以上はあるぬいぐるみを抱えて遊星は少しの間途方に暮れていた。





07 クリスマスに貰ったクマのぬいぐるみはその後も元気ですという話

 ジャックもクロウもブルーノも3人揃って同じ方向を遠巻きに見つめる。
 視線の先には遊星が黙々とパソコンに向きあっている姿が見える。
 いつもと変わらず真剣な様子で作業に没頭している。
 その姿は間違いなくいつも通りで、3人にとっては今更気にする事もない見慣れた姿だ。
 けれど数日前に、その見慣れた光景に、明らかに異物が紛れ込むようになった。
 大きなクマのぬいぐるみだ。
「何でクマのぬいぐるみなんだよ…。」
 クロウが呆然と呟く。
 数日前にこの不思議な光景は出来上がった。
 いつものように遊星が作業を始めようとした時に、1度部屋に戻って何かを取りに行った。
 それがこのぬいぐるみだった。
 呆然とする3人を余所に、遊星は自分が作業する場所の隣に椅子を引っ張ってきて、そこにぬいぐるみを置いた。
 少しの間ぬいぐるみを眺めた後、どうやらそれで満足したのかその後は普段の作業に戻った。
 遊星に変わった様子は見られない。
 いつも通りでおかしな事は何もない。
 だからこそ必要以上にぬいぐるみの存在が浮いていた。
「おいジャック、お前がちょっと聞いてこいよ。」
「何故オレがそんな事を。気になるのならお前が聞いてくればいいだろう。」
「どうせお前だって気になってるんだろうが。」
「2人とも、そんな喧嘩腰にならないでよ。」
「そう言うならブルーノ、貴様が聞いて来い。」
「えー…。」
 こんな光景を見るようになってから数日、なかなか3人は原因を聞けずにいる。
 なんて答えが返ってくるか聞くのが怖いからだ。
 ああそっか、で済むような答えだったら構わない。
 けれどもし想像の斜め上を行くような事を言われたらどうしようか。
 目の前の光景があまりにも衝撃的で、もしそれ以上の衝撃が来たらどうしようかと思うと、今は怖くてどうしても踏み込めない。
 そんな3人の様子に遊星は気付いていない。
 何か騒いでいるのは分かっているが、原因が自分の隣にいるぬいぐるみとは思っていない。
 十代に、可愛がれ、と言われた。
 ぬいぐるみなんて興味を持った事がないので可愛がれと言われても具体的にどうすればいいのか分からない。
 だが十代からの贈り物なので適当には扱えない。
 十代の代わりと思ってなんて言われれば尚更だ。
 だから一生懸命に考えて、そういえば子供はよくぬいぐるみを自分が行く先々に持って行くな、という事に気付いた。
 おそらくは純粋に大切にしているだろうその様子をまずは真似てみよう、ただそう思った結果が今の光景。
 あとは少し、ほんの少しだけ、十代本人が代わりと言うなら近くに置いておきたいという気持ちがあった。
 たったそれだけの話。
 手が止まった遊星は、何気なく隣にくったりと座っているぬいぐるみを見て、その手を掴んでみた。
 柔らかい毛と生地と綿で出来たそれは握ってみると意外と心地いい。
 ふわふわとした感触に少し癒される気がした。
 思わず遊星は小さく笑みを浮かべる。
 それが更にジャックとクロウとブルーノを混乱させるとも知らずに。 





