無人島でのんびり過ごしていそうっていう話






 群島諸国にいくつも存在する無人島のうちの1つ。
 人の手は入っておらず、魔物も多いこの島に、好き好んで立ち寄る者は少ない。
 けれど、それは少し昔の話。
 コボルトの商人が、何を思ったのか、この無人島に店を構えた。
 本人の努力と店を構える前に出会った仲間達の協力で、そのコボルト、チープーの店は、随分と有名になった。
 おかげでこの無人島を訪れる人は格段に多くなった。
 けれど。
 訪れる人は増えても。
 住もうなんて考える人は、ほぼ皆無。
 手つかずの自然と魔物ばかりが多い島だ。
 店を構えたチープーがいかに物好きか分かる程に、この島には相変わらず人の気配が少ない。
 だが、無人島、ではなくなったのだ。
 何とか船が入り込める浜辺の近くにあるチープーの店に、チープーが住み。
 そして、ごく僅かな人しか知らないが。
 人が入り込もうとは思わない無人島の奥に、もう2人、この無人島で暮らす物好きがいた。

「いらっしゃー…、あー、キリル。」

 扉が開く音に客かと思って接客用の笑みを浮かべたチープーは、見えた姿が同じ島の住人と気付き、すぐに客に対してではなく友人を迎える為の笑顔を向けた。
「こんにちは。あれ、お客さんいないんだ。」
「うん、今はちょうど暇なんだー。キリルは1人でどうしたの?」
「お客さんになりに。」
「あ、そうなんだ!なになに?何買ってくれるの?」
「ちょっと待って、えーっと…、何か色々と難しくてメモ貰ったから。」
 手渡された1枚の紙切れには綺麗な字が並んでいた。
 すぐにキリルの片割れの字だと分かり、チープーは思わず笑った。
 キリルが、どうしたの、と聞いてきたが、何でもない、とだけ言ってメモを片手に商品の棚と向き合う。
 キリルと、彼の片割れのルクスは、少し前にこの無人島に来た。
 そして誰も行かないような無人島の奥、器用にも小さな家を建て、そこで暮らし始めた。
 彼らがどういう経緯で知り合ってどうしてここに住むようになったのは、詳しくは知らない。
 ただ、ここに来る前はオベルに住み、そしてその何年か前には一緒に戦っていたらしい。
 オベルは栄えたいい場所だ。
 それなのに、こんな何もない、鬱蒼とした自然と魔物ばかりがいる無人島の奥に住むなんて、本当に物好きだと思う。
 だが2人は毎日一緒に楽しそうに過ごしている。
「本当に色々書いてあるけど、誰か人でも来るの?」
「うん、ハーヴェイさんとシグルドさんが遊びに来てくれるって。」
「ルクスはー?」
「なんか、蟹が食べたい、って行っちゃった。」
「1人で平気なの?」
「ルクスだし平気だよ。だからボクはお使い。」
 キリルはそう言ってにこにこと笑う。
 彼はとてもよく笑う。
 時折困った顔や本当に時折悲しそうな顔をしているのも見るが、笑っている時の方が圧倒的に多い。
 こんな何もない無人島。
 住人はコボルトと人間2人。
 後は魔物がわんさかと。
 チープーもここに住んでいるので人の事は言えないと分かっているが、それでも何がそんなに楽しいのか、正直不思議だった。
「ねぇ、キリル。」
「なに?」
「キリルはさ、こんな何もない所で暮らしていて、楽しいの?」
 チープーはここでまず大商人への1歩を踏み出すと心に誓い、そして現在は成功を収めているので、ここにいる事に後悔はない。
 ルクスは静かな場所を好む人だと知っているので、ある意味ここは彼にとってとても快適かもしれないと納得出来る。
 けれどキリルは分からなくて、棚をあさりながらチープーが聞けば、ほんの少しの沈黙。
 振り返らなくてもきっと考えてくれているのだろうと分かった。
 そして少しして、そういえばそうだね、と今まで考えもしなかった事に気付かされたような声で呟くのが聞こえて。
「でも、ボクはルクスと一緒にいられれば、それで十分だから。」
 とても幸せそうな声で、そう続けられた。
 さて、これは何なのか。
 ああ、そうだ、惚気というのだ、きっと。
 チープーはほんの少し考えた後にそう結論を出して、そしてルクスとキリルのこの調子には慣れないチープーは、何も言えないまま並べた商品とメモを見比べ確認する。
「………、そっか。」
「うん、そう。」
 ようやく絞り出した一言の後。
 にこにこと笑うキリルへ、とりあえずチープーは金額を提示して、この話を終わらせる事にした。





