城跡が本拠地っぽいっていう話






 この場を包む緊張感。
 静かに息を殺すようにこの場にじっと止まり続けて、どれくらい経ったか。
 1人見張り台に登り、遠くを見ていたルクスは時間を確認するために空を見上げた。
 太陽の位置から大体の時間を割り出し、けれどあまり意味はないかとすぐに視線を地上に戻した。
 木々に囲まれたこの城。
 ぐるりと見回せば緑ばかりで。
 けれどそれが途切れた遠くには、多くの人の姿が見えた。
 掲げられた旗。
 遠めにも武装していると分かる姿。
 ほんの少しルクスは息を吐いた。
「ルクス。」
 呼ばれて下を見れば、キリルが手を振っていた。
 降りてきて、と言っているんだとすぐ分かり、見張り台から降りる。
「報告いたします。先行部隊が敵の第1部隊と接触、交戦中です、」
「そう。」
 短い言葉だけを返し、ルクスは視線をどこか遠くへと向ける。
 報告してきた青年はその様子に困惑し、けれどキリルにお疲れ様と笑顔で言われ、とりあえず下がっていいのだろうと判断して一礼した。
「何か心配でも?」
「………、いや…。」
 心配ではない。
 先行部隊を率いる少年を思えば、そして自分達の他にも軍を率いる彼らを思えば、心配なんて何もない。
 この城を落とせる者なんて誰もいないとすら思える。
 けれどほんの少しの気掛かり。
 ぐるりと辺りを見回し。
 そうしてルクスは現在戦場になっているだろう場所からいくらかずれた、この城を包む森の先へと目を向けた。
 何故そこだと思ったのか。
 明確な理由はない。
 告げられる言葉があるとすれば、勘、という一言しかない。
 けれどルクスの勘には皆が信頼をおいている。
 気になる事があるのなら貴方が思うまま動いてください、間違いなんてないでしょうし、間違っていても貴方なら何とか出来る。
 自分達の中心と決めた少年の言葉を思い出す。
 そして自分のすべき事を理解する。
「キリル君。」
「なに?」
 呼ばれてキリルがルクスを見れば、ルクスは森の方を指差した。
 それだけだった。
 周りに居た仲間達が何事かとルクスを見る。
 続けられる言葉を、これからの作戦の指示を待った。
 けれど言葉は何もなかった。
「ああ、うん。分かった。」
 ただキリルだけが頷く。
 何が、分かった、なのか。
 さっぱり分からなくて周りにいた兵士達は困惑した。
 名を呼んで、指差した、以上。
 他に何もない、何を理解すればいいのか分からない。
 けれどキリルは納得したように頷いて、兵士達へと振り返る。
「1班はこのままルクスと一緒に、2班はボクと一緒について来て。」
「あ、あの、キリル様!」
「なに?」
「その…、ルクス様からは、どういった指示が…?」
「え…?」
 兵士達全員からの疑問に。
 キリルは不思議そうに目を丸くした。
「あ…、森の中にいくつか敵部隊がいる。先行部隊の被害を抑えたいから、ルクスたちはこの間真っ直ぐ、ボク達は回り込んで、背後に回ろうとする敵部隊を挟み撃ちにする。」
「………。」
「………、って…、今、言わなかった?」
「言ってません。」
「ごめんなさい…。」
 きっぱりと返された言葉にキリルはただ謝り。
 けれどルクスは特に気にした様子もなく、行くよ、と作戦開始の合図を告げた。





・城跡を見に行ったのですが、なんか5箇所くらいあるよっていう地図を見て
 幻水主人公に1人1つ持たせりゃいいんじゃね(キリルはルクスと一緒で)、とか言い出し
 むしろこいつらで1つの軍作ったらもう最強じゃん、とかいう話に発展しました、の結果
 先行部隊はヒューゴです、軍主は超個人的趣味で坊ちゃんです、ルクスとキリルは遊撃部隊です
 もう何でもかんでも通じ合うルクスとキリルに、あまりにも言葉がなくて困惑する部隊の兵士達
 そんな光景があったら面白いなぁと