08 十代のパートナーであるコナミ君を遊星が羨ましく思っている話

 コナミが十代のパートナーだと知ったのは、遊星がコナミをWTGPに誘ってから暫く経った頃だった。
 遊星が十代と出会ってそれなりに時間が経ったがコナミの話を聞いた事はなく、コナミから十代の話を聞く事もなかった。
 それでも遊星が十代とコナミの事を知ったのは、十代が遊星を訪ねて来た時にたまたま遊星の家にコナミがいたから。
 何で言わなかったんだ、とコナミに聞けば、別に自分から言う必要はないと思っていた、と返された。
 確かにわざわざ自分から聞かれてもいないのに申告するような事じゃない。
 遊星は、それはそうだな、とコナミの言い分に頷いた。
 けれど十代とコナミの関係を知ってから、遊星は何となく心の奥に引っ掛かりを感じるようになった。
「だから、何でお前はそうオレに面倒事を押し付けるんだよ、十代。」
 聞こえてきた名前に思わず遊星の手が止まる。
 それではいけないと軽く頭を振るが目の前の物に集中出来ず、そっと背後の様子を窺った。
 電話が来た、と遊星の作業を隣で見ていたコナミはガレージの端へと行き、先程名前を呼んだ相手と電話をしている。
 遊星から離れたのは、聞かれてまずい話というわけではなく、単にすぐ傍で話をしては邪魔になると思った為の配慮だろう。
 そうでなければ遊星に聞こえるような音量で話はしない。
 詳しい内容は分からないが、十代が何かをコナミに頼み、それが面倒なので引き受けるのを渋っている様子だ。
「十代のその、お前しかいない、は聞き飽きた。そう言えばオレが何でも…。」
 言葉の途中で口を噤み、落ち着きなくずれてもいない赤い色の帽子を何度かかぶり直し、ため息をつく。
「分かった、分かったよ。手伝ってやるから。うん、後で行く。今は無理なんだ、足がない。」
 そう言ってコナミは遊星の方を振り返る。
 目が合ってしまったがコナミが気にした様子はなかった。
 不自然にならないように遊星はコナミから視線を外して手元を見る。
 彼のD・ホイールは現在遊星によって一部が分解されていて、とてもすぐに動ける状況ではない。
「遊星に直してもらったら行くから。え?あー…、もう煩いな。ずるいも何もないって。もう切るからな。話は全部後で。それじゃあ。」
 半ば強制的に電話を終わらせたコナミが、煩くして悪かったな、と遊星の所に戻ってくる。
 遊星の視線をそういう意味で受け取ったらしい。
 そんな事はないと首を横に振って遊星は修理に戻った。
「………、その…。」
「ん?」
「十代さんが、どうかしたのか?」
 聞いていいのかと悩みながらも結局好奇心に負けてそっと尋ねると、ああ、とコナミが気にした様子もなく答えた。
「十代の仕事の手伝いだよ。たまに手が回らなくなるとオレに頼んでくるんだ。」
「コナミも精霊世界に行くのか?」
「行く時もあるけど今回はパス。遊星のパートナーを引き受けたのに向こうに長々行くわけにいかないからな。」
「なんか悪いな。」
「悪いのは十代だから、遊星は気にしなくていいよ。」
 随分と遠慮のない言い方に、何かを言いかけて、遊星は止めた。
 十代とコナミの距離はとても近くて遊星が口を挟める隙間など全くないからだ。
 そうと分かっているのに、何故か黙り続けるのが苦痛に感じ、遊星は我慢出来ずにそろりと口を開いた。
「………、なぁ。」
「なに?」
「その…。」
「言いたい事があるなら遠慮せずに言えよ。」
「………、コナミは、ああやって十代さんに頼み事をされるの、多いのか?」
「え?まぁ、学生時代にイベント事がある度にパートナーだった、それが続いてるんだろうな。よくあるよ。」
「そうか…。」
 思わず続きそうになった、羨ましいな、という一言は流石に何とか飲み込んだ。
 十代と昔から付き合いがある事が、お前しかいないと言われる程に頼られている事が、気軽に言葉を交わしている事が。
 その何もかもが遊星にとっては羨ましく感じていた。
 ふと耳元で笑い声が聞こえて遊星は顔を上げる。
 にこにこと笑うコナミと目が合い、普段なら人懐っこいその様子を羨ましく思うのに、今は何もかも見透かされたような感じが酷く気恥ずかしかった。
 それでも、羨ましいな、と思う言葉は奥底にしまったまま。
 ただ少しだけD・ホイールを直す手をゆっくりと動かしていた。
 ほんの僅かでも十代とコナミが一緒に過ごす時間が減ればいいと、そんな意地悪な事を無意識に考えながら。