・ボクは最終的に旅の終わりには家族になるっていう感じがとても好きです
 結婚とか同棲とじゃなくて家族という言葉選びます(違いは風望の気の持ちようです)
 だから、2人も無人島に帰る場所を持ちながらあちこち旅をすればいい、とか思ってます
 そしていい感じに無人島の浜辺っぽい場所を見つけたので、こんな妄想
 ………、つか何故チープーを書いたんだ、ボクは(何気に初書き)





日焼けって辛いよねっていう話






「少し我慢してくださいね。」
 シグルドが宥めるように声をかける。
 それと同時に感じた冷たさ。
 そして頬に当てられた布が擦れる痛み。
 途端にびくりとキリルは肩を揺らしてぎゅっと目を閉じた。
「痛いですか?」
「い、痛いというか、なんと言いますか…。」
 困ったようにキリルは言い淀む。
 眉の間の皺が全然消えないので、シグルドは一旦キリルの頬から布を離した。
 そうして見えるのは真っ赤になったキリルの顔。
「随分赤いですね…。」
「何で急に今日になって…。」
「ここ数日暑かったですし、これからそういう季節ですからね。」
「うぅ…、痛い…。」
 思わず自分で頬を押さえたキリルは、触れただけで痛いので慌てて手を離した。
 痛い痛いと繰り返すが、ただの日焼け。
 シグルドの言ったとおり、これからの季節の関係上、ここ数日急に天気がよく日が強くなってきたのが原因だろう。
 別に大騒ぎするようなものではないのだが。
 けれど痛いものは痛いのだ。
 ただの日焼けと言っても、れっきとした火傷。
 ここまで焼けたのは初めてなのか、ただ痛いと困惑するキリルに、シグルドは苦笑してまた頬に冷たい水で濡らした布を当てた。
「この時期の群島は初めてなんですね。」
「はい…、それに今まで療養でしたから、室内の方が多くて…。」
「ああ、成程。」
「シグルドさんは平気なんですか?」
「キリル様ほど弱くはないですが、これからの時期はある程度の覚悟はしますね。」
「あー…、やっぱりそういうものなんですね。」
「ええ。ハーヴェイは平然としているんですけどね、羨ましい事に。」
「それは本当に羨ましいです。」
 現在痛みを感じているキリルの呟きは切実だった。
 何もしなくてもヒリヒリと痛みは感じ、布を当てただけでも擦れる感じが酷く不快だ。
 時折とても痒くなり、けれど触れただけで痛い。
 痛いし痒いし何も出来ないしで、キリルはただ顔を顰める。
 そんなキリルの所へ、薬を貰いに行っていたルクスが戻ってきた。
「大丈夫?」
「平気だけど痛い…。」
「薬貰った。少し楽になるよ。」
「ありがとう。」
 お礼を言って、ふとキリルはルクスを見上げる。
 同じだけの時間、同じ場所を歩いた相手。
 けれどルクスが日に焼けた様子はない。
「………、ルクスって、肌白いよね。」
「そう?」
「うん…、焼けないの…?」
「………。」
「………。」
「………、そういえば…、そうだね。ないね。」
 まさに今気付きましたという様子のルクスを、ぽかんとした顔でキリルとハーヴェイは見た。
 ルクスらしいといえばルクスらしいのだが。
 羨ましい…。
 心底キリルはルクスに対しそう思った。
 そして、薬を塗ってくれるルクスの指と、薬の冷たさに、また何とも言えない痛みを感じてキリルはびくりと肩を揺らした。





・とにかく日差しが痛かった!6月なのに本気で痛かった!!8月とか考えると怖い!!!
 運転の時は紫外線防止の手袋をして、でもやっぱり痛かった
 そして群島諸国ももれなく暑そうだよねっていう話になった
 ボクはあまり黒く焼けないせいか、物凄く痛くなるのです
 布を当てるの痛い、水を浴びるのも痛い、ていうか何もしなくても痛い、そんな思い出