上記から派生したどうでもいい話






*1・ウォルカ 2・イシュカ 5・シャルト*

「そもそもルクスさんはキリルさんに甘え過ぎです。」
 突然そう言い出したのはシャルトだった。
 一緒にお茶を飲んでいた全員の視線がシャルトに集まり。
 その後、ルクス以外の視線はルクスに、ルクスの視線だけはキリルに、向けられた。
 話題にされたルクス。
 現在は並べられたビスケットの味を変えたいと思ったのか、ジャムを塗ったり果物を切って乗せたりの真っ最中で。
 そしてそれは半分以上隣で美味しそうだなと眺めているキリルへ渡され。
 残りの殆どは他の仲間達へ。
 自分でやり始めた事なのにルクスの所にはほんの少しだけ残る、という状況だ。
「………、この場合、甘えているのはキリルさんじゃないですか?」
 美味しいと嬉しそうに食べるキリルを見て嬉しそうに笑ったルクスが新しいのを作ってまた渡す。
 現状だけ見れば思わずヒューゴが言ってしまったとおりだろう。
 でもシャルトは、そうじゃなくて、とじろりとルクスとキリルを見た。
「ルクスさんについている兵士が困惑しているんです。ルクスさんがキリルさんにしか伝わらないような指示の出し方をする、って。」
「あー…、この前のオレの部隊の援護の話、ですか…。」
「ああ、その話。」
「そう、その話。慣れた人は慣れたみたいだけど、分からない事には違いないし、新人なんて完全に困惑。」
「確かに…、これはちょっと弁護できないな。ボクもシャルトに賛成。」
 ウォルカは苦笑しながらもシャルト側についた。
 ヒューゴは無言でいるが、視線がうろうろと彷徨っている辺り、シャルトと同意見なのだろう。
 これで3対2。
 最後の1票になったイシュカは、ルクスが色々乗せたビスケットを美味しそうに頬張りながら、きょとりと全員を見る。
 そして少し考えてからにこりと笑った。
「ルクスさんとキリルさん仲良しだもんね。」
「うん、イシュカ。そうなんだけど、今そういう話と微妙に違うんだよ。」
「そうなんですか?」
「ボクが言いたいのはね、2人が仲良しなのは素敵だけど、周りの人とももっとお話しようって言う事。」
「あ、そうですね、それは大切です。」
「はい、4対2。」
「どうですかルクスさん、多数決では勝ちました。」
 勝ちました、と言われても。
 そんな気持ちで、けれど表面上全く変化のない無表情で、ルクスはキリルを見た。
 手元を全く見ていないのに、それでもナイフは器用に果物の皮を剥いていく。
「………、そうなんだ…。」
「そうなんです。」
「気付かなかった。」
「まぁ、ルクスさんもキリルも、話したつもりになっちゃってますからね。」
 短い言葉でお互いの全部を理解するのは、とても長い時間を共にいたためだろう。
 そこまで共にあれた事、理解できた事、それは素直に凄いと思う。
 けれどそれとこれは話が別だ。
 お互いが理解できてしまう為、そしてそんな2人旅が続いた為、言葉がない事に気付くのがとても遅い。
 ルクスなんて指摘されてから考え込んでも気付かないくらいだ。
 別にお茶を飲んでいる時に、次はどの果物がいいな、という事が伝わったりしてほのぼのとしているぶんには何も害はない。
 けれど他に人がいる時、そうしてその場にいる全員に等しく同じ事を伝えなければいけない時。
 気付かない、というのは酷く厄介だ。
「そうだよね…、ボクもあまりよくないって思うんだけど…。」
「………、ごめん。」
「ルクスが謝る事じゃないよ。ルクスは元々多く話さないし。だからボクがしっかりしないといけないんだから。」
「でも…。」
「でもじゃなくて…。」
「ていうか、いちゃつくのは話が終わってからでお願いします。」
 延々ループしそうな話は早々にシャルトがざっくりと切った。
 そうしないと本当にずっと話が終わらない。
 しかもそのうち言葉すらなくなってくるのだ。
 思わずシャルトは深々とため息をつき、けれどすぐに何を思いついたのかポンッと手を叩いた。
「キリルさん。」
「なに?」
「暫く、事態改善の為、ルクスさんの代弁をするのやめてください。」
「………、え?」
 シャルトの言葉にキリルは本気で困ったような顔をした。
 そんな無理難題を言っているようには聞こえない。
 けれどキリルにとっては、今まで自然にやってきた事なので、急にやめろといわれても困惑するだけだった。
「それでルクスさんは、ボク達の質問には自分で答えてください。伝わっていないと気付く努力もしてください。」
「………。」
 困惑するキリルの隣で、多分困惑の為だろう、ルクスはナイフを動かしていた手を止めた。
 黙り込むルクスはキリルを見る。
 とても自然な行動は、もう長い時間で染み付いてしまった無意識での動き。
「あ、あの、シャルト。あのさ…。」
「だから、代弁禁止。」
「うっ…。」
 じろりと睨まれてキリルは素直に言葉を止める。
 おろおろとキリルはシャルトとルクスを交互に見て、ルクスは1度俯いてそれからキリルを見る。
 2人はお互いをじっと見て。
 少しすれば、ルクスがほんの少し目を伏せて、キリルはそれに頷いた。
 2人が何を思ったのかはさっぱり分からない。
 ただ、黙ったままでも2人はお互いの言葉を理解した事だけは分かった。
「………、ねぇ、シャルト。」
「………、なに、ウォルカ。」
「これ、無駄だと思うな。」
「うん、出来れば言わないでほしかったけど…、そうだね、無駄だね。」
 これは代弁禁止程度でどうにかなる問題ではない。
 きっと2人を遠く引き離すくらいの事をしなければいけない領域だ。
 けれどそんな事をする気は全くない、この2人は一緒にいてこそなのだから。
 そう理解しているので、とりあえずシャルトは。
「だから今その通じ合った言葉を、全部とは言いませんからせめて半分くらいは音にしてくださいって、そう言ってるんですよ!」
 2人きりの世界を作っているルクスとキリルに、その世界をぶち壊す為に思い切り叫んでおいた。