09 WTGPでは遊星のパートナーになったコナミ君を十代が羨ましく思っている話

 ハネクリボーが落ち着きなく頭上をくるくる回る。
 コナミが軽く手招きすれば、少し迷った後にぽんっと頭の上に降りてきて、そこで落ち着いたようだ。
 普段なら真っ先に十代の所に行く。
 けれど今そうしなかったのは、やけに十代が不機嫌そうだからだ。
 対象はハネクリボーではなく、今は出掛けているヨハンでもなく、自分だという事をコナミは理解していた。
 けれど無視をして万丈目からの資料を読む。
 態々遊星との約束を全て切り上げ、D・ホイールもろくに整備してもらえないまま十代の呼び出しに応じた。
 これ以上甘やかしてなんかやらない、黙っているうちは何も聞いてやらないからな。
 苛立った雰囲気を隠そうとしない十代に、コナミも無言のままそう態度で示し、ハネクリボーが不穏な空気に結局姿を消してしまった。
 それから少し経ち、根負けしたように十代がため息をつく。
「お前って遊星を何処でナンパしたんだ?」
「街中だよ。デュエルする人数欲しくて、偶然いたから声をかけた。」
「何処でもタッグなのがお前らしいっていうか…。」
「オレがシングルよりもタッグ重視なのは今に始まった事じゃないだろう?」
「そうだけどさ…。」
「十代、言いたい事ははっきり言え。お前らしくもない。」
「………。」
 困ったように十代が黙り込む。
 言葉を探しているようにも見えた。
 急かすつもりはないので資料を読みながらのんびりと待つ事にした。
 苛立っている原因は分かっている。
 随分と気持ちを持て余してしまっているようだが、十代が遊星に好意を向けているのは近い位置で見ていればかなり分かりやすかった。
 その好意が自分やヨハンに向けられる感情とは違っている事も。
 だから十代が何を言いたいかなんて簡単に予想が出来る。
 悩んでいる事が不思議なくらいだ。
 だってさっき十代は電話で、ずるい、と言っていた。
 遊星の所にいると言った途端にそんな事を言い出したのだから、本当なら悩む必要も待つ必要もない。
 それでも急かしはせずにのんびりと資料の内容を頭に入れていれば、コナミ、と十代に呼ばれたので顔を上げた。
「ん?」
「じゃあ、遠慮なく言わせてもらうけどさ…。」
「ああ。」
 少し口篭るのは気恥ずかしさからだろうか。
 それでも十代は覚悟を決めたように口を開いた。
「遊星とはオレが組みたかったのに、お前ずるい。」
 時間をかけて考えた挙句の言葉は子供のような可愛い独占欲。
 思わずコナミは苦笑した。
 WTGP開催発表から暫く十代はこっちの世界にいなかったから仕方がない、とか、遊星も最初はきっとそう思っていただろう、とか、言いたい事は色々と頭に浮かんだが、それを全部コナミは声に出す事をやめて。
「十代。」
「何だよ。」
「鬱陶しい。」
「酷い!」
 そんな事はオレを巻き込まずに遊星本人と2人で話し合え、という正直な気持ちを簡潔に告げ、騒ぐ十代を余所に意識を資料へと戻した。





10 映画の後の遊星を妄想してみた話

 まずは遊戯と別れた。
 こんな奇跡がもう1度起こる可能性なんてとても低いのに、それでもまた会えたらいいよね、と希望を口にして笑顔でお互いへと手を振った。
 次に十代と別れた。
 十代のいるべき時代に戻ると、それじゃあな、と満面の笑顔を浮かべながら明日にでもまた会う友人と別れるような気軽さで彼はそう言った。
 再会を望んだ遊戯の言葉を、その笑顔と気軽さで遊星へもう1度伝えてくれた。
 遊星も笑顔で頷き、それから握手をして、見送ってくれる遊星へと手を振って遊星は自分の時代へ戻った。
 過ごした時間は1日くらいだろうか。
 でも自分の時代へと戻って見れば、さほど時間の経過はなかった。
 崩れた街は何事もなかったように元通り。
 仲間達は全員無事に帰りを迎えてくれた。
 守りたい物を自分は守る事が出来た。
 それを実感すれば今まで感じていなかった疲れがどっと押し寄せてきた。
 命がけのデュエルに素晴らしいデュエリストとの出会い。
 ずっと気分が高揚していた、その反動が来たのだろう。
 仲間達には簡単に事情を説明し、無事に取り戻したスターダストのカードを見せ、素直に疲れたと言って休ませてもらう事にした。
 とりあえず眠ろう。
 そう思ってデッキを机の上に置いたが、気付けばケースの中からスターダストのカードを取り出していた。
 ベッドの上に座ってカードをじっと眺める。
 奪われた驚きも、街が崩れていく様子への焦りも、犠牲を厭わない言葉への怒りも、ほんの少し前の事だから何もかも鮮明に覚えているのに。
 カードを見て思い出すのは共に戦ってくれた2人のデュエリストの事ばかり。
 強いデュエリストとは数多く出会った。
 でも遊戯も十代も今まで出会ってきたデュエリストとは違った。
 特別だ、と。
 その言葉をこんなにも強く実感した事はなかった。
 疲れているのに、出来れば今すぐにも眠ってしまいたいのに、ほんの少しの彼らとの思い出を思い返していれば眠るのが勿体なく見えた。
 何気なく握手を交わした自分の手を見る。
 また会えればいい。
 抑えきれない気持ちのまま笑みを浮かべながら、あまりにも無茶な別れ際の言葉が実現すればいいと遊星は心から願った。