お泊りってそれだけで楽しいよねっていう話






 ルクスもキリルも、それどころかハーヴェイもシグルドも、それは初めての事だった。

 いつもの通り宿に泊まろうと思ったら、少し変わった部屋しか残ってないが構わないかい、と宿の主人から一言。

 休めれば何でもいいとキリルは仲間に確認を取ってから頷いた。
 そして通された部屋は、確かに変わっていた。
 何処かの文化を模した部屋だという。
 部屋に上がるには靴を脱いで、床に直接座り込んで、ベッドが何処にもない代わりに好きに布団を敷いて寝ろという。
 確かに変わっていた。
 何処でも寛げるという分にはよくて、けれど座り込んでいては時折足が痺れるのが困った。
 でも休めるのは確か。
 特にこれといった害があるわけでもない。
 珍しい体験は早々に楽しむという方向性を選んだ。
「でも、好きに布団を敷いていいって言われても、悩むね。」
「そうだね。」
 さて寝ようか、となった頃。
 布団一式を目の前にキリルは首を傾げて、ルクスも部屋をうろうろと見回した。
 普段はベッドで位置は決められている。
 同じように敷けばいいのかと思うが、部屋の雰囲気からしていつもとは違うので、少し困惑した。
「そんなの、悩む事でもないだろうが。適当だ、適当。」
 考えるルクスとキリルを余所に、ハーヴェイは部屋の真ん中に布団を広げた。
「まぁ、休む事が優先ですからね。早く決められた方が良いと思いますよ。」
 シグルドもハーヴェイの隣へ、いくらか距離を取った場所に布団を敷く。
 それを見たルクスとキリルも同じように並べて敷いた。
 4人分のベッドが並んでいるという光景はよく見るが。
 布団だけ、となると何だか不思議な気持ちになった。
「なんでだろう、同じだけ空いているのに、いつもより近い気がする。」
「そう?」
「うん。何だか楽しくなってきた。」
 嬉しそうに笑うキリルにつられてルクスも笑う。
 ベッドに寝転がれば、いつもより低い位置にいるのがとても不思議で、なんだかおかしかった。
 キリルが寝転がったのを見てルクスも隣に寝転がる。
 布団は敷いたがハーヴェイとシグルドが眠る様子はない。
 それなら少しの間話をしていても平気だろうと、寝転がったままお互いの方を向いて他愛のない話をする。
 今日あった事や明日の予定や本当にどうでもいい事など。
 日課となりつつある話をのんびりと続けている時。
 ふとキリルは、自分とルクスの間を見て、あ、と声を上げた。
 ベッドの時はベッドが離れている分だけ何もない隙間が間に存在した。
 けれど今は床の上に直接布団を敷いているので隙間を無視して近寄る事が出来る。
 そうして今は、好きに敷け、と言われた布団だ。
 それなら隙間をあける必要なんてないんじゃないか。
 キリルはそう考えると起き上がってルクスの布団と自分の布団をぴたりとくっつけた。
 ルクスがきょとりと瞬きをして、それから笑った。
 これなら1つのベッドで狭い思いをする事なく、近い位置で寝転がっていられる。
「ダメかな?」
「そんな事ない。」
 お互いの布団の境界線ぎりぎりまで寄ると、お互いの場所に寝転がっているのにこんなに近くにいる事がとても新鮮で楽しくて、近い事を確認するように手を握れば、楽しそうに2人は笑い合った。

 同じ部屋にハーヴェイとシグルドがいるのだが、そんな事は完全にお構いなし。
 2人とも無意識なのだからそれも仕方がない。
 ハーヴェイもシグルドももう慣れたものなので、無意識のくせにやたらと甘ったるい雰囲気は完全に流した。
 けれど。
「あ、ハーヴェイさんとシグルドさんもくっつけるのはどうですか?」
「結構楽しい。」
 投げつけられた爆弾は、流しきれずに全力で解体処理をしておいた。





・ホテルのベッドでゴロゴロしてました
 そんな時に、布団くっつけて離していたら可愛いだろうなー、と
 ボク達はどうしようもなく妄想ばかりでしたが、この2人だったら絶対に可愛い光景になるでしょう
 もれなく被害者も多いでしょうけどね





 






NOVEL