昼寝



 様子がおかしいな、と思ったのは3回目のデュエルの途中。
 くじ引きタッグデュエルはアテムと遊戯と十代と遊星が揃えばいつもやっている遊び。
 5分で新しいデッキを作る、見ないで40枚引いてそれをデッキにする、など色々な条件を付けてみたりしながら本当に遊ぶ事を目的でデュエルをしていた。
 おかしいな、と最初に思ったのは遊戯で、その相手は現在のゲームでパートナーになった遊星。
 何も見ずに40枚を引いてまとめたデッキなので遊星のデッキの中身は分からない。
 おかげで遊戯の手札はずっと意味不明。
 十代も似たような感じなのだろう、ろくな手札がなく事故のようだがそれはそれで楽しそうだ。
 遊戯も楽しいのだが、こういう時は無意識にでもいいカードを引くアテムが恨めしい。
 遊星の手札も言うほど悪くないようで、それで何とか凌いでいる。
 でも小さなミスが多いように思えた。
 その時は手札が悪かったのだろうと思ったが、後で考えると自分が伏せたカードが使えたんじゃないんだろうかと思う場面が度々ある。
 ここにいるのは全員トップクラスのデュエリスト。
 ただの遊びでも、デッキが滅茶苦茶でも、手札がどうしようもなくても、手を抜く事はしない。
 それなのに簡単なミスが多くて遊戯は首を傾げた。
 遊星が特に何も言わないのでデュエルは続き、勝ったのはアテムと十代の方。
 最後には十代が良いカードを引いて、それが止めになった。
「よっしゃあ!オレ達の勝ちだ!」
「危なかったぜ。十代がそのカードを引いてなかったら負けていたかもな。オレの手札なんて酷いもんだぜ。」
「うわ、罠ばっかり。ボクなんか逆に魔法ばっかりだったよ。」
「でも2人とも流石ですよね。適当なのに凄く面白いデュエルでした!遊星もそう思うよな。」
「はい…。」
 遊星が自分の手札を見たまま頷く。
 十代が不思議そうに首を傾げた。
 見せる表情も口数も少ない遊星だが、それでも彼は人への好意を素直に示す。
 十代と同じように遊戯達を尊敬している遊星ならもっと嬉しそうに頷いてくれるはず。
 それなのに様子がおかしい。
 ぐいっと十代は遊星に顔を近づける。
 けれど反応はなく、ただぼんやりとしている。
「遊星?」
 顔の前で手を振れば、漸く遊星が十代を見た。
 けれどそれも束の間。
 遊星が諦めたように目を閉じて、そのまま後ろにひっくり返った。
「遊星!?」
「遊星君!?」
「おい、どうした!?」
 バタンと音を立てて受け身も取らずに倒れたので3人とも慌てて遊星の周りに集まる。
 大きな声で叫んでいるのに反応はない。
 半ば混乱した十代が遊星の上着を掴んで乱暴にゆすっても、やっぱり反応はなかった。
「遊星!おい、遊星ってば!」
「ちょ、ちょっと、十代君、落ち着いて。」
 どうして倒れたのかも分からないのに乱暴な事をして悪化したら最悪だ。
 アテムが十代の腕を掴んで止める。
 それでも十代は慌てていて、それはアテムだって遊戯だって同じだ。
 とにかく安静にして救急車でも呼べばいいのか。
 混乱しながらも遊戯は自分を落ち着かせようと一生懸命に考え、携帯電話を手の取ったところで、止まった。
 アテムと十代も似たようなタイミングで気付く。
 勢いよく遊星は倒れた。
 でも顔色は悪くないし、気分が悪そうでもないし、呼吸も安定している。
 この様子を一言で言うのなら。
「………、もしかして、寝ているのか…?」
 ちょうどその言葉が当てはまる。
「そういえば…、何かを作っていて昨日は寝ていないって…、言ってたな…。」
 何となく落ち着いた十代が呟く。
 十代が遊星の所に遊びに行って遊戯達の所へ行こうと誘った。
 お前ろくに寝ていないのに大丈夫か、と出かける前に尋ねていたのは遊星の親友のクロウ。