・言葉の少ないルクスをキリルがフォローという役割分担になっています、未来(?)では、すっかり
 だからついに、こいつら喋らなくてもいけるんじゃない、という領域になった
 そしてシャルトに怒られればいいとなった
 (うちの王子はキリルも大好きですが、血縁関係云々でルクスが少しだけ特別です)
 主人公皆が仲良しというのはボクの物凄い理想です





絶対ルクスは海に結構潜れるよねっていう話






 群島諸国は海がとても身近にある国だ。
 大陸とは呼べない大小様々な島で形成されている場所なので、泳げない、となると結構致命的だ。
 ルクスはありがたい事に最初からそれなりに泳げた。
 海上騎士団の訓練校に通っていた事もあったので、得意と言える程に泳げるようになった。
 けれど特に泳ぐ事が好きでも嫌いでもない。
 必要であれば泳ぐし、必要なければ入らない。
 そんな程度だった。
 けれど今は特に必要でもないのにルクスは海に潜った。
 いくらか下へと潜り、そうして上を見上げる。
 息も止められる時間は長い方らしいので、少しの間ぼんやりと水の中の景色を見る。
 薄かったり濃かったりする青色。
 空から差し込んでくる薄い光。
 ああ、綺麗だな、と。
 ぼんやりと見ながらルクスは思った。
 そんなふうに思うのはルクスにしては随分な成長だった。
 今までこんな事に興味はなかった。
 綺麗だと思う前に、理由もなく海に潜って水の中の景色を見るなんて、そんな発想もなかった。
 変わったな、と言われる。
 変わったな、と自分でも思う。
 何処がと聞かれても明確に言葉にはできないが、でも確かに変化はあった。
 そんな事を取りとめもなく思っていれば、息苦しさを感じた。
 そろそろ上がらないといけないと思い、水の中に委ねるばかりだった体を動かす。
 青色が薄くなり、水は透明になっていく。
 水面の向こう側に空の青が見えて、桟橋が揺らいだ状態で見えて。
 そうしてその中で赤色という随分目立つ色も見えて、そこに向かう。
 ばしゃりと水の中から顔を出せば、ルクス、と呼ぶ声が聞こえた。
 顔を上げれば桟橋に座ってルクスを待っていたキリルがにこりと笑う。
 傍らにはルクスが置いて行った上着や防具や武器、そして手には用意していなかったはずのタオルがあった。
「………、ごめん。」
「え?ああ、謝る事じゃないよ。天気はいいから風邪をひく事はないと思ったけど、一応あった方が良いかなって思っただけだから。」
「ありがとう。」
「うん。あがるの?」
 手を伸ばされたので、濡れた手のままキリルの手を握った。
 けれどそこで動きを止める。
 どうしたの、と首を傾げるキリルをただ見上げる。
「ルクス?」
「キリル君も潜らない?」
「………、え?」
「気持ちが良いよ。」
 そう、ここの海は気持ちが良いし綺麗だ。
 今更になって意味もなく海に入りたがる人の気持ちが少しだけ分かった。
 そしてその気持ちをキリルにも知ってほしくなってそう提案すれば、キリルはうろうろと視線を泳がせた。
「あの…、ボク……、海はちょっと…。」
 消え入りそうな声で告げられた理由。
 キリルは泳げないわけではないが、海を苦手としているのは知っている。
 強く入る事を拒否しないが自分から入ろうとはしない。
 キリルが断るならルクスはそれを受け入れるのがいつもの事。
 けれど今日は何故か退く気にならなかった。
「この辺りは流れは強くないから平気だよ。」
「うーん…。」
「手を握ってる。離さないから。」
 珍しく引こうとしないルクスの言葉に、困った顔で笑いながらキリルは頷いた。
 今日は暑いからと薄着でいるから、このまま海に入っても大丈夫だろう。
 折角綺麗なのだ。
 折角綺麗と思えるようになったのだ。
 変わったな、と言われるこの変化が良いものならば、それは全てキリルが与えてくれたものだから。
 頷いたキリルにルクスは嬉しそうに笑い、そうして握っていた手を引っ張った。





・美ら海水族館が、綺麗だったんです
 ボクはとにかく青が好きで、特に透明な青色に弱いです、水系属性は完璧弱点です
 青色に見える水に囲まれる水族館なんて色だけで嬉しい
 そして水族館の大きな水槽の横に下から魚を見上げられる場所があって、綺麗な青だー幸せー、となってる時
 ルクスって海潜れそうだからこんな景色普通に見てそうだよね
 というボクの妄想が始まり
 それで上でキリル君が待ってるんでしょ
 とひびきからカウンタートラップくらいました、そんな結果の妄想です
 ひびきはビックリするほどにボクの弱点を的確についてくるのでマジ困ります、ありがとう(←?)





 






NOVEL