11 遊星が猫を抱えているだけの話

「何やってんだ?」
 思わず十代は遊星へとそう声をかけた。
 寒い冬空の下で何故か遊星はポツリとガレージの外に立ち尽くしていた。
 日向に立ってはいるが風が吹くと寒い。
 何か理由があっての事なのだろうかと思ったが、そんな雰囲気ではないように思えたので十代は普通に声をかけた。
 遊星も普段通りに振り返り、十代さん、と嬉しそうに言う。
 考え込んでいるとか頭を冷やしているとかそういうわけではないようだ。
 だったら何故わざわざ寒い場所にいるのか。
 普段から上着も手袋も着用している遊星だが、それでもその装備は真冬では心許ない。
 不思議に思いながら傍に行けば、遊星が何かを抱えている事にに気付いた。
「………、猫?」
「はい、猫です。」
 遊星が頷く。
 猫なのは見れば分かる。
 白くて茶色の部分もいくつかあるわりと大きな猫で、遊星の腕の中で気持ちよさそうに日向ぼっこを楽しんでいる。
 試しに十代が軽く頭を撫でてみたが、鬱陶しそうに軽く頭を振ったものの、逃げ出しはしなかった。
 何処かの飼い猫だろうか。
 少なくとも遊星達は猫を飼ったりなどしていない筈。
 首を傾げながら十代は遊星を見上げれば、遊星は困ったように笑った。
「多分野良猫だと思うんです。でもよく歩いていると懐いて来るので、何となく抱き上げてみたら随分と落ち着かれてしまって…。」
「下ろさないのか?」
「下ろそうとすると爪を立ててくるんです…。」
「凄い懐かれようだな。」
「中に入れるのも危ないと思って、それでここに。」
「成程。」
 確かにガレージの中に入って猫が好きに動きまわりでもしたら工具や部品などがある部屋は危なそうだし、ある意味でD・ホイールや機械類の方も危ない。
 まだやる事があるのにな、と遊星は小さく呟く。
 だったら爪を立ててこようが何をしようが下せばいいのにと思うが、そうはせず猫の日向ぼっこに付き合う遊星がおかしくて笑ってしまう。
「十代さん?」
 きょとりと不思議そうな顔をする遊星に、何でもない、と答えてぴたりと遊星に身を寄せる。
 驚いた遊星がびくりと体を震わせ、それに少し猫が驚いたのか顔を上げる。
 けれどすぐに何事もなかったように欠伸をして丸くなる。
「えっと…、あの…?」
「やっぱり日向でも風があると寒いよな。それでも暫くここにいたら暖かくなるかな。」
「寒いなら中に入った方が…。」
「お前がいないんじゃつまんないよ。」
 恥ずかしそうに俯いた遊星を見て、十代は楽しそうに笑いながら更に体を寄せた。
「折角だから何処か座ろうぜ。それで話でもしよう。どうせ何も出来ないんだしな。」
 十代と遊星の事など気にせずに眠る猫を見て、にこにこと笑う十代を見て、遊星には頷くという選択肢以外は存在しなかった。





12 遊星と雪遊びをしたい十代の話

「遊星。」
「はい。」
 真後ろに立って名前を呼べば、遊星はパソコンの画面を見たまま返事をする。
 作業しながらでいいから、と言ったのは十代なので特にそれは気にしない。
 きっと遊星は少しだけ申し訳なく思っているんだろうなと考えればつい笑ってしまいそうになる。
 それを表に出さないようにしながら十代は遊星の後ろからパソコンの画面を見る。
 内容はさっぱり分からないが、何かを作っているのではなく確認をしているようだという事は分かった。
「今は話しかけて平気か?」
「はい、平気です。」
「少し驚かせても?」
「え…?」
 遊星が振り返る前に後ろから遊星の頬に両手をあてた。
「うわっ…!」
 途端に遊星が悲鳴を上げて勢いよく振り返った。
 その反応には遠慮なく大声を上げて十代は笑う。
 見事に予想通りの反応だったので気分がよかった。
「あはは、冷たいだろう。」
「どうしたんですか、その手。」
「雪で遊んできた。龍亞と龍可の2人と一緒に外行っていたの気付かなかったか?」
 素直に頷いた遊星の頬に再び触れる。
 冷たいと分かっていても振り払えない遊星は、触れた途端に少し肩を震わせ、それからじっと冷たさに耐えた。
 すっかり冷えた指先にほんの僅かな温かさを感じながら、この手をどうしようか真剣に悩んでいる遊星の顔をそのまま引き寄せた。
「一段落ついたならお前も外に来いよ、人手が足りない。」
「何をしているんですか?」
「雪だるま作ってる。雪をかき集めて雪玉作ったんだけど、これが重くて。」
「………、分かりました、行きます。」
「今でいいのか?」
「大丈夫です。手袋持ってくるので待っていてください。」
「その付けている奴じゃやっぱダメなのか?」
「オレのじゃなくて十代さんのですよ。」
 十代の手を顔から離して遊星がぎゅっと握る。
 素手ではないので冷え切った指先では全く温かさを感じない。
「冷たくなったらまた遊星で温めるよ。」
「素直に手袋で許してください。」
「えー。」
 不満そうな十代の呟きに、外にいる龍亞と龍可が2人を呼ぶ声が重なった。 





13 遊星と手を繋いでみようかなんて思った十代の話

 十代は何となく自分の手を見て握って開いてを繰り返す。
 それから少し前を歩く遊星の背中を眺める。
 遊びに来てみれば、ちょうど遊星が買い物に行くと言うので、十代も一緒に街へ出た。
 主にD・ホイールの部品を買いに来たので見ていても何がなんだかさっぱり分からない。
 だがD・ホイールに興味はあるので、不思議そうにしていれば遊星が簡単に説明をしてくれる、それが楽しくて暇になる事はなかった。
 真剣に悩んだ末に決めた物を買い、それから頼まれた日用品を買いに行くと別の店に向かう。
 ごく普通の買い物だ。
 特にそれに不満があるわけではない。
 ただ何となく、もしここで遊星の手を握ってなどみたら、ただの買い物が少しは別の意味を持つのだろうかとそんな事を考えてしまった。
 行動としてはとても簡単だ。
 ほんの少し手を伸ばせば届く位置にある遊星の手を握るだけ。
 まず間違いなく振り払われる事はないだろう。
 けれど手を伸ばす事は躊躇われた。
 単純に、恥ずかしい。
「十代さん?」
 振り返った遊星が顔を顰めている十代を見て不思議そうに名前を呼んだ。
 こちらの葛藤になど全く気付いていない遊星をほんの少し睨む。
 ちょっとした八つ当たりだ。
 そんな事で遊星に今の気持ちが伝わるわけもなく、彼は全く見当違いな心配を始めた。
「もしかして気分でも悪いんですか?」
「………。」
「どこかで休むか、それとも帰った方が…。」
「遊星。」
 そうじゃない、と首を横に振って遊星の言葉を止める。
 それから十代はそっと遊星の方に手を差し出した。
「突然で悪いんだけど、オレはお前と手を繋いでみたいな、なんて今いきなり思ってしまったわけだ。」
「え?」
「でも恥ずかしくてとてもじゃないが出来ない。だから打開策を一緒に考えてくれ。」
 こうなったら道連れ、1人よりも2人だ。
 そう思いながら十代の言葉を理解して少し顔を赤くしながら僅かに動揺を見せた遊星を、十代も赤い顔をしながらじっと睨みつけた。





14 十代が遊星に片想いしている話

 これで何度目だろうか、やっぱり脈なしだよな、と実感するのは。
 思い出して回数を確認するなんて億劫でしかない。
 行儀悪く椅子の背凭れを前にして座り、頬杖を突いて遊星の作業を眺める。
 これが終わったらデュエルをする約束なので、デッキの調整も終わってしまっている十代はもう少しで終わるらしい作業を眺めているくらいしかやる事がなかった。
 画面を見ても何をしているのかはさっぱり分からない。
 だから自然と視線は遊星の方へと移り、時間を持て余せば考えたくない事がどうしても頭に浮かんでくる。
 友達としては上手く付き合えていると思う。
 デュエリストとしては何が遊星の心を捉えたのか知らないが本気で尊敬してもらえている。
 とても居心地のいい立場にいる。
 けれどだからこそ最悪だった。
 もう少し手放しても大丈夫だと思えるような立ち位置であれば多少の無理も出来ただろう。
 恋情という意味を持って好きになって貰う為に少しぐらい頑張れただろう。
 だが、友達で尊敬されている自分を、手放すにはあまりにも勿体なかった。
 何度も何度も遊星にその気がない事を実感して勝手に失恋まがいな事を繰り返しても。
 どうしても今の自分が手放せなかった。
「もう恋愛なんて2度としねぇ…。」
 さっさと諦めろという気持ちを込めてこんな事を呟くのは何度目になるだろうか。
「そうですか。」
 そうして遊星のこの相槌を聞くのも何度目だろうか。
 十代が急にこんな事を呟けば、最初のうちは心配をしてくれたものの、心配をしても何も答えない十代に何も聞かないのが親切だと遊星は判断してかはら返事は毎回こうだ。
 何となく遊星が座っている椅子を蹴る。
 突然の揺れに少し驚き振り返った遊星に伝えられる言葉なんて何もなくて。
「早く終わらせてデュエルしようぜ。」
 こんなありふれた言葉で自分の気持ちを誤魔化す事が精一杯だった。





15 遊星が十代に片想いしている話

 遊星には最近とても親しくしている女性がいる、という噂が何処からか流れてきた。
 何故そんな噂が出来上がったのか遊星は知らない。
 強いて心当たりを挙げるのならば、最近コナミと行動を共にしている女性にデュエルを教えてくれと頼まれ、暫くそれに付き合ったくらいだ。
 明確に相手の名前は噂として流れていないようだが、もしかしてそれが原因だったのだろうか。
 強くなってコナミを驚かせたいと言って女性はコナミのパートナーである遊星を頼ってきた。
 真剣な熱意に押されてしまい、コナミを驚かせるというのも少し楽しそうで、手が空いた時に自分が出来る事をした。
 人に教えるという事は結果的に遊星にとってもいい勉強になった。
 コナミと女性のデュエルを見届けた後は思わず2人に礼を言った程だ。
 でももしそれが原因ならば予想外の出来事も勉強する羽目になってしまったらしい。
「この噂を誰から聞いたかだって?」
 遊星に噂話を持って来たクロウに尋ねれば、そういえば誰だったろうか、と首を傾げる。
「カーリーだったような近所の奴らだったような…。」
「………、本当に噂になっているんだな。」
「決闘王の片方だからな、外で何回も女と会ってれば、そりゃ気になるって。」
「何が面白いのか…。」
「それで結局?」
「コナミの友人の手伝いをしただけだ。」
「やっぱりそんな落ちか。まぁ噂なんてほっとけって。オレ達も面白半分に色々言ってたから、あんまり言える立場じゃないけど。」
「オレ達?」
「いつものメンバー。それに十代もいたかな。」
「十代さんが…!?」
 何故驚くのか分からないと言った様子でクロウは頷く。
 その返事に遊星は血の気が引いて行くような気がした。
 噂話なんて信憑性がなく、コナミや女性に迷惑がかからないのなら自分はどうでもいいと思っていたが、十代が関わるとなるとそうも言っていられない。
 確かに親しくしたという表現は間違っていないだろうが、ただそれだけで特に深い意味などない。
 今すぐにでもそう十代に告げたい気持ちになった。
 けれど言い訳じみた言葉を十代に告げる理由は何もない。
 今のクロウのように尋ねられたならば話は別だが、急にこちらから言い出したら不自然でしかない。
「よう、遊星とクロウ、遊びに来た!」
 タイミングよく十代の声が聞こえてきて慌てて顔を上げる。
 手を振る十代はいつもと変わらない笑顔を遊星に向けた。
「暇ならデュエルしようぜ!」
 噂話なんて全く気にしていない様子の十代へ、遊星は出来る限りいつもと同じ調子で頷くしか出来なかった。





16 ぶつかりそうになった十代と遊星の話

 明日は一緒に出かけませんか、と遊星は言った。
 ああ勿論、と満面の笑みを浮かべて十代は頷いた。
 十代が勝手に遊びに行く事は多くても、前以って約束をして出掛ける事はあまりしない。
 何だか嬉しかった。
 出掛ける事も、遊星から誘ってくれた事も。
 嬉しくて楽しみで、それは間違いなかったのに。
「何で寝坊するかなオレは!」
 カード達の協力を得て遊星達の家の近くまで来て残りは歩く、というのが毎回のルート。
 家の前まで勿論行けるのだが、突然何処からか人が降って来るなんて場面を誰かに目撃されたら、十代は別にいいのだが遊星に変な迷惑がかかるかもしれない。
 人気のない裏路地やビルの屋上などが着地地点。
 そうしていつもは歩く距離を出来るだけ全力で走った。
 体力には自信があるので途中で足が止まってしまう心配はしていない。
 ただ自分の全力の速度で時間に間に合うのか、そればかりが心配だった。
『だから言ったんだよ、あいつの迷惑なんて考えないで家の前まで行けばいいって。』
「ユベル、ちょっと、今黙ってろ!」
 喋っている余裕がないと態度で示せばつまらなさそうに精霊は肩を竦めた。
 実態がないのでふわふわと飛ぶようについて来る姿が少し羨ましい。
 そう思いながらもとにかく走って、次の角を曲がればもう少しだと十代が気合を入れる。
 けれど曲がった先には誰かがいた。
「うわっ…!」
「え?」
 十代は慌てて止まろうとしたけれど、このまま全力で走ろうと踏み込んだ直後に気付いたので、突然の事に勢いは止まらなかった。
 驚いた十代の声に振り返ったのは遊星だった。
 相手が誰かと認識した直後はぶつかるだけだと思ったのだけれど。
 何故かその瞬間、十代の視界は上下が反転した。
 逆さまになった世界と急な浮遊感。
 何が起きたと混乱している十代の耳元に、あ、と少し焦った遊星の声が聞こえた。
 遊星が何かした為に自分の体は宙を浮いているのだと、もしかしたらこれは投げ技のような物を体験しているのだろうかと十代はぼんやり思う。
 短い浮遊感の後に地面に降りれば衝撃はあまりなかった。
 落ちる前に背中を支えられる感触があったので、器用にも遊星がどうにかしてくれたらしい。
 地面に倒れた十代はぼんやりと遊星を見上げ、遊星も倒れた十代をただただ驚いた顔で見下ろした。
「………、え?」
 困惑でいっぱいという雰囲気の呟きはほぼ同時に2人から発せられていた。





17 一緒にケーキを食べている十代と遊星の話

「遊星って好き嫌いはあるのか?」
「いえ、特には。」
「じゃあチョコレートケーキは食べれるのか?」
「はい。」
 自分の前にあるチョコレートケーキをフォークで切り分けながら尋ねて来る十代に遊星は何気なく頷く。
 遊星の前にはショートケーキがある。
 十代が美味しいからと買ってきてくれた土産だ。
 好きな方を選んでいいと言われてショートケーキを選んだが、特にこれといった理由はなく、チョコレートが嫌いなわけではない。
 こんな事を聞いてくるなんてもしかして十代はショートケーキの方を食べたかったのだろうか。
 もう半分くらいは食べてしまったケーキを見て遊星は内心焦ったが、すぐにそれは無意味な心配だと気付かされた。
「ほら。」
 差し出されたフォークに刺さったチョコレートケーキ。
「………、え?」
「食べれるなら折角だし両方食っとけよ、美味いぞ。」
 目の前のケーキとにこにこと笑っている十代を遊星は交互に見る。
 ここで何でもない顔をしてケーキを食べられればよかったのだが、1度でも躊躇ってケーキを食べる自分を想像してしまえばダメだった。
 恥ずかしさの方が圧倒的に勝ってしまってとてもじゃないが食べられない。
「遊星?」
「あの…。」
「ん?」
「………、その…。」
 食べるのは恥かしいが、断るのも何と言えばいいのか分からない。
 落ち着かない様子で視線をうろうろとさせる遊星を見て、ようやく十代も自分のしている事に気付く。
 気まずい雰囲気のままお互いを見て固まる。
 けれどいつまでもそうしていたって仕方がないので。
「い…っ、いいから早く食えって!」
 フォークを下げるという選択肢はなかったのか。
 十代はそう叫ぶと無理矢理ケーキを遊星の口の中へと突っ込んだ。 





18 時間を間違えて学生時代の十代の所に来た遊星の話

 きょとりと不思議そうに目を丸くしている十代の表情は、遊星が知っている十代の同じ表情よりもずっと幼かった。
 知らない場所、知らない人達、知ってはいるが記憶とは印象の違う人達。
 そして何より遊星の事など全く知らないとハッキリ分かる目を向けてくる十代。
 成程どうやら来る時間を間違えて予定より過去に来てしまったようだと遊星が理解するまで時間はあまりかからなかった。
「えーっと…。」
 十代は困惑したまま遊星を見る。
 他の仲間達も警戒した表情を隠さずに2人を見守っている。
 授業を終えて寮に戻ってくれば、一体何処から現れたのかバイクらしき乗り物が寮に突っ込みそうになり、それを何とか回避したかと思えば運転手が呆然としている十代を見つけて親しげに声をかけてきた。
 訳が分からなかった。
 訳が分からなかったのだが、この学校は不思議な事が多く、急にバイクが突っ込んでくる事くらい被害がなければ些細な事に感じてしまえた。
「とりあえず、お前は遊星って言ってオレに会いに来た、のか?」
「はい。」
「何処かで会ってるっけ?」
「オレが一方的に知っているだけです。迷惑をかけてすみません。」
「別に迷惑には思ってないから謝らなくてもいいけどさ…、でも何でオレに?」
 尤もな疑問だった。
 彼は現在ただの学生で、未来ですら公式には名を残さない人だ。
 誰の紹介もなしに十代個人に会いに来たなんて言われても疑問が真っ先に浮かぶだろう。
 どう誤魔化そうかと遊星は少しだけ悩んだけれど。
「………、憧れているんです。」
「は?」
 困惑させるだけと分かっても遊星は素直にそう言った。
 この気持ちを嘘で誤魔化す事が出来なかった。
「貴方はオレの憧れで目標です。だから会いに来ました。」
 本来ならば会いに行くべきは共に戦い笑顔で過去に行くという無茶をする自分を迎えてくれる数年後の十代だけれど。
 いつの十代でも自分が憧れ尊敬している十代に間違いないのだからと遊星は迷いなく思い、またも不思議そうな顔をする十代に出来るだけの笑顔を返した。 