 大丈夫だ、と遊星が言ったので、十代もあんまり深く気にしていなかったのだが。
 まさか意識が途切れて倒れるほど眠かったとは。
「何だよー…。」
 何でもないと分かれば力が抜けてその場にへたり込んだ。
「まぁ…、何でもなくてよかったじゃないか。」
「そうだよね。せめて布団でもかけておこうか。」
「あー、もう、この野郎。無駄な心配掛けやがって。しかも折角一緒にいるのに寝やがって。つまんないじゃないか。」
 不貞腐れた十代が無防備なのをいい事に遊星の頬を引っ張る。
 さっきは何にも反応しなかったのに、少しだけ遊星が顔を顰めたので、何だかそれが面白くて許してやろうという気になった。
 けれど残念でつまらないという気持ちは消えない。
 アテムと遊戯がいるので3人で遊んでいればいいのだが、ここに遊星がいるのに3人なのは物足りない。
 あーあ、と残念そうに十代はため息をつき。
 そうして遊星の上に圧し掛かるように寝転がって思いっきり抱きしめた。
「オレも寝ます。」
「え!?」
「このまま寝てやります。おやすみなさい!」
「………、おやすみなさい。」
 別に十代も眠いというわけではない。
 昨日しっかりと眠ったし、今日の目覚めも良かった。
 それでも寝ようと思って目を閉じれば、昼寝にちょうどいい時間だったことも手伝って、すぐに眠気が訪れた。
 人にしがみついているので温かくもある。
 そのままあっさりと眠ってしまった。
「………、相棒。」
「………、もう1人のボク。」
「どうする?」
「どうしよっか?」
 部屋の真中に倒れている青年2人。
 十代は気持ちよさそうに眠っているが、十代に圧し掛かられている遊星はなんだか苦しそうな顔をしている。  とりあえずベッドの上から布団を引っ張って2人にかける。
 枕も置いてあげたかったが、十代がしっかりと抱きついていて、動かすと遊星の首が余計に締まりそうだ。
「せめてベッドで倒れてくれればいいのに。」
「運べると思うか?」
「城之内君や海馬君ならともかく、ボク達だと難しいと思う。」
 残念ながら2人とも体格には恵まれていない。
 どちらか1人だったら2人がかりで運べそうだが、十代が抱きついた時点でそれも無理。
 このまま床で寝てもらうしかないようだ。
「それで、ボク達はどうしようか?」
「いっそオレ達も寝るか?」
「………、それもいいかも。」
 スペースならベッドの上があるし、布団ならアテムが使っている物がある。
 たまには4人集まっておきながら昼寝もありかもしれない。
 それに、遊星は苦しそうだが、気持ちよさそうに眠る十代を見れば、何だかこっちまで眠くなってきた。
 寝てしまおう、と思って。
 先程救急車を呼ぼうと慌てて取った携帯が転がっている事に気付き拾い上げる。
 そして思い出したようにメールを打つ。
 宛先は2人が帰ってこないと心配するヨハンとクロウへ。
「何をやっているんだ?」
「ヨハン君とクロウ君に。今日は十代君と遊星君がうちに泊まるよって。」
「泊まり?」
「この埋め合わせは夜に付き合ってもらうって事で。」
 明日学校なのにな、と言いながらも楽しそうな遊戯に、そうだな、とアテムも楽しそうに頷いた。
 メールを送れば本格的に眠くなり、2人でベッドに倒れる。
 十代と同じように眠ってしまうのは早かった。

 その数時間後に1番最初に目を覚ましたのは遊星で、全員が眠っている状況に1人で静かに混乱していた。





□ END □

 2010.02.01
 全員が全員に甘くて甘えていたりしたら可愛いとか思った





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