木陰のふたりな話






容赦なく照り付けてくる日差し。
それは歩けば歩くほど容赦なく体力を奪っていく。
それは普段から鍛えている人間であっても同じ事。

「あっついなー」
「そうだな」
「でもカラッとしてるから、気持ちがいい暑さだよな」
「俺はもう少し日差しに遠慮してもらえると助かるけどな……」

偶然見つけたベンチにふたりで腰を下ろす。
ただその場にベンチが置いてあるだけだったら見向きもしなかったろうが、
ベンチを覆うように建てられた木造の大きめな屋根が目に入った。
歩き通しでそろそろ休憩が欲しいと思っていたところなので、ナイスタイミングだ。
ハーヴェイは滴る汗を自らの服を引っ張って拭うと、手にしていた飲料水をぐいっと呷る。
多少温くなってしまってはいるが、ギリギリまでキンキンに冷やしていた事もあり
この日差しの中を歩いてきたにも関わらずまだ「冷たい」と思える。
何より水分不足の身体には随分と喜ばれた。
それをシグルドへと手渡す。

「折角だ、ちょっとのんびりして行こうぜ」
「ああ、そうだな」

気持ちのいい冷たさを受け取り、一口含む。
カラカラの口内を潤すように噛み締めたあと、ゆっくりと喉へと通した。
こうして落ち着いていると、歩いている時には気付かなかった心地よい風を感じる。
当分ここから動けそうもないなと、ふたり苦笑いを浮かべた。





・水族館があるどでかい公園を散策中に、
 ふと見つけたちみっちゃい休憩所みたいなところで思いつきました。
 吹き抜けになっているので風がとても気持ちよかったのですvv
 しかしつい勢いでペットボトル的なものを出しちゃったが……幻水にはあるのかな、ないだろうな(笑





いちゃつくルクスとキリルを偶然見かけて脱力する話






外の空気を吸おうと甲板にやってきたシグルドは、
そこで荷物の影に慎重に身を隠しながら、何かの様子を窺っているらしいハーヴェイの姿を見つけた。
何事にも堂々としているハーヴェイにしてみれば本当に珍しい光景で、
シグルドの好奇心が駆り立てられるのも無理はないだろう。
あとで文句を言われては面倒なので、
一応気配と足音に気を配りながら、緊張をまとう背中に声をかけた。

「ハーヴェイ、何をしてるんだ?」
「……ッ!?」

シグルドの声に心底驚いたのだろう。
面白いほどにビクッと身体を反応させながらも勢いよく振り返ったハーヴェイは、
伸ばした両腕でシグルドを素早く羽交い絞めにしながら、己と同じく物陰に引きずり込む。
見知った人間に羽交い絞めにされたところで何が起こるわけでもないが、
無理に身体の自由を奪われるのはやはり面白くない。
背を荷物につけ、顔を逸らしながら尚も周囲の様子を窺っているハーヴェイに、
シグルドは不満一杯の声を隠す事もせずに問いかける。

「一体何だッ」
「シー、静かに!」
「分かった、分かったから。いい加減手を離してくれ」

シグルドの声のトーンが落ちた事で安心したのか、
ホッと息をはきだしながらハーヴェイは羽交い絞めにしていた身体を解放する。
そして控えめに咳払いをしたあと、親指で荷物の向こう側を指してみせた。
覗いてみろ、という事らしい。
ハーヴェイをこんなにも緊張させている正体がこの荷物の向こう側にある。
しかしこの先にそんなものあっただろうか、そんな事を考えながら、
シグルドもハーヴェイに倣い、身を潜めながら慎重に顔を覗かせていく。
するとそこには、仲睦まじく肩を寄り添わせるルクスとキリルの姿があった。

「………………」

おかしい。
ふたりの姿以外は荷物が少々積んであるくらいで、変わったところは何もない。
珍しいモンスターがうちあげられたとか、空から何かが降ってきたとか、
そんなものは何ひとつ見当たらない。
ゆっくりとハーヴェイを振り返ってみても、「な?」などと同意を求めるかのように肩を窄められるだけだ。
つまり身を隠してまでこそこそと観察していたものは。

「……デバガメ楽しいか?」
「ち、違うッ、俺は向こうに用があるんだよ!
 でもあんな雰囲気垂れ流しにされたら……無視して突っ切るわけにもいかないだろうが!」

「あんな雰囲気」と言われ再度目を向けると、
やはり何をするでもなくただただ寄り添っているふたりの姿がある。
微笑ましいと思う。
可愛らしいとも思う。
でも何故か、直視してはいけないような気がする。
割って入るどころか、空気を壊す事もしてはいけないような気がする。
例えどちらかに用があったとしても話しかけてはいけない、そんな雰囲気。
周りを見れば、同じような事を考えているらしい仲間達が
極力音を立てないよう静かに仕事をしながら、遠巻きにチラチラとふたりの様子を窺っていた。

「…………それはまあ、確かに」
「だろ。アイツらの場合、自分達で何とも思ってないからタチが悪いんだよ、マジで」
「まあ見ている方としては……何と言うか、恥ずかしいよな」

幸せそうに寄り添う後姿を眺めながら漏れたふたり分の大きな溜息は、
波の音に綺麗にかき消されていった。





・何の説明もいらない、そのまんまの話です(笑
 でもこんなふたりの雰囲気に何とか入っていけるのはハーヴェイとシグルドだけだと思うので、
 このふたりが頑張らない限りルクスとキリルはずっとこのままかと。
 腹でも減れば動き出すでしょうが(笑





 






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