19 時間をずらして満足時代の遊星の所に来た十代の話

 遊星のデュエルは昔からあまり変わらない。
 そう思いながら十代は笑顔で遊星のデュエルを眺めた。
 戦略は甘くてデッキ構成もまだ不安定、しかも自分と相手のデュエルディスクを繋ぎデュエルを強制的に行う様子は意外だったが、それでもデュエルするその様子は見慣れた姿だ。
『こんなの見て何が楽しいのさ。』
 ふわりと姿を現したユベルが呆れたように呟く。
 わざわざ時間を調べて調整をして着地地点をずらしてまで遊星の過去のデュエルを見に来たなんて呆れられて当然だろう。
 自覚があるので十代は反論せず苦笑したが、それでも視線はずっと下で行われているデュエルの向けられている。
「少し攻撃が単調だな。まだ戦略の幅が狭いというか…。」
『あの程度に相手に随分かかるね、情けない。』
「ここから数年であそこまで腕を上げたのか。きっとまだ伸びるだろうな。」
 本当に凄いな、と十代は独り言のように呟く。
 遊星に向けられている目は優しくもあり熱っぽくもある。
 後輩を見守る先輩とも思い人を誇らしげに見つめる恋人とも言える十代の様子にユベルの機嫌は降下した。
 それに気付かないまま十代は遊星を眺め、やがてデュエルは遊星の勝利で終わった。
 相手のデュエルディスクが壊れた事には驚いたが、それ以上に好奇心の方が先に立った。
 遊星の仲間はジャックとクロウと、後はもう1人いる筈だが鬼柳という名前しか知らない。
 とりあえずジャックとクロウの気配は近くにない事を確認して十代はビルから飛び降りた。
 ユベルが止める声なんて聞こえない。
 着地と同時に驚いた遊星は振り返り、それに十代は満面の笑みを返した。
「突然で悪いけどデュエルしようぜ。」
「………、誰だ?」
「誰でもいいじゃん。」
 明らかに警戒している遊星の射抜くような視線を笑顔で流す。
 見慣れない表情が見れただけで過去に来たかいがあるというもの。
 でもそれだけでは物足りない、出来れば実際に今の遊星のデュエルを体感したい。
「強いて言うなら…、お前のファンだよ。」
「は?」
「お前とお前のデュエルが大好きなんだ。だからやろうぜ、退屈はさせない。」
 遊星が困惑しているのは分かっている。
 けれどデュエリストである以上この申し出は断られないだろうと十代は自信を持った笑みを浮かべてデュエルディスクを構えた。





20 一緒にD・ホイールに乗っている十代と遊星の話

「十代さんは、いつ頃にD・ホイールのライセンスを取るんですか?」
 信号で停止している時に遊星は十代に尋ねた。
 何気なく辺りの景色を見ていた十代は、急にどうした、と言いたそうな顔で前を向く。
 見えるのは遊星の後ろ姿で、表情を見ようにもヘルメットが邪魔だ。
「急になんだよ、オレを乗せんの面倒になったか?」
「そんな事はありません。」
 冗談交じりに言う十代に対し、遊星が酷く真面目な声で否定をする。
 そんなに本気で言わなくていいのに、と十代は笑い出すのを抑えながら、遊星の服を掴んでいる手に少し力を込める。
「練習したりデッキ組んだりは楽しいんだけど、でもやっぱテストってどうも面倒でさぁ…。」
「十代さんならすぐに取れると思いますが、でも急ぐ事ではありませんからね。」
「何か取ってほしくないみたいな言い方だな。」
 笑い声交じりに告げられる言葉に遊星は少しだけ言葉を詰まらせる。
 それと同時に信号が変わったのでゆっくり走りだした。
 急ぐ必要がないので速度はずっと遅くのんびりと走っていく。
「十代さんとのライディングデュエルは是非ともしてみたいです。」
「オレだってやってみたいさ。お前と色々なデュエルが出来るなんて考えただけで楽しくなる。」
 お互いに相手の次の言葉を待った。
 そして、でも、と続けたのは2人同時だった。
 重なった同じ言葉に思わず笑い出し、そのまま十代の方が言葉を続けた。
「でも、そうなると一緒に走れはするけど、乗せてもらう口実なくなるからな。お前に乗せてもらってるの、わりと好き。」
「口実はそれで十分です。」
「そうか?」
「はい。好きと言って貰えるならオレも遠慮しなくてすみますから。」
「遠慮って、するべきはオレだろう。」
「十代さんは気にしないでください。」
「何だそれ。」
 十代は苦笑しながら背中に抱き付く。
 それに少し遊星は驚いたようだったが、この程度で操作を失敗する事はなかった。
 随分と気を使ってくれている運転で目的地へ向かっていく。
 そんな気遣いは気恥ずかしいが同時に嬉しくもあり、十代は遊星の背中に頬を押しつけて目を閉じた。
「まぁお前がそう言うなら、気にせずライセンスとって、遠慮なく乗せてもらうか。」
「はい。」 
 遊星は安心したような表情で頷き、それからもう少しだけ速度を落とした。





□ END □

 2010.12.03〜2011.02.25
 映画すっごく楽しかった